著者
余郷 嘉明 鄭 懐穎 長谷川 政美 杉本 智恵 田中 新立 本庄 健男 小林 伸好 太田 信隆 北村 唯一
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.19-34, 2003 (Released:2003-11-19)
参考文献数
57
被引用文献数
3 4

JC ウイルス (JCV) DNA の系統解析によりアイヌの起源を解明することを目的として, 北海道の3地域(浦河, 白老, 旭川)に住むアイヌ30名から尿を採取した。尿から検出された JCV DNA (n = 13) は5つのゲノム型 (MY-b, MY-x, MX, EU-a/Arc, EU-c) に分類された。MY-b, EU-a/Arc, EU-cは過去に近隣の人類集団から検出されたが, MY-xとMXは今回初めてアイヌから検出された。得られた知見から, (1) 東北アジアから渡来した複数の人類集団が現代アイヌを築いたこと, (2) ヨーロッパ人に近縁の東北シベリア先住民の祖先集団が現代アイヌの中核を形成したこと, (3) 縄文人を形成した集団や新規な東北アジア系集団も現代アイヌの形成に寄与したことが示唆された。
著者
長谷川 政美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.269-278, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
29

近年のDNA塩基配列解析は,真獣類の系統関係についてさまざまなことを明らかにしてきた.そのなかでの大きな発見の1つが,真獣類は系統的にはアフリカ獣類,異節類,北方獣類という3大グループに分類できるということである.このことは,真獣類の初期進化に大陸移動による超大陸の分断が関わっていることを示唆する.しかし,超大陸の分断だけで,3大グループの間の分岐を単純に説明することはできない.これには,DNA塩基配列解析の第2の大きな成果である分岐年代推定の問題が関わっている.進化の過程でDNAの塩基置換が蓄積する速度は,さまざまな要因によって変動するので,文字通りの分子時計は成り立たない.しかし,分子進化速度の変動を考慮に入れて分岐年代を推定する方法が整備されてきた.そのような方法により,真獣類の3大グループの間の分岐は,超大陸の分断よりも新しいという証拠が集まりつつある.このことは,超大陸が分裂した後も,地質学的な時間スケールでは,大陸間で海を越えた漂着などによって生物相の交流が続いたことを示唆する.こうして真獣類の進化は,大陸移動に伴う超大陸の分断と,幸運に恵まれてはじめて成功する海を越えた漂着という2つの要因が絡み合って進んできたことが明らかになってきたのである.DNA塩基配列解析の第3の大きな成果は,現生生物のゲノム情報から祖先の生活史形質や形態形質などを推定できることであろう.本稿では,2017年に吴らが開発したゲノム情報から祖先形質を推定するための統計手法を解説し,それを真獣類の生活史形質の進化の問題に適用して得られた結果もあわせて紹介する.
著者
長谷川 政美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.269-278, 2020

<p>近年のDNA塩基配列解析は,真獣類の系統関係についてさまざまなことを明らかにしてきた.そのなかでの大きな発見の1つが,真獣類は系統的にはアフリカ獣類,異節類,北方獣類という3大グループに分類できるということである.このことは,真獣類の初期進化に大陸移動による超大陸の分断が関わっていることを示唆する.しかし,超大陸の分断だけで,3大グループの間の分岐を単純に説明することはできない.これには,DNA塩基配列解析の第2の大きな成果である分岐年代推定の問題が関わっている.進化の過程でDNAの塩基置換が蓄積する速度は,さまざまな要因によって変動するので,文字通りの分子時計は成り立たない.しかし,分子進化速度の変動を考慮に入れて分岐年代を推定する方法が整備されてきた.そのような方法により,真獣類の3大グループの間の分岐は,超大陸の分断よりも新しいという証拠が集まりつつある.このことは,超大陸が分裂した後も,地質学的な時間スケールでは,大陸間で海を越えた漂着などによって生物相の交流が続いたことを示唆する.こうして真獣類の進化は,大陸移動に伴う超大陸の分断と,幸運に恵まれてはじめて成功する海を越えた漂着という2つの要因が絡み合って進んできたことが明らかになってきたのである.DNA塩基配列解析の第3の大きな成果は,現生生物のゲノム情報から祖先の生活史形質や形態形質などを推定できることであろう.本稿では,2017年に吴らが開発したゲノム情報から祖先形質を推定するための統計手法を解説し,それを真獣類の生活史形質の進化の問題に適用して得られた結果もあわせて紹介する.</p>
著者
熊澤 慶伯 長谷川 政美
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

トカゲ亜目を構成する主要な科より代表種を選んでミトコンドリアDNA全塩基配列約17キロ塩基対の決定を行った。その結果、イグアナ下目やヤモリ下目を構成する科から多数の種について(その他の科の殆どからは少なくとも代表種1種について)ミトコンドリアDNA全塩基配列を決定することができた。コードされる37遺伝子の塩基配列を用いて最尤法などによる分子系統解析を行い、信頼できる系統関係を構築するとともに、分子時計を仮定しないベイズ法を用いて分岐年代の推定を行った。その結果に、大陸移動に関する地質学的情報と古生物学的情報を加味して、トカゲ類の系統分岐と中生代の大陸移動の関係について考察を行った。主な生物地理学的成果は次の通りである。1)トカゲ類の主要な科間の分岐は白亜紀の大規模な大陸分離の以前にさかのぼる、2)ただしアガマ科とカメレオン科の分岐だけは約1億年前のゴンドワナ大陸で起き、その後アガマ科はインド亜大陸などに乗ってユーラシアに分散した可能性がある、3)マラガシートカゲ亜科のイグアナ類は他のイグアナ類と大陸の分断に伴い分岐した、4)ヤモリ科とトカゲモドキ科の分岐はパンゲア超大陸のローラシア大陸とゴンドワナ大陸への分裂に伴い分断的に起きたと考えられる。またこれらの研究を行う過程で、Draconinae亜科アガマ類のミトコンドリアゲノムの遺伝子配置に、脊椎動物としては初めてとなる遺伝子(本件ではプロリンtRNA遺伝子)の逆位を発見し、その分子進化機構として相同的DNA組換えを提唱した。
著者
長谷川 政美 橋本 哲男 宮田 隆
出版者
統計数理研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

前年度までの研究で,メタン細菌,好塩菌,エオサイトなどの古細菌が,真正細菌によりは真核生物に近縁であることが確かめられたが,これら3つの古細菌のグループと真核生物との関係は不明であった.今年度は,ペプチド鎖伸長因子のアミノ酸配列データを,われわれが開発した最犬法にもとづいて解析した結果,これらの古細菌がすべて系統的に一つのグループとしてまとまるという可能性のほかに,エオサイトが特に真核生物に近いという可能性も浮上した.ミトコンドリアなどのオルガネラをもたない真核原生生物の系統学的な位置づけは,真核生物の初期進化をさぐる上で極めて重要である.従来この問題は,リボソームRNAの配列データにもとづいて研究されてきたが,われわれはリボソームRNA分子系統樹の問題点を指摘した.最大の問題は,近縁な生物の間ででも,塩基組成が大きく異なることがあり,このことが間違った系統樹を導くことがあるということである。われわれは,ペプチド鎖伸長因子やRNA合成酵素などといった保存的なたんぱく質のアミノ酸配列データを解析し,塩基組成が大きく違っているような場合でも,たんぱく質のアミノ酸配列はその影響を受けず,そのようなデータからえられる分子系統樹の信頼性が高いことを示した。ミトコンドリアをもたない真核原生生物の一種であるギアルディアのペプチド鎖伸長因子EF-1αの遺伝子の塩基配列を決定し,この原生生物が真核生物の祖先型生物に近い可能性のあることを示した.
著者
長谷川 政美
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.694-700, 1992-07-25
参考文献数
7
著者
長谷川 政美 堀 寛 岡田 典弘 宝来 聰 五條堀 孝 宮田 隆 植田 信太郎
出版者
統計数理研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

ミトコンドリアを持たない真核生物について、蛋白質をコードしているいくつかの遺伝子の系統学的な解析を行い、真核生物の初期進化に関して新たな知見を得た(長谷川)。進化の過程で遺伝子の多様化がどのように進んだかという問題を明らかにするために、多数の遺伝子族の分子進化学的解析を行った。その結果、遺伝子重複による遺伝子の多様化は、真核生物の進化の過程で徐々に起きたのではなく、断続的かつ急速に起きたことが明らかになった(宮田)。HIVの遺伝子を分子進化的に解析し、その進化速度が異常に高いことを明らかにし、このウイルスの感染者体内における進化のメカニズムに関してもいくつかの知見を得た(五條堀)。3人の現代人と4種の類人猿で、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を調べた結果、現代人の共通祖先の年代は約14万年前と推定され、「アフリカ単一起源説」が強く支持された(宝来)。独自に開発したSINEによる系統樹推定法を用いて、クジラの起源の解明とタンガニイカ湖のカワスズメ科魚類の系統関係の決定を行った。クジラの起源に関しては、クジラ目と反芻亜目とカバが単系統をなすことを明らかにした(岡田)。その他、動物体色の発現機構の進化(堀)、細胞内共生細菌の進化(石川)、脳で特異的に発現している転写因子class III POUの分子進化(植田)、無脊椎動物の生体防御系の進化(石和)、などについても成果を挙げた。
著者
長谷川 政美 加藤 真 湯浅 浩史 池谷 和信 安高 雄治 原 慶明 金子 明 宝来 聰 飯田 卓
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

マダガスカル固有のいくつかの生物群について、その起源とこの島における多様化の様相を明らかにする分子系統学的研究を行った。(1)マダガスカル原猿類(レムール類)とアフリカ、アジアの原猿類との進化的な関係を、ミトコンドリアのゲノム解析から明らかにし、レムール類の起源に関して新しい仮説を提唱した。(2)テンレック類についても分子系統解析によって、その起源とマダガスカルでの多様化進化を明らかにする研究を行った。テンレックについては、前肢運動器官の比較解剖学的解析を行い、この島における適応戦略を探った。(3)マダガスカル固有のマダガスカルガエル科から、アデガエル、マントガエル、イロメガエル3属のミトコンドリア・ゲノムを解析し、この科がアオガエル科に近縁であることを示した。(4)マダガスカル固有のバオバブAdansonia属6種とアフリカ、オーストラリアのものとの進化的な関係を、葉緑体ゲノムの解析から明らかにした。マダガスカルの6つの植生において、植物の開花を探索し、それぞれの植物での訪花昆虫を調査した。いずれの場所でも、訪花昆虫としてマダガスカルミツバチが優占していたが、自然林ではPachymelus属などのマダガスカル固有のハナバチが観察された.このほか,鳥媒,蛾媒,甲虫媒なども観察された。マダガスカル特有の現象として、長舌のガガンボ類Elephantomyiaの送粉への関与が、さまざまな植物で観察された。Phyllanthus属4種で、ホソガによる絶対送粉共生が示唆された。マダガスカルの自然と人間の共生に関する基礎的知見の蓄積のため、同国の海藻のフロラとその利用に関する研究、及びマングローブ域に特異的に生育する藻類の生育分布と交雑実験による生殖的隔離に基づく系統地理学的解析を行った。マダガスカル南西部漁村の継続調査から、生態システムと文化システムの相互交渉を浮かび上がらせた。