- 著者
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森本 裕子
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
パニッシュメント(罰)は,「非協力的(不道徳的)な行為を行った相手」に対するものでなければならず,協力的な相手へのパニッシュメントは他者からの信頼を失う(Barclay,2006)。実験ゲーム状況においては,どのような行為を行った相手へのパニッシュメントかが参加者に明示され,これに基づいて行為が判断される。しかしながら,日常生活においては,必ずしもパニッシュメント対象者の行動履歴がはっきりしているとは限らない。そのような場合における他者からの評価を検討するため,以下の2つの研究を実施した。(1)自分以外の参加者のうち誰かが非協力的に(協力的に)ふるまったことだけがわかるが,その人物が誰かがわかりにくい状況(曖昧条件)を作り,その状況下でのサンクション行動を検討した。一般的信頼の高い群では曖昧条件でパニッシュメント行動が増え,一般的信頼の低い群では確実条件でリワード行動が減少するという結果が得られた。(2)Klein et al.(2009)は,ある行為によって形成された印象は長く記憶に残るが,印象形成の要因となった行為に関するエピソード記憶はあまり長く維持されないという結果を示している。このような印象-エピソード記憶の関係が,パニッシュメントにもあてはまるかを検討した。予測どおり,サンクション対象者が「悪い」あるいは「良い」人であることが事後的に明らかになった場合には,事前にそのような情報を得ていたときとは異なる評価が下された。これらの実験結果は,互いの行動履歴が必ずしも明確ではない日常的な関係においては,実験ゲーム状況とは異なる行動がとられていることを示唆する。