著者
清水 嘉子 伊勢 カンナ
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.344-351, 2006-07
被引用文献数
4

本研究は育児している母親の肯定的な情動を「育児幸福感」とし,育児幸福感を感じる際の事情から,育児幸福感と育児事情の実態を明らかにした。3歳以下の子どもを育児している母親にアンケート用紙を配布し,Lazarusの理論による7項目の情動である安心,希望,愛情,喜び,感謝,同情,誇りを育児中に感じる頻度を5段階評価とした。さらに,それぞれの情動を感じる育児事情について自由記述を求めた。調査用紙は188名に配布し101名から回収された。結果として母親が育児中に感じる肯定的情動の中心は,愛情,喜び,感謝であり,安心,誇り,希望と続き,同情は少なかった。育児幸福感を感じる際の事情は14項目に分類できた。育児幸福感を感じる際の事情は,主として「子どもの成長・発達・健康」および「子どものしぐさ」などの子ども中心の構成であり,その他として「周囲の援助・声かけ・つながり」などであった。本研究の結果は,育児支援としては,(1)育児する中で喜びや愛情を感じた時の子どもの様子について語れる場を提供すること,(2)母親が他者と良好な関係であるという認知を促すこと,(3)子どもの成長に関する肯定的なフィードバックにより母親の努力や能力が認められること,(4)母親が育児協力を周囲に求められるように援助すること,(5)カウンセリング技術による母親の肯定的な自己認識を促すといった働きかけの重要性を明らかにした。
著者
清水 嘉子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.530-540, 2002-12-01
参考文献数
23
被引用文献数
4

国籍別上位にある3カ国の在日韓国,中国,ブラジル人の育児問題を明らかにすることを目的として調査した.外国人の多在住4市の保育園に調査用紙を配布し韓国・中国・ブラジル人の母親210人より回収された結果を国別に分析し,日本の母親625人との比較を行った.その結果,在日外国人の育児に関する受け止めの違いが明らかとなった.育児ストレスはブラジルの母親が最も低く,次いで中国,韓国,日本となっていた.育児幸福感は逆の順位となり日本の母親が最も低かった.夫に対する信頼や大切な気持ちは日本の母親が最も低く,育児を取り巻く人に対するストレスが日本の母親に高いことが裏づけられた
著者
清水 嘉子
雑誌
小児保健研究 (ISSN:00374113)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.26-34, 2006-01

父親の育児ストレスを,育児信念との関連で検討することを目的に,乳幼児期の子育てをしている父親を対象に半構成式自由記述によるアンケート調査を実施し,93名(24〜51歳,平均年齢37±5.2歳)より有効回答を得た.その結果,父親の育児ストレスは「子どもの自己本位な特性」(75件),「育児への自信のなさ」(30件)など9要因に分類され,育児信念6項目すべてを肯定する信念傾向をもつ父親は不安を感じる傾向にあり,育児に対して「こうあるべき」と考えるほど不安傾向が高まることが示唆された
著者
清水 嘉子 関水 しのぶ 遠藤 俊子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.261-270, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
13
被引用文献数
7 3

目 的 本研究では,臨床での汎用性を高めるため,清水,関水,遠藤他(2007)が開発した多面的な育児幸福感を捉えるCHS(Child-care Happiness Scale)の短縮版を作成し,その信頼性と妥当性の検討を行った。対象と方法 6歳以下の乳幼児を持つ母親を対象に,CHSの育児の中で感じる幸せな気持ちが生じる様々な場面についての41項目を,5段階で評価を求めた。併せてCHS短縮版の妥当性の確認のため,心理的健康を測定する「主観的幸福感」と「ベック絶望感」の回答も求めた。結 果 有効回答672名であった。短縮版の項目を選定するために,CHSの41項目の回答について因子分析を行い,「育児の喜び」,「子どもとの絆」,「夫への感謝」の3因子からなる13項目を選定した。3つの因子のそれぞれの項目の内的整合性を表すα係数は,0.77~0.86と充分な値が得られた。CHS短縮版と主観的幸福感との間には,有意な正の相関があった。一方,ベック絶望感とは,有意な負の相関があった。また,「育児の喜び」と「子どもの絆」は母親年齢が高くなると低下する傾向が,一方「夫への感謝」は末子年齢が4歳以上よりも1歳以下の母親の方が高く,また1人っ子の母親が最も低くかった。結 論 考察では,CHS短縮版とオリジナルCHSとの違いやその実用性,そして今後の問題ついて議論した。CHS短縮版は心理的健康との関連性が示唆された。CHS短縮版はコンパクトとなったので,個々の母親の育児幸福感の様子を表すプロフィールを母親自身にすぐフィードバックすることができ,母親たちが自分の子育てに対する気持ちを振り返る資料として今後役立てられることが期待できる。
著者
清水 嘉子
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-53, 2007-04

本研究は、母親の心理的育児ストレスおよびその対処について明らかにし、さらに尿中ストレスホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、コルチゾール)との関係について検討した。乳幼児期の育児をしている母親21名から得られた心理的育児ストレス33項目およびその対処に関する回答および採尿をもとに分析を行った。その結果、母親の尿中ストレスホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、コルチゾール)と心理的育児ストレスの関係では、尿中アドレナリンの高い母親と総ストレス値の高い母親、「夫の育児サポート」や「育児に伴う束縛感」のストレスが高い母親に比較的強い相関が認められた。尿中コルチゾールは「夫の育児サポート」のストレスが高い母親に比較的強い相関が認められた。尿中ノルアドレナリンが高い母親とドーパミンが高い母親に強い相関が認められた。(著者抄録)
著者
清水 嘉子 関水 しのぶ 遠藤 俊子 宮澤 美知留 赤羽 洋子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.215-224, 2011

<B>目 的</B><br> 本研究の目的は,子どもが乳幼児期にある母親の育児幸福感を高めるために3か月間に2時間による6回の少人数参加型プログラムを開発し評価した。<br><b>方 法</b><br> 9人から10人を1グループとするプログラムを2回実施した。プログラム参加群(以下プログラム群とする)19人に対し,プログラムの初回参加前と最終回参加後および最終回参加後1か月に心理学的指標(心理尺度)による育児ストレスや育児幸福感,自尊感情と生理学的指標(自律神経活動,脳波,唾液CgA)によるリラックスやストレスの評価をした。さらに,プログラムに参加しない対照群16人を設定し,同様の評価を実施した。プログラムの内容は,自分について話し仲間作りをする,子どもへの思いを振り返る,育児の幸せな瞬間を大切にする,互いの頑張りを認める,自分を認め自信を持つ,人生設計を考える,自分の悩みについて聞いてもらうなどであり,毎回腹式深呼吸と,笑顔作りのストレッチを取り入れた。心理的指標と生理的指標についてはそれぞれ,群と時点の効果を検討するために二要因分散分析が行われた。<br><b>結 果</b><br> 本プログラムの心理学的指標には育児ストレスにおける心理的疲労の群主効果を除き有意な差はみられなかった。心拍数の群主効果,自律神経活動におけるHFの時点主効果,脳波における,α1とα3に交互作用が有意であった。<br><b>結 論</b><br> 今後は,より効果的なコースプログラムの検討が課題となる。とくに毎回のプログラム終了後に子どもを交えた雑談の時間や個別相談の時間を確保すること,プログラム終了後の継続的な支援の必要性が課題として残された。
著者
塩澤 綾乃 清水 嘉子
出版者
Japan Academy of Midwifery
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.271-283, 2010

<B>目 的</B><br> マダガスカル共和国における伝統的産婆(Traditional Birth Attendants,以下TBAとする)の世話に対する認識,世話を受ける女性の受け止めを明らかにする。<br><B>対象と方法</B><br> マダガスカル共和国アンチラベ市郊外のA村に研究者が2ヶ月間滞在し,現在活動しているTBA4名,TBAより現在または過去に世話を受けている女性11名に対し,TBAの世話の内容と世話に対する考え,世話を受ける女性の受け止めに関する半構成的面接を行った。さらに,1名のTBAに同行し世話の場面の参加観察を行った。得られたデータは質的に分析を行い,分類し検討した。<br><B>結 果</B><br> TBAは妊娠中の世話,分娩時の世話,産後の世話を行っていた。世話に対するTBAの考えでは,子どもの位置を確認,お産を早く進める,褥婦が寒さを感じることが大切などがあった。TBAより世話を受けた女性の受け止めでは,疲れが取れる,お産についてよく知っていて頼りになった,分娩時に力を貸してくれるなどであったが,一方でTBAは何もしないと受け止めていた。TBAの世話に対する考えと女性の受け止めでは,語られた内容の半数に認識の差異があった。認識の差異には母親が分娩中の世話を記憶していないこと,TBAの指導は経験や言い伝えを基にしており,具体性に欠け内容が薄いことなどが影響していると考えられた。<br><B>結 論</B> TBAのドゥーラとしての役割は女性に評価されており世話の必要性は高い。その役割を継続することに加え,世話の課題として,女性のニーズに対応した世話ができるよう知識を補う必要があると考えられた。そのためには,地域の助産師が専門職者としてのプライドという垣根を越えて,TBAの世話や考え方を理解した上で,研修を開催するなどの具体的な行動が期待される。
著者
清水 嘉子 関水 しのぶ 遠藤 俊子 落合 富美江
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.367-375, 2010-07

本研究では,母親や末子の年齢,子どもの数といった属性が,母親の肯定的情動としての育児幸福感に影響があるかどうか,母親の就労状況別(フルタイム群,パートタイム群,家事従事群)に比較し検討する。参加者は,764名の0〜6歳の子どもをもつ母親である(フルタイム219名,パートタイム234名,専業主婦311名)。育児幸福感の測定には清水らが開発したChildcare Happiness Scale(以後CHSとする)用いた。母親年齢,子ども数,末子年齢を独立変数,8つの育児幸福感の下位尺度得点を従属変数としたモデルを,パス解析で多母集団同時比較を行い検討した。その結果,すべての群において子ども数は,CHSの8つの下位尺度得点に全く影響を与えなかったが,しかし末子年齢は,フルタイム群において「親としての成長」の得点に正の影響,そして専業主婦では負の影響があり,一方パートタイム群では影響がなかった。フルタイム群において,母親年齢は「子どもの成長」尺度得点に正の影響を与えたが,他の群においては影響がみられなかった。この結果より,フルタイムで働く母親にとって,母親や末子の年齢が増すことは「親としての成長」や「子どもの成長」の育児幸福感を高めることが示唆された。さらに,就労形態の異なる母親に対する育児教室における支援について検討した。