著者
波多野 元貴 鈴木 重行 松尾 真吾 片浦 聡司 岩田 全広 坂野 裕洋 浅井 友詞
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0134, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 これまで、スタティックストレッチングの即時効果を検討している先行研究において、効果の持続時間はほとんど検討がなされていない。少数の先行研究からは、大半の評価指標において、ストレッチングの効果の持続時間は数十分以内であることが示唆されるが、これらの結果については、ストレッチング時間や強度、対象筋などの設定の違いから、先行研究間の単純な比較は困難であり、多くの指標について同時に、かつ詳細に検討している先行研究はない。そこで、同一条件下で、各指標に及ぼす効果の持続時間を詳細に検討することで、ストレッチングによる正の効果(伸張時の抵抗の減少、ROM増大等)と負の効果(筋力の低下等)がそれぞれどの程度持続していくかが明らかとなれば、より目的に沿った、有効なストレッチングを実践するための一助となると考えられる。そこで、本研究は、ストレッチングが各指標に及ぼす効果の持続時間を明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は健常学生20名(男性9名、女性11名、平均年齢20.5±1.2歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位(以下、測定開始肢位)をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いて測定を行った。ストレッチングは300秒間、大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度で保持し、ストレッチング開始時と終了時の静的トルクを比較して、低下していることを確認した。評価指標は、stiffness、最大動的トルク、ROM、筋力の4種類とした。stiffness、最大動的トルクは測定開始肢位から膝関節最大伸展角度(大腿後面に痛みの出る直前)まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた時のトルク-角度曲線より求めた。stiffnessは、ストレッチング前の膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの範囲で回帰直線を算出し、その傾きと定義し、最大動的トルクはトルクの最大値とした。ROMは膝関節最大伸展角度とした。筋力は、測定開始肢位での膝関節屈曲の最大等尺性筋力とした。実験はまずstiffness、最大動的トルク、ROM、筋力を測定し、60分の休憩後、ストレッチングを行い、同時に静的トルクを測定した。ストレッチング後は、測定開始肢位にて10分、20分、30分のいずれかの安静を取った(以下、10分群、20分群、30分群)。安静後は、再びストレッチング前と同じ手順でstiffness、最大動的トルク、ROM、筋力を求め、ストレッチング前後の値を比較した。被験者は異なる安静時間を含めた全ての実験を24時間以上の間隔を設け行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は名古屋大学医学部生命倫理審査委員会(承認番号:11-510)および日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会(承認番号:11-07)の承認を得て行った。実験を行う前に、被験者に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合にのみ研究を行った。尚、被験者が実験の中止を希望した場合は、速やかに実験を中止した。【結果】 静的トルクは全ての群で、ストレッチング後に有意に低下した。stiffnessは、ストレッチング後に20分群のみ有意に低下した。最大動的トルクおよびROMは、全ての群で有意に増加した。筋力は、全ての群で有意に低下した。【考察】 静的トルクの低下から、ストレッチングは全ての群で同様に行えたと考えられ、筋が伸張され、Ib抑制が関与したと推察する。stiffnessは先行研究より、筋腱複合体の粘弾性を反映すると報告されている。stiffnessの結果より、筋腱複合体の粘弾性など、力学的特性の変化は20分から30分後までには消失する可能性がうかがえた。最大動的トルクは先行研究より、痛み閾値に関連するstretching toleranceを反映すると報告されている。本実験では最大動的トルクおよびROMにおいて効果が30分以上持続することが示唆された。したがって、筋腱複合体の力学的特性の変化が持続していない場合にも、ROMの増加が保たれており、これは主に痛み閾値の上昇とともにstretching toleranceが増加したことが要因であると推察する。また、筋力はストレッチング後30分以上低下した状態が持続することが示唆された。但し、この筋力低下は統計学的に有意な差ではあるが、その割合は5%に満たないものであり、目的によって重要性が異なると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、評価指標ごとに効果の持続時間が異なることや、効果の主たる要因が経時的に変化することが示された。このことから、理学療法士がストレッチングを目的に沿った、より有効なストレッチングを施行するには、各指標に対する効果の持続時間への考慮が必要となると考える。
著者
波多野 元貴 鈴木 重行 松尾 真吾 後藤 慎 岩田 全広 坂野 裕洋 浅井 友詞
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100755, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 スタティック・ストレッチング(static stretching:SST)は、柔軟性の改善をもたらすとされ、臨床場面やスポーツ現場などで広く用いられる。他方、SST後は最大発揮筋力や単位時間あたりの筋力発揮率であるrate of force development(RFD)などに代表される筋パフォーマンスの低下が生じるため、最大限の筋力発揮を要するパフォーマンスの前にはSST実施を避けるべきであるとする報告が多い。また、SST後の筋パフォーマンス低下の要因のひとつとして、筋電図振幅の減少など神経生理学的な変化が報告されている。SST後の発揮筋力や瞬発的なパフォーマンスの変化を検討した先行研究を渉猟すると、少数ながらSST後に動的な運動や低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、筋パフォーマンスの低下を抑制できる可能性が示唆されている。しかし、SST後の運動負荷による筋パフォーマンス低下抑制と神経生理学的変化の関連性について比較検討した報告はない。よって、本研究はSSTおよびその後に行う低強度・短時間の等尺性収縮が最大等尺性筋力、RFDおよび筋電図振幅に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は健常学生7名(男性4名、女性3名、平均年齢21.4±1.0歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)と表面筋電計(Mega Electronics社製ME6000)を用いて測定を行った。評価指標は6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮時の最大等尺性筋力、筋収縮開始時から200 msec間の時間-トルク関係の回帰直線の傾きであるRFD、等尺性収縮中の内・外側ハムストリングスの筋電図平均振幅(root mean square:RMS)とした。実験は、まず6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行い、15分間の休憩の後、膝関節を痛みの出る直前の角度まで伸展し、300秒間保持することでハムストリングスに対するSSTを行った。その後は、直ぐに6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST群)、または30%maximum voluntary contraction(MVC)の強度で6秒間の等尺性収縮を行った後に6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、被験者はこの2種類の実験をランダムな順番に行った。統計処理は反復測定2元配置分散分析および対応のあるt検定を行い、有意水準は5% とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は本学医学部生命倫理審査委員会および共同研究施設倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者には実験の前に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合のみ研究を行った。【結果】 最大等尺性筋力は、SST群では介入後に有意に低下し(介入前:64.5±19.7 Nm、介入後:57.0±18.7 Nm)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:63.9±20.3 Nm、介入後:65.70±19.8 Nm)。また、介入方法と介入前後との間に交互作用を認め、両群の介入後の値に有意な差を認めた。RFDはSST群で介入後に有意に低下し(介入前:238.5±61.6 Nm/msec、介入後:160.0±63.8 Nm/msec)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:215.0±88.5 Nm/msec、介入後:194.7±67.3 Nm/msec)。また、外側ハムストリングスのRMSは、SST群で介入後に有意に低下し(介入前:280.0±92.3 μV、介入後:253.9±97.0 μV)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:270.6±62.3 μV、介入後:258.9±67.1 μV)。内側ハムストリングスのRMSは、両群とも介入前後の値に有意な差を認めなかった。【考察】 本研究結果より、SST後には最大等尺性筋力、RFD、外側ハムストリングスのRMSの低下が生じるが、SST後に低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、これらの低下を抑制できることがわかった。先行研究にて、筋活動が低下した状態で30%MVCの等尺性収縮を負荷すると、筋紡錘の自発放電頻度が増加することが示されている。本研究では外側ハムストリングスのRMSの変化が最大等尺性筋力およびRFDの変化に同期していることから、SST後に低下した神経生理学的な興奮性が等尺性収縮の負荷によって高まり、筋パフォーマンス低下が抑制されたものと推察する。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、理学療法士がスポーツ現場でウォームアップとしてSSTを行う際に危惧してきた筋パフォーマンス低下が、低強度・短時間の等尺性収縮により抑制できる可能性が示唆された。理学療法士が頻繁に行うSST効果に関する基礎的データの集積は、理学療法介入の科学的根拠に基づく理学療法介入の確立・進展につながるとともに、有効なSST実践に向けた方法論構築に寄与するものと考える。
著者
大川 裕行 坂野 裕洋 梶原 史恵 江西 一成 田島 文博 金森 雅夫 緒方 甫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0782, 2005

【はじめに】車いすマラソンは障害者スポーツの中でも過酷な競技の一つである.選手のコンディションを把握できれば安全な競技運営に加え,高いパフォーマンスの発揮を可能にすることが考えられる.そこで,マラソン競技の前後で選手の疲労度とストレス,免疫機能を調査し若干の知見を得たので報告する.<BR>【方法】第23回大分国際車いすマラソン大会出場選手中,協力の得られた選手59名を対象とした.その中でデータの揃っている者46名(平均年齢37.3±10.4歳,フルマラソン出場選手22名,ハーフマラソン出場選手24名,男性44名,女性2名,クラス2;7名,クラス3;39名)の結果を検討した.調査項目は,心拍数,血圧,主観的疲労度,コルチゾール,免疫グロブリンA(IgA),競技順位とした.心拍数と血圧は競技前日に測定した.競技前日,競技開始直前,競技終了直後,競技翌日に主観的疲労度をvisual analog scaleで測定し,同時に採取した唾液からコルチゾール,IgAを測定した.調査実施に際しては十分な説明を行い,文書による同意を得て行った.<BR>【結果】測定期間中にコルチゾール,IgAともに正常範囲から逸脱した選手はいなかった.選手の競技前日の心拍数と競技順位,コルチゾールには有意な相関関係が認められた(p<0.05).競技前日を基準として競技直前,競技直後,競技翌日の変化率を求めたところ,主観的疲労度は45.6%,214.1%,58.7%,コルチゾールは73.5%,91.0%,30.0%,IgAは2.0%,5.0%,10.0%に変化していた.競技前日の主観的疲労度,血圧,IgAと競技順位には関係を認めなかった. <BR>【考察】選手の主観的疲労度は競技終了直後にピークを示し,競技翌日にも競技前日の値に戻っていなかった.選手は競技翌日にも中等度の疲労を感じていた.一方,ストレスホルモンであるコルチゾールは競技翌日に競技前日の値に戻っていた.選手の主観的疲労度と客観的なストレス指標には乖離があることが分かった.競技前日のコルチゾールが競技前日の心拍数と有意に相関し,競技順位と有意に相関したことは,トレーニングにより一回拍出量が増加し安静時心拍数が低下している選手,競技開始前に落ち着きを保っている選手は競技成績が優れているという結果を示すものである.IgAの値は競技翌日にピークを示した.選手の主観的疲労度とは異なり車いすマラソンにより高まった選手の免疫機能は運動後にさらに向上していた.選手にとって車いすマラソンは免疫機能を高める適度な運動強度である事が示唆された.さらに詳細な調査を続けることで選手の安全管理と競技力向上へ有益な情報が提供できる可能性がある.
著者
波多野 元貴 鈴木 重行 松尾 真吾 片浦 聡司 岩田 全広 坂野 裕洋 浅井 友嗣
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2012 (ISSN:24329509)
巻号頁・発行日
pp.430-435, 2012-11-14 (Released:2017-06-19)

The purpose of this study was to clarify the time course of the stiffness of the hamstrings, range of motion (ROM), stretch tolerance, and isometric peak torque (IPT) of knee flexor after a 5-min static stretching for hamstrings. In 24 participants, static passive torque, representing resistance to stretch, was also measured using an iso-kinetic dynamometer and decreased after stretching on all of experiments. On three different days, dynamic passive torque (DPT) and IPT were measured before and 10, 20 or 30 min after stretching. As a result, ROM and maximal DPT were significantly increased and also IPT was significantly decreased at 10, 20 and 30 min (P< 0.05, respectively) after stretching. Although the stiffness was significantly decreased at 10 and 20 min after stretching (P< 0.05, respectively), this effect recovered within 30 min. These results showed that the retention time of the effect of stretching on stiffness was shorter than the retention time on ROM, stretch tolerance, and IPT.
著者
坂野 裕洋 朝倉 淳弥
出版者
人工炭酸泉研究会
雑誌
人工炭酸泉研究会雑誌 (ISSN:13442279)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.73, 2019 (Released:2019-07-19)

【緒言】炭酸泉浴は、古くから鎮痛を目的に行われている慣習的な水治療法のひとつであり、含有成分である二酸炭素(CO2)が皮膚を透過し、末梢組織に特異的作用を引き起こすことが知られている。しかしながら、炭酸泉浴の疼痛抑制効果については科学的根拠が乏しく、炭酸泉に含まれるCO2 濃度の違いが治療効果に与える影響についても不明である。そこで本研究では、人工炭酸泉浴の疼痛抑制効果にCO2 濃度の違いが及ぼす影響について、侵害刺激に伴う中枢性感作を指標に比較検討した。
著者
越智 亮 坂野 裕洋 金井 章 森岡 周
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.427-432, 2006 (Released:2007-01-11)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

立位で頚部に振動刺激を与えると,頚部固有受容器からの感覚変化が生じることで頭部位置の混乱を引き起こし,自己中心参照枠が変更され,姿勢変化が生じるとされている。本研究の目的は,健常者を対象に頚部振動刺激の介入を行い,その残存効果によって起立動作の身体重心変位が生じるかどうか,被験者の内省報告と三次元動作解析装置,および床反力計を用いて検証することである。計測は,座位で頚部後方へ振動刺激を1分間与え,被験者に頚部前屈の運動錯覚を生じさせた後,起立動作とそれに伴う重心変位を記録した。その結果,起立動作における重心位置の前方変位が生じ,さらに6分後までその重心前方変位が確認された。振動刺激によって誘発される,頚部固有受容器からの継続された感覚変化が起立動作後の重心位置に影響を及ぼすと結論した。
著者
山田 和政 山田 恵 塩中 雅博 坂野 裕洋 梶原 史恵 松田 輝 植松 光俊
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.103-106, 2005 (Released:2005-07-27)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,閉眼および開眼片足立ち測定,Multi-Directional Reach Testの3評価結果における転倒群と非転倒群の比較,転倒回数との関連性および3評価結果間の相関について調べ,高齢者の転倒要因とされるバランス能力をどのような視点から捉えるべきか検討した。結果,いずれの評価結果においても転倒群が有意に少ない値を示し,また,転倒回数が多い者ほど値が少なかった。転倒群では,各評価結果間すべてにおいて有意な相関が認められた。以上より,転倒要因として圧中心保持能力と圧中心偏移能力の両方の視点からバランス能力を捉える必要のあることが示唆された。