- 著者
-
千葉 宣孝
木下 浩作
佐藤 順
蘇我 孟群
磯部 英二
内ヶ崎 西作
丹正 勝久
- 出版者
- 一般社団法人 日本救急医学会
- 雑誌
- 日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.10, pp.871-876, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
- 参考文献数
- 12
シアン化カリウムによる中毒は,暴露後早期から出現する組織における酸素の利用障害のため死亡率の高い中毒のひとつであり,大量摂取時には数分で死に至ることが知られている。今回,自殺目的でシアン化カリウムを内服したが,症状の出現が緩徐であったため治療が可能で救命し得た症例を経験したので報告する。症例は30代の男性。シアン化カリウムを詰めたカプセルを3錠内服した。内服約15分後の救急隊到着時,意識清明,瞳孔径は左右とも6mm,血圧160/90mmHg,脈拍数132/分,呼吸数18/分と瞳孔散大と頻脈を認めた。内服約38分後の来院時,不穏状態であり,瞳孔径は左右とも8mm,血圧140/70mmHg,脈拍数126/分,呼吸数36/分と瞳孔散大,頻脈,頻呼吸を認めた。内服から約86分後に血圧78/40mmHg,脈拍56/分と循環不全を認め,動脈血ガス分析では,pH6.965,PaO2 528.4mmHg,PaCO2 30.7mmHg,HCO3- 6.8mEq/l,Base excess -24.1mEq/l,SaO2 99.6%と代謝性アシドーシスを認めた。解毒剤として3%亜硝酸ナトリウムと15%チオ硫酸ナトリウムを投与した。解毒剤投与後,代謝性アシドーシスの改善と循環動態の安定が得られた。来院時のシアン化カリウム血中濃度は全血で3.1μg/mlであったが,解毒剤投与により血中濃度の低下を認めた。結晶あるいは固体であるシアン化カリウムは,酸と接触すると急速にシアン化水素を発生し,粘膜から吸収され中毒症状を引き起こすと言われている。本症例は,カプセルで内服したことでカプセルの緩徐な崩壊とともに症状が出現した可能性が示唆された。薬物名や量だけではなく,毒物の形状や内服手段の聴取は症状の出現の予測や治療において重要な因子のひとつであると考えられた。