- 著者
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澤畠 拓夫
- 出版者
- 日本菌学会
- 雑誌
- 日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
- 巻号頁・発行日
- pp.95, 2009 (Released:2009-10-30)
スギエダタケが子実体上に形成する,トビムシを殺す物質を分泌するシスチジアの生態的意義について明らかにする目的で,新潟県十日町市のスギ林でスギエダタケ子実体を,2006年11月13日と20日,2008年10月28日,11月14日と20日に20個,傘表面の写真を撮影した後に採集し,傘の表面および裏面を摂食している動物の個体数を調査した.
子実体の傘表面では,多数(子実体あたり平均91.2個体)のトビムシが観察され,傘表面を摂食していたが、子実層周辺で観察されたトビムシは少数(子実体あたり平均1.9個体)のみで,しかもそれらはすべて死んでいた.トビムシと同様にササラダニと中気門ダニも子実層表面で死んでいるのが観察された(子実体あたり平均0.5個体).これらの小型節足動物遺体には,体表に菌糸が伸長して遺体が子実層に食い込んだ状態となり,ピンセットで引っ張っても離れないものがあった.またトビムシの遺体とその周辺では,子実層から菌糸が脱分化して繁茂する現象が観察された.双翅目昆虫(キノコバエの一種)の幼虫は(子実体あたり平均2.2個体)子実層の間でも死ぬことなしに子実層基部を摂食しているのが観察され,姿は観察されなかったが,陸貝による摂食痕も観察された(調査した全子実体の5分の1に摂食痕あり).子実体の柄では死んだトビムシが観察されることもあったが,子実層の場合のようにトビムシの遺体が柄の表層に食い込むことはなかった.
以上の結果から,スギエダタケのシスチジアはトビムシ等の小型節足動物に対し,子実層裏面と柄において防除効果を発揮するが,双翅目昆虫の幼虫や陸貝に対する防除効果は薄いことが明らかとなった.さらに子実層上で死んだ小型節足動物遺体に脱分化した菌糸が食い込んでいた事実は,この菌が殺した小型節足動物を栄養源としている可能性を示すものである.