著者
佐藤 努 巻田 由美子 熊澤 茂則 岡田 裕史 五十嵐 保正
出版者
千里金蘭大学
雑誌
千里金蘭大学紀要 (ISSN:13496859)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.111-117, 2012-12-25

ニジマスはデリケートであり取扱いや環境によるストレスを受けやすい。ニジマスに水産業界で一般的に行われている水氷締めを施し氷蔵したところ、魚体の硬直の度合は死後30分後に最大に達し、その後、軟化を含めた品質の劣化が速やかに進んだ。この劣化の速さは苦悶死魚にも匹敵するものであり、手法の変更が望まれた。そこで、広く海水魚に適用されている延髄切断、それに引き続いての脱血と針金による脊髄破壊を施し、その効果を先の水氷締めの場合と、魚体の死後硬直と魚肉中ATP関連物質量の経時変化から比較した。その結果、脊髄破壊の手法によりニジマスの死後変化が10時間以上遅延することが判明した。これは死後すぐに脊髄の自律神経を破壊することで死後硬直を早める要因となる筋肉中のATP消費を抑えることができたためと考えられるが、脊髄破壊魚は、単に延髄切断を施した魚よりも解硬が緩やかであることも認められた。また氷蔵ニジマスにおいては、硬直指数とうまみ物質IMP含量の増減パターンが非常に類似しており、延髄破壊魚、水氷締め魚ともに魚体の最大硬直時にはIMP含量が最大値に達した。 延髄切断、脱血、そして脊髄破壊という一連のプロセスによりニジマスの鮮度は保持されることが判ったが、ストレスを与えない安定的な処置が難しいこともATP残存量における個体差の大きさから推察された。実用にあたっては、さらにストレスを除く方向性とともに、延髄切断と脱血にとどめ,不用なストレスをかけない方向性も提案される。
著者
細谷 孝博 久保田 通代 熊澤 茂則
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.321-329, 2016-06-05 (Released:2016-07-07)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

アントシアニンは,ベリー果実等に含まれる色素成分の一種で,昔から天然着色料として幅広い食品に利用されている.また近年では,アントシアニンの様々な生理機能に関する研究も行われており,機能性成分としての利用も期待されている.本研究では,アントシアニンを豊富に含むベリー果実について,定量核磁気共鳴法(定量NMR)を用いた分子種解析によるアントシアニン成分の評価を行った.まず各ベリー果実抽出物の1H-NMRスペクトルより,各アントシアニン成分の定性及び定量分析を行った.続いて同スペクトルを用いて主成分分析を行ったところ,各アントシアニンによる分類分けに成功した.また,Oxygen Radical Absorbance Capacity(ORAC)法を用いて各ベリー果実抽出物の抗酸化活性を評価し,アントシアニン成分の種類と含有量,さらに,主成分分析から得られた結果に相関関係を認め,シアニジン系のアントシアニンが抗酸化に寄与することを明らかにした.1H-NMRを用いた本分析手法は,ベリー果実の品質管理や機能性を有するベリー果実をスクリーニングするための有用な手法であると言える.
著者
熊澤 茂則 中村 純 太田 敏郎 矢崎 一史 宮城 健 福本 修一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.35-42, 2010-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
19

健康食品素材として利用されているプロポリスは,ミツバチが植物の特定部位を集めてつくった樹脂状物質であり,採集される地域によりその含有成分が異なる.最近,未解明であった沖縄産プロポリスの起源植物が,分析化学と生物行動学的研究手法によりトウダイグサ科の常緑樹木オオバギと同定された.そして,このオオバギが高い抗菌活性と抗ガン活性を有していることも見いだされ,新たな有用植物資源としての可能性に期待がかけられている.
著者
吉積 一真 熊倉 啓人 藤浪 未沙 細谷 孝博 熊澤 茂則 堀 由美子
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.237-245, 2020 (Released:2020-12-26)
参考文献数
34

パルミラヤシ由来の含蜜糖であるパームシュガーは, ポリフェノールやミネラルを多く含むことから, 上白糖の代替品としてだけでなく, 生活習慣病に対する有用性が期待されている。そこで, パームシュガーの総ポリフェノール含量と抗酸化活性を評価し, 実験動物を用いたパームシュガーの単回・長期摂取が血糖応答に及ぼす影響について検証した。その結果, パームシュガーの総ポリフェノール含量は黒砂糖と同程度に高含量であり, 抗酸化活性 (ORAC値) は黒砂糖より低いものの, ココナツシュガーやメープルシロップより高い値を示した。パームシュガーのマウスへの単回投与は, 上白糖と比較して投与後30, 120, 180分のΔ血糖値が有意に低かった (30分: p < 0.01, 120, 180分: p < 0.05) 。また, 曲線下面積 (ΔAUC) も, 上白糖と比べて有意に低値であった (p < 0.01) 。約3カ月間のパームシュガーの継続的な投与による空腹時血糖値の上昇は認められなかった。以上の結果から, パームシュガーは血糖上昇が緩やかな甘味料であることが示唆された。
著者
熊澤 茂則 杉山 靖正 太田 敏郎 中村 純
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ミツバチの生産物であるプロポリスは、健康食品素材として広く利用されている。本研究では、プロポリスの機能性について化学的および生物学的アプローチから解明することを目的とした。特に、韓国済州島産およびソロモン諸島産のプロポリスの成分研究を行い、済州島産プロポリスについては現地における調査も行うことで、起源植物(プロポリスの原料植物)が明日葉であることを明らかにした。ソロモン諸島産プロポリスからは、いくつかの新規プレニルフラボノイドを見出した。さらに、沖縄産プロポリスおよびその構成成分に関するin vitroおよびin vivoにおけるガン血管新生抑制活性についても評価した。
著者
福田 靖子 新井 映子 熊澤 茂則 内田 浩二
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

環境汚染中の有害物質であり,タバコの煙,自動車の排気ガスに含まれるアクロレイン(CH_2=CHCHO)等低分子不飽和アルデヒド類はフライ時に油の分解により生じる可能性が高い.大量調理における長時間におよぶフライ操作時には「油酔い」と言われている一過性のむかつき症状を経験するが,この要因物質としてアクロレイン等の反応性の高いアルデヒド類が推測される.内田らは生体内脂質過酸化過程で生じるアクロレイン等が生体タンパク質と結合し,細胞等に傷害をもたらすことを特異性の高いELISA法を用いて明らかにしている.フライ時の「油酔い」症状も生体傷害の一つと推測され,ELISA法によりアクロレイン生成量を検討した.H11年度は油加熱時に発生するアクロレインの捕集法を検討した.アクロレインは沸点が53℃で容易に気化すること,水に易溶(20g/100ml,20℃)であることから,油相のみならず気相中のアクロレインを捕集するため,加熱後の油を共栓ガラス器具およびシリコンチュウブを用いて,密閉系とし,水中に導き,BSA付加体とした.油の種類によるアクロレイン生成量の比較等を行ったところ油によりアクロレイン生成量に差があり,焙煎種子油が未焙煎種子油に比べてその生成を抑制していた.焙煎種子油のアクロレイン生成抑制要因を焙煎ゴマ油を用いて調べ,新たにセサミノールを同定し,このセサミノールが種子焙煎時にセサミノール配糖体から生成することが示唆された.生体内タンパク質のモデルとして脂質消化酵素(リパーゼ)を選び,アクロレイン添加によるリパーゼ活性阻害で調べ,顕著なリパーゼ活性の低下を認めた.酵素タンパク質がアクロレインにより修飾されたものと推定された.大量調理時の油の酸化防止剤(アクロレイン生成抑制剤)として,天然素材である竹炭が有用であることを竹の炭化温度との関係から明らかにした.