著者
玉井 克人
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.289-295, 2021 (Released:2021-06-22)
参考文献数
15

損傷組織の再生は,各組織に内在する組織幹細胞の量的・質的活性状態に依存する.例えば胎児皮膚には豊富な表皮幹細胞や間葉系幹細胞が存在するため,胎児皮膚を切開しても出生時には傷跡が残らないことが知られている.即ち豊富かつ機能的な組織幹細胞の存在は損傷組織の修復過程で組織発生プロセスを再現する,いわゆるre-generation(再生)を可能とし,結果として傷跡は肉眼的に認識できないレベルまで修復される.我々は,損傷組織内の壊死細胞から放出される核タンパクhigh mobility group box 1(HMGB1)が末梢循環を介して骨髄由来間葉系幹細胞を損傷組織内に集積させて,非瘢痕性機能的組織再生を誘導していることを見出した.現在,HMGB1の骨髄間葉系幹細胞動員活性ドメインペプチドを利用して,劣性栄養障害型表皮水疱症,急性期脳梗塞,変形性膝関節症,慢性肝疾患の患者を対象とした臨床試験が進行している.本稿では,その開発の経緯と現状をまとめるとともに,将来の再生誘導医薬の可能性を展望する.
著者
遠藤 誠之 玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

妊娠中に母体から胎児へ細胞が移行する現象を母体胎児間マイクロキメリズムと言います。その機序により、ある割合で子供が母親由来の細胞に対して免疫学的な寛容を示すことが分かっています。その場合、その子供は母親由来の細胞移植や、母親に特異的なタンパク質に対して拒絶反応を起こしません。我々は今回、この免疫寛容誘導効率を上げるための研究を行いました。妊娠マウスに間葉系幹細胞動員因子HMGB1を投与することで、母体血中から胎児へより多くの間葉系幹細胞が移行することを期待しました。その結果、免疫寛容誘導効率を約4倍増加させることができました。
著者
玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

ケラチン5(K5)遺伝子プロモーター・GFP遺伝子を有する遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス)より骨髄細胞を採取し、骨髄間葉系幹細胞を培養した。培地にBMP4を添加することにより、GFP陽性細胞が出現することを明らかにした。これらの細胞をヌードマウス皮膚に装着したチャンバー内に移植し、皮膚が再生した後にGFP陽性表皮細胞の出現を検討した。その結果、再生表皮内に散在性にGFP陽性表皮細胞が存在すること、その一部は毛包および毛組織に分化していることが明らかになった。K5・GFPトランスジェニックマウス骨髄を移植したマウス皮膚に全層性創傷を作製し、その治癒過程でのGFP陽性表皮細胞出現を検討した。その結果、創傷治癒後に表皮内GFP陽性細胞の出現を確認した。表皮内での陽性率は、数%で、一部毛包では、数10%の細胞でGFP陽性であった。また、創傷閉鎖からGFP陽性細胞出現までの日数は、6ヶ月間の経過内では4ヶ月以降から顕著に陽性率が高くなる傾向を示した。即ち、創傷形成直後から骨髄細胞の創部への誘導は開始されるが、表皮細胞への形質転換後は増殖までにある程度の日数が必要であると考えられる。K5・GFPトランスジェニックマウス骨髄から間葉系幹細胞を分離・培養し、創傷モデルヌードマウスの尾静脈から連日7日間静脈内投与した。その結果、創傷治癒後皮膚毛包部に尾静脈投与したGFP陽性骨髄細胞が集積し、表皮を再生していることが明らかとなった。以上のデータにより、骨髄間葉系幹細胞が表皮細胞再生に寄与しうる可能性が示され、重症熱傷や先天性表皮水庖症などの難治性潰瘍治療に応用可能と考えられる。
著者
佐賀 公太郎 玉井 克人 新保 敬史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

これまでに申請者らは、損傷組織から放出された HMGB1 が骨髄中の間葉系幹細胞 (MSC) を活性化することで骨髄 MSC の血中動員や損傷部集積を促進し、損傷組織再生を強力に誘導することを明らかにしてきた。しかし、HMGB1 による骨髄 MSC 活性化に関わる受容体やシグナル経路は未だ明らかとなっていない。本研究では、HMGB1 が骨髄 MSC を活性化するための新規受容体を同定し、その活性化機構を明らかにすることを目的とする。
著者
中村 仁美 玉井 克人 冨松 拓治 遠藤 誠之 味村 和哉
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

現在の不妊治療の治療効率を向上するためには現在ブラックボックスである受け入れ側の子宮の着床能を前方視的に評価しその周期ごとの治療方針に反映させなければならない。これまでの我々の研究において、ヒトでは排卵期前に子宮内膜の電気生理学的パラメータを測定する事でその周期の子宮内膜の受容能が前方視的に評価できる事を明らかにした。本研究では、この物質的基盤を明らかにするために月経による子宮内膜の再生機構について、マウスモデルを用いて基礎研究を行う。将来的に、電気生理学的評価の物質的基盤を検討する事でヒト子宮の着床能を前方視的に評価する装置システムの精度の向上だけでなく、治療への応用をめざす。
著者
植田 郁子 玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

ブレオマイシンで誘発した強皮症モデルマウスによる骨髄由来間葉系幹細胞血中動員医薬の効果について検証する。本研究では(1)ブレオマイシン誘発強皮症モデルにおける骨髄由来間葉系幹細胞の定量(2)ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスにおける皮膚および肺組織の骨髄由来間葉系幹細胞、(3)骨髄由来間葉系幹細胞血中動員医薬投与によるブレオマイシン誘発強皮症マウスモデル皮膚及び肺への骨髄由来間葉系幹細胞集積誘導を介した炎症抑制効果、血管新生効果、線維化抑制効果の検討を実施する。
著者
石川 博康 玉井 克人 見坊 公子 角田 孝彦 澤村 大輔 梅木 薫 菅原 隆光 矢島 晴美 佐々木 千秋 熊野 高行 三上 英樹 三上 幸子 高木 順之 門馬 節子 菊池 朋子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.113, no.8, pp.1229-1239, 2003-07-20 (Released:2014-12-13)

帯状疱疹の現状把握を目的とし,2000年4月から2001年3月までの1年間に東日本地区の総合病院と診療所の計11施設を受診した帯状疱疹患者1,065例を対象に統計的解析を行った.結果として,1)8月が最多であったが季節差は認めなかった.2)男女比では女性が多く(M:F=1:1.4),年齢別では60代を中心とした大きな峰と10~20代の小さい峰との2峰性を示した.3)発症部位は上肢~胸背部が最多で31.2%を占め,胸髄部発症例は全体の50.8%であったが,部位別分節別で比較すると頭顔部が最多であった.4)汎発化は2.3%にみられ,70代を中心に頭顔部症例が多かった.5)PHN(postherpetic neuralgia:帯状疱疹後神経痛)は5.3%に残存し,70代を中心に腹背部に多かった.6)抗ウイルス薬は全体の79.0%に投与されていた.7)頭顔部症例の13.4%に眼病変が,1.1%にRamsay-Hunt症候群がそれぞれ合併していた.8)全体の8.8%に基礎疾患を認めた.9)2回以上の再罹患率は全体の3.6%であった.10)医療機関別の比較では患者の年齢層が有意に異なっており,総合病院は60代以上の高齢者主体で診療所は50代以下が多かった.
著者
谷口 歩 今村 亮一 阿部 豊文 山中 和明 玉井 克人 新保 敬史
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

腎不全は腎の線維化を中心とした不可逆な臓器不全である。間葉系幹細胞移植が腎に対して保護的に作用することが注目されているが、その臨床応用においては幹細胞移植に伴う取り扱いの煩雑さが問題である。我々は骨髄間葉系幹細胞を血中さらに障害部位に動員させる物質を特定し、これを利用した再生誘導医薬を開発した。化学合成された薬剤を静脈へ注射するのみで骨髄間葉系幹細胞を障害された腎臓に集められることが予測されるため、煩雑な幹細胞移植を伴わずに腎再生医療を臨床に応用できる可能性がある。本研究では腎障害動物モデルに対する再生誘導医薬の効果に関して、病理学的評価、分子生物学的評価および次世代シーケンス解析を行う。