著者
河野 裕治 山田 純生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.D0647, 2004

【はじめに】労作時疲労感の軽減を目的とした換気補助(PAV)の先行研究は、これまで主に呼吸器疾患患者に対して行われており、健常人を用いた検討も十分でない。健常人を用いたこれまでの研究では、最大酸素摂取量の近傍の強度や漸増負荷を採用しており、廊下歩行など臨床場面への応用には実験条件が異なるため更なる基礎的検討が必要とされていた。本研究ではPAVの臨床応用を想定し、健常人を対象としてPAVによる生体反応を検討した。<BR>【対象と方法】喫煙歴、肺疾患歴のない健常成人11名(男性8名、女性3名)を対象とした。最初に自転車エルゴメータを用いた心肺運動負荷試験を行い、呼気ガス分析より各被験者の嫌気性代謝閾値(AT)を求めた。次にATの90%の負荷量で12分間の自転車エルゴメータ駆動をPAV無しで行う実験1と、12分間の後半6分間にPAVを行う実験2の2施行を行なった。PAVはミナト医科学(株)製Hyper Reflex HR50を改造し90L/分の吸気PAV装置を作成した。運動時の吸気補助は被験者が手動スイッチを操作することにより行った。こうして、実験1、2における運動後半6分間における主観的疲労度(Borg指標)、心拍・血圧反応ならびに呼吸ガス代謝指標を比較・検討した後、運動6分目と12分目の各指標の変化度よりBorg指標の変化に関連する要因を調べた。統計手法は時間を主効果とする二元配置分散分析ならびにPearsonの積率相関係数を用いた。有意水準は5%とした。<BR>【結果】実験1、2ともVO<SUB>2</SUB>は定常状態を示した。VEは実験1では6分以降も時間と共に増加し続けたのに対し、実験2ではPAV開始直後から低下した。VE 同様、他の生理学的指標もPAV開始直後から低下したが、Borg指標はPAV開始4分目から低下を示し、他の指標との時間的ズレが認められた。PAVにより増加が見られた指標はTVEのみであり、VE、RR、VE/ VCO<SUB>2</SUB>、ETO<SUB>2</SUB>、Borg(C)、Borg(L)、DP、HR、BPは全て有意な低下を示した。Borg指標の変化度と関連する生理学的指標は認められなかった。<BR>【考察】PAVにより主観的指標、換気指標ならびに心拍・血圧指標は低下を示した。これはPAVによる吸気筋の仕事量を軽減させた結果もたらされたものと思われた。しかし、主観的労作度の関連要因は今回の検討からは特定できずPAVの条件設定や症例を増やして今後検討すべき課題となった。<BR>【結語】AT以下の低強度運動負荷時においても、PAVは主観的労作を軽減し、呼吸ガス代謝ならびに心拍・血圧指標を低下させることが確認された。今後は呼吸ガス代謝ならびに他の関連指標との検討から、PAVによる労作軽減機序に関する検討を進めることが必要と思われた。
著者
山田 純生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1399-1410, 2012-11-10

はじめに 心臓リハビリテーションは,これまで急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMI),あるいは急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)や心臓血管外科術後患者が主な対象とされ,特にAMIに対する運動リハビリテーション介入はほぼ確立されたプログラムとして臨床に普及が進みつつある.一方で,最近,心臓リハビリテーション対象に加わった慢性心不全(chronic heart failure;CHF)は,病態が多岐にわたる分,詳細な病態評価に基づき介入を個別化することが求められるが,その具体的な方法論は示されておらず,運動リハビリテーション介入をCHFの管理方策として位置づけする障壁ともなっている. そこで,本稿では,AMIについては長期予後を改善する考え方を述べるにとどめ,主にCHFの運動リハビリテーション介入による予後改善効果の基本的考え方を,心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise testing;CPX)の予後指標と関連づけて解説したいと思う.
著者
若田 真 山田 純生 河野 裕治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P2494-D3P2494, 2009

【目的】<BR>有疾患者や高齢者において上肢運動は下肢運動に比べ呼吸困難感(DOB)が強い.これまでDOBに上肢運動における胸郭と腹部の非同期呼吸パターンが関連することは明らかにされているが、上肢運動における呼吸数依存の換気量増加や一回換気フローボリューム曲線の位相変化など、その他の要因との関連は不明である.呼吸数依存性換気量増大は、一回換気時間の短縮による呼気速度の増大や、位相変化が生じた場合は各肺気量位での呼気気流の予備量が異なってくるとともに、呼気気流制限(EFL)の誘因になると考えられる.以上より、本研究は上肢と下肢の運動様式の違いがEFLならびに位相変化の発生に関連するか否かを検討することを目的とした.<BR>【方法】<BR>喫煙歴、肺疾患歴のない健常女性10名(年齢21.9±1.4歳,身長:157.6±7.0cm,体重:49.4±5.7kg)を対象とした.まず、上肢運動はアームエルゴメータ、下肢運動は自転車エルゴメータを用いて心肺運動負荷試験を行い、最高仕事量の80%(80%peak watts)を上肢運動の強度とした.下肢運動の強度は、上肢運動の定常負荷時の分時換気量(VE)と等しくなる負荷量とした.定常負荷試験は5分間の安静の後、0wattsのwarm-upを3分間行い6分間の定常負荷運動を行うものとし、負荷開始4分目と6分目に呼気ガスマスク装着のままフローボリューム曲線を測定した.運動中は呼気ガス指標ならびに心拍数を連続的にモニターし、1分間隔で呼吸困難感と上肢・下肢疲労感(修正Borg指数)を測定した.以上より、運動4分目と6分目の各指標を比較し、また運動時の最大フローボリューム曲線と一回換気フローボリューム曲線との位置関係より、EFLの発生の有無ならびに位相変化を評価した.本研究は、名古屋大学医学部倫理委員会保健学部会で承認を得た (承認番号8-514) .<BR>【結果】<BR>上肢運動と下肢運動における定常運動負荷開始後4分目と6分目のVEには有意差はなかった.上肢運動における換気量の増加は下肢運動と比較して、一回換気量の増大は少なく呼吸数増加によるものであった.しかし、運動時一回換気フローボリューム曲線による評価ではEFLの発生は確認されなかった.また、上肢運動では一回換気量増加に伴う吸気終末肺気量の増加量が下肢運動と比較して有意に低下しており、下肢運動時の一回換気フローボリューム曲線と比較して右方偏位していることが観察された.<BR>【まとめ】<BR>本研究では、EFLの発生は確認されなかったが、上肢運動は下肢運動と比較して、呼吸数優位な換気増加パターンであることが示されている.また、上肢運動では一回換気フローボリューム曲線が右方偏位することが確認され、換気増加パターンとあわせて換気量増加に伴いEFLを起こしやすいことが示唆された.