著者
楠瀬 千春 木村 利昭 藤井 淑子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 = Journal of cookery science of Japan (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.10-18, 2002-02-20
参考文献数
14
被引用文献数
2

スポンジケーキの主材料は小麦粉,鶏卵,砂糖である。本報では小麦粉の全量を澱粉(小麦澱粉,あるいは馬鈴薯澱粉)に置き換え,馬鈴薯澱粉を大粒と小粒に分級することによって,スポンジ組織の気孔形成に澱粉粒径のおよぼす影響を検討した。スポンジケーキの調製方法は,3材料を同重量づつ配合し,卵(全卵)糖液を泡立てた後,小麦澱粉あるいは馬鈴薯澱粉を混合し,ケーキバッターを調製した。2種類のバッターを同時にオーブンで焼成し,次のような実験を行った。ケーキバッターの焼成中の膨張・収縮時の高さの変化をカセトメーターを用いて計測した。また,バッターに含まれている気泡と,澱粉粒の相互作用を,加熱・放冷中にわたって,モデル実験的に,顕微鏡観察した。更に,澱粉粒の糊化状態を偏光顕微鏡で観察した。焼成したスポンジケーキの気孔構造と,膨潤・糊化した馬鈴薯澱粉粒の変形した形状を,ケーキのSEM写真によって比較検討した。その結果,分級した馬鈴薯澱粉の粒径分布が狭い範囲に限られると,ケーキバッターの気泡の表面を澱粉粒が覆いやすくなり,ケーキバッターが加熱された時,気泡の合一,破泡が抑制される。この状態で加熱を継続すると気泡は澱粉粒に覆われたまま徐々に膨張する。同時に気泡表面を覆っている澱粉粒の糊化が進行し,膨張した気泡は粒に覆われたまま固定化し,放冷後において球形を保持したまま気孔を形成した。要するにスポンジケーキの気孔は,気泡が膨張し固定化して形成されたものである。
著者
由良 亮 浜野 純 萩原 勇人 楠瀬 千春
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】包丁技術の育成は、栄養士養成において必須の課題である。この技術は調理経験によって、比較的誰でも習得できるものである。しかし、近年、入学までの調理経験が少ない学生が増加している。そのために、卒業までに十分に期待されるだけの練度を積むことができない状況にある。<br />こうした、練度を要する技術は、無意識・無自覚で行う所作に違いがあると考えられる。しかし、無意識・無自覚であるために、熟練者も学習者もその違いに気がつくことは難しい。そのため、技術向上につながる的確なアドバイスが難しいと考えられる。そこで、包丁操作を詳細に記録する方法を検討した。これにより、その人の包丁操作の特徴を見出すことができれば、それを熟練者との違いを明確にすることできると考えられる。そして、その人の上達を促すアドバイスが可能となる。<br />【方法】本研究では、その方法として6軸モーションセンサー(3軸加速度,3軸角速度)を利用した。近年これらのセンサーは非常に小型化しており、包丁操作を妨げることなく、その状況を記録することができる。<br />このセンサーを、包丁の柄の両端に取り付けて、キュウリの小口切り,人参と大根のイチョウ切り,大根の桂むきの動作を記録した(サンプリングレート 200 Hz)。その記録を高速フーリエ変換にかけ、周波数解析を行った。そして、切り方および被験者について比較を行った。<br />【結果】どの切り方および被験者においても、包丁操作のパワースペクトルは概ね15 Hz 未満の周波数領域に集中していた。また、両端のセンサーが検出した加速度は、信号強度に差異が認められた。しかし、角速度ではわずかな違いしか認められなかった。<br />それぞれの材料・切り方において、パワースペクトルに明確な違いが認められた。キュウリの小口切りでは,加速度・角速度のパワースペクトルに明確な倍音成分が認められた。人参のイチョウ切りでは,包丁の切断動作に伴う軸方向で,加速度・角速度スペクトルに特徴的なピークが確認された。大根のイチョウ切りでは一定の傾向は認められなかった。<br />また、被験者間においても明確な違いが認められた。違いについては、解釈を検討する必要があるものの、特徴点を見出すことが可能と考えられる。
著者
楠瀬 千春 藤井 淑子
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオレオロジー学会
雑誌
日本バイオレオロジー学会誌 (ISSN:09134778)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.20-31, 2006-06-25 (Released:2012-09-24)
参考文献数
44

Typical sponge cakes are made from equal weight of wheat flour, whole eggs and sugar (wheat flour cake). In this paper, wheat flour was replaced with wheat starch (wheat starch cake) while keeping all other aspect of preparation the same. The specific volume of this cake was 20% greater than wheat flour cake. Observation of air cells structure in both cakes by“SEM”showed that continuous globular air cells with thinner cell walls and smaller pores were formed than for wheat flour cakes. Cubes cut from both types of sponge cakes were tested. When both cakes were compressed to 40% of their original thickness by the Creep Meter, only slight differences in recovery of thickness were observed for both types. Further, even after compressing the wheat starch cake cubes to 1/10 of their original thickness, only 90% of the initial thickness was recovered when the load was removed. The formation of such the air cell structure in the wheat starch sponge cake was proposed to proceed as follows. The starch granules in the wheat starch cake batter were distributed uniformly on the surfaces of air bubbles. Then when the sponge cake batter was baked, the air bubbles expanded and granules slightly gelatinized, keeping their same position. Therefore, the air bubbles maintained spherical pore shape, even after cooling. As a result, wheat starch sponge cake structure was shown to have significant elasticity and rheological properties.
著者
猪田 和代 宮原 葉子 仁後 亮介 吉岡 慶子 山本 亜衣 秋永 優子 楠瀬 千春 末田 和代 三成 由美 松隈 美紀 八尋 美希
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2018

【目的】「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」では、全国に残されている特徴ある家庭料理について、聞き書き調査を通して地域の暮らしの背景とともに記録し、次世代に伝えることを目的としている。本研究では九州支部の調査で得られた家庭料理の中から特に「主菜」の特徴について検討した。<br>【方法】日本調理科学会特別研究の調査ガイドラインに基づき聞き書き調査を行った。調査地区は北九州地域(5名)、筑豊地域(2名)、福岡地域(9名)、筑後地域(9名)の4地域。調査期間は平成24年~25年度。対象者は昭和35年~45年当時の調理担当者とし、平均年齢は74.0±6.1歳であった。<br>【結果】日常の食事は質素で、主菜は野菜の煮物が主であった。朝食は主菜がなく、ご飯とみそ汁に漬物が添えられる程度であった。昼食も特に主菜はなく、残り物や漬物などで済ませていたが、夕食では肉類や魚介類と季節の野菜を煮て主菜とした。食材としては肉類では牛、豚肉はほとんど食べられず、鶏肉もハレの日には鶏一羽をつぶしてご馳走としてふるまうが、少量を味付けに使用していた。また、くじら肉は4地域で食べられ、特に筑豊の産炭地では塩くじらが好まれていた。魚貝類は玄界灘に面した福岡地域では新鮮な魚の煮つけ、塩焼き、県南の筑後地域は有明海の魚介を煮つけ、塩焼きとした。山間部では塩干品を、筑後川中流域では川魚を用いた。さらに、大豆・大豆製品は煮豆、豆腐、油揚が用いられていた。これらの主菜に加え、野菜は季節ごと食され、調理方法は煮物が主であった。特に少量の鶏肉を用い、野菜類と共に油で炒めて煮た「がめ煮」は4地区に共通してみられ、福岡県の歴史や生活の中から産み出された独自の調理法で広く伝承されていた。
著者
由良 亮 浜野 純 萩原 勇人 楠瀬 千春
出版者
中京学院大学中京短期大学部
雑誌
中京学院大学中京短期大学部研究紀要 = Bulletin of Chukyo Junior College (ISSN:21877033)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-10, 2016

6軸モーションセンサーを用いて包丁操作を記録・解析し,可視化する方法を検討した。 包丁の柄と同程度の大きさのセンサーモジュールを作成した。センサーモジュールは包丁の刃側と柄側の動作を同時に記録することができるように,2個のセンサーを装着した。そして,これを制御するプラットフォームとして用意したRaspberry Pi2 model Bに,I2 Cインターフェースで接続し,記録装置を作成した。そして,記録条件を検討した。記録速度を測定したところ,通信速度400 kbps において,445.03 - 395.10 Hzで記録できることを確認した。この結果から,200 Hz(サンプリングレート5msec)で記録条件を設定した。 これを用い,キュウリの小口切り,人参と大根のイチョウ切り,大根の桂むきの動作を記録した。そして,得られた信号を高速フーリエ変換(FFT)にかけ,比較を行った。 いずれの操作においても,包丁操作のパワースペクトルは,加速度・角速度共に15 Hz より低い周波数領域に集中していた。また,加速度は刃側と柄側の強度に差異が認められたのに対し,角速度ではわずかだった。 キュウリの小口切りでは,加速度・角速度のパワースペクトルに倍音成分が認められた。人参のイチョウ切りでは,包丁の切断動作に伴う軸方向で,加速度・角速度スペクトルに特徴的なピークが確認された。しかし,大根のイチョウ切りでは,一定の傾向は見られなかった。大根の桂むきでは,刃先の円弧運動に相当する角速度スペクトルが特に強く認められた。 以上の結果から,本機を利用することで,包丁操作の特徴を捉え,可視化できる可能性が示された。