- 著者
-
溝呂木 忠
吉池 将弘
- 出版者
- 昭和大学学士会
- 雑誌
- 昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.6, pp.618-628, 1999-12-28 (Released:2010-09-09)
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
-
2
日常生活の活動度の低下が換気機能に及ぼす影響について研究した.対象は呼吸器疾患を持たない65~99歳 (平均77.7±8.2歳) の自宅で生活する者, 施設入所者など計163名で, そのうち85名については生活時間構造の分析も行った.活動度は厚生省日常生活自立度判定基準をもとにして作成し, N (正常) , J1 (電車・バスで外出) , J2 (隣近所へ外出) , A1 (屋外は要介助) , A2 (屋内も要介助) , B (長時間ベッド上で過ごす) の6段階とした.検査項目は%肺活量 (%VC) , 一秒率, ピークフロー (PEFR) , V25/Ht, 最大呼気圧 (MEP) , 最大吸気圧 (MIP) , 胸郭の可動域, ADL及び生活時間構造であった.%VC, PEFR, MEP, MIP, 胸郭の可動域は活動度の低下に伴って有意に減少した.とくに深呼吸時の胸部の可動域はNとJ1で既に有意差があり, 下胸部の可動域ではJ1とA1, J2とA2の間でも有意に低下した.%VCもNとJ2との間で有意に減少し, その後も低下し続けてJ1とA1, J2とA2, A1とA2との間で有意差があった.また拘束性換気障害 (%VC<80%) の者の割合は活動度の低下とともに増加し, N, J1で0%だったものが, J2で42%, A1で61%, A2で96%, Bで91%であった.呼吸器疾患や呼吸器症状がない者を対象にしていることから, これら変化は廃用によるものと考えられた.一秒率とV25/Htは活動度の違いによる有意差はなかった.閉塞性換気障害 (一秒率<70%) の者の割合が活動の低下により増加あるいは減少することもなかった.%VCへの影響が大きかったのは活動度の他に, 下胸部の可動域, MIP, 趣味・家事時間, 縦になっている時間であった.反対に%VCへの影響が少なかったものは, 年齢, 一秒率, MEP, 起床・就寝時間であった.これらの事実から, 呼吸器疾患がなく日常生活が自立していても活動度が低下すると極めて早期から拘束性換気障害が進行すること, そのための呼吸理学療法と生活の活性化が必要であることが明らかになった.