著者
田中 惠子 坂本 裕子 森 美奈子 中島 千惠
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.567-576, 2017 (Released:2017-10-07)
参考文献数
21

目的 乳幼児の食のリスクの低減には,母親が正しい知識を身につけて家庭で合理的にリスクに対応することが求められる。本研究は,幼児を持つ母親のリスクの考え方,知識,意識および行動の実態を示し,母親への食の安全教育を行う上での基礎的な資料とする。方法 2014年10月に幼児の母親を対象にインターネットによる質問調査を実施した。主な調査項目は属性,有害微生物による食中毒等の11の食の問題から,幼児の食の安全の問題として危険性が高くその危険性を低くするため大人が家庭や保育所・幼稚園等で努力する必要性が高いと感じる(以後,幼児にとって危険性が高いと感じる食の問題と記す)上位3位までの選び方,リスクの考え方,知識,意識および行動である。解析対象者数は984人であった。結果 幼児の食の問題に対して,母親の約3人に1人が有害微生物による食中毒の,半数以上が食品の誤嚥・窒息の危険性認識が低い可能性が示唆された。一方,3割が食品添加物の危険性が高いと感じていた。生牡蠣や鶏の刺身を食中毒予防のために幼児に与えてはいけないという認識がない者が1~2割存在し,調理中の生の肉等を触った後の石けん手洗い等,交差汚染を防ぐための習慣がない者も少なくなかった。食品の誤嚥・窒息では,3歳頃までピーナッツや飴等を与えてはいけないことを知らない母親は「わからない」を併せて4割存在した。さらに,約7人に1人の母親が,食事中の食品による誤嚥・窒息に気を配っていないことが示された。幼児にとって危険性が高いと感じる食の問題に食品の誤嚥・窒息を選択しなかった者に,3歳頃までピーナッツや飴等を与えてはいけないことを知らない,この問題に気をつけていない,食品表示を参考にするという特徴が見いだされ,また,食品添加物に対して否定的な考えを有している割合が高かった。結論 幼児の食のリスクを低減するための知識や習慣が十分に身についていない者が少なくなかったこと,また食品の誤嚥・窒息の危険性の認識が低い者は,食品添加物に否定的な考えを持ち,表示を参考にする一方で,食事中の幼児の誤嚥・窒息に気を配っていない等の特徴が示されたことから,母親へのリスクの考え方をとりいれた食の安全教育の必要性が示された。
著者
富岳 亮 田中 惠子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.395-400, 2013-04-01

はじめに Stiff-man/person症候群(SPS)は,1956年にMoerschとWoltmanが筋硬直と歩行障害を呈する13例に対してstiff-man症候群と命名した疾患である1)。1963年にはHoward2)が本症でジアゼパムが有効であることを初めて報告し,1971年には,病理学的に脳幹と脊髄に炎症所見を呈する例が報告された3)。 1999年,BrownとMarsdenはstiff-man症候群に加え,経過や主たる症候が異なるSPSを3群に分けてstiff-man plus症候群という名称を提唱した4)。すなわち,①亜急性の経過で生じる筋硬直・脳幹症状と進行性脳脊髄炎を呈するprogressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM),他の2群は比較的慢性の経過で,②脳幹由来のミオクローヌスを主とし四肢にも波及していくjerking stiff-man症候群と,③四肢末梢優位に有痛性痙攣と硬直を認め,特に下肢に優位で体幹の症状が少ないstiff-limb症候群を区別して示した。硬直が一側下肢から始まった場合stiff-limb症候群と診断される。多くの症例では経過とともに硬直は全身に広がっていくが,一部に下肢の硬直が際立っている症例が存在する。 SPSでは,経過中に種々の神経症候を呈する症例が存在しSPS-plusとされるが,Dalakas5,6)の経験では10%に小脳症状を伴い,5~10%にてんかん,眼球運動障害を伴う。SPSに小脳症状を伴う症例では,強い硬直と痙縮を呈し,小脳症状は体幹失調と構音障害,歩行は下肢と体幹に強い硬直を伴う運動失調性歩行を呈し,急速眼球運動の障害と追跡眼球運動障害,さらには水平注視時の眼振を認めた。以上のように,SPSは古典的なstiff-man症候群に加え,stiff-man plus症候群,さらに傍腫瘍症候群としてのSPSが加わり徐々に本症候群の概念が確立されていった。 本症では神経組織に炎症所見を生じる例があることから,ステロイドホルモン投与7),血漿交換療法が試行され8),奏効する例が報告されたことより,自己免疫学的機序の可能性について検討が加えられた。Solimena, De Camilliら9,10)はSPSの約60%にグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamate decarboxylase:GAD)に対する自己抗体の存在を見出した。また,悪性腫瘍を背景とし,SPSを呈する傍腫瘍性神経症候群で抗アンフィフィシン(amphiphysin)I抗体が検出された例が報告され11),縦隔腫瘍にSPSを合併した1例でゲフィリン(gephyrin)抗体が見出されたとの報告もある12)。
著者
田中 惠子
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.227-231, 2023 (Released:2023-08-21)
参考文献数
31

Newly identified autoantibodies in relation with autoimmune encephalitis have enabled the reclassification of diseases in neurology and psychiatry and its clinical scope has steadily grown. Many of them present with psychosis, memory disturbances, seizures, and movement disorders. Detection of disease–specific autoantibodies is useful for proper diagnosis and not missing immune therapy. Also, characterizing these antibody–binding antigens offer opportunities to investigate underlying pathogenesis of neurological features and understand general mechanisms of autoimmunity. However, the number of autoantibodies is increasing, which makes it difficult to use them as a diagnostic tool. Commercially available antibody–testing is limited to several autoantibodies. Others need to be sent to certain research laboratories. Additionally, several papers caution about frequently occurring false positive or false negative results and advise testing using several different detection techniques, such as brain tissue immunohistochemistry and live–cell based assays. It is crucial to think about the diagnosis of the patients very carefully not depending on only the results of the autoantibody–test, but rather observing detailed clinical features for proper treatments.
著者
石原 智彦 小澤 鉄太郎 根本 麻知子 新保 淳輔 五十嵐 修一 田中 惠子 西澤 正豊
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.141-143, 2007 (Released:2009-12-01)
参考文献数
8

イヌ回虫性脊髄炎は幼虫移行症の一つであり,まれな神経感染症である.症例は左半身のしびれ感にて発症した21歳女性で,頻回に生の牛レバー食歴があった.脊髄MRIで第4~8胸椎レベルに病変を認め,脳脊髄液中の好酸球出現と血清IgE上昇を認めた.血清,脳脊髄液中のイヌ回虫抗体価上昇を認め,イヌ回虫性脊髄炎と診断した.アルベンダゾールの内服で臨床症状は改善し,抗体価も低下した.脊髄炎の鑑別診断の一つにイヌ回虫性脊髄炎も考慮すべきと考え,報告する.
著者
松永 秀典 福森 亮雄 多田 敬典 田中 惠子
出版者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター(臨床研究支援センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

統合失調症や双極性障害の病因は未解明であるが、最近、神経伝達物質であるNMDAの受容体に対する自己抗体が、精神症状を伴う脳炎の原因となっていることが判明した。さらにこの自己抗体は、一部の統合失調症や睡眠障害にも見いだされており、この抗体がどのような疾患にどの程度関与しているかを幅広く調べる必要がある。しかし、現行の測定法は培養細胞を用いるため手間と時間がかかり、多検体を調べるには不向きである。本研究では、感度・特異性の高いラジオリガンドアッセイを用いて、多検体同時に抗NMDA受容体抗体を測定する方法を開発し、本抗体の病的意義の解明を目指している。
著者
大村 省吾 佐藤 友美子 田中 惠子
出版者
婦人之友社
雑誌
婦人之友
巻号頁・発行日
vol.102, no.6, pp.15-27, 2008-04
著者
田中 惠子 坂本 裕子
出版者
京都文教短期大学
雑誌
京都文教短期大学研究紀要 (ISSN:03895467)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.73-82, 2018-03-01

京都府南部の幼児を持つ母親を対象に食の安全に関わる調査を実施した。幼児の食のリスクを適切に認識していない者、リスクを低減するための知識や習慣が身についていない者が一定の割合存在した。食品添加物のリスクを知覚する者の特徴から、リスクの低い問題に対しリスクを知覚することが、実質的にリスクの高い問題への意識を低める可能性が示唆された。母親を対象として、リスクリテラシーを身に付けることを含めた食の安全教育の必要性が示された。