著者
山森 邦夫 松居 隆 河原 栄二郎 天野 勝文
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

タイ国ではカブトガニ類の卵巣を食べる習慣があり、これに伴う食中毒死事件がたまに起こる。原因毒はフグ毒(TTX)や麻痺性貝毒(PSP)などの麻痺性毒である。カブトガニ類は原始的な節足動物であり、世界には3属4種が現存している。アメリカカブトガニ、カブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニである。タイには後2者が生息しているが、食中毒はもっぱらマルオカブトガニによるものであり、ミナミカブトガニによる中毒例はない。そこで本研究ではマルオカブトガニの毒化機構を明らかにする研究の一部として、カブトガニ類のTTXおよびサキシトキシン(STX)に対する抵抗性を調べ、比較検討した。TTX投与時の最小致死量は、ミナミカブトガニ成体では60〜150MU/20g 体重、アメリカカブトガニ幼体では50〜100MU/20g体重のかなり高い抵抗性を示したが、マルオカブトガニ成体では約900MU/20g体重、幼体では3600MU/20g体重以上となり、前2者を大きく上回った。一方、STXに対する抵抗性はマルオカブトガニ幼体およびアメリカカブトガニ幼体のいずれにおいても100〜200MU/20g体重とかなり高いが、差はなかった。TTX結合タンパク質がクサフグの血漿からDEAEセルロース処理、硫酸アンモニウム分画、Sephad exゲル濾過,Sephacryl S-200とCellulofine A-500によるカラムクロマトグラフィーを経て精製された。TSK G-3000SLカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによる最終精製物は単一のタンパク質ピークを示した。そのタンパク質の分子量はSDS-PAGEおよびmass spectrometryで、それぞれ、116,000および96,000と推定された。精製されたタンパク質のアミノ末端側アミノ酸配列はAla-Pro-Ser-Pro-?-?-?-His-?-Leu-The-Lys-Pro-Val-と推定された。
著者
糟谷 大河 中島 結里乃 河原 栄 保坂 健太郎
出版者
The Mycological Society of Japan
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.15-21, 2023-05-01 (Released:2023-07-22)
参考文献数
23

日本新産種Bryoperdon acuminatum(モリノコダマタケ,新称)を,形態的特徴の記載と図を添えて報告した.子実体が小型,卵形~円錐形で無性基部を欠く点,担子胞子がほぼ平滑~わずかに疣状突起に覆われる点,外皮の刺が球形,類球形,卵形あるいは棍棒形の偽柔組織からなる点が本菌の特徴である.核rDNA塩基配列の分子系統解析により,日本およびヨーロッパ産B. acuminatumの同一性が支持された.
著者
河原 栄治 江本 泰二
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.p188-194, 1977-10

シルフィウムの形態的ならびに生理的特性に対する日長効果について昭和49年から3ヵ年に亘り,秋田県立農業短期大学で調査した。その結果は概ね次のごとく要約できる。1.8月中旬の草丈・葉面積・地上部重・地下部重および根重については,自然日長区と長日区との間に差がなかった。ただ,同時期の播種当年の自然日長下の葉面積ならびに地上部重は長日下の場合よりも高い値を示し,播種後3年目の地下茎重は反対に長日区の方が高かった。一方,秋期の短日下での上記諸形質は長日区の方が自然日長区よりも高い値を示した。2.8月中旬に測定した茎葉数と茎の太さは日長との間に関係がなく,しかし11月中旬の調査では茎葉数は自然日長下の場合よりも長日処理区で多かった。3.播種当年には茎の基部の節間は伸長しなかったが,2年以降の11時間日長の短日処理における個体の節間についても同様であった。上記の場合を除き,節間は2年目以降に伸長することがわかった。そして,基部の節間が伸長するためには少なくとも15・6葉が基本的に必要であると考えられた。4.蕾の形成に対しては自然日長と長日との間における効果の差はなく,11時間の短日長は蕾の形成を強く抑制した。したがって,短日下の開花は極くわずかであり,自然日長下と長日下ではかなり開花し,開花時期も概ね同時期であった。これらの結果から,シルフィウムは量的長日植物であろうと推定した。5.8月中旬調査したT/R比には自然日長ならびに長日処理間に差がなく,短日下で前二者に比し明らかに低い値を示した。そして,苗令が進むにつれてT/R比は低下することを認めた。一方,11月中旬調査のT/R比は長日下の方が自然日長下よりも高い値を示した。なお,8月中旬における播種当年の株の自然日長下のT/R比は長日下よりも高い値を示し,上記の結果とは必ずしも一致しなかった。6.長日処理は種子の生産に有利な効果はなく,他方,短日処理はその生産を極端に抑制することがわかった。
著者
杢保 成一 鈴木 育宏 河原 栄
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.181-187, 2016-03-25 (Released:2016-05-10)
参考文献数
30

ヒト上皮成長因子受容体タイプ2(Human epidermal growth factor receptor Type2; HER2)は乳癌患者の約20–30%で過剰に発現し,HER2過剰発現乳癌は,トラスツズマブ,ラパチニブ,ペルツズマブ,トラスツズマブ エムタンシンなどの抗HER2療法の対象となる。HER2過剰発現の有無は,乳癌の診断・治療において重要であり,病理組織学的にHER2の評価が行われているが,血清HER2濃度の臨床的有用性は明確ではない。我々は組織HER2陰性乳癌患者における血清HER2濃度測定の重要性を検討した。通常診療時に,血清HER2濃度を測定した乳癌患者210名を対象にした。乳癌患者における血清HER2濃度と臨床病期,治療効果の評価を行った。組織HER2陰性乳癌患者における血清HER2濃度と腫瘍径,遠隔転移,CA15-3濃度の評価を行った。血清HER2濃度が低いほど治療効果を認めた。腫瘍径と血清HER2濃度に正の相関性を認めた(r = 0.485, p < 0.001)。遠隔転移症例の血清HER2濃度は非遠隔転移症例の血清HER2濃度よりも高かった(p = 0.007)。血清HER2濃度とCA15-3濃度に正の相関性を認めた(r = 0.933, p < 0.001)。組織HER2陰性乳癌患者においても血清HER2濃度は検出され,診療の補助検査として血清HER2濃度を測定する有用性が示唆された。