著者
舛田 ゆづり 田髙 悦子 臺 有桂 糸井 和佳 田口 理恵 河原 智江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1040-1048, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

目的 近年,高齢者の孤立死が都市部を中心に社会問題となっている。この問題に対し,地域の見守り活動を推進していくことは喫緊の課題であるが,見守り活動を担う住民組織が直面する課題や方策に焦点化して明らかにしたものは見当たらない。本研究では,今後の都市部における孤立死予防に向けた地域見守り活動推進における住民組織が有しているジレンマならびにそれらに対処する方略を住民組織の立場から明らかにし,今後の実践の示唆を得ることを目的とした。方法 対象は,A 市 b 区 c 地区(中学校区)で見守り活動の実績のある住民組織の代表14人である。研究デザインは,質的帰納的研究である。データ収集は,フォーカスグループインタビュー法(FGI)を用い,テーマは,住民組織が地域の見守り活動を進めていく上で感じている困難や課題等とし,計 3 回実施した。データ分析は,FGI の逐語録から単独で意味の了解が可能な最小単位の単語や文章をコードとして抽出し,次いでコードの類似性を勘案してサブカテゴリとし,さらにサブカテゴリを抽象化してカテゴリとした。結果 住民組織における見守り活動の推進に向けた課題と取組みは個人,近隣,地域の 3 領域に抽象化された。まず,ジレンマについては【見守りの拒否や無関心】,【若年層での孤立や閉じこもり】,【家族が見守りをしない】,【近隣住民の関係性の希薄】,【新旧住民がつながりにくい】,【近所付き合いへの負担感】,【プライバシー意識の高まりによる情報共有の困難】,【見守りの担い手や集う場の資源不足】の各カテゴリーが抽出された。また,方略については【地域の中で 1 対 1 の関係をつくる】,【地域の集まりや輪へ引き込む】,【さりげない日々の安否確認を行う】,【助けが必要な人の存在を知らせる】,【生活の中で互いに知り合う仕掛けをする】,【近隣単位の小さな見守りのシステムをつくる】,【行政と住民組織が連携し地区組織を活かす】,【地域住民の信頼感やつながりを育む】が抽出された。結論 地域の見守り活動の推進に向けては,各住民組織が互いの活動や存在についてより理解を深めるとともに,連携が推進されるような機会の開催や場(ネットワーク)の整え,あるいはそのような風土を地域につくっていくための検討が必要である。
著者
横川 公子 田口 理恵 角野 幸博 佐藤 浩司 笹原 亮二 森 理恵 井上 雅人 佐藤 健二
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

国立民族学博物館所蔵の大村しげコレクションは、元の所有者が日々の暮らしの中で蓄積した生活財のほぼ全容をもって構成される。今までの調査によって、個々の生活財について詳細な情報が記録され、全体像を表すエクセルファイルと画像データのCDを発行すると同時に、調査の過程で発見された特徴的な傾向や、研究者の問題意識にしたがってモノから見えてきた見解等について、『国立民族学博物館研究報告書SERS68』(2007.3)を発刊した。その主たる内容は以下のように一覧できる。「大村しげの都心居住」「収納家具とその中身の配置について」「おばんざいの道具立て」「おばんざいの流布について」「おばんざいの思想について」「大村しげの衣類・履物について」「文筆家としての大村しげの思想について」等々である。さらにもうひとつの課題である、生活主体が抱いているモノをめぐる生活の価値については、関係者へのインタビューと著作を参照することによって再現し、これについても取りまとめて公刊する(横川公子編『大村しげ京都町家暮らし』河出書房新社、2007.6予定)。以下のような見通しを得ることができた。所有者の生活の経時的変化に対応する生活財のまとまり、および生活財の空間的な所在を再現することによって、所有者と時間的・空間的な生活財の位置との関わりや暮らしの思想を再現できた。さらに拝観チケット・食べ物屋のメニューやチラシなどの遺品から、所有者のお出かけ行動の内容と京都市内外における行動範囲や行動スタイルが判明し、都心居住者としての生活を再現することができた。同様に、主にインタビュー調査とフィールド調査によって晩年に居住したバリ島における行動や行動範囲・行動スタイルを再現した。物書きとしての用品として大量の原稿や校正刷り、原稿用紙、筆記用具、著書など、及び父親の家業であった仕出し屋の道具類や多様な贈答品の蓄積から、京都や祇園という地域の固有の暮らしを再現、等々。モノと著作による暮らしの内側からの発信は、観光都市・京都イメージとは異なる、都会暮らしの現実感覚があぶりだされてくる。
著者
成田 香織 田髙 悦子 金川 克子 宮下 陽江 立浦 紀代子 天津 栄子 松平 裕佳 臺 有桂 河原 智江 田口 理恵 酒井 郁子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.16-22, 2011-03-18 (Released:2017-04-20)

目的:農村部における認知症予防に向けた介護予防事業への参加者と不参加者の特徴の相違を明らかにし,不参加者における適切な支援を含めた今後の介護予防のあり方を検討することである.方法:対象はA県在住の地域高齢者における認知症予防に向けた介護予防事業対象者(特定高齢者)94名(参加者47名,不参加者47名)である.方法は質問紙調査であり,基本属性,身体的特性(認知機能,生活機能),心理的特性(健康度自己評価),社会的特性(ソーシャルサポート)等を検討した.結果:参加群は平均年齢79.5(SD=5.8)歳,不参加群は82.0(SD=6.2)歳であり,基本属性に有意な差はみられなかった.不参加群は参加群に比して,認知機能の低い者の割合が有意に高く(p=0.03),手段的自立(p=0.02),知的能動性(p<0.001),社会的役割(p=0.07)が有意に低いもしくは低い傾向があった.また不参加群は参加群に比して,手段的サポートが低く(p=0.09),サポートが乏しい傾向があった.なお参加群の事業参加の動機は,孤独感の緩和や人とのつながりが最も多く,次いで,物忘れの重大さの自覚や将来の認知症への懸念などとなっていた.結論:農村部の認知症予防に向けた介護予防事業不参加者は参加者に比較して,生活習慣や対人交流の脆弱性があり,今後は,高齢者一人ひとりの特性やニーズに応じた参加への意欲や動機づけの支援が必要である.