著者
熊谷 修 渡辺 修一郎 柴田 博 天野 秀紀 藤原 佳典 新開 省二 吉田 英世 鈴木 隆雄 湯川 晴美 安村 誠司 芳賀 博
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1117-1124, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
23
被引用文献数
35

目的 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能の自立度低下の関連を分析する。対象と方法 対象は,秋田県南外村に在住する65歳以上の地域高齢者である。ベーライン調査は1992年,追跡調査は1997年に行われた。ベースライン調査には748人が参加し,追跡時に生存し調査に参加した男性235人,女性373人,計608人(平均年齢:71.5歳)を分析対象とした。調査方法は面接聞き取り調査法を採用した。高次生活機能の自立度は,老研式活動能力指標により測定した。食品摂取の多様性は,肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,海草類,果物,芋類,および油脂類の10食品群を選び,1 週間の食品摂取頻度で把握した。各食品群について「ほぼ毎日食べる」に 1 点,「2日 1 回食べる」,「週に 1, 2 回食べる」,および「ほとんど食べない」の摂取頻度は 0 点とし,合計点数を求め食品摂取の多様性得点とした。解析は,1 点以上の老研式活動能力指標得点の低下の有無を従属変数(低下あり 1,なし 0),食品摂取の多様性得点を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析によった。結果 分析対象のベースライン時の食品摂取の多様性得点の平均値は男性,6.5,女性6.7点であった。老研式活動能力指標総合点の平均点は11.4点であった。食品摂取の多様性得点の高い群で老研式活動能力指標の得点低下の危険度が低いことが認められた。老研式活動能力指標の得点低下の相対危険度[95%信頼区間]は,食品摂取の多様性得点が 3 点以下の群(10パーセンタイル(P)以下)を基準としたとき,4~8 点の群(10P 超90P 未満)および 9 点以上の群(90P 以上)では,手段的自立においては,それぞれ0.72[0.50-1.67], 0.61[0.34-1.48],知的能動性においては,それぞれ0.50[0.29-0.86], 0.40[0.20-0.77],社会的役割においては,それぞれ0.44[0.26-0.0.75], 0.43[0.20-0.82]であった。この関係は,性,年齢,学歴,およびベースラインの各下位尺度得点の影響を調整した後のものである。結論 多様な食品を摂取することが地域在宅高齢者の高次生活機能の自立性の低下を予防することが示唆された。
著者
鈴木 隆雄 岩佐 一 吉田 英世 金 憲経 新名 正弥 胡 秀英 新開 省二 熊谷 修 藤原 佳典 吉田 祐子 古名 丈人 杉浦 美穂 西澤 哲 渡辺 修一郎 湯川 晴美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-48, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
4

目的 70歳以上の地域在宅高齢者を対象として,容易に要介護状態をもたらすとされる老年症候群,特に転倒(骨折),失禁,低栄養,生活機能低下,ウツ状態,認知機能低下(痴呆)を予防し,要介護予防のための包括的健診(「お達者健診」)を実施した。本研究では,その受診者と非受診者の特性(特に健康度自己評価,生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感,転倒経験,慢性疾患有病率および身体機能としての握力における差異)を明らかにすることを目的とした。方法 調査対象者は東京都板橋区内在宅の70歳以上の高齢者863人である。「お達者健診」には,このうち438人(50.8%)が受診した。健診内容は老年症候群のさまざまな項目についてハイリスク者のスクリーニングが主体となっている。本研究では前年に実施された事前調査データを基に,「お達者健診」の受診者と非受診者の性および年齢分布の他,健康度自己評価,老研式活動能力指標による生活機能,GHQ ウツ尺度,PGC モーラルスケールによる主観的幸福感,転倒の既往,慢性疾患有病率,および身体能力としての握力などについて比較した。成績 1) 健診受診者における性別の受診者割合は男性49.0%,女性51.0%で有意差はなかった。受診者と非受診者の平均年齢は各々75.3歳と76.4歳であり有意差が認められ,年齢分布からみても非受診者に高齢化が認められた。 2) 健康度自己評価について受診群と非受診群に有意な差が認められ,非受診群で自己健康度の悪化している者の割合が高かった。 3) 身体機能(握力)についてみると非受診者と受診者で有意差はなかった。 4) 生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感についての各々の得点で両群の比較を行ったが,いずれの項目についても非受診者では有意に生活機能の低下,ウツ傾向の増加そして主観的幸福感の低下が認められた。 5) 過去 1 年間での転倒経験者の割合には有意差は認められなかった。 6) 有病率の比較的高い 2 種類の慢性疾患(高血圧症および糖尿病)についてはいずれも受診者と非受診者の間に有病率の差は認められなかった。結論 今後進行する高齢社会において,地域で自立した生活を営む高齢者に対する要介護予防のための包括的健診はきわめて重要と考えられるが,その受診者の健康度は比較的高い。一方非受診者はより高齢であり,すでに要介護状態へのハイリスクグループである可能性が高く,いわば self-selection bias が存在すると推定された。しかし,非受診の大きな要因は実際の身体機能の老化や,老年症候群(転倒)の経験,あるいは慢性疾患の存在などではなく,むしろ健康度自己評価や主観的幸福感などの主観的なそして精神的な虚弱化の影響が大きいと推測された。受診者については今後も包括的な健診を中心とした要介護予防の対策が当然必要であるが,非受診者に対しては訪問看護などによる精神的な支援も含め要介護予防に対するよりきめ細かい対応が必要と考えられた。
著者
鈴木 隆雄 杉浦 美穂 古名 丈人 西澤 哲 吉田 英世 石崎 達郎 金 憲経 湯川 晴美 柴田 博
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.472-478, 1999-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
27
被引用文献数
54 44

比較的健康な地域在宅高齢者527名を対象として, 面接聞き取り調査, 身体属性の測定, 腰椎骨密度および歩行能力などの運動能力を1992年の初回調査時に測定し, その後5年間追跡調査を行ない, その間での2回以上の複数回転倒者について, その関連要因の分析を行なった.その結果, 2回以上の複数回転倒者では非転倒者あるいは1回だけの転倒者に比較して初回調査時において, 自由歩行速度, 最大歩行速度, 握力などの運動能力や, 皮下脂肪厚, および老研式活動能力指標総得点などで有意な差が認められた. さらに, 5年間での追跡期間中の複数回転倒の有 (1), 無 (0) を目的変数とする多重ロジスティック回帰モデルによる分析を行なった結果,「過去1年間の転倒経験」が最も強い正の, そして自由歩行速度および皮下厚が負の有な関連として抽出された.このような地域高齢者を対象とする縦断的追跡研究の結果から, 転倒や転倒に基因する多くの骨折に対して,「過去の転倒経験」を問診で詳細に聞き取ることや, 簡便な「自由歩行速度」を測定することにより, 転倒ハイリスク者をスクリーニングすることが可能であり, ひいては転倒・骨折予防に極めて有効な指標となることが考えられた.
著者
湯川 晴美
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.100-103, 2005 (Released:2006-08-04)
参考文献数
6
被引用文献数
2 1 4

We conducted an 8-year longitudinal study to investigate aging-related changes in food and nutrient intake in a cohort of elderly subjects living in an urban community, and attempted to relate food intake with vital prognosis. The first (baseline) nutrition survey was conducted in 1991 on 161 subjects (72 males and 89 females; aged 65 to 79) living in Koganei City. The second nutrition survey was conducted 8 years later in 1999. Excluding death or illness, 98 subjects (86%) were available for follow-up. Nutrition survey was conducted by a three-day dietary record method with daily home visits by dieticians. Aging-related changes in physical attributes, food intake, nutrient intake, and intake adequacy were analyzed. The relationship between nutritional intake and mortality was analyzed by Cox proportional hazard model. In the present cohort, although nutrient and food intake changes with aging, nutrient intake was higher than the recommended dietary allowances. These results show that a “diet for healthy longevity” is achieved by continuing to maintain the recommended dietary allowances despite age advancement.