- 著者
-
水野 克己
- 出版者
- 一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
- 雑誌
- 日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.4, pp.672-675, 2023 (Released:2023-04-20)
- 参考文献数
- 36
はじめに 哺乳動物であるヒトが出産したわが子を母乳で育てることは,ごく“ふつう”のことである.しかし,女性が身近で子育てをしている様子を見たり,育児にかかわったりすることなく自身の妊娠出産を迎えることが一般的となった現代では,母乳育児が“ふつう”のこととはいい難くなった.母乳には子どもをいろいろな疾病から守る作用があり,母乳の成分研究を経て,特定の母乳成分と疾病との関連についても明らかになってきている.今後,特定の母乳成分を取り出して人工乳に添加し,疾病予防につなげるというトランスレーショナルリサーチも発展していくだろう. 将来を左右する受精から2歳の誕生日までのthe first 1,000 daysは母乳栄養が望ましい(生後6カ月以降は母乳で不足する栄養を固形食で与える).これはmicrobiomeやepigeneticsの研究からも明らかになってきている.つまり,研究から得られたエビデンスは母乳育児を推奨するものであり,私たち医学者が,母親を根拠のない迷信に基づいた母乳育児の押し付けから守り,母乳育児を“ふつう”のこととして行えるようサポートすることはマストと考える. もちろん,人工栄養を選択せざるを得ない場合,人工乳を補足しなければならない場合もある.そのような場合も母親の思いを傾聴したうえで,子どもの健康を守れるよう情報提供をしなければならない.母親に情報提供する際には,母乳育児で問題となりやすいこととその対処方法を母親にわかりやすく伝えることも欠かせない.