- 著者
-
永美 大志
- 出版者
- 一般社団法人 日本農村医学会
- 雑誌
- 日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.5, pp.681-697, 2009-01-30 (Released:2009-04-08)
- 参考文献数
- 76
農薬による慢性的人体影響は,神経・精神障害,臓器障害,発癌,出生障害,発達障害など多岐に渡る。今回筆者は,出生障害について,近年の内外の文献を収集し,総括した。 出生障害については,出生児欠損,流産,死産,早産,出生体格の低下,出生性比異常について近年の農業用農薬使用,住居近傍での農薬散布,住居内での農薬曝露,有機塩素農薬残留との関係を検討した報告が欧米を中心に多数あった。それぞれの影響について過半数の報告が関係を認めていた。出生時欠損については,全般について関係が認められた報告が多く,無脳症など特定の欠損についても報告があった。尿道下裂・停留精巣については,DDT類よりはむしろ,クロルデン類,農薬暴露全般との関係が認められていた。 一方,東南アジア,南アフリカで行なわれた,2つの地域における研究からは,農業農薬暴露と出生時欠損,流産との間に強い関係が見出されていた。熱帯・亜熱帯地域の発展途上国では,農薬用防護具の使用が,気候的にまた経済的に困難であり,農薬暴露が多いことも推察され,これらの知見を検証する疫学研究が求められる。同時に,低毒性農薬への移行,農薬暴露の低減のための施策,活動も求められよう。さらには,欧米でも都市部および農村部の低所得マイノリティーについて,有意な危険度がみられているようで,農薬による人体影響についても社会経済的な因子が重要と推測された。 残念ながら日本国内では疫学的研究が極めて少ないのが現状である。出生障害は,農薬のヒトへの影響の中でも重要な位置を占めると考えられ,農村医学会として取り組むべき課題の一つといえよう。また,東南アジア地域における農薬曝露と慢性影響の疫学調査,低毒性農薬への移行,農薬暴露を低減させる活動が推進されるために,日本農村医学会も貢献すべきであろう。