著者
澤田 昭三 中村 典 田中 公夫 李 俊益 美甘 和哉 佐藤 幸男
出版者
広島大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1988

ヒトのリンパ球は末梢血中では分裂しないので放射線の線量率依存性を調べるのには最適である。そこで細胞死を指標としてトリチウム水とガンマ線を同じ線量率、2Gy/hrと2Gy/day、つまり線量率を24分の11に下げた時の細胞生存率を調べたが、トリチウム水でもガンマ線と同程度の細胞生存率の上昇がみられた(中村)。同じくヒトのリンパ球染色体に及ぼすトリチウム水の影響を調べ、ガンマ線に対するRBEを求めた。今回は特に観察誤差の少ない=動原体染色体のみを指標として10〜50cGyの低線量域のRBEを正確に求め2.6(含水率70%)を得た(田中)。ヒト精子染色体に及ぼすトリチウム水の影響について前年度に引きつづいて調べた。線量も25〜17.3cGyの低線量域に主力をおき、2年間で合計3132精子の染色体分析を行った。染色体異常頻度は線量の増加とともに193cGyまでは直線的に増加したが、それ以上の線量では飽和に近ずき、直線にのらなくなった。これらの結果と今までに得ているX線のデータと比較してRBEを求めた。出現する種々の染色体異常を指標としたRBEは吸収線量を最低に見積った時は1.9〜3.0、最大の場合は1.04〜1.65となった(美甘)。マウス胎仔脳の発育に対するトリウチム水の影響を調べるための予備実験がガンマ線を使ってつづけられているが、脳細胞の致死を指標とする場合は、トリチウム水のような低線量率被爆の影響を正確に把握することは困難なことがわかった(佐藤)。マウスの妊性低下に及ぼすトリチウムの影響を調べたが、線量・効果が明確でないこと及びデータにばらつきがあって今後の研究が必要と思われた(李)。有機結合型トリチウムのマウス初期胚に与える影響を調べ、吸収線量を基礎としたLD_<50>は核酸結合型で約1/20、アミノ酸結合型では1/5ほどトリチウム水に比べて低かった(山田)。体内トリチウム水の排泄促進剤として二種類の利尿剤の併用効果をねらったが十分な結果はえられなかった(澤田)。
著者
澤田 昭三 中村 典 田中 公夫 重田 千晴 李 俊益 佐藤 幸男
出版者
広島大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

1)母親の胎内で原爆破爆した子供の多くに極度の知能発育遅滞がみられ, 大きな社会問題となっている. そこで知能発育に対するトリチウムのリスクを推定するためマウスによる基礎実験を行なった. その結果, ガンマ線の急照射では脳細胞死は容易に検出されたが, 緩照射では死亡率が大幅に低下した. 一般にトリチウムは緩照射のため脳細胞死の検出方法を今後検討しなくてはならぬ(佐藤).2)マウスの卵母細胞に対するトリチウムの致死効果が妊性にどの程度影響するか調べたところ, トリチウムを16ラド以上照射すると対照群に比べて明らかに妊性が低下するが, ガンマ線ではもっと多量の線量を照射しないと低下しない(李).3)マウス皮膚創傷部からのトリチウム水の吸収速度は傷の種類によって異なるが, 傷の組織学的な観察を行なったところ, 傷害度と吸収速度がよい一致を示すことがわかった. また, すり傷からのトリチウム水の吸収は脂溶性塗布剤では完全に抑制できなかった(澤田).4)ヒト骨髄細胞のうち赤芽球幹細胞BFUーEに対するトリチウムの致死効果を調べ, ガンマ線に対するRBEとして1.3を得た(重田・大北).5)ヒトのリンパ球の染色体異常と小核出現率を指標としたトリチウム水のRBEはそれぞれ2.8と2.6が得られた(田中). また, リンパ球の致死を指標とするとRBEは2.8となった(中村).6)トヒ精子染色体に対するトリチウム水の影響を調べ, X線に対するRBEとして2.3が植られた(美甘ら).7)マウス3T3細胞に対するトリチウム水の影響を生存率, 癌化率及び突然変異率を指標としてRBEを求めたが, 生存率では1.0,癌化率では1.7が得られ, 突然変異に関しては十分な結果が得られなかった(榎本).8)マウス受精卵の胚盤胞形成を指標として有機結合型トリチウムの影響を試験管内で定量的に調べ, トリチウム水に比べ100〜10000倍も強い影響を与えることがわかった(山田).
著者
高畠 貴志 柿沼 志津子 廣内 篤久 中村 正子 藤川 勝義 西村 まゆみ 小木曽 洋一 島田 義也 田中 公夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.153, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線誘発胸腺リンパ腫は、放射線発がんメカニズムの解析だけでなく、発がん感受性に影響する遺伝的要因についての研究にも有用なモデル実験系である。我々は、放射線誘発胸腺リンパ腫を誘発しやすいC57BL/6系統、誘発しにくいC3H系統、およびこれらを親とし比較的誘発しやすいC3B6F1系統とB6C3F1系統で放射線誘発した胸腺リンパ腫を対象として、DNAコピー数の異常をゲノム網羅的にアレイCGH法で解析した。胸腺リンパ腫発症に関与することが知られているIkarosやBcl11bなどの遺伝子座での変異や15番染色体のトリソミー以外に、5番染色体、10番染色体、16番染色体での異常が系統依存的に高頻度であること、および、14番染色体のトリソミーが系統によらず高頻度であることを見出した。さらに、T細胞受容体ベーター遺伝子領域の2つの対立遺伝子で共に遺伝子再構成が生じている頻度は、C3H系統でのリンパ腫より、C57BL/6系統でのリンパ腫で高頻度に検出された。このことから、C57BL/6系統では異常なV(D)J組換えを起こしやすいためにリンパ腫を誘発しやすい、という可能性が示唆された。また、C3B6F1系統やB6C3F1系統でのリンパ腫における、これら各種異常の頻度や染色体上での異常頻発領域の分布は、C57BL/6系統で誘発されたリンパ腫についての結果と似ていた。さらに、F1系統での腫瘍についてのヘテロ接合性消失の解析と合わせると、IkarosやBcl11b遺伝子座でのヘテロ接合性消失は主として欠失型異常により生じ、他方Cdkn2やPten遺伝子座では主として片親性ダイソミーにより生じると示唆された。これらの結果は、放射線によりリンパ腫が誘発される際に変異が蓄積される機構や、放射線により胸腺リンパ腫を誘発しやすい系統と誘発し難い系統が存在することの原因を知る上で重要な知見となる。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
著者
田中 公夫 鎌田 七男 大北 威 蔵本 淳
出版者
日本放射線影響学会
雑誌
Journal of Radiation Research (ISSN:04493060)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.291-304, 1983-12
被引用文献数
1 25

The distribution of breakpoints within chromosomes in lymphocytes of 39 healthy atomic bomb survivors who were heavily exposed were studied by means of G- and Q-banding techniques. A total of 1,414 breakpoints in 651 cells with structural chromosome aberrations were used for the present analyses. The results obtained were as follows: (1) In chromosomes #15, #18 and #22, the breaks were more frequently observed than expected. On the contrary, the number of breaks among chromosomes #1, #2 and X was less than expected. (2) A higher incidence of breakpoints according to the length of regions in 4q3, 5q3 and 14q3 and a lower incidence in regions around centromeres of large chromosomes were observed. (3) Distribution of breakpoints was 26.6% in the centromeric region, 30.8% in the middle region and 42.6% in the telomeric region. (4) Seventy-four percent of the breaks was observed in the negative bands.