著者
丸岡 弘治
出版者
一般社団法人 日本薬局学会
雑誌
薬局薬学 (ISSN:18843077)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.115-121, 2021 (Released:2021-10-22)
参考文献数
23

介護老人保健施設(以下,老健)は,医療とケアを受けられるバランスの取れた形態の施設であり,外国では見られない日本が誇るシステムの高齢者施設である.老健は介護保険の様々な制限の中で医療とケアを実施しなければならないため,もともとは処方見直しを行い,薬剤適正化に取り組む傾向にある場所である.さらに,令和 3 年度の介護報酬改定により老健における薬剤適正化が促進され,老健薬剤師の介入について明記され,注目されている施設である.薬局薬剤師は,施設外部からは調剤と配薬セットの委託を受けていることが多いが,その業務だけにとどまらず,老健の特性や性質を理解しながらであれば,薬剤適正化への介入や在宅から施設を行き来する入所者の薬剤情報・処方経緯を管理する役割も十分に担うことができると考える.
著者
井上 和久 原 和彦 須永 康代 荒木 智子 西原 賢 菊本 東陽 丸岡 弘 伊藤 俊一 星 文彦 藤縄 理 髙柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E4P3192, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】現在、平衡機能低下に対するバランストレーニングとして様々な方法が取り入れられ臨床現場で実施されている。ただ、トレーニングを実施するのであれば、より効果的に楽しみながら実施出来ればそれに超した事はない。昨今、Wiiを使用したトレーニングソフトが話題として取り上げられている。昨年の第44回本学術大会においても、Wiiに関する発表が2題報告された。また、ロンドン・スコットランド・オーストラリアなどの海外においても健康増進・平衡機能向上・健康なライフスタイル等についてWiiおよびWii Fitを使用したトレーニングの効果について現在検証されている。本研究は、2006年に任天堂(株)から発売された家庭用ビデオゲーム機WiiのソフトであるWii Fit(2007年発売)を使用したバランストレーニングの効果を検証した。【方法】対象は、骨・関節系の既往歴のない若年健常成人10名とした。使用機器は、重心動揺計(グラビコーダGS5500、アニマ社製)とWii・Wii Fit・バランスWiiボード(任天堂製)を使用した。Wii Fitソフトの映写機器としてプロジェクターを使用しスクリーンに映写して実施した。測定方法として、最初に1))静的重心動揺計にて重心動揺(開眼閉足30秒:総軌跡長・単位面積軌跡長)を測定、2)バランスWiiボードでWii Fitのバランストレーニング(9種類:ヘディング・バランススキー・スキージャンプ・コロコロ玉入れ・綱渡り・バランスMii・ペンギンシーソー・バランススノボー・座禅)を20分間実施、3)トレーニング直後に再度静的重心動揺計にて重心動揺を測定。バランストレーニングは、1週間のうち被験者の任意の3日間(1日1回20分間)をバランストレーニングとしてWii Fitで実施させ、それを4週間継続的に実施した(計12日間:240分)。バランストレーニングの種類は、最初はヘディング・バランススキー・スキージャンプ・コロコロ玉入れの4種類を必ず実施させ、その後は被験者の好みによりランダムに実施した。なお、9種類のうち5種類のバランストレーニングについては、トレーニングの実施経過時間により順次増えていく内容となっている(10分実施後:綱渡り、60分実施後:バランスMii、90分実施後:ペンギンシーソー、120分実施後:バランススノボー、180分実施後:座禅の順にトレーニング項目が追加されていく)。また、バランストレーニングの前に必ずバランスWiiボードで重心を測定し、被験者の重心位置を確認させた上でトレーニングを実施した。バランストレーニング前後の統計処理は、PASW Statistics Ver.18.0を使用し、ウィルコクスンの符号付順位検定を行い、有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に則り被験者に研究の目的や手順を説明して署名による同意を得た。【結果】総軌跡長においては、バランストレーニング前後で何ら有意な差は認められなかった。単位面積軌跡長においては、バランストレーニング開始前と開始1・2・3週間後とにおいて有意な差が認められた(p<.05)が、バランストレーニング開始前と開始4週間後とにおいては有意な差は認められなかった。【考察】今回の研究結果からWii Fitのバランストレーニング効果は、静的な立位重心動揺に明らかな効果が認めらない事が示唆された。しかし、固有受容性姿勢制御度の指標である単位面積軌跡長の結果においては、バランストレーニング開始前に比べ開始1・2・3週間後に有意な増加傾向が認められた。Wii Fitのバランストレーニングの種類として主にバランスWiiボード上で前後左右の重心移動によりゲーム感覚で得点を競う特性があるため、総軌跡長というパラメータの特性には変化が認められず、重心を細かく制御する単位面積軌跡長というパラメータの特性に変化が認められたと考えられる。なお、Wii Fitのバランストレーニングとして9種類用意されているが、それぞれトレーニングの方法が違うため今後各被験者が実施したバランストレーニングの種類についても因子分析を行う必要性がある。【理学療法学研究としての意義】今回のバランストレーニングは週3日4週間継続という短い期間での実施だったが、今後はより継続的に実施した場合の効果についても検証し、より効果のあるトレーニングかどうか明確になれば臨床現場でのバランストレーニング以外に、家庭でも容易にバランストレーニングを実施する事が提案でき、継続的なバランストレーニングの効果を期待できる可能性があると考えられた。さらに、国民の健康増進や平衡機能向上にもつながる事が期待される。
著者
木戸 聡史 田中 敏明 中島 康博 宮坂 智哉 鈴木 陽介 須永 康代 丸岡 弘 髙柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DcOF1084, 2011

【目的】<BR> 呼吸筋に負荷をかけるトレーニング方法はスポーツやリハビリテーションの場面で多く実施されている。しかし呼吸筋のトレーニングが運動耐容能を改善する効果について一致した見解はない。このため, 本研究では運動耐容能の改善を目的として, 持久力運動に呼吸負荷を組み合わせた新たなトレーニング方法を開発し, その効果を運動生理学的に検証した。<BR>【方法】<BR> 本研究のトレーニングで, 呼吸負荷にはReBNA(パテントワークス社製)を使用した。ReBNAはマスク形状で鼻は吸気のみ, 口は呼気のみ可能にバルブが配置され, バルブを通して換気することで呼吸抵抗が生じる。トレーニングは1クール2週間とし, 3クールで合計6週間の期間で, 各クールで各被験者に目標心拍数を設定した(1クール:75%心拍予備(HRR), 2クール:80%HRR, 3クール:85%HRR)。対象者はマスクを装着した状態で目標心拍数を維持する負荷量で30分間の自転車エルゴメータ運動を1週間に3回実施し, これをMASK群とした。CONT群はReBNAを装着しない状態でMASK群と同様のトレーニングを実施した。すべての実験に参加した対象者9名はCONT群4名(男/女:1/3, 21.0±2.1歳)とMASK群5名(男/女:2/3, 20.0±1.1歳)であり, トレーニング毎に終了直前の負荷量を記録した。3クールでは呼吸困難と下肢の疲労感をアンケートで調査した。対象者は6週間のトレーニング期間の前(BL)とトレーニング終了後(6W)で身体測定と運動負荷試験を実施した。自転車エルゴメータ(COMBI社製232C xL)を用いた運動負荷試験は、酸素摂取量の増加がみられなくなるか, 疲労困憊で運動継続が不可能に達するまでランプ負荷を加えた。また, ACSMのガイドラインに従い中止基準を設けた。呼吸代謝諸量の測定には日本光電製のVmaxを用いた。各群内のBLと6Wの比較はPaired t-test, BLおよび6Wの群間比較はStudent t-testを使用した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対して, ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は, 所属施設の倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】<BR> トレーニングの実施率は100%だった。1-3クールでの負荷量平均値はCONT群120.9±3.1 watt, MASK群117.7±3.6 wattだった。3クールでの疲労感アンケートで, CONT群では, 足が呼吸に比べて疲労感が高い被験者が3名, 呼吸と足の疲労度が同程度の被験者が1名だった。MASK群では, 足が呼吸に比べて疲労感が高い被験者が3名,呼吸が足に比べて疲労度が高い被験者が2名だった。運動負荷試験の最高負荷量(watt<SUB>peak</SUB>)はMASK群ではBLで199.0±31.7 watt, 6Wで221.8±30.8 wattであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。V(dot)O<SUB>2peak</SUB>はCONT群ではBLで33.4±2.0 ml/min/kg, 6Wで37.3±2.6 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。MASK群ではBLで35.6±3.0 ml/min/kg, 6Wで42.2±3.1 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.05)。換気性作業閾値(VT)はMASK群ではBLで20.1±1.5 ml/min/kg, 6Wで27.3±1.2 ml/min/kgであり, BLと比較して6Wで有意に高値を示した(p<.01)。6WではCONT群で20.6±1.6 ml/min/kg, MASK群で27.3±1.2 ml/min/kgであり, CONT群と比較してMASK群で有意に高値を示した(p<.05)。<BR>【考察】<BR> watt<SUB>peak</SUB> とVTはMASK群のみ6Wで有意に増大した。Tanakaらの報告(1986)にあるようにVTと心肺持久力の相関は高く, 本結果はマスク使用により最大パフォーマンスだけでなく心肺持久力の向上に効果が大きい事を示した。今回は両群で同一HRRでのトレーニングであるので, 各対象者の負荷量の相対値は同程度である。そのため, マスク装着によって骨格筋への負荷配分が変化した事が, 呼吸筋を含む骨格筋の動員に影響を及ぼし, 心肺持久力の向上に寄与したと考えられる。また, 疲労感アンケートの結果では呼吸が足に比べて疲れたと回答した対象者は, CONT群では0名だったが, MASK群では2名となった。この結果はマスク装着による負荷配分の変化を支持し, MASK群では下肢筋から呼吸筋へ活動量がシフトしたことを示唆した。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回実施したトレーニング方法は, 今後健常者だけでなく, 低体力者や呼吸器疾患患者の運動療法に応用できる可能性がある。本研究結果は, 運動生理学的に新たな知見であることに加えて, 運動療法を発展させるための重要な基礎データである。
著者
小野 正揮 新舎 博 中川 大輔 丸岡 弘晃 堤 彩人
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集C(地圏工学) (ISSN:21856516)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.365-379, 2015

東京都新海面処分場は東京港内の最後の廃棄物処分場であり,できるだけ長く利用することが求められている.そこで,Cブロックにおいて,粘土の減容化施工を実施した.施工は幅150 mm×厚さ3.9 mmのPBDを1.8 m間隔の正方形配置で,平均A.P. +1.5 m~-33.8 mまで水上から打設し,-65 kN/m<sup>2</sup>の負圧を310日間継続して作用させるものである.工事は2005年度の試験施工から始め,本施工は2007年度~2015年度まで実施した.施工面積は38.3万m<sup>2</sup>であり,平均沈下量は5.13 m,総沈下容積は216.7万m<sup>3</sup>である(2015年4月の推定値).この沈下容積は東京都の浚渫土埋立処分計画量の約2.3年分に相当する.本文は地盤工学の観点から,減容化施工とその効果について,総合的にまとめたものである.
著者
丸岡 弘 高柳 清美 伊藤 俊一 森山 英樹 木戸 聡史 井上 和久 藤縄 理 小牧 宏一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3124, 2009

【目的】一般的にストレスマネジメントは、サプリメント摂取や運動などが知られている.しかし、運動などによる酸化ストレス防御系への影響を検討した報告が少ない.そこで今回、実験的疲労動物モデルを用いて運動やサプリメント摂取が酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した.<BR>【方法】実験動物はWistar系雄性ラット19匹(8週齢)を対象とした.ラットを1週間馴化飼育後に実験1、さらに1週間後に実験2を実施した.酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレス度の大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)を安静時(RE)と終了直後(PO)に測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した.実験1(重量負荷強制遊泳試験). 試験は水温23&deg;Cの水を張った黒色円筒容器に、体重の6%のおもりを尾部に装着して2回遊泳(初回遊泳試験後30分間の休息)させた.遊泳は頭部が完全に5秒間水没するまでとして、遊泳時間を計測した.実験2. 対象を10時間以上の絶飲食とした3群(A群7例;行動制限なし、B群6例;行動制限あり、C群6例;絶飲食直前にRoyal Jellyを300mg/Kg強制経口摂取・行動制限なし)に区分し検討した.なお、実験に当たっては埼玉県立大学動物実験委員会の承認を得て実施した.統計学的処理は分散分析と多重比較、相関分析、T検定を用い有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】実験1. d-ROMはREとPOを比較して有意差を認めなかったが、BAPとRB比では平均16~19%の有意な増加を認めた(いずれもp<.01).またRB比と遊泳時間との間には、相関を認めなかった.実験2. d-ROM平均変化率はREとPOを比較してA群;3%>B群;-1%,C群;-12%、BAP平均変化率はB群;18%>A群;8%,C群;8%、RB比平均変化率はB群;35%>C群;-6%,A群;-10%(いずれもp<.01~.001)となった.<BR>【考察】遊泳試験(実験1)では抗酸化力を増加させたことにより、酸化ストレス度に変化を生じなかったことが示された.つまり、遊泳時間に関連せずに潜在的抗酸化能を賦活させたことが考えられた.実験2より行動制限なしは酸化ストレス度の増加と共に潜在的抗酸化能の減少、行動制限ありでは抗酸化力と潜在的抗酸化能の増加が示された.このことから、行動制限の有無は酸素摂取との関連などから酸化ストレス防御系に影響をおよぼすことが考えられた.さらに、Royal Jellyの事前投与は酸化ストレス度の減少に繋がるが、潜在的抗酸化能に影響をおよぼさないことが示された.<BR>【まとめ】今回設定した遊泳試験では潜在的抗酸化能を賦活させた.また行動制限やサプリメント摂取は、酸化ストレス防御系と関連を示した.
著者
西原 賢 久保田 章仁 井上 和久 田口 孝行 丸岡 弘 植松 光俊 藤縄 理 原 和彦 中山 彰一 溝呂木 忠 江原 晧吉 細田 多穂 山口 明 熊井 初穂 二見 俊郎
出版者
埼玉県立大学
雑誌
埼玉県立大学紀要 (ISSN:13458582)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.39-45, 2001

筋線維伝導速度(MFCV)をなるべく多くの筋線維から詳細に調べる目的で、計算機プログラムによる筋電図のパルス検出と平均法を開発した。この報告では、パルス検出の原理について説明をし、実際に健常成人男女2人の左等尺性肘屈曲運動時の上腕二頭筋表面電極筋電図を双極アレイ電極で記録し、アナログデジタル変換後計算機に取り込んだデータからMFCVを算出した。その結果、MFCVは先行研究で報告された範囲内に分布し、神経終板付近や腱付近からのMFCVは筋の中心部からのMFCVより早かった。取込開始から時間の経過と共にMFCVの一定の減少が見られた。算出した平均パルス波形は、雑音による平均波形とは明らかに異なる特徴を持っていた。これらのことから、このパルス検出と平均法は今後臨床で有効に活用できる可能性があることが考えられる。
著者
木戸 聡史 須永 康代 廣瀬 圭子 宮坂 智哉 田中 敏明 清水 孝雄 佐賀 匠史 髙柳 清美 丸岡 弘 鈴木 陽介 荒木 智子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1197, 2010

【目的】本研究目的は、トイレ内の転倒者の検出による迅速な発見と保護を可能とするため、トイレでの転倒状態をより正確に検出するための解析アルゴリズムを構築することである。そのため、我々は静止画熱画像パターンを用いて健常被験者を対象に、正常なトイレ動作と、模擬的に再現したトイレでの転倒姿勢を16パターンのアルゴリズムで判別分析した。各アルゴリズムにおいて求めた判別率を検証し、より有効な転倒検出方法を検討した。<BR>【方法】被験者は歩行及びトイレ動作が自立できる健常成人男性5名とした。身体特性は、身長172.5±5.5cm、座高93.1±2.2cm、胸囲91.2±3.9 cmだった。熱画像センサはTP-L0260EN (株式会社チノー製)を用いた。熱画像センサの特性は解像度0.5 &deg;C、視野角60°、frame time 3 Hz、data point 2256 (47×48)で、地上から2.5mの高さに設置した。被験者が腰掛けるADL(日常生活動作)練習用便座の高さは0.4mとし、便座から0.4m離れた床面5か所に、印をつけた。被験者は模擬的な正常トイレ動作(NA)を1回実施した。NAは、トイレへの入室、便座への着座 、便座からの立ち上がり、トイレからの退室からなる動作とした。その次に、転倒を想定した姿勢変換(FA)を1回実施した。FAは、あらかじめ印をつけた5箇所の位置で、長座位(開脚・閉脚)、仰臥位(開脚・閉脚)となり、便座に対して着座する方向を変更して実施した。それらの動作および姿勢変換を熱画像センサで記録した。記録した熱画像のデータは47×48=2256 pointの温度データで、3Hzの間隔で取得した。被験者1人あたり、NAから20個、FAから60個の熱画像データを任意に抽出した。抽出した熱画像データは、熱画像のエリアを4、9、16、25、36、49、64、81エリアに分割し、分割した各エリアの分割内平均温度(Avg)と分割内最高温度(Max)を求めた。8×2=16個のデータ処理パターンごとに、被験者5名分のNAの100データとFAの300データを用い、判別分析を実施して、正常/転倒の判別率を求めた。統計解析ソフトウェアはSPSS Ver.17.0を用いた。<BR>【説明と同意】対象者に対して、ヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容について口頭および書面で説明し同意を得た後に研究を開始した。なお本実験は、植草学園大学倫理委員会の承認を受けて行った。<BR>【結果】実験時の周囲温度は24.8±0.2&deg;Cで、被験者がいない状態の熱画像パターンの温度は最低23.9&deg;C、最高26.9&deg;C、25.1±0.3&deg;Cだった。NAの100データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.5&deg;C、26.0±1.1&deg;Cだった。FAの300データの温度は最低24.2&deg;C、最高31.8&deg;C、26.0±1.0&deg;Cだった。熱画像パターンから被験者の表情は判別できなかった。4分割でMax(4Max)の判別率は75.0%、4Avgは88.0%、9Maxは90.8%、9Avgは90.5%、16Maxは94.0%、16Avgは94.3%、25Maxは96.8%、25Avgは96.0%、36Maxは96.3%、36Avgは95.5%、49Maxは95.0%、49Avgは96.3%、64Maxは96.8%、64Avgは97.3%、81Maxは96.3%、81Avgは97.8%で最大だった。81Avgでは判別分析で用いた81分割エリアのうち、判別率を導くための判別式の係数となった領域は21箇所だった。判別分析に使用したNA+FAの400データのうち、誤検出した数は、NAをFAと判別したものが1個、FAをNAと判別したものが9個だった。NAをFAと判別したものは判別式に使用しない領域に被験者の最高温度の領域があった。またFAをNAと検出した例は、便座に近接した領域で被験者の最高温度の領域がある場合が多く、便座に着座したパターンとの判別が困難だった。<BR>【考察】本研究は健常者をモデルとして、転倒を検出するためのアルゴリズムを検証した結果、熱画像センサのデータを81分割して各エリア内平均値を判別分析すると、トイレ動作の転倒を97.8%の判別率で検出した。誤検出した2.2%をさらに減らすためには動作や姿勢変換の加速度などの変化を転倒の判定に加えることが有効と考えられた。現状では、誤検出の部分を有人による看視で補助すれば転倒の判定は可能と考えられる。また本実験では、被験者の最高表面温度は約32&deg;Cで熱画像センサの温度分解能は0.5&deg;Cのため、室温31&deg;C以下で使用する条件下であれば、1秒以内に転倒が判別できる、被験者のプライバシーに配慮できる特性が得られた。今後は転倒判別に時系列的な要素を加えてより実用的な転倒判定を目指す。並行して病院や施設のトイレに熱画像センサを設置し、フィールドによる試験を実施する。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では、高齢者・障害者のADL支援に関するニーズを理学療法士として見極め、現場に必要なシステム開発への発想・着眼とシステムの検証を実施した。研究結果は病院および介護老人保健施設に必要な機器開発のための重要な基礎的データである。
著者
井上 和久 原 和彦 丸岡 弘 河原崎 崇雄 菅原 壮平 望月 あおい 中村 岳雪
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.28-33, 2013 (Released:2013-06-30)
参考文献数
12

[目的]昨今,国内国外において家庭用ゲーム機器であるWiiを使用した研究報告がある。筆者らもこれまでWii Fit(毎日の健康管理をサポートするソフト)を使用しバランストレーニングの効果について検討してきた。今回,病院・施設の方にご協力をいただき,患者・利用者を対象としてどのようなトレーニング効果が得られるかについて検証することを目的とした。[方法]今回,バーチャル機器の一つであるWii Fit Plus(Wii Fit同様,毎日の健康管理をサポートするソフトで,トレーニングの種類が増えたソフト)を使用し,患者・利用者を対象に運動効果および運動習慣について検討した。[結果]効果について,バランス機能の向上は認められなかったが,基礎代謝・柔軟性などについて有意な増加が認められた。質問紙調査結果からは今後も運動を実施したいという回答が87.5%あった。[結論]患者・利用者の方を対象とする場合はリスク管理について事前に検討し実施しなければならないことが今回の研究から明確となり,今後Wii Fit Plusの様々なトレーニング方法についてマニュアルなどの必要性があると考えられた。
著者
西原 賢 久保田 章仁 丸岡 弘 原 和彦 藤縄 理 高柳 清美 磯崎 弘司 河合 恒 須永 康代 荒木 智子 鈴木 陽介 森山 英樹 細田 昌孝 井上 和久 田口 孝行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0675, 2007

【目的】運動時の活動電位を観測する研究は多いが活動電位の伝導方向や神経筋の部位まで調べる試みは少ない。現在、画像診断で筋構造を大まかに観測することは可能であるが、神経または筋の神経支配領域までを調べるには不十分である。これらが調べられることによって、運動に関る神経・筋の機能的評価が可能となり、臨床上大変有用となる。さらに、神経の走行部位を予測して、筋肉注射時に神経損傷を予防する場合にも役立つ。そこで、これまでわれわれが開発した筋電図処理技術を応用して、神経や筋の組織解剖学的研究と照し合せながら本研究の検証を行う。<BR>【方法】19-22歳の健常人男性12人を対象にした。被験者は右手首に1kgの重垂バンドを装着し、肩屈曲30°肘屈曲90°で上腕二頭筋収縮、肩外転45°で三角筋収縮を1分間持続させた。上腕二頭筋では、被験者の内側上腕二頭筋の中心に双極アレイ電極を筋の方向に沿って取り付けた。三角筋では、肩峰から腋窩横線までの距離から下3/8の地点を中心に筋の方向に沿って取り付けた。各筋から4チャネルの生体アンプで検出した筋電図を計算機に保存した。筋電図原波形のうちの5秒区間を、本研究のために開発した計算機プログラムを用いて、設定閾値以上のパルスのピークを検出して加算平均した波形を算出した。チャネルによる加算平均パルスの向きの逆転(+側か-側か)や遅延時間の方向から(パルスが順行性か逆行性か)、電極装着部位を基準にした神経支配領域の位置を推定した。<BR>【結果】上腕二頭筋において、12被験者のうち8人で、加算平均パルスの向きの逆転があった。4人はパルスの向きの逆転は観測されなかったが、遅延時間が順行性に変化した。三角筋において、12被験者のうち、加算平均パルスの向きの逆転があったのは2人だけであった。残りのうち2人は遅延時間が順行性に、3人は逆行性に変化し、4人は解析困難であった。<BR>【考察】(1)上腕二頭筋の神経支配領域の推定:加算平均パルスの向きが逆転されたチャネル付近に神経支配領域が存在する。結果により、12被験者のうち8人の神経支配領域の位置が特定された。残り4人は電極装着部の近位に神経支配領域あることが考えられる。(2)三角筋の神経支配領域の推定:12被験者のうち2人だけが神経支配領域の位置の推定ができた。残りのうち2人は電極装着部の近位に、3人は遠位に神経支配領域があると考えられる。(3)上腕二頭筋と三角筋の比較:三角筋は上腕二頭筋と比較して神経支配領域の位置の特定が困難であった。上腕二頭筋は紡錘状筋で、筋線維は筋の方向に沿って均一に走行している。それに比べて三角筋は羽状筋に近く、筋線維は筋の方向に対して斜めで不規則に走行している。三角筋の場合はさらなる調査が必要であるが、かなり詳細な筋構造が皮膚表面で調べられることが明かになった。
著者
秋葉 崇 小川 明宏 寺山 圭一郎 土谷 あかり 中川 晃一 榊原 隆次 丸岡 弘
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.695-699, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
16
被引用文献数
2

〔目的〕足関節底背屈運動が血行動態と自律神経系に与える影響を検討し,起立性低血圧の対処法としての一助とすること.〔対象と方法〕対象は健常男性8人(年齢28.8 ± 5.3歳)とした.プロトコルは,5分間の安静座位の後,1分間の足関節底背屈運動を行い,再度5分間の安静座位を保持した.その間,循環動態と自律神経の反応を評価した.〔結果〕心拍数,一回拍出量,心拍出量は,安静時の値と比較して,足関節底背屈運動中の値が有意に高値を示した.また,その効果は運動後1分まで持続した.LF/HF,HFなどの自律神経系の反応は,有意な変化が認められなかった.〔結語〕足関節底背屈運動の即時効果が認められ,その効果は1分程度持続した.足関節底背屈運動が,起立直後の血圧低下を回避する方法としての一助となる可能性が示唆された.
著者
山口 賢一郎 丸岡 弘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1372-DbPI1372, 2011

【目的】肺炎は本邦における死亡原因の第4位であり,高齢になるほど死亡率は上昇する.また肺炎が治癒しても,二次的な身体機能の低下は著しく,日常生活動作(以下,ADL)の低下を避けられない症例も多い.理学療法分野における肺炎症例を対象とした報告には,ADLの低下や入院期間,再入院率に関する因子の検討がなされており,早期介入の重要性が示されている.しかし,臨床データに基づく重症度別,合併症有無別の離床の特徴や遅延因子,標準的な理学療法介入プログラムの検討については明らかでない.そこで本研究の目的は,前方視的な臨床データの収集・分析により,市中肺炎診療ガイドラインで用いられる重症度分類を用いた離床の特徴・傾向性を明らかにする.そして離床に関わる遅延因子の抽出や肺炎症例における理学療法の介入時期に関わる検討を行うこととする.<BR>【方法】対象は,平成22年6月から10月までの間にA病院(以下,当院)内科病棟に市中肺炎の診断で入院加療を要し,安静臥床から離床を目的に理学療法介入があった17症例とした.入院前ADLがベッド上のみである症例は除外した. 臨床データは,診療録や検査データより前方視的に収集した.測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,BMI),Functional Independence Measure(以下,FIM)による ADL評価,Pneumonia Severity Index(以下,PSI)による肺炎の重症度(合併症の有無を含む),臨床検査所見(腎機能:Cre・BUN,心機能:LVEF・BNP,造血機能:Hb・Hmt,栄養状態:Alb・TP,炎症値:CRP,WBC血液ガス:P/F ratio),画像所見,臨床所見(喀痰,人工呼吸器使用の有無),経過期間(安静臥床期間,端坐開始期間,車椅子乗車開始期間,抗生剤開始期間)とした.臨床検査所見,画像所見は医師の指示のもと検査技師,放射線技師により実施された.理学療法介入は,主治医が定める安静度に準じ,中止基準を統一した.プログラムは,呼吸理学療法(排痰介助,胸郭可動域練習),四肢・体幹のリラクセーション・ストレッチ,筋力維持・改善練習,基本動作練習(寝返り,起居移乗動作練習),座位耐久性練習を実施し、中止基準に準じて可及的速やかな車椅子乗車獲得を目指した. 離床を決定するアウトカムは,Mundyらによる先行研究より,「入院から連続して20分以上の車椅子乗車が可能となるまでの期間(以下,離床期間)」とし,重症度による離床の特徴や測定項目より遅延因子を統計学的に抽出した.統計には,統計ソフトSPSS15.0Jを用いて,離床期間と各測定項目との相関関係(Spearmanの順位相関係数)と,離床期間の中央値により早期離床群・遅延群とに分け,群間比較(Mann-WhitneyのU検定,χ<SUP>2</SUP>独立性の検定)を行った.いずれも有意水準は5%(p<0.05)とした.<BR>【説明と同意】対象者,もしくは代理人に研究の目的・方法を書面,口頭にて説明し,署名にて同意を得た.また倫理的配慮に関しては,ヘルシンキ宣言に則った当院倫理委員会の承認を得た.<BR>【結果】対象者のPSIは,class III:4例,class IV:3例,class V:10例であり,それぞれの離床期間は6.8±2.2日,9.0±5.0日,18.0±11.4日であった.離床期間と各測定項目との検定では,安静臥床期間(r=0.64,p<0.01),端坐開始時期(r=0.54,p<0.05),PSI(r=0.59,p<0.05),motor FIM低下率(r=0.66,p<0.01)において,有意な正の相関が示された.また早期離床群,遅延群との比較では,両側肺野の浸潤影(p<0.01),腫瘍性疾患の合併(p<0.05)が独立した遅延因子として示された.その他の基本情報,臨床検査所見に有意差は見られなかった.<BR>【考察】本研究では,上記測定項目において離床期間との相関を示した.前本らは,高齢肺炎症例のADL低下に影響を与える因子に,安静臥床期間,重症度,精神症状及び誤嚥を挙げ,早期からの理学療法介入による離床の重要性を示しているが,本研究においてもこれを支持する結果となった.また離床期間に関連していると思われた臨床検査所見に有意差が見られなかったことから,理学療法開始の判定指標としての各種臨床検査所見は,リスク管理下での早期介入の妥当性を示唆するものと考えらえた.当院での肺炎症例における理学療法介入時期は7.8±6.1日と個人差が大きく,瀧澤らよって示された早期介入(1.9±1.3日)と比較して差があることから,今後は本研究での遅延因子(両側肺障害,腫瘍性疾患の合併)を含めてハイリスク症例をスクリーニングし,中長期的な予後も含めた早期介入効果の検討を行うことが課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】臨床データの前方視的蓄積によって重症度別の離床の特徴や早期離床の遅延因子を示すことは,エビデンスに基づく離床基準,標準的理学療法プログラム作成の一助となりうる.
著者
丸岡 弘和 杉浦 敏文 西垣 正勝
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.26, pp.203-208, 2006-03-17

近年,内部不正者による情報漏洩が社会問題となっている.我々は,ユーザが不正を行う際に不審な挙動が現れることに着目し,内部不正者のリアルタイム検知を実現する方式を検討している.これまでに「横目で周囲を確認する(チラ見)」という行動の検出による内部犯検知の可能性を探ったところ,被験者は実験を重ねる内に徐々に自分の体の制御の仕方を覚え,チラ見を発生させずに不正を行うことができるようになることが判明した.そこで本稿では,不正を行う際のユーザの心理状態の変化をダイレクトに検出できる心拍数の変化を内部犯検知に利用する手法を導入する.心拍数を自分で制御することは基本的には難しいため,訓練を重ねた内部不正者であっても不正の検知を回避することはより困難になると考えられる.本手法について,新たに基礎実験を行うことによりその有効性を確かめる.We proposed a real-time detection of internal fraud by sensing insider's suspicious behavior in our previous work, but in which we found that experimented insiders could be able to control their behavior and avoid detection of their fraud. Therefore, in this paper, we introduce to detect heartbeat interval of insiders. It is well known that when human being gets nervous, his/her heartbeat interval will immediately change. Since it is impossible for human being to control heartbeat, it is expected that using heartbeat interval as a suspicious behavior makes it more difficult for even experienced insiders to avoid detection. By conducting some experiments, we evaluate its effectiveness.
著者
丸岡 弘 藤井 健志 小牧 宏一 木戸 聡史 井上 和久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0472, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 一般的にアンチエイジング対策には、食品摂取や有酸素運動などが知られている。特に、抗酸化作用を持つことが知られている還元型コエンザイムQ10(QH)摂取の効果には、老化の遅延や抗疲労作用などが報告されている。そこで今回は、長期間のQH摂取と運動が老化や酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した。【方法】 対象は老化促進モデルマウス(SAMP1、週齢4週)50匹とし、無作為に4群(QH摂取群:A群、QH摂取と運動併用群:B群、運動群:C群、コントロール群:D群)に区分した(A群~C群各n=12、D群n=14)。マウスは動物飼育室にて馴化飼育した後、週齢8週目(若年期)より週齢56週(高齢期)まで研究に用いた。酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM)と抗酸化力(BAP)を安静時に測定し、d-ROM/BAP比(RB比)を算出した。測定は研究開始時(週齢8週):2M、12ヶ月の時点(週齢56週):12Mの計2回実施した。d-ROMなどの測定には尾静脈を一部切開の上、採血を行い遠心分離後の血漿を用いた。老化の指標には老化促進モデルマウス連絡協議会の老化度評点により判定を行った。運動能力は動物用トレッドミル(TM)を使用し(速度20m/min・傾斜20%)、走行時間を測定した。なお、運動の終了基準はTM走行面後方の電気刺激の時間間隔が5秒以内となった時点とした。老化指標と走行時間の測定は、2M、6ヶ月の時点(週齢32週):6M、12Mの計3回実施した。QH(30%安定化粉末)は給水ビンにて300mg/Kgの割合で配合、毎日摂取させた。運動の暴露はTMにて走運動(速度20m/min・傾斜10%・30分)を2回/週の割合で実施した。コントロール群は通常の飼料と水道水を摂取した。本研究において得られた数値は平均値±標準偏差で表し、統計ソフトはSPSS(Ver19.0)を用い、有意差の検定はwilcoxon符号付順位検定と一元配置分散分析を用いて行った。【倫理的配慮】 研究に当たっては、所属する大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号32)。【結果】 2Mの酸化ストレス防御系と老化指標、走行時間は、4群間において有意差を認めなかった。走行時間は12Mまでの経時的な変化において、4群共にそれぞれ有意な減少を認めた(p<0.001)。しかし、6Mにおいて4群間を比較すると、D群がA群とB群と比較し有意な減少、12Mにおいて4群間を比較すると、B群がC群とD群と比較し有意な変化を認めた(p<0.01~0.001)。老化指標は12Mまでの経時的な変化において、4群共に有意な増加を認めた(p<0.001)。しかし、6Mにおいて4群間を比較すると、C群とD群において有意な増加、12Mにおいて4群間を比較すると、特にB群が他の群と比較し有意な増加抑制を認めた(p<0.05~0.001)。酸化ストレス防御系は2Mと12Mを比較すると、d-ROMにおいてB群のみ有意な増加、BAPとRB比において4群間共に有意な減少を認めたが(p<0.05~0.01)、個体間のバラツキが大きかった。【考察】 今回、QH摂取による走行時間への影響が認められた。このような走行時間への影響は、ミトコンドリア賦活によるATP産生作用の増大などの生理学的効果が考えられた。さらに、QHは心筋の代謝を賦活させると共に、末梢血管抵抗を減少させ心肺機能や末梢循環を改善させることが報告されており、本研究においても老年期に至るまで、同様な効果を生じた可能性が考えられた。今回、老化指標はQH摂取によって遅延する傾向を認めた。このようなQH摂取による老化指標への影響は、運動を併用することによって生理学的効果が高まることが推察された。一般的に老化による生体への影響では、継続的な酸化ストレスの暴露に対する消去機能の衰えを示すことから、QHによる老化指標の抑制はQH自身の抗酸化作用による酸化ストレスの減少とATP生産による抗酸化系の活性維持が考えられた。また、B群では老化指標の増加抑制を認めたにも係わらず酸化ストレスの減少を認めなかったことから、老化指標に関しては酸化ストレスよりもATP生産が影響をしていたことも考えられた。一方では、血漿中の鉄イオンの還元力を分析している BAP値では、QHが脂質環境に存在するため、摂取による影響をよく反映しない可能性も考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究からはQH摂取と運動による走行時間や老化指標への影響を認めたことから、アンチエイジング対策などの基礎的データとなりうる。