著者
溝口 聡 So Mizoguchi
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.163-180, 2020-09

本稿はレーガン政権のAIDS政策の問題点を内政と外交の二つの視点から明らかにするものである。同政権のAIDS対策への評価は、概して保守とリベラルという国内政治の文脈から論じられてきた。大統領には、政権の支持基盤である保守派への政治的な配慮からCDCやNIHが推奨する性教育や大規模な予算を組んだ対策に対し、消極的な姿勢を続け、国内のAIDS被害を拡大させたとの厳しい評価が下されてきた。本稿はこうした国内での政権の対応の悪さが、過剰な移民規制やアメリカの国際的信用を貶めるため、AIDSを利用したソ連のプロパガンダの信憑性を高めるという悪循環を生んだことを明らかにした。すなわち、レーガンの消極的な対応は、同性愛者やアフリカ系アメリカ人コミュニティ内のAIDSによる社会的偏見に最も苦しめられた人々の中で、AIDSはアメリカ政府が製造した細菌兵器であるとの偽情報を受け入れる隙を作ったのである。
著者
松浦 正孝 保城 広至 空井 護 白鳥 潤一郎 中北 浩爾 浅井 良夫 石川 健治 砂原 庸介 満薗 勇 孫 斉庸 溝口 聡 加藤 聖文 河崎 信樹 小島 庸平 軽部 謙介 小野澤 透 小堀 聡
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

「戦後体制」の何が戦前・戦時と異なり、どのような新たな体制を築いたのか。それはその後どのような変遷をたどり、どこでどう変わって現在に至ったのか。本研究は、その解明のために異分野(政治史、外交史、政治学、憲法学、経済史)の若手・中堅の最先端研究者を集めた多分野横断による問題発見型プロジェクトである。初めの2年度は、各メンバーの業績と学問背景をより深く理解し「戦後」についての問題を洗い出すため、毎回2名ずつの主要業績をテキストとする書評会と、その2名が それぞれ自分野における「戦後」をめぐる 時期区分論と構造について報告する研究会を、年4回開くこととした。しかるにコロナ禍の拡大により、第2年度目最後の2019年3月、京都の会議施設を何度も予約しながら対面式研究会のキャンセルを余儀なくされた。しかし20年度に入ると研究会をオンラインで再開することとし、以後、オンライン研究会を中心に共同研究を進めた。コロナ禍による遅れを取り戻すべく、20年7月・8月・9月と毎月研究会を行い、与党連立政権、貿易・為替システム、消費者金融などのテーマについてメンバーの業績を中心に討議を行った。オリジナル・メンバーの間での相互理解と共通認識が深まったため、12月にはゲスト3名をお招きして、戦犯・遺骨収集・旧軍人特権の戦後処理問題を扱うと共に、メンバーによる復員研究の書評会を行った。「家族」という重要テーマの第一人者である倉敷伸子氏にも、新たにプロジェクトに加わって頂いた。この間、メンバーの数名を中心に今後の研究方針案を調整した上で、21年3月には3日間にわたり「編集全体会議」を開催した。後半2年間に行うべき成果のとりまとめ方針を話し合うと共に、憲法・経済史・労働史・現代史の新メンバー加入を決め、各メンバーが取り組むテーマを報告し議論した。また、各メンバーは各自で本プロジェクトの成果を発表した。
著者
溝口 聡 So Mizoguchi
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.114, pp.177-194, 2021-09

本稿は、アジア系初の下院議員となったダリップ・シン・サウンドの前半生に焦点をあてながら、アメリカにおけるインド移民史の第一期にあたる20世紀前半までのインド系アメリカ人の歴史を考察するものである。先行研究では、アメリカにおけるアジア系政治家の先駆者であるサウンドについて、モデル・マイノリティ論や米ソ冷戦下の人種政治との関係性の中で評価される傾向が強かった。対する本稿は、20世紀前半のアメリカのインド系コミュニティにとって、最重要課題であるインド独立と市民権獲得という二つの政治問題を軸にサウンドの前半生を論じ、サウンドも制定にも携わったルース=セラー法を、移民排斥の余波を受け危機に瀕していたインド系コミュニティの存続と戦後のアメリカ社会で活躍するインド系の人材輩出という側面で大きな役割を果たしたインド系アメリカ人の歴史のメルクマールとして、再評価を行った。