- 著者
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川副 巧成
山内 淳
松尾 亜弓
松本 真一郎
古名 丈人
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2006, pp.E1081, 2007
【目的】効果的な認知症予防を行う為には,認知機能低下の兆候を早期に発見することが重要である.認知機能の低下は,感覚入力から情報統合を経た意識的出力(以下,パフォーマンス)に大きな影響をおよぼすと想定でき,早期発見の為には,パフォーマンスに対する現場の気づきが重要である.そこで本研究では,マシンを使用した運動器の機能向上プログラムに参加する高齢者を対象に,定期的に認知機能及び運動器機能に関する評価を行い,認知機能の状態とパフォーマンスの関係から,認知機能低下を示す兆候について検討した.<BR>【方法】リエゾン長崎およびデイサービスくぬぎ(橡)の利用者で,同デイサービスのマシンを使用した筋力向上トレーニングに週1回以上の頻度で参加している要支援・要介護高齢者83名を対象とした.平成18年4月から10月まで,3ヶ月毎に3回の評価を実施した.評価内容は,属性,および認知機能の指標としてMini- Mental State (以下,MMS)とFrontal Assessment Battery (以下,FAB),運動器機能の指標はバランス,巧緻性,粗大筋力,歩行能力とした.その後,対象者の6ヶ月間の認知機能評価の経過から,6ヶ月後の得点が維持・向上された群と,初期評価の値より低位にある群の二群に分割し,認知機評価の得点の経時的変化について検討を行った.さらに,認知機能評価の結果で分類した二群について,各運動器評価項目の経時的変化の差を検討した.<BR>【結果】83名の対象の内,上記の運動器評価が適切に行え,平成18年10月までに3回の評価を終えた方は46名.男性23名,女性23名,介護度は要支援1から要介護3までで,平均年齢は77.4±7.1歳であった.また,MMS得点の経過で6ヶ月後の得点が維持・向上した方は39名(以下,維持・向上群),初期評価の値より低位にあった方が7名(以下,低位群)であった.維持・向上群の平均得点の推移は24.8±3.1点→25.7±2.9点→27.2±2.1点,低位群は23.1±3.8点→21.5±3.6点→20.8±4.2点で,二群ともに3ヶ月後,6ヶ月後のMMS得点に有意差を認めた.さらに,3ヶ月後,6ヶ月後のMMS得点の結果から二群間にも有意差を認めた.次に,運動器評価の各項目を二群間で比較したところ,リーチテストで維持・向上群が16.7±7.5cm→18.8±7.6cm→23.2±7.7cm,低位群が12.3±5.0cm→10.3±6.3cm→15.1±5.5cm,6m歩行の歩数で維持・向上群が14.1±3.3歩→12.7±2.5歩→13.6±3.3歩,低位群が18.0±7.2歩→18.0±6.6歩→17.4±5.5歩と,この二項目において二群間に有意差を認めた.<BR>【考察】今回の結果は,認知機能低下の「兆し」が,バランス機能や歩数で表出される可能性を示唆した.本研究の低位群においては,運動介入後,運動器機能の向上が認められつつも,実際のパフォーマンスの安定に結びつかない状況にあり,認知機能の低下が要因となり,感覚入力から情報統合を経た意識的出力に不具合を来していると推察された.<BR>