著者
中山 千尋 岩佐 一 森山 信彰 高橋 秀人 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.753-764, 2021-11-15 (Released:2021-12-04)
参考文献数
18

目的 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年経った現在でも,「放射線の影響が子どもや孫など次の世代に遺伝するのではないか」という「次世代影響不安」が根強く残っている。マスメディア報道やインターネットによる情報等が,この不安に影響していると考え,その関連を明らかにして,今後の施策に繋げることを目的とした。方法 2016年8月に,20~79歳の福島県民2,000人を対象に,無記名自記式質問紙による郵送調査を実施した。福島県の会津地方,中通り地方,浜通り地方,避難地域から500人ずつ無作為抽出し,原発に近い沿岸部の浜通りと避難地域のデータを分析対象とした。目的変数は「次世代影響不安」で,その程度を4件法で尋ねた。説明変数は,放射線について信用する情報源と,利用するメディアを尋ねた。この他に属性,健康状態,放射線の知識等を尋ねた。2つの地域を合わせた全体データで,「次世代影響不安」と質問項目との間で単変量解析を行った。次に「次世代影響不安」を目的変数,単変量解析で有意差があった項目を説明変数として重回帰分析を行った。さらに,このモデルに項目「避難地域」と,「避難地域」と全説明変数との交互作用項を加えて,重回帰分析を行った。結果 有効回答は浜通り201人(40.2%),避難地域192人(38.4%)であった。重回帰分析の結果,次世代影響について,2つの地域全体では,政府省庁を信用する人,健康状態がよい人,遺伝的影響の質問に正答した人の不安が有意に低かった。また,がんの死亡確率の問題に正答した人は,不安が有意に高かった。さらに浜通りを基準にして交互作用項を投入したモデルでは,浜通り地方で,全国民放テレビを利用する人の不安が有意に高く,遺伝的影響の質問に正答した人の不安は有意に低かった。避難地域を基準にしてこのモデルを分析すると,避難地域は全体と同じ結果であった。結論 二つの地域で,情報源とメディアが次世代影響に有意に関連していた。報道者が自らセンセーショナリズムに走らないような意識が必要である。受け手は正しい情報を発信している情報源やメディアの選択が必要であり,メディアリテラシー教育の必要性が示唆された。また,健康状態の向上は,不安を下げる方策であることが示唆された。一方がんの死亡確率の知識は,伝え方に誤解を招かないような工夫を要することが示唆された。さらに,遺伝的影響の知識の普及は不安を下げる方策であることが示唆された。
著者
中山 千尋 岩佐 一 森山 信彰 高橋 秀人 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-140, (Released:2021-08-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年経った現在でも,「放射線の影響が子どもや孫など次の世代に遺伝するのではないか」という「次世代影響不安」が根強く残っている。マスメディア報道やインターネットによる情報等が,この不安に影響していると考え,その関連を明らかにして,今後の施策に繋げることを目的とした。方法 2016年8月に,20~79歳の福島県民2,000人を対象に,無記名自記式質問紙による郵送調査を実施した。福島県の会津地方,中通り地方,浜通り地方,避難地域から500人ずつ無作為抽出し,原発に近い沿岸部の浜通りと避難地域のデータを分析対象とした。目的変数は「次世代影響不安」で,その程度を4件法で尋ねた。説明変数は,放射線について信用する情報源と,利用するメディアを尋ねた。この他に属性,健康状態,放射線の知識等を尋ねた。2つの地域を合わせた全体データで,「次世代影響不安」と質問項目との間で単変量解析を行った。次に「次世代影響不安」を目的変数,単変量解析で有意差があった項目を説明変数として重回帰分析を行った。さらに,このモデルに項目「避難地域」と,「避難地域」と全説明変数との交互作用項を加えて,重回帰分析を行った。結果 有効回答は浜通り201人(40.2%),避難地域192人(38.4%)であった。重回帰分析の結果,次世代影響について,2つの地域全体では,政府省庁を信用する人,健康状態がよい人,遺伝的影響の質問に正答した人の不安が有意に低かった。また,がんの死亡確率の問題に正答した人は,不安が有意に高かった。さらに浜通りを基準にして交互作用項を投入したモデルでは,浜通り地方で,全国民放テレビを利用する人の不安が有意に高く,遺伝的影響の質問に正答した人の不安は有意に低かった。避難地域を基準にしてこのモデルを分析すると,避難地域は全体と同じ結果であった。結論 二つの地域で,情報源とメディアが次世代影響に有意に関連していた。報道者が自らセンセーショナリズムに走らないような意識が必要である。受け手は正しい情報を発信している情報源やメディアの選択が必要であり,メディアリテラシー教育の必要性が示唆された。また,健康状態の向上は,不安を下げる方策であることが示唆された。一方がんの死亡確率の知識は,伝え方に誤解を招かないような工夫を要することが示唆された。さらに,遺伝的影響の知識の普及は不安を下げる方策であることが示唆された。
著者
佐野 碧 岩佐 一 中山 千尋 森山 信彰 勝山 邦子 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.380-389, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
30
被引用文献数
3

目的 近年,メディア(インターネット,ゲーム,ソーシャルネットワークサービス等)の長時間利用や利用年齢の若年化が問題視されている。子どものメディアの長時間利用は,身体的・精神的・社会的側面から成長発達に望ましくない影響を与える可能性が指摘されている。とくに,中学生・高校生はこれまで獲得した基本的な生活習慣を自己管理していく重要な時期であり,日常生活で利用するメディアと上手に付き合っていく能力を培う必要がある。そこで,本研究では,中学生・高校生におけるメディア利用時間と生活習慣の関連について検討した。方法 福島市内の全中学校・高校の生徒から1,633人を抽出した。市内の各校学校長に配布を依頼して自記式質問紙調査を実施し,1,589人より回答を得た。性別・学年が未記入だった者30人を分析から除外し1,559人を分析の対象とした。主観的健康感,生活習慣,飲酒・喫煙経験に関する項目を従属変数,メディア利用時間を独立変数とし,性・学年を調整し,二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 中学生では,3時間以上のメディア利用は,「朝食欠食」,「運動習慣なし」,「就寝起床時間(不規則)」,「休養不足」,「ストレスあり」と有意な関連を示した。高校生では,3時間以上のメディア利用は,「健康感(不良)」,「3食食事を食べていない」,「朝食欠食」,「食品多様性(低い)」,「肥満」,「運動習慣なし」,「就寝起床時間(不規則)」,「就寝時間遅い」,「起床時間遅い」,「飲酒経験あり」,「喫煙経験あり」と有意な関連を示した。結論 中学生,高校生ともに,3時間以上の長時間のメディア利用は,睡眠,食事,身体活動の生活習慣全般および飲酒,喫煙との関連を認めた。さらに,長時間のメディア利用は,主観的健康感との関連も示された。メディアの過度な利用が生活習慣や心身の健康に関与していることを,中高生自身が理解し適切に利活用できるよう教育体制を構築することが重要である。
著者
事柴 壮武 浦辺 幸夫 前田 慶明 篠原 博 笹代 純平 藤井 絵里 森山 信彰
出版者
公益社団法人 広島県理学療法士会
雑誌
理学療法の臨床と研究 (ISSN:1880070X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.21-24, 2013-03-31 (Released:2015-03-03)
参考文献数
11
被引用文献数
2

「目的」 大腿四頭筋セッティング(Quadriceps femoris muscle Setting:以下QS)は関節運動を伴わないため,下肢整形外科疾患に術後早期から実施できる。QS では大腿四頭筋のみでなく,ハムストリングや大殿筋,中殿筋も筋活動を発揮するため,股関節の角度が変化すると各筋の筋活動量や発揮される筋力が変化すると推測される。本研究ではQS 時の下肢筋筋活動が,体幹固定性,股関節角度の違いによりどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。「方法」対象は下肢に既往がない成人男性9 名とした。対象は右側下肢膝窩部に下肢筋力測定・訓練器を設置した。リクライニングベッドを用いて股関節の屈曲角度を背面支持のある15°,65°,背面支持のない115°の肢位となるように設定し,両上肢を胸の前で組ませた。上記の股関節屈曲角度で5秒間の最大努力によるQSを各々2回行い,膝窩部が下肢筋力測定・訓練器を押し付ける力をセッティング力としその平均値を求めた。同時に右側の大腿直筋,内側広筋,外側広筋,半膜様筋,大腿二頭筋,大殿筋の筋活動を導出し,記録した。波形の安定した1秒間の積分値を各筋の最大随意収縮時の値で正規化し%MVCとして算出した。「結果」セッティング力は,15°で15.4±4.3N,65°で19.3±4.3N,115°で12.0±3.2Nとなり,背面支持のある65°が他の条件よりも有意に高い値を示した(p<0.05)。内側広筋と外側広筋の筋活動は背面支持のある65°が背面支持のない115°よりも有意に高い値を示した(p<0.05)。大腿直筋,大腿二頭筋,半膜様筋,大殿筋では有意な差は認められなかった。「結論」QSを行う際,股関節の屈曲角度を上記の3条件で比較した場合,背面支持のある65°の肢位の際にセッティング力や内側広筋,外側広筋の筋活動が高まることが示された。本研究の結果から,内側広筋と外側広筋の筋力増強練習は背面支持のある15°や65°の肢位にて行うことが有効かもしれない。今後はより詳細な角度での調査が必要であると考える。
著者
岩佐 一 中山 千尋 森山 信彰 大類 真嗣 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.158-168, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
46

目的 「心的外傷後成長(posttraumatic growth)」(以下,PTG)は,「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがきや奮闘の結果生じるポジティブな心理的変容」であり,心的外傷の体験者に対する心理的支援に活用されている。本研究は,東日本大震災を経験した福島県住民におけるPTGの自由記述を分類し,その傾向を調べること,基本属性とPTG自由記述の関連,「放射線健康影響不安からの回復」とPTG自由記述の関連について検討することを目的とした。方法 2016年8月に,20~79歳の福島県住民2,000人に自記式郵送調査を行った。PTGの有無について質問した後,PTGの自由記述を求めた。基本属性として,年齢,性別,教育歴の回答を求めた。震災直後と調査時点における,放射線健康影響に対する不安を問い,対象者を「不安なし」群,「不安から回復」群,「不安継続」群に分割した。Posttraumatic Growth Inventory(Tedeschi & Calhoun, 1996)における5つの領域(「他者との関係」「新たな可能性」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」)に基づき,さらに西野ら(2013)を参考として,「防災意識の高揚」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」を加えた8つのカテゴリにPTG自由記述を分類した。結果 916人から回答を得て,欠損の無い786人を分析対象とした。女性と64歳以下の者では,「他者との関係」「人生への感謝」を回答した者が多かった。教育歴が高い者では,「他者との関係」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」を回答した者が多かった。「不安から回復」群において,「原子力問題への再認識」を回答した者が多かった。結論 女性や若年者では,家族・友人関係,地域との結びつきを実感する等の報告や,日常生活に対する感謝の念が生じる等の報告がなされやすかった。教育歴が高い者では,国や電力会社,全国紙等が発する情報を鵜呑みにせず批判的に吟味するようになった等の報告や,震災後自身の精神的な強さや成長を認識できた等の報告がなされやすかった。放射線健康影響不安から回復した者では,原発やエネルギー問題に対して新たな認識が生じた等の報告がなされやすかった。
著者
堤 省吾 浦辺 幸夫 前田 慶明 藤井 絵里 森山 信彰 岩田 昌
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1329, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸脛靭帯(ITB)は大腿筋膜張筋(TFL)と大殿筋の一部を起始とし,ガーディー結節に付着する筋膜様組織である。腸脛靭帯炎はランニングやサイクリングなどの同じ動作を反復するようなスポーツに多く,ITBと大腿骨外側上顆間に生じる摩擦の繰り返しが原因である。またITBの緊張の高さは,腸脛靭帯炎発症のリスクファクターであることが報告されている。ITBは主にTFLの収縮に伴い張力が変化するため,予防や治療にはTFLのストレッチングが行われる。しかしTFLのストレッチングによってITBの柔軟性がどの程度向上するかは不明である。本研究の目的は,柔軟性の評価のひとつである硬度を指標とし,TFLのストレッチングがITBに与える影響を定量化することとした。仮説は,ITBの硬度はストレッチング後に低下するとした。【方法】対象は下肢に整形外科的疾患の既往がない健常成人男性7名(年齢23.1±1.3歳,身長171.2±7.1 cm,体重62.6±9.5 kg)の利き脚とした。ストレッチング肢位は,検査側下肢が上方の側臥位で膝関節90°屈曲位とした。骨盤の代償運動を抑制するため,非検査側の股関節は屈曲位とした。検者が徒手的に検査側下肢を股関節伸展し,大腿遠位外側部に押し当てた徒手筋力計μTas F-1(ANIMA社)の値が50-70Nの間となるように内転方向へ伸張した。ストレッチング前後のITBの硬度測定には,筋(軟部組織)硬度計TDM-Z1(TRY-ALL社)を使用した。再現性の高さについては既に報告されている(ICC=0.89以上)。測定は硬度計の取り扱いに習熟した検者1名が行った。測定肢位は,検査側下肢が上方の側臥位で,股関節屈伸・内外転・回旋0°,膝関節屈曲90°とした。測定部位は,大腿骨外側上顆から大腿長の5%,25%,50%近位の3箇所とし,下肢を脱力させた状態で5回測定し,平均値を算出した。統計学的分析にはSPSS 20.0 for windowsを使用した。対応のあるt検定を用い,ストレッチング前後の各部位の硬度を比較した。危険率5%未満を有意とした。【結果】ITBの硬度(N)は,ストレッチング前,後それぞれ5%で1.39±0.1,1.25±0.14,25%で1.24±0.08,1.15±0.13,50%で1.08±0.13,1.01±0.13となり,ストレッチング後に各部位で有意な低下がみられた(p<0.05)。【結論】本研究では硬度計を使用し,ストレッチング前後におけるITBの硬度の定量化を試みた。結果,ITBの硬度は遠位になるほど高い傾向があったが,全ての部位でTFLのストレッチングにより有意に低下した。客観性に乏しく表現されることが多い硬度を定量化し,比較指標とすることは臨床的に意義がある。今後は,腸脛靭帯炎の発症部位である大腿骨外側上顆付近のITBにより効果のあるストレッチング法を模索し,硬度変化を検討していく。また硬度計の他に超音波測定装置を併用することで,組織の評価をより客観的に行い,腸脛靭帯炎の予防や治療に最適なストレッチング法構築の一助としたい。
著者
前田 慶明 浦辺 幸夫 藤井 絵里 森山 信彰 岩田 昌 堤 省吾 沼野 崇平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,全身振動刺激(Whole Body Vibration:WBV)の効果は下肢筋力の増強のみならず,成長ホルモンの上昇や骨代謝および骨密度の増加が報告されている。しかしながら,WBVを併用したトレーニングが体幹筋力や動的バランスに与える効果を示した報告は渉猟し得た限りでは見当たらない。本研究の目的は健常男性を対象に,WBVを併用したトレーニング(WBV群)を8週間実施し,WBVを使用しない群(非WBV群)に比べて体幹筋力や動的バランスに相違があるかを明らかにすることである。仮説は非WBV群に比べて,WBV群の方が体幹筋力や動的バランスが向上するとした。【方法】対象は健常男性20名(年齢26.5±4.7歳,身長170.0±5.3 cm,体重63.9±7.1 kg)とし,無作為にWBV群(10名)と非WBV群(10群)に群分けした。なお,研究デザインは無作為化比較試験とし,3回/週で8週間の介入を各群で実施した。トレーニングのプロトコールは1セット6項目で構成された体幹筋トレーニングを以下の順序で実施した。種目は左右サイドブリッジ,プランク,シットアップ,左右ツイストを各30秒間ずつ実施し,各項目間には30秒間の休憩を挟んだ。介入前後でのトレーニング効果を判定する指標は,体幹屈曲・伸展の最大等尺性筋力,スクワットジャンプとカウンタームーブメントジャンプの跳躍高,動的バランス指標の一つである下肢最大リーチ距離を測定するY Balance Test(前方,後外方,後内方),機能的な動きを評価するためのスクリーニングテストであるFunctional Movement Screen(FMS)を測定した。統計解析には二元配置分散分析を行い,その後に多重比較にはBonferroni法を用いた。統計学的解析は統計ソフトウェアSPSS Ver. 21.0 for Windows(IBM社)を使用した。有意水準は5%未満とした。【結果】WBV群の平均体幹屈曲筋力は8週間後に34%増加し,有意な交互作用を示した(F=6.79,p<0.01)。Y Balance Testの前方リーチ距離は17%増加し,介入効果を示す有意な相互作用を示した(F=11.00,p<0.01)。その他の項目では有意な差を認めなかった。【結論】本研究はWBVを併用した群と併用しない群でトレーニングを8週間実施し,体幹筋力や動的バランスに効果に相違があるかを検討した。その結果,WBV群が非WBVに比べて有意に体幹筋力や動的バランスが向上した。全身振動が不随意的かつ持続的に筋収縮を促し,それを継続的に実施した結果,体幹筋力や動的バランスをより効果的に向上させたと考える。この結果は理学療法やスポーツ現場で行うトレーニング方法として有用な情報であり,理学療法研究として意義があると考える。本研究では介入後フォローアップを実施しておらず,今後は長期的な介入効果を検証する必要がある。
著者
森山 信彰 浦辺 幸夫 前田 慶明 寺花 史朗 石井 良昌 芥川 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】筆者らは理学療法士を中心としたグループで,中四国学生アメリカンフットボール連盟秋季リーグ戦の全試合に帯同し,メディカルサポートを行ってきた。本研究では,外傷発生状況の分析を行い,今後の安全対策の充実に向けた提言につなげたい。【方法】2012年度から2015年度の試合中に生じた全外傷を集計した。外傷発生状況は,日本アメリカンフットボール協会の外傷報告書の形式を用いて記録した。分析項目は外傷の発生時の状況,部位,種類,発生時間帯とした。【結果】本研究の調査期間にリーグ戦に参加したのは7校であり,登録選手数は延べ686名(2012年161名,2013年152名,2014年185名,2015年188名)であった。リーグ戦の開催時期は毎回8月下旬~11月上旬であった。調査対象試合数は57試合であった。調査期間中の外傷の総発生件数は249件(2012年72件,2013年60件,2014年52件,2015年65件)であり,1試合平均の外傷発生件数は4.4件(2012年4.8件,2013年4.3件,2014年3.5件,2015年5.0件)であった。4年間で外傷発生件数には大きな変化がなく推移した。外傷発生時の状況は「タックルされた時」が67件(27%)で最も多く,次いで「タックルした時」が59件(24%),「ブロックされた時」が39件(16%)の順であった。部位は,下腿が70件(28%)で最も多く,以下膝関節が27件(11%),腹部が20件(8%)の順であった。種類は打撲が87件(35%)で最も多く,以下筋痙攣が74件(30%),靭帯損傷が35件(14%)の順であった。時期は,第4クォーターが97件(39%)と最も多かった。【結論】関東地区の大学リーグ戦中に発生した1試合平均外傷発生件数は1.3件で,外傷の38%が靭帯損傷であり,次いで打撲が17%という報告がある(藤谷ら 2012)。本リーグ戦では,1試合平均外傷発生件数が4.4件と,先行研究の3.4倍となり明らかに多くなっている。また,外傷の種類別では,靭帯損傷の発生件数が少ないが,それに代わって打撲の発生が多いことが特徴であろう。打撲については,相手の下半身を狙うような低い姿勢のタックル動作を受ける際に主に大腿部や腹部に強いコンタクトを受けたケースで多く発生していた。近年,米国では「Heads up football」と称した,タックル動作に関する組織的な啓発活動が行われており,理想的なタックル動作として相手の上半身へコンタクトすることを推奨している。わが国においても最近の安全対策への見解を取り入れ,タックル動作を安全に行うための指導を継続して行っていくことが今後重要であると考える。一方で,本研究の解析期間中には,頸髄損傷などで後遺障がいを認めるような重大外傷は発生しなかった。これは,筆者らがリーグ戦への帯同に加えて,オフシーズンに講習会を実施し,安全な動作指導を行っていることが奏功したと考えられる。重大外傷の予防のために,この事業の継続が必要と考えている。
著者
事柴 壮武 浦辺 幸夫 前田 慶明 篠原 博 山本 圭彦 藤井 絵里 森山 信彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;ACL)損傷はストップやジャンプ着地動作,サイドステップカッティング(sidestep cutting;SSC)動作で多く発生している。一般的に"Knee-in & Toe-out"という下肢アライメントの組み合わせが,マルアライメントの代表的なものとしてあげられる。SSC動作の筋活動について,Xieら(2012)はストップ期において大腿四頭筋に対するハムストリングの比(H/Q比)は,側方移動期よりも低値を示したとしている。また,ACL損傷のリスクである膝関節の過度の外反を制動するためには,大腿四頭筋とハムストリングの同時収縮をタイミングよく行う必要がある。よって,ACL損傷のメカニズムや予防を考慮すると,筋活動量だけでなく筋活動のタイミングを検討することは重要であると考える。SSCは足部運動との関連が示されており,足部の外側接地(Dempseyら,2009)や後足部での接地(Cortesら,2012)がACL損傷のリスクになるとされている。しかし,足部の方向(Toe-out)とSSCの関連を調べたものはみあたらない。本研究は,Toe-outでのSSCが膝関節運動学,筋活動様式に及ぼす影響を検討することを目的とした。仮説は,Toe-outでのSSCはNeutralと比較して膝関節外反角度が大きく,H/Q比が低いとし,さらに筋電位ピーク到達時間が遅延するとした。【方法】対象は下肢に整形外科的疾患の既往がない,健常な女性バスケットボール選手6名(年齢20.0±1.4歳,身長158.0±3.5cm,体重49.3±5.3kg,競技歴9.3±5.3年)とした。対象は5m離れた地点から最大努力速度で助走し,軸脚の左脚で踏み切り,右90°方向へSSCを行った。その際,着地条件として足部Neutral(条件N)と足部Toe-out(条件TO)の2条件を設定し,3試行ずつ実施した。なお,反射マーカーを対象の左下肢8ヶ所に貼付し,ハイスピードカメラ(フォーアシスト社)5台を用い,サンプリング周波数200HzでSSCを撮影した。撮影した映像を動作解析ソフト(Ditect社)に取り込み,DLT法で各マーカーの3次元座標を求め,膝関節屈曲,外反角度を算出した。本研究ではSSCを足部接地から膝関節最大屈曲位までのストップ期,膝関節最大屈曲位から足部離地までの側方移動期の2期に分割し,各期の膝関節最大外反角度を分析に用いた。筋活動の記録には表面筋電図(追坂電子機器社)を用いた。被験筋は外側広筋(VL),内側広筋(VM),大腿二頭筋(BF),半膜様筋(SM)とした。筋電図は生波形からRMS(root mean square)に変換して解析した。本研究ではVLとVMの活動量の平均値を大腿四頭筋の活動量,BFとSMの活動量の平均値をハムストリングの活動量とした。Initial contact(IC)を基準(0)とし,筋電波形の振幅がピークに達する時間をピーク到達時間と規定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1327,1335)。対象に本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】膝関節最大外反角度はストップ期の条件Nで7.0±3.8°,条件TOで8.8±5.5°であった。側方移動期の条件Nで4.6±3.9°,条件TOで7.9±5.4°であり,条件TOで有意に高値を示した(p<0.05)。H/Q比はストップ期の条件Nで0.33±0.08,条件TOで0.33±0.13であった。側方移動期の条件Nで0.67±0.22,条件TOで0.48±0.12であり,条件TOで有意に低値を示した(p<0.05)。各筋のピーク到達時間は,条件NでVMは119.9±49.1msec,VLは114.3±49.6msec,SMは102.1±76.1msec,BFは175.4±79.5msecであった。条件TOでVMは145.2±26.2msec,VLは151.9±24.8msec,SMは88.6±62.6msec,BFは194.1±58.8msecであった。条件TOでVMのピーク到達時間が有意に遅延していた(p<0.05)。【考察】本研究の結果より,Toe-outでのSSCはNeutralと比較して,側方移動期の膝外反角度が高値となり,H/Q比が低値を示した。膝関節外反角度が大きく,H/Q比が低いことは大腿四頭筋優位となりACL損傷のリスクが高いことを示している。さらに,VMのピーク到達時間の遅延を認めた。また,有意差はなかったもののSMのみピーク到達時間がNeutralよりも早期であった。VMは内側ハムストリング(SM)と協同して内側機構の支持に働き,膝関節の安定性に関与している(Myerら,2005)。したがって,内側安定機構であるSMとVMのピーク到達時間のずれは,過度の膝関節外反の制動を困難にしていることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】Toe-outでのSSCが膝関節運動学,筋活動様式に与える影響を明らかにすることは,ACL損傷メカニズムを解明する一助になるだけでなく,スポーツ現場やリハビリテーション場面において,ACL損傷の予防につながると考える。
著者
森山 信彰 浦辺 幸夫 前田 慶明 篠原 博 笹代 純平 藤井 絵里 高井 聡志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101779, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 体幹筋は,表層に位置するグローバル筋と,深部に位置するローカル筋に分類される.ローカル筋は骨盤の固定に寄与しており,下肢と骨盤の分離運動のためにはローカル筋の活動が不可欠である.今回,選択的にローカル筋の活動を促すDrawing-in maneuver(以下,Draw in)といわれる腹部引き込み運動に着目した.主に下肢の運動中にローカル筋による骨盤固定作用を得るために,グローバル筋の活動を抑えながら,ローカル筋の筋活動を高めるDraw inの重要性が知られてきている. 座位では背臥位に比べ内腹斜筋の活動が増加することや(Snijder et al. 1995),腹直筋が不安定面でのバランスに関与することから(鈴木ら2009),Draw inを異なる姿勢や支持面を持つ条件下で行うとこれらの筋の活動量が変化すると考えられる.今回,Draw in中のグローバル筋である腹直筋と,ローカル筋である内腹斜筋を対比させながら,この活動量の比率を求めることで,どのような方法が選択的な内腹斜筋の筋活動量が得られるか示されるのではないかと考えた.本研究の目的は,姿勢や支持面の異なる複数の条件下で行うDraw inのうち,どれが選択的に内腹斜筋の活動が得られるかを検討することとした.仮説としては,座位にて支持基底面を大きくした条件で行うDraw inでは,腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動が高くなるとした.【方法】 健常成人男性6名 (年齢25.8±5.7歳,身長173.0±5.2cm,体重65.4±9.0kg)を対象とした.Draw inは「お腹を引っ込めるように」3秒間収縮させる運動とし,運動中は呼気を行うよう指示した.Draw inは,背臥位,背臥位から頭部を拳上させた状態(以下,頭部拳上),頭部拳上で頭部を枕で支持した状態 (以下,頭部支持),足底を接地しない座位(以下,非接地座位),足底を接地させた座位(以下,接地座位)の5条件で行った.筋活動の計測にはpersonal EMG(追坂電子機器社)を用い,下野(2010)の方法を参考に腹直筋,内腹斜筋の右側の筋腹より筋活動を導出した.試行中の任意の1秒間の筋活動の積分値を最大等尺性収縮時に対する割合(%MVC)として表し,各条件について3試行の平均値を算出した.さらに,腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動量の割合(以下,O/R比)を算出した.5条件間の腹直筋および内腹斜筋の筋活動量と,O/R比の比較にTukeyの方法を用い,危険率5 %未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には事前に実験内容を説明し,協力の同意を得た.本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1123).【結果】 背臥位,頭部拳上,頭部支持,非接地座位,接地座位での腹直筋の%MVCはそれぞれ28.0±24.2%,46.4±29.0%,23.0±22.0%,13.2±7.2%,10.6±5.9%であった.頭部拳上では,非接地座位および接地座位より有意に高かった(p<0.05).内腹斜筋の%MVCはそれぞれ48.7±44.1%,49.0±36.9%,47.9±40.8%,45.4±32.1%,50.6±28.4%となり,各群間で有意差は認められなかった.O/R比はそれぞれ2.67±3.10,1.31±1.52,2.58±2.74,3.33±2.62,4.57±2.70であり,接地座位では頭部拳上より有意に高かった(p<0.05).【考察】 内腹斜筋の活動量には条件間で有意差がなく,今回規定した姿勢や支持基底面の相違では変化しないと考えられた.腹直筋は,頭部拳上では頭部の抗重力位での固定の主働筋となるため,筋活動量が他の条件より高いと考えられた.さらに,有意差はなかったが背臥位では座位に比べて腹直筋の活動量が高い傾向があった.背臥位では,頭部拳上の条件以外でも,「お腹をへこませる」運動を視認するために頭部の抗重力方向への拳上と軽度の体幹屈曲が生じ,腹直筋の活動が高まった可能性がある. O/R比は腹直筋の筋活動の変化により,条件間で差が生じることがわかった。背臥位で行うDraw inでは,腹直筋の活動を抑えるために,頭部の支持による基底面の確保に加えて,頭部位置を考慮する,もしくは座位で行うことが有効であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 Draw inを行う際に背臥位から頭部を挙げる条件では,内腹斜筋の活動量が同程度のまま腹直筋の筋活動が高まり,結果としてO/R比が低下するという知見が得られ,効果的に行うためにはこのような条件をとらないよう留意すべきことが示唆されたことは意義深い.
著者
山本 圭彦 浦辺 幸夫 前田 慶明 森山 信彰 岩田 昌
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0764, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷は,着地時など非接触場面での発生が多く,ACL損傷予防として,膝関節中間位で着地することが指導されている。片脚着地時の膝関節外反角度と下肢の筋活動を調査した研究では,大殿筋の筋活動が高い者は膝関節外反角度が小さくなることが示されている(Kaneko, 2013)。しかし,正しい動作の指導を実施した後に膝関節外反角度と筋活動がどのように変化するかは明らかとなっていない。そこで,本研究の目的は,膝関節が中間位になるような動作指導を実施し,指導前後の片脚着地の膝関節外反角度と筋活動の変化を確認することである。これまで,動作指導に伴う筋活動の変化を調査した研究がないため,導入として,1回の動作指導での変化について検討を試みた。仮説は,「動作指導後は片脚着地時に膝関節外反角度の減少と大殿筋の筋活動は増加する」とした。【方法】対象は,膝に外傷歴のない健康な女性10名(平均(±SD)年齢:19.9±0.9歳,身長:157.7±3.4cm,体重:48.1±2.4kg)とした。対象とする足は,ボールを蹴る足と反対の足とした。運動課題は,高さ30cmの台から60cm前方に片脚で着地(single leg landing:SLD)させた。動作は,2台のデジタルビデオカメラ(周波数240Hz,EX-ZR400,CASIO)を用いて記録した。膝関節外反角度は,上前腸骨棘,膝関節軸中央,足関節軸中央がなす角度とした。角度は,動作解析ソフトウェア(Dip-motion,DITECT社)により算出し,足尖接地時の膝関節外反角度と着地後の最大膝関節外反角度を抽出した。筋活動は,表面筋電位計測装置Personal-EMG(追坂電子機器社)を使用して,大殿筋,中殿筋,内側広筋,外側広筋,半膜様筋,大腿二頭筋の6筋を計測した。ACL損傷は,着地後50ms以内に生じることが報告されていることから(Krosshaug, 2007),解析期間は着地前50msと着地後50msの2区間とした。各筋の%EMGは,最大等尺性収縮時の筋活動を基に正規化を行った。動作指導は,スクワット,フォーワードランジ,ジャンプ着地を課題として,動作中に膝関節が内側に入らないよう膝関節と足尖の向きが一致する動作を指導した。スクワットとジャンプ着地は,両脚と片脚の2種類行った。動作指導は,10分間と統一した。統計学的解析は,動作指導前後のSDL時の膝関節の角度と各筋の筋活動をWilcoxon testを用いて比較した。なお,危険率5%未満を有意とした。【結果】動作指導前の膝関節外反角度は,足尖接地時で平均(±SD)3.68±1.65°,最大膝関節外反角度で15.13±6.29°であった。指導後は,それぞれ1.84±2.27°と9.69±4.22°であった。足尖接地時および最大膝関節外反角度は,指導後に有意に減少した(p<0.05)。動作指導後の筋活動の変化は,着地前50msで大殿筋と外側広筋のみ有意に増大した(p<0.05)。着地50ms後では,すべての筋で動作指導前後に有意な変化は認めなかった。【考察】動作指導後の膝関節外反角度は,足尖接地時および最大膝関節外反角度ともに減少を示し,1回10分間の動作指導でも着地時の動作は継時的に変化することが確認できた。筆者らが注目した筋活動に関しては,着地前の大殿筋と外側広筋のみ筋活動が増大した。動作指導後には最大膝関節外反角度は減少したにも関わらず,着地後の筋活動は変化が認められなかった。よって,着地動作の膝関節外反角度の変化は,着地後の筋活動よりも着地前の筋活動が関与していることが伺える。大殿筋の筋活動が増大した要因として,Johnら(2013)は,大殿筋の筋活動が低い者は膝関節外反角度の増大とともに股関節内旋角度が大きくなると述べている。大殿筋は,股関節外旋筋であり,着地後の股関節内旋角度を制御すると考えられている。そのため対象者は,着地前の段階で股関節を外旋させることにより,着地後の股関節内旋角度を減少させようと準備していたと推察される。実際,足尖接地時の時点で膝関節外反角度は,減少しているため,足尖接地前から動作の変化は生じていると考えられる。これは,ACL損傷予防の動作指導では,着地前からの動作も分析していくことが今後の課題と考える。今回は,1回の動作指導による膝関節外反角度と筋活動の変化を確認したが,今後は長期的に指導を行い,筋活動の変化を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,着地前の大殿筋や外側広筋が膝外反角度の制御に関わっていることを示し,ACL損傷予防にとって有用な結果を提供できたと考える。
著者
瀧上 陽登 浦辺 幸夫 前田 慶明 藤井 絵里 森山 信彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1254, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツは,頭頸部に外傷をきたしやすい競技である。その予防策として頸部の筋力強化が指導され,さらに外力による衝撃を吸収する目的でマウスガード(Mouth Guard:MG)の使用が認められている。過去にMG装着によって頸部屈曲筋力は増加するが,伸展筋力に差はないという報告がある。これはMG装着により筋力発揮時に咬合力が高まった結果と考えられる。これまで,MG装着が頸部筋力発揮時に咬筋や頸部筋の活動に変化を与えるのかは明らかにされていない。本研究はMGを装着し,頸部最大等尺性運動時に咬筋および頸部筋の活動が高まるか,さらに,運動方向による違いがあるかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,頭頸部と顎口腔領域に疾患および外傷のない健常男子ラグビー部員16名(身長174.8±5.8cm,体重73.0±8.2kg)とした。MGは同一の専門医によって作成された。対象は椅座位をとり,胸部と肩,腰部および大腿部をベルトで固定した。MG装着と非装着の2条件で3秒間の最大等尺性運動を行った。運動方向は前(0°)後(180°)ならびに左右(90°)方向,さらにその中間の方向を加えた計8方向とし,各3回測定した。等尺性筋力はμTas F-1(アニマ社)を用いて測定した。筋活動量はPersonal-EMG plus(追坂電子機器社)を用い,右側の咬筋,胸鎖乳突筋および板状筋を記録し,1秒間の面積積分値とした。いずれも平均値を代表値とした。統計学的検定には,ExcelアドインソフトStatcel 3(オーエムエス出版社)を使用した。各方向でのMG装着と非装着の差の比較に,対応のあるt検定とWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。危険率5%未満を有意とした。【結果】頸部筋力(MG装着,MG非装着)の平均値(N)はそれぞれ0°(145,135),右45°(148,138),左45°(150,141),右90°(178,158),左90°(168,152),右135°(219,203),左135°(209,193),180°(278,261)となり,MG装着が全方向で有意に大きくなった(p<0.01)。筋活動量の平均値(mV/sec)について,咬筋は0°(1.7,1.1),右45°(1.8,1.2),左45°(1.7,1.0),右90°(1.7,1.0),左90°(1.7,0.6),右135°(1.4,0.9),左135°(1.3,0.7),180°(1.3,0.6)となり,MG装着が全方向で有意に大きくなった(p<0.01)。胸鎖乳突筋は0°(3.2,2.9),右45°(3.0,2.8),右90°(2.7,2.5),右135°(1.7,1.4)で有意に大きくなった(p<0.05)。板状筋はいずれの方向でも2条件間に有意な差は認められなかった。【結論】本研究では,先行研究と異なりMG装着時に全方向で頸部筋力の増加を認めた。その増加率は側屈方向で最も高かった。筋力の増加が少ないとされていた伸展方向でもMG装着で約6%の増加が確認され,咬筋の活動量も大きくなっていた。このようにMG装着が頸部筋力に与える影響については,さらに検証をする必要があり,現場での正しい使用についての指導を進めてゆきたい。