著者
和田 英太郎 野口 真希
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.331-342, 2017-09-15 (Released:2017-09-15)
参考文献数
36
被引用文献数
2 3

我が国で著しい進展のあったδ15N, δ13Cを用いた窒素・炭素安定同位体精密測定法(SI法)による食物網解析法の進捗についてまとめた。特に,食物連鎖に見出された,窒素・炭素同位体効果に関する二つの経験則に注目し,近年のアミノ酸レベルのδ15Nに関する成果を考慮に入れて,その成立の境界条件を考察した。経験則1:栄養段階(TL)が1段階上がるごとに3.4±1.1‰高くなる事が過去の研究で示されている。この経験則は動物の筋肉タンパクについて得られているが,±1.1‰の変動について本稿で考察した。経験則2:海洋と陸域の代表的な食物連鎖について,窒素・炭素同位体効果の比(Δδ15N/Δδ13C)が動物の種類に関わらず,ほぼ一定であることが示唆されている。一般的に,食物連鎖に沿ってδ15Nはδ13Cと統計的に有意な回帰直線の関係を示す。この関係の成り立ちの可能性について代謝系の共通性から考察した。
著者
杉崎 宏哉 児玉 真史 市川 忠史 山田 圭子 和田 英太郎 渡邊 朝生
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.57-68, 2013 (Released:2014-06-11)

安定同位体比を用いた海洋の生態系構造の解析では,基礎生産者の安定同位体比の特定が困難なことが食物網解析の障害となっている。本研究では,摂餌過程における炭素・窒素安定同位体濃縮の歴史的経緯をまとめた上,生物種の安定同位体比を同位体マップ上に整理し,食物網構造や栄養段階の推定手法を紹介した。食物網に沿って炭素・窒素同位体比の関係は線形一次式で表せ,摂食過程における炭素・窒素の同位体分別をそれぞれ3.3‰,2.2‰,その比を1.5に設定することで対象とする動物の同位体比から同位体マップ上に食物網の直線を描くことが可能となった。その結果を用いて三陸沿岸と沖帯の食物網同位体予測モデルを提示した。さらに試料採取法・処理法について再考察し,安定同位体精密測定法の今後の展望についても触れた。
著者
和田 英太郎 野口 真希
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.331-342, 2017
被引用文献数
3

<p>我が国で著しい進展のあったδ<sup>15</sup>N, δ<sup>13</sup>Cを用いた窒素・炭素安定同位体精密測定法(SI法)による食物網解析法の進捗についてまとめた。特に,食物連鎖に見出された,窒素・炭素同位体効果に関する二つの経験則に注目し,近年のアミノ酸レベルのδ<sup>15</sup>Nに関する成果を考慮に入れて,その成立の境界条件を考察した。経験則1:栄養段階(TL)が1段階上がるごとに3.4±1.1‰高くなる事が過去の研究で示されている。この経験則は動物の筋肉タンパクについて得られているが,±1.1‰の変動について本稿で考察した。経験則2:海洋と陸域の代表的な食物連鎖について,窒素・炭素同位体効果の比(Δδ<sup>15</sup>N/Δδ<sup>13</sup>C)が動物の種類に関わらず,ほぼ一定であることが示唆されている。一般的に,食物連鎖に沿ってδ<sup>15</sup>Nはδ<sup>13</sup>Cと統計的に有意な回帰直線の関係を示す。この関係の成り立ちの可能性について代謝系の共通性から考察した。</p>
著者
和田 英太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.259-268, 2009 (Released:2017-04-20)
参考文献数
65
被引用文献数
6

近年、生態学に二つの手法が導入され新しい地平を切り開いている。一つは種レベルのDNA解析で進化系統を解析する分子生物学的方法となっている。他は安定同位体精密測定法で生態系の物質循環の特長やその物質の起源・生成経路・食物網の構造を知る有力な化学的方法を提供する。この手法はここ10年我が国の生態学の分野において急速に広まった。ここではこの手法の近過去史の概要、この手法の現状での評価、生物圏における炭素・窒素同位体比分布則の骨格、食物網解析の問題点、環境科学への応用、今後の展望についてまとめた。
著者
和田 英太郎 上原 洋一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.98-110, 1977-02-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
62
被引用文献数
5 5
著者
和田 英太郎
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.136-146, 1986-03-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
47
被引用文献数
10 8
著者
熊谷 道夫 辻村 茂男 焦 春萌 早川 和秀 秋友 和典 永田 俊 和田 英太郎
出版者
滋賀県琵琶湖研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

地球温暖化の進行に伴い、琵琶湖周辺の気温は過去20年間に約1℃上昇した。これは地球全体の平均値より5倍大きい。このような急激な気温上昇は、結果として琵琶湖周辺の気候を単調かつ安定なものに変えつつある。それに伴って、琵琶湖の深水層でも変化が生じている。平均水温の上昇や、溶存酸素濃度の低下、pHの変化、硝酸態窒素の増加、イサザの漁獲量の低下、塩素イオン濃度の上昇などが挙げられる。このような変化の相互相関はまだ明らかではないが、何らかの有意な関係があることが示唆された。琵琶湖深水層における酸素消費速度を高精度ウィンクラー法によって計測した。それによると、酸素消費速度は冬期に最大となり、8〜28μg/L程度で、夏期には減少した。この値は、見かけの酸素消費速度とほぼ同じであった。2001年〜2004年にわたって琵琶湖北湖の深水層で、自記式の酸素計を用いて溶存酸素濃度を計測してきた。2002年の冬は暖冬で、酸素濃度の回復が十分ではなかったので、その年の秋には、溶存酸素濃度が2mg/L以下になった。2003年の冬は寒く雪が多かったので、酸素濃度の回復が十分で、秋の酸素濃度の低下も小さく5mg/L以上であった。このように冬の気温が十分に低ければ、多くの量の酸素が供給されるので、酸素消費速度が著しく大きくならなければ低酸素にはならない。2004年の冬は暖冬で、全循環が2月までずれ込み、飽和酸素濃度も100%まで回復せず、あきらかな全循環欠損が発生した。このことは、秋に酸素濃度が低くなる可能性があるので注意深い観測が必要である。
著者
片瀬 隆雄 和田 英太郎
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.451-456, 1990-08-05 (Released:2010-01-18)
参考文献数
16
被引用文献数
7 10

炭素及び窒素安定同位体比測定の試料を得る目的で,クロロフィルaをアオコ(Microcystis spp.)から1~10mgオーダーで単離する方法を検討した.凍結試料を無水硫酸ナトリウムと共に乳鉢中で混合し,アセトンで抽出後,同液からジオキサンで粗性クロロフィルを沈殿させ,更にジエチルアミノエチル-トヨパール陰イオン交換樹脂及びセファロース・ゲル濾過担体カラムでクロロフィルaを単離する方法を検討した.この方法で,実際に諏訪湖から経時的に採取したアオコの4試料からクロロフィルaを2.3~3.8mg単離し,未処理の乾燥アオコ及び単離の過程で得られた分画物を合わせて18試料の炭素同位体比(13C/12C)及び窒素同体比(15N/14N)を測定した.その結果,アオコ単離のクロロフィルaの炭素・窒素同位体比が経時的に変化していることが明らかとなった.
著者
川那部 浩哉 西平 守孝 甲山 隆司 阿部 琢哉 和田 英太郎 東 正彦
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1994

地球の温暖化や生物多様性の喪失など、地球環境問題の深刻化に伴い、生態科学が答えるべき社会的課題は大きくなっている。そこで「生物と佳境と相互作用」、「多様な生物間の複雑な関係」、「生物の進化と多様性」など、マクロなレベルでの生命現象の解明をめざすと共に、生態科学の立場から環境問題の解決に貢献できる体制を作る第一段階として、京都大学の生態学研究センターが1991年に設置された。さらにこれを発展させるべく、1992年に日本生態学会は国立生態科学研究所構想第7次案をまとめた。本研究は7次案の主な課題である「Center of Excellence」、「人事の流動と活性化」、「人と情報のネットワーク」、「国際的高等教育機関」、「本格的な共同研究を推進できる体制」などを全く新しいタイプのネットワークの構築を通して実現する道を提示することを目的として行われた。具体的な方法としては、研究会を開いて以下の項目を検討した。1)具体的な当面の最大の共通テーマ2)本格的な共同研究を推進するための、コアとなる組織と研究機関のネットワークの全体構造3)人事の流動化と活性化を促進メカニズムに関する斬新なアイデア4)共同利用を必要とする、これからの生態科学にとって最も有用な研究施設5)研究機関のネットワークの具体化6)生態学研究の飛躍的発展のためのPost Doc層の最大活用化7)国際対応できる生態科学における大学院教育のカリキュラム作成8)国際共同研究推進と有機的に連動した大学院生の国際交流検討結果を整理し、「国立バイスフィア研究ネットワーク構想」としてまとめた。この構想案は、生態学の研究を有効に進める新しい研究機関の設立を含めた、研究機関のネットワークを実現化するひとつの具体的な道のりを示すものである。
著者
中西 正己 紀本 岳志 熊谷 道夫 杉山 雅人 東 正彦 和田 英太郎 津田 良平 大久保 賢治
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1993年の琵琶湖の夏は、記録的な冷夏・長雨だったのに対し、1994年は猛暑と渇水に見舞われた。この気候変動は、琵琶湖の微小生物生態系を大きく変化させた。1993年夏の琵琶湖国際共同観測(BITEX)に続いて、1994-1995年夏の本総合研究において、世界に先駆けて実施された生物・化学・物理分野の緊密な連携のもとでの集中観測結果は、琵琶湖の水環境を考える上での最重要部分である『活性中心』としての水温躍層動態の劇的な変化を我々に垣間見せてくれた。特に注目された知見として、1993年、1995年の降雨は、河川からの水温躍層直上への栄養塩の供給を増やし、表水層での植物プランクトンの生産を活発にしたのに対し、1994年は河川水の流入が絶たれたため、表水層での植物プランクトンの生産は低下し、キッセ板透明度も十数メートルと向上した。その一方で、躍層内での植物プランクトンの異常に高い生産が、詳細な多地点・沿直・高密度連続観測によって発見された。この劇的な理学の変化は、湖の生物・化学・物理全般にわたる相互作用として、従来指摘されていなかった新たな機構についての知見の一つである。