著者
樽本 英樹
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
no.15, pp.83-96, 2002

2001年春から夏にかけて,英国イングランド北部の諸都市で「人種暴動」が勃発した。本稿では,主な舞台となったブラッドフォード,オルダム,バーンリーにおける「暴動」の具体的様相を記述し,「暴動」の何が問題なのかを国際社会学の視角から考察する。「人種暴動」は,まずはそれが引き起こす物理的・経済的損失の大きさでその問題性を把握される。しかし,そのような物質性は象徴性をもはらんでおり,社会当事者たちの依拠している自明世界を破壊する。特に,国際移民やエスニック・マイノリティに関わる多様性・寛容性の規範が動揺し,移民排斥的でナショナリスティックな同質性・非寛容性の規範に力を与えてしまう。このような規範の動揺という問題は,国際社会学的視角からは市民権モデルの選択の問題と等価である。「暴動」は市民権の多文化モデルを動揺させ,国民国家モデルへの回帰を迫るのである。英国内務大臣が「暴動」後に提唱した市民権政策は,その回帰を忠実になぞるものになっている。「人種暴動」の問題性は,物理的・経済的範疇に留まるものではない。国際移民やエスニック・マイノリティに関わる市民権モデルを動揺させる点,およびその後のモデル修復過程に社会当事者を誘う点が,国際社会学的には注目に値するのである。
著者
樽本 英樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.382-397, 2001-03-31

21世紀の国際社会学は, どのような課題を背負わなければならないのか.20世紀末に生じた国際移民をめぐる「諸事件」を概観してわかることは, それら「諸事件」の核心が「国民国家への挑戦」だということである.そこで, 「国民国家への挑戦」を解消すること, すなわち国民国家に代わる市民権の新たなモデルを提示することが, 国際社会学の最重要課題のひとつとなる.「国民国家への挑戦」は, 「国際移民の増加・多様化」「普遍的人権の台頭」によって引き起こされ, 国民国家は「社会統合への不安」によって擁護されていた.国民国家モデルに代わりうるものとして現在提唱されている市民権のモデルは, それぞれ国民国家モデルと抵触する点を持っている.21世紀に存立しうる市民権の新たなモデルは, 出生や血縁によって仮定された「文化」に代わる要因から, 新たな正統性を供給されなくてはならない.現在優位な要因である「居住」が正統性を供給できるか否かを考察するためには, 国際社会学的想像力の獲得が必要とされるであろう.
著者
樽本 英樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

21世紀においてグローバル化が進展するとともに、ポストナショナルな国際移民システムが生まれ発展してきた。移民システムにはどのような相違があるのか。どのような結果を生産するのか。諸国家、社会集団、移民などの関与したどのようなメカニズムで生じるのか。本研究は大きく見て2つのアプローチを採用した。第1に、西側諸国との比較をしつつ、日本や韓国といったアジア諸国を非西側諸国の例として探求に加えた。次に、ハマー=小井土=樽本モデルを導入して理論的に移民システムの発展を考察していった。本研究の結果、地球全土を視野に含めたポストナショナルな移民市民権研究への道筋が立てられることになった。
著者
数土 直紀 赤川 学 富山 慶典 盛山 和夫 金井 雅之 伊藤 賢一 樽本 英樹
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本プロジェクトは、期間中に合計12回の研究会を学習院大学において開催した。また、研究会での成果を、海外を含む各種学会・会議において発表報告をした。研究会での報告内容は、次の通りである。(1)「ウォルト・ディズニーの思想」、(2)"Evolution of Social Influence Networks in Unanimous Opinion Formation"、(3)「Social Capital概念の適用可能性」、(4)「階層意識上の性-権力」、(5)「Dunkan WattsのSmall Worldシミュレーションを応用して」、(6)"Independence of Protestantism and Capitalism"、(7)「規範性のメタ理論的考察」、(8)「『社会構造のモデル樽築』」、(9)"Evolution of Distributive Justice in Social Influence Networks"、(10)「政治的権力の正当性からの独立性」、(11)「後期ハーバーマスの展開の体系的分析」、(12)「都市型公共空間における不関与の規範の形成」、(13)「損害賠償額が上昇するメカニズム」、(14)「シミュレーションということ:く社会>の理解/記述/創出」、(15)「構成主義と構成されざる現実」、(16)「利他的な行為者はゲームをどうみているか」、(17)"Escape from Free-riders"、(18)「倫理的判断の不偏性」、(19)「ロマンティック・ラブの日本的受容〜『主婦の友』に見る「愛」と「恋愛」の変遷〜」、(20)「社会移動表における非対角セルの分析」、(21)「社会運動への動員における紐帯の効果」、(22)「メディアと「信頼」」。最終年度は、プロジェクト期間中に参加者が議論を基にした論文を収録し、計13本、約280ページの報告書を作成した。