著者
中山 祐一郎 梅本 信也 伊藤 操子 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.332-338, 1997-01-31 (Released:2009-12-17)
参考文献数
19

オオバコの種内変異を調査するため, 京都市北東部の8集団かち得た系統を供試し, 同一条件下での栽培実験を行なった。さらに, 生育地の環境を調査して, 種内変異と生態分布との関連を検討した。1) オオバコの形態には著しい遺伝的変異が認められ, 普通型と minima 型の2型が識別された。普通型では, 葉は大きく斜立し, 葉脈数は5で, 花序は長く, 斜立~直立し, 1蓋果は3~7個の大きな種子を結ぶ。minima 型では, 葉は小さく傾伏し, 葉脈数は3で, 花序は短く, 傾上し, 1蓋果は4~10個の小さな種子を結ぶ。2) 普通型は, 畦畔や農道, 路傍, 未舗装の駐車場, 社寺林の林床などに生育していた。minima 型は神社や仏閣の境内に限って生育していた。3) minima 型の生育地である神社の境内は, 薄暗く, 土壌中の窒素とリンの含量が普通型の生育地より低く, 維管束植物の多様度指数が低く, また毎日掃き掃除が行われるなど, 普通型の生育地とは環境条件や管理様式が顕著に異なっていた。そのため, minima 型はストレスや撹乱の質と程度に関して普通型とは異なった環境に生育していると考えられた。オオバコの種内2型はこのような生育地の環境条件の違いに適応し, 住み分けているものと推定された。
著者
道下 雄大 梅本 信也 山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.33-55, 2005-03-31
被引用文献数
1

外周型の構造をとる日本の民家庭園では,さまざまな有用植物や野生植物が利用保存されて来た。このような庭園での植物と人との関わりを明瞭にする一例として,2004年の春と秋の2回,伊豆半島北部の2集落と東南部の2集落で,計80軒の民家庭園に生育する維管束植物を調査し,現地の住民より利用法と導入由来を聞き取った。145科781種の植物の生育が確認された。確認されたすべての種は,確認された軒数,常在度,鉢植えにされているかどうか(鉢比率),利用法とともに表1に示した。常在度は,雑草ではカタバミ,イヌワラビ,オニタビラコ,メヒシバ,コモチマンネングサ,ツメクサの順に高く,雑草を除く有用植物では,ドクダミ,ナンテン,ヒラドツツジ,キリシマツツジ,ウメ,イワヒバの順で高かった。有用植物には,631種あり,観賞,垣根,食用,薬用,儀礼,工芸用として利用されていた。有用植物の約8割は観賞用であり,花,葉,果実が観賞されたり,盆栽や忍玉として利用されたりしていた。鉢比率は,ナツメグゼラニウム,ウキツリボク,ハナスベリヒユ,外国産多肉植物など商店で購入された観賞植物や盆栽の植物などで高い傾向にあった。聞き取り調査で明らかとなった植物の導入先や由来は,自然実生の侵入,山野からの採集,店からの購入,贈答の4つに大別でき,その違いによって管理の様子に違いがあった。多様な由来をもつ植物が確認されたが,特に至近の野山から導入されたエビネ類,クマガイソウなどの日本原産林床性種に貴重種が多く,民家庭園は遺伝資源の現地保全(in site conservation)の機能を果たしているとも考えられた。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 伊藤 操子 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.332-338, 1997-01-31
被引用文献数
1

オオバコの種内変異を調査するため, 京都市北東部の8集団から得た系統を供試し, 同一条件下での栽培実験を行なった。さらに, 生育地の環境を調査して, 種内変異と生態分布との関連を検討した。1) オオバコの形態には著しい遺伝的変異が認められ, 普通型とminima型の2型が識別された。普通型では, 葉は大きく斜立し, 葉脈数は5で, 花序は長く, 斜立〜直立し, 1蓋果は3〜7個の大きな種子を結ぶ。minima型では, 葉は小さく傾伏し, 葉脈数は3で, 花序は短く, 傾上し, 1蓋果は4〜10個の小さな種子を結ぶ。2) 普通型は, 畦畔や農道, 路傍, 未舗装の駐車場, 社寺林の林床などに生育していた。minima 型は神社や仏閣の境内に限って生育していた。3) minima型の生育地である神社の境内は, 薄暗く, 土壌中の窒素とリンの含量が普通型の生育地より低く, 維管束植物の多様度指数が低く, また毎日掃き掃除が行われるなど, 普通型の生育地とは環境条件や管理様式が顕著に異なっていた。そのため, minima型はストレスや撹乱の質と程度に関して普通型とは異なった環境に生育していると考えられた。オオバコの種内2型はこのような生育地の環境条件の違いに適応し, 住み分けているものと推定された。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.205-217, 1999-10-29 (Released:2009-12-17)
参考文献数
33
被引用文献数
16 20

温帯東アジアのヒエ属 (Echinochloa) 植物の形態的特徴の変異は非常に大きく, ときに分類群の同定が困難である。そこで, 中国雲貴高原を中心とした外国産および日本産のヒエ属植物の16の分類群または型-E. obtusiflora (2倍体), E. crus-pavonis (2倍体), E. stagnina (4倍体と6倍体), タイヌビエの群 (4倍体: タイヌビエのC型とF型, 非脱粒性タイヌビエ, 栽培型タイヌビエおよび E. phyllopogon), イヌビエの群 (6倍体: イヌビエ, ヒメタイヌビエ, ヒメイヌビエ, ヒエ, リコウビエおよび E. oryzoides) およびコヒメビエの群 (6倍体: コヒメビエおよびインドビエ)-のアイソザイムの変異を分析した。酵素6PGD, AATおよびADHにおいて, 4倍体および6倍体の種は, それぞれの倍数性に応じたバンドの重複を示した。イヌビエの群 (6倍体) とコヒメビエの群 (6倍体) では, アイソザイムパターンは異なっていた。タイヌビエの群 (4倍体) とイヌビエの群 (6倍体) は, 小穂の形態では識別が困難であるが, 群内のアイソザイムの多型はわずかしかみられず, アイソザイムパターンによって倍数性の異なる2群が識別できた。数種の酵素を用いてアイソザイム分析すれば, ヒエ属植物の倍数性群が判別できるので, 分類群の同定が容易となる。
著者
梅本 信也 山口 祐子 伊藤 操子
出版者
日本芝草学会
雑誌
芝草研究 (ISSN:02858800)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.20-24, 2001-11-10 (Released:2010-06-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

スズメノカタビラの1変種であるツルスズメノカタビラP. annuaL. (1753) var.reptansHaussknecht (1891) の実在性と分類群としての概念規定を考察するために, 世界の分類学的文献や雑草学と芝草学的研究成果, 京都大学大学院理学研究科植物標本庫 (KYO) 所蔵の176枚のさく葉標本, 全国アンケート時に入手できた7枚のさく葉標本を包括的に検討した。その結果, H. C. HaussknechtによるP. annuavar.reptansの初原記載はいわゆるbook speciesであるが, 彼の意図は匍匐的栄養繁殖にあると推定された。Haussknecht (1891) の記載を引用し, 本変種の典型挿図を掲載したのが, Magchev (1912) である。したがって, 本変種はPoa annua L. var.reptansH.C. Haussknecht (1891) sensuA. Magchev (1912) と表現するのが現状ではより適切である。
著者
梅本 信也/山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
no.54, pp.41-47, 2002-03-31

和歌山県紀伊大島では, 江戸時代以来, 半農半漁が営まれてきた。ここでは生活を支える重要な植物資源としてイネ科のススキMiscanthus sinensisとチガヤImperata cylindricaが共に利用され, 持続的に保全されてきた。両草本の利用と保全的管理の関係史は以下のようにまとめられる。(1)江戸期から明治前期:江戸時代には上方と江戸とを給ぶ菱垣廻船の風侍港として紀伊大島は栄えていた。明治前期には, チガヤが船舶に欠かせない防水シートとして編まれて販売された。 (2)明治後期から昭和30年代前半:チガヤは生業に欠かせない防水シート, 農薬用の「ふご」, 海苔乾燥用のスノコおよび葬儀および仏事用庇いとして利用された。これらは「とましぼた」と呼ばれる編み機を使い, 女性遂によって製作された。島内の耕地周辺にはチガヤ草地が入念に管理され, 必要な量を供給した。一方, ススキはそれほど多用されなかった。(3)昭和30年代から昭和末期:ビニールシートの普及によって, チガヤシートの利用が激減した。また, 徐々に儀礼が簡素化され, チガヤ利用が減少した。湿田も続々と放棄され, 稲わらの供給が低下した。一方, この頃から暖地花卉弁栽培が盛んとならだため, 農業資材としてススキの需要が高まった。そこでススキ草地の利用が始まった。(4)昭和末期から平成期:花弁栽培とキンカン栽培への傾斜の結果, ススキがさらに必要になった。従来のススキ草地に加えてススキ移植栽培も始まった。チガヤの冠婚葬祭利用はさらに減少した。
著者
梅本 信也 藤井 伸二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-51, 2003-02-28 (Released:2017-03-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

We proposed a life strategy concept as "autumn paddy ephemeral" which is unique in paddy fields after rice reaping. For the adaptation to this strategy, short life cycle for completing reproduction until the beginning of winter or plasticity of growing period for both long summer and short autumn, may be important Paddy weeds are supposed to be now adapting to the open marshy habitat in autumn paddies which has been widely spread for only several decades.
著者
梅本 信也 小林 央往 植木 邦和 伊藤 操子
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.244-248, 1998-10-30

Eclipta prostrata (L.) L.と記されてきた日本産タカサブロウの2変異型を分類学的に検討するために, おもに近畿地方2府4県ならびに沖縄, 福井, 石川, 埼玉および茨城県の水田畦畔において採取した127系統を同一条件で栽培し, 得られたさく葉標本のそう果と葉の形態を観察した。その結果, すべてのさく葉標本と採取系統は, そう果が大型で狭卵形から披針形の葉をもつRound型と, 痩果が小型で披針形から挟披針形の葉をもつSlender型の2群に区別された。従来, 日本産タカサブロウに対しては, Eclipta prostrata (L.) L.が宛てられてきたが, 原記載の引用図譜には明らかな多細胞性の開出毛がある。そこで、タカサブロウ属に関する分類学文献と京都大学理学部(KYO)所蔵のさく葉標本を用いて検討したところ、えられた2群はE. prostrataとは別種であり、前者はEclipta thermalis Bungeタカサブロウ, 後者はE. alba (L.) Hasskarlアメリカタカサブロウとするのが妥当であると考えられた。
著者
梅本 信也/山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学農学部学術報告 (ISSN:1344848X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.25-31, 1999-06-15

京都大学理学部(KYO), 東京都立大学牧野標本館(MAK)と国立科学博物館(TNS)および中華人民共和国の中国植物科学院(PE)と南京大学(N)の標本室に保存されているタカサブロウ属(キク科)の〓葉標本301点と各国植物誌におけるタカサブロウ属の分類学的記述, および笠原(1974)と笠原・武田(1978)の雑草の種子と果実に関する考古学的研究におけるタカサブロウ属にかかわる成果を検討し, タカサブロウEclipta thermalis BungeとアメリカタカサブロウE.alba(L.)Hasskarlの日本への帰化時期と帰化様式を推定した。タカサブロウは, 植物地理学的には東アジアの湿潤温帯部に本来の分布域を持ち(Tables 2,4), 稲作とともに日本にもたらされ, 少なくとも弥生時代には日本の低湿地に分布した史前帰化植物であり(Table 3), 一部は近代の物流拡大に伴って再導入されたと考えられた(Fig.1)。一方, アメリカタカサブロウは, 新世界の北・中米に本来の分布域を持つコスモポリタン種であり(Table 4), 日本へは第2次世界大戦とその終了にともなって1948年以降に軍事散布された(Fig.1;Table 1)と考えられた。
著者
山口 裕文 梅本 信也 前中 久行
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.249-257, 1998-10-30
被引用文献数
15 11

大阪府堺市における整備段階の違う水田において5月から12月の間, 約1月間隔で畦畔植生を調査し, 出現する種の構成と多様性の変化を検討した。棚田地帯の隣接した水田から, 伝統的水田, 基盤整備後1年目の水田, 基盤整備後5年を経過した水田を選び, 畦畔の平坦面の植生を全推定法により調査した。未同定種を含めて161種の植物の生育が認められた(Table 1)。伝統的畦畔には83種, 整備後5年を経た畦畔(5年畦畔)では92種, 整備後1年目の畦畔(直後畦畔)では94種が認められたが, 群落を構成する種は大きく異なっていた(Table 2)。伝統的畦畔では, 在来の多年草が有意に多く, チガヤ, ヨモギ, ノチドメ, スイバが優占し, 半地中植物が多い傾向にあった。また, 帰化植物は, 非常に少なかった。5年畦畔では, 多年生帰化植物が多く, 春にはカラスノエンドウが, 秋にはメヒシバが優占し, 帰化植物率が高かった。直後畦畔では, イヌビエやイヌタデの出現が顕著で, 在来および帰化の1年草(1回繁殖型植物)の生育が多く, 在来の多年草は少なかった。伝統的畦畔では, 種多様度が高く, 冬季にも多様度は低下しなかった(Fig. 1)。直後畦畔では春季の種多様度は比較的高かったが, 夏季から冬季に向かって多様度の顕著な低下がみられた。5年畦畔では種多様度はやや低く, 季節変動も小さかった。基盤整備により改修された畦畔では本来の畦畔植生への遷移とは異なる系列を辿っていると考えられた。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 草薙 得一
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.97-106, 1997-08-30
被引用文献数
2

オオバコ種内2型の生活史特性とその成立過程を検討するために, 京都市北東部の8集団を供試して栽培実験と発芽試験を行い, さらに, 自生地での季節消長を調査した。1) minima 型は普通型よりも全乾物重が小さく, 早く出穂し, 繁殖分配率が大きかった(Fig. 1, 2およびTable 2)。また, 年間の種子生産数は, 栽培1年目では2型間に差異はなかったが, 栽培2年目では普通型がminima型を大きく上回った(Table 2)。2) 普通型では, 明条件下で20℃から30℃までのいずれの温度区でも高い種子発芽率が得られた。一方, minima型では25℃で種子発芽率が最大となり, 20℃では発芽速度が顕著に遅かった(Fig. 3)。3) 普通型が生育する畦畔や農道では, 植生が密で, 成熟個体の死亡することが少なく, 競争が激しかった。一方, minima型が生育する神社の境内では, ストレスが大きく, 乾燥した夏の掃き掃除や不定期な除草, 改修工事などの攪乱が予測不能な死亡要因として作用していた(Fig. 4)。また, 出芽の時期は2型間で異なった(Fig. 4)。以上のことから, オオバコ種内2型の生活史特性は, ストレスや攪乱, 競争の質や程度が異なるそれぞれの自生地の環境に適応して成立したものと推定された。
著者
道下 雄大 梅本 信也 山口 裕文
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.81-89, 2009-05-30
被引用文献数
1

観賞利用を主な目的とした植物の人為的移動が及ぼす生物多様性への影響を考察するために、長崎県、和歌山県および静岡県の民家庭園にみられるRDB掲載植物の種類と常在度を調べ、導入経緯の聞き取りを分析した。環境庁または県のRDB掲載植物は、3県の民家庭園に25科53種みられ、82%の民家庭園に少なくとも1種確認された。聞き取りでは、自生地よりの採集が89例、親戚や知人等よりの贈呈が45例、購入による導入が12例あり、この傾向には地域による違いはなく、調査した民家庭園では採集による導入が多い傾向にあった。集落ごとにみられるRDB掲載植物の種数と多様度は、漁業を主とする海岸の集落では低く、農林業を主とする中山間地の集落で高い傾向にあった。民家庭園のRDB掲載植物には地域外からの導入や園芸品種化した植物があり、これらは野生化や近隣の自生個体との自然交雑をとおして生物多様性の劣化要因となると考えられた。