- 著者
-
田村 善之
- 出版者
- 一般社団法人情報処理学会
- 雑誌
- 情報処理学会研究報告 (ISSN:09196072)
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, no.89, pp.55-61, 2004-09-02
知的財産法は,物理的に1人の者しかなしえない有体物の利用行為に対して排他権を認める所有権と異なり,物理的には誰もがなしうる行為に対して人工的に禁止権を設定する法技術であるから,他者の行動の自由を制約する度合いが強い。ために,インセンティヴ論で積極的に基礎付けることのできる知的財産法による権利を,私人の行動の自由を過度に規制することのないように制限する工夫が設けられているのである。たとえば,業として遂行される実施に限り特許権が及ぶとされていたり(特許68条),私的複製には著作権が及ばないとされていること(→第2編第6章III2 1)(2))など。この場合,どの限度まで権利者の利益を優先し,どの程度,私人の自由を確保するのかといった問題を検討する際には,インセンティヴの付与と私人の自由という2つの価値のバランスを衡量しなければならず,さらに,その際にはある人が創作したものである以上,私人の自由がある程度拘束されることになっても仕方がないという考慮も働くであろう。その結果,たとえば,著作権によって複製行為はある程度拘束されるが,読書は完全に自由となる(→第2編第6章III1 4)(2)a))などの落ち着き先が見つけられることになる。本報告では;こうした観点からインターネット時代の著作権制度の将来像を考察することにしたい。