著者
水田 秀子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.8-15, 2006 (Released:2007-04-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

呼称において多彩な誤りを呈した 1 例を検討した。症例は 77 歳,女学校卒の女性,クモ膜下出血による左側頭葉損傷後に失語症を呈した。理解は聴覚・視覚とも良好だった。自発話は構音障害なく流暢で,喚語に窮することはあるも,錯語はほとんど認めなかった。呼称では,形式性錯語 ( formal paraphasia ) ・意味性錯語・音韻性錯語・混合性錯語 ( mixed paraphasia ) などの多様な錯語を呈した。また,同時に目標語の音形の一部が産生される現象が顕著に認められた。復唱は保たれ,呼称にみられる誤りをまったく認めなかった。音読ではかなは保たれたが,漢字音読では呼称に似た誤りを呈した。漢字語の意味理解は良好だった。本例の示した呼称の詳細と経過の検討から,本例に認められた形式性錯語は,音断片と類似の基盤を有し,目標語彙の音韻形式の喚起にかかわる障害がその一因と推察された。さらに,形式性錯語の産生を促した要因に関し内的モニターなどの観点から考察した。
著者
林田 一輝 水田 秀子 近藤 正樹
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
pp.17130, (Released:2021-12-08)
参考文献数
25

異常感覚に伴って左上肢の無意味な運動が出現した脳梗塞症例を報告した.頭部MRIでは右中心後回,頭頂間溝前部,頭頂弁蓋部,島皮質後部に病変を認めた.運動麻痺はなく,左上肢の表在・深部感覚は脱失していた.拮抗失行,道具の強迫的使用は認めなかった.また,左手への他者接触時や他動運動時に痛みやしびれ感ではない不快な異常感覚を認め,それに伴って自己が意図しない左上肢の無意味な運動が出現していた.一方で自ら左手で対象物に接触したり,右手で左手を触った時には異常感覚は軽度であった.受動的な感覚に誘発された異常感覚が無意味運動の発現機序に関与している可能性が示唆された.
著者
水田 秀子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.160-169, 2007 (Released:2008-07-01)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2

“非流暢な”発話を呈する後方病変例を報告した。90 歳,右利き,男性,側頭葉外側部から頭頂葉にかけて散在性の病変を有した。理解は良好。発話量は多くはないが,統辞形態は変化に富み,音韻性の誤りが多くみられた。特徴的だったのは,言い直し,引き伸ばしながら話し,ピッチも異常となりがちで,歪みも認められた。復唱も同様だった。また復唱では,音韻性錯語のほかに,無関連な実在語へと誤り,深層失語の様相を呈した。非語の音読は保たれた。  呼称の精査では,語彙そのものは良好に回収されていた。音韻弁別検査はやや低下,聴覚語彙判断はきわめて不良。押韻判断,同音異義語の判断,音韻削除などの音韻意識の検査も不良であった。  本例は語形聾(word form deafness)に該当した。語の輪郭(超分節的特徴)としては捉えられるが,分析的には正確に捕捉できないと考えられた。発話の諸特徴は Levelt による言語モデルでは,音韻符号化のレベルのセグメントや韻律的枠組みがスペルアウトされる過程での障害である可能性を指摘した。本例の基底にある障害は,音構造を分節する能力の障害により説明可能であると推察された。  音韻の障害は,広く失語症全般に認められるものであり,今後検討すべき点について言及した。
著者
水田秀子
雑誌
神経心理学
巻号頁・発行日
vol.21, pp.207-217, 2005
被引用文献数
6
著者
斉田 比左子 藤原 百合 山本 徹 松田 実 水田 秀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.230-239, 1994 (Released:2006-06-06)
参考文献数
15

電文体発話を呈した左中前頭回後部の小出血の1例を報告した。典型的な電文体発話は我が国の Broca 失語ではまれといわれている。本症例は54歳,右利き男性で,発症時はBroca失語に相当する状態を呈し,その回復過程で,自発話のみに選択的に電文体発話が明確となった。特に,発話意欲の亢進した自発話に著明であった。書字には,電文体は認められなかった。理解力や喚語力は保たれ,文法処理能力も良好であった。本症例では,迅速かつ効率よく多くの情報を伝えようとする場合には助詞が省略され,その背景には文を構成し発話する過程で助詞の使用に関する何らかの機能不全が推察された。本症例は,文の構成に関与するといわれる左中前頭回後部に限局病変を有したことから同部位が文の構成過程に関与する可能性を示唆する1症例と考えられた。
著者
水田 秀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.146-153, 1999 (Released:2006-04-25)
参考文献数
28
被引用文献数
3 2

いわゆる失語を伴うことなく,言語性短期記憶に選択的な障害を呈した症例を報告した。症例は21歳の右利き女性。脳動静脈奇形による脳出血で発症した。発症初期より,発話は流暢で錯語はなく,喚語障害,理解障害,文法障害を認めなかった。数唱・無意味音節の復唱に障害が認められたが,文の復唱は保たれていた。障害は言語性短期記憶にのみ認められ,非言語性短期記憶などの他の記憶検査には異常はなかった。また知能も良好であった。同時に対照症例として,発症時伝導失語を呈し,数唱・復唱の障害が選択的に残存した症例を提示した。この対照症例では,無意味音節とともに文の復唱においても障害が認められた。自験2例および既報告の「言語性短期記憶の選択的障害症例」とを比較した。同等の数唱の低下を示す3者で復唱や理解に明らかな差異が認められた。これらは,失語症状の有無・失語の性状や重症度に起因すると考えられた。