著者
渡辺 正仁 早崎 華 由留木 裕子 渡辺 克哉
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.112-125, 2018-10-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
95
被引用文献数
3 2

マリファナは古代より治療に用いられているが,マリファナに含まれるカンナビノイドの主成分として向精神作用を持つΔ−9 tetrahydrocannabinol (THC)と持たないカンナビジオール(cannabidiol; CBD)がある.近年,向精神作用を持たないCBD が様々な治療効果を示すことから注目されている.カンナビノイドは多様な受容体を介してその作用を発揮する.カンナビノイド受容体としていずれもG 蛋白共役型受容体であるCB1 とCB2 があるが,CB1 受容体は主に神経細胞に発現しており神経伝達を調整している.CB2 受容体は中枢神経外の非神経細胞,特にリンパ球やマクロファージに発現している.CBD はこれらの受容体以外にGPR55,TRP,5-HT,およびPPAR 受容体を介してその作用を発揮すると考えられており,抗炎症作用,鎮痛作用,制吐作用,抗不安作用や糖尿病,癌,アルツハイマー病などの予防や治療の有効性が報告されている.ここでは,CBD の治療効果とその作用機序について述べる.
著者
由留木 裕子 岩月 宏泰 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.111-120, 2015-08-01 (Released:2016-09-01)
参考文献数
27
被引用文献数
3

健常者を対象にどの程度のラベンダー精油吸入で脊髄神経運動ニューロンの興奮性を抑制できるのかについて検討した。方法は濃度0%, 1%, 10%のラベンダーを2分間吸入させF波測定を行った。さらにラベンダー精油が脊髄神経運動ニューロンと自律神経にどのような影響を与えるのかについて検討した。濃度10%のラベンダーを10分間吸入, F波と同時に平均心拍数と心拍変動を測定した。これらの結果, 濃度1%と10%のラベンダー, 2分間の吸入は脊髄神経運動ニューロンの興奮性に影響を与えなかったが, 濃度10%, 5分の吸入で有意な抑制効果が認められた。また, ラベンダーが脊髄神経運動ニューロンを抑制する機序に関しては, 副交感神経が関与する可能性が示唆された。
著者
渡辺 正仁 早崎 華 由留木 裕子 渡辺 克哉
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.112-125, 2018
被引用文献数
2

<p><tt>マリファナは古代より治療に用いられているが,マリファナに含まれるカンナビノイドの主成分として向精神作用を持つΔ−</tt>9 tetrahydrocannabinol (THC)<tt>と持たないカンナビジオール(</tt>cannabidiol; CBD<tt>)がある.近年,向精神作用を持たない</tt>CBD <tt>が様々な治療効果を示すことから注目されている.カンナビノイドは多様な受容体を介してその作用を発揮する.カンナビノイド受容体としていずれも</tt>G <tt>蛋白共役型受容体である</tt>CB1 <tt>と</tt>CB2 <tt>があるが,</tt>CB1 <tt>受容体は主に神経細胞に発現しており神経伝達を調整している.</tt>CB2 <tt>受容体は中枢神経外の非神経細胞,特にリンパ球やマクロファージに発現している.</tt>CBD <tt>はこれらの受容体以外に</tt>GPR55<tt>,</tt>TRP<tt>,</tt>5-HT<tt>,および</tt>PPAR <tt>受容体を介してその作用を発揮すると考えられており,抗炎症作用,鎮痛作用,制吐作用,抗不安作用や糖尿病,癌,アルツハイマー病などの予防や治療の有効性が報告されている.ここでは,</tt>CBD <tt>の治療効果とその作用機序について述べる.</tt></p>
著者
渡辺 正仁 由留木 裕子 有末 伊織 藤田 浩之 出田 めぐみ 西井 正樹 築山 邦男 渡辺 克哉
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.160-174, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)
参考文献数
40
被引用文献数
1

今日,一般に「酸化ストレス」と言われる活性酸素種による障害が種々の疾患に関与することが明らかになってきている.生理学的に酸素を使う中で,活性酸素種は発生する.他方,これまで生体にとって不活性で機能を持たないと考えられてきた分子状水素がヒドロキシラジカルやペルオキシナイトライトなど,特定の活性酸素種と反応することが発見されて以来,多くの研究成果が蓄積されつつある.本稿では活性酸素種と水素療法に関するこれまでの知見を概観し,水素療法理解の基礎としたい.
著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.96-100, 2013-04-20 (Released:2018-04-12)
参考文献数
14

【目的】ラベンダーの刺激が筋緊張にどのような影響を及ぼすのか,筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて,上肢脊髄神経の興奮性に与える影響をあきらかにすることである。【方法】嗅覚に障害がなく,アロマの経験のない健常者10名(男性7名,女性3名),平均年齢25.9±6.0歳。コントロール群9名(男性6名,女性3名),平均年齢29.1±8.8歳。被験者を背臥位にし匂いのない状態とラベンダーの匂いのある状態でF波を測定した。実験後,香りの好き,嫌いについてのアンケート調査を行った。【結果】出現頻度においては,吸入終了後5分と10分の出現頻度は,安静時と比較して有意に低下した。ラベンダー吸入開始時,吸入1分後の振幅F/M比は安静時と比較して有意に増加した。アンケート調査の結果,対象者全員好きな香りであると答えた。【結論】アロマ未経験者において,ラベンダー刺激終了後に上肢脊髄神経の興奮性が低下する。そのため,筋緊張の抑制を目的とする場合はラベンダー刺激終了後に筋緊張を抑制するアプローチを行えば筋緊張をより低下させる効果が得られる可能性があると考える。
著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1060, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 アロマテラピーは芳香療法とも呼ばれ、代替療法として取り入れられるようになってきた。アロマテラピーは、リラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマテラピーが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。本研究では鎮静作用や、抗けいれん作用があると言われているラベンダーの刺激が筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて、上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響を検討した。【方法】 対象は嗅覚に障害がなく、アロマの経験のない右利きの健常者10名(男性7名、女性3名)、平均年齢25.9±6.0歳とした。方法は以下のとおり行った。気温24.4±0.8℃と相対湿度64.3±7.1%RHの室内で、被験者を背臥位で酸素マスク(コネクターをはずしマスクのみの状態)を装着し安静をとらせた。その後、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼とした。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3滴、滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。香りの強度が70.7±7.7のビニール袋をマスクに装着し2分間自然呼吸をおこない、F波測定を吸入開始時、吸入1分後、ビニール袋をはずし吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、kolmogorov-Smirnov検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討し、安静時試行と各条件下の比較をwilcoxonの符号付順位検定でおこなった。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 出現頻度においては、安静時と比較して吸入開始時、吸入1分後ともに増加傾向を示した。安静時と比較して吸入10分後は有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加した(p<0.05)。吸入終了直後からは安静時と比較して低下する傾向にあった。立ち上がり潜時は、ラベンダー吸入前後での変化を認めなかった。【考察】 本研究より、ラベンダー吸入中は出現頻度、振幅F/M比が促通され、吸入後は抑制された。出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性の指標といわれている。そのため、本研究結果から、吸入開始時、吸入1分後には脊髄神経機能の興奮性が増大し、吸入後には抑制されたと考えることができる。吸入開始時、吸入1分後の脊髄神経機能の興奮性増大に関しては以下のように考えている。小長井らによると、ラベンダーの香りの存在下では事象関連電位P300の振幅がコントロール群と比較して増加したとの報告されている。事象関連電位P300は認知文脈更新の過程を反映するとされており、振幅の増大は課題の遂行能力が高いことを示している。感覚が入力され、脳内で知覚、認知、判断され、行動を実行するという能力が高いということであると考える。行動を実行するには運動の準備状態が保たれていることが推測され、脊髄神経機能の興奮性が高まっていることが考えられた。この報告と本研究結果から、ラベンダーの吸入時には大脳レベルの興奮性の増加が促され、その結果、脊髄神経機能の興奮性が増大したと考えることができた。脊髄神経機能の興奮性が吸入後から抑制されたことについては、ラベンダーが体性感覚誘発電位(SEP)に及ぼす影響を検討した研究で、ラベンダー刺激中から刺激後に長潜時成分の振幅が持続的に低下したと報告されている。これは、ラベンダーの匂い刺激が嗅覚系を介して脳幹部、視床、大脳辺縁系および大脳にそれぞれ作用し、GABA系を介して大脳を抑制したものと考えられた。今回の被験者は、アロマ未経験者を対象にしたが、アロマ経験者での結果と異なることも想定できる。また、アロマの種類によっても、効果の違いがあることが考えられる。今後、研究を行うことで、運動療法に適したアロマを取り入れ、新しい形の理学療法を展開したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 アロマ未経験者を対象とした筋緊張に対するラベンダーを用いたアプローチは以下のように考えることができる。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。
著者
岩月 宏泰 由留木 裕子 文野 住文 中村 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに】近年,本邦では医療や福祉の領域でも雇用就業形態や若者を中心とした職業観の変化が急速に進み,理学療法士を確保したい施設や企業のニーズとの間に解離が生じている。このため,理学療法士養成校では各方面との連携を深め,企業などの最新の情報や人材についてのニーズを把握する必要がある。また,在学中の学生に,将来従事する仕事や職場の状況を理解させ,自己の職業適性,職業生活設計について考える機会を与えることが不可欠である。例えば,理学療法士養成校や地域の実情に応じて,就業やボランティアの体験,卒業生との対話など多様な機会を与えることも前述の目的を達成する上で有用と考えられる。これまで理学療法学生が入学時から卒業までにどのような過程を経て就業意識を培うか,入職後の職業生活に対する適応力を高める教育方法に言及した報告は少ない。今回,理学療法学生の職業生活に対する意識について,質問紙調査の結果から学年別特徴を明らかにし,卒業後に社会的・職業的自立が可能となるような教育的方策について検討した。【説明と同意】本研究の対象者には,青森県立保健大学研究倫理委員会の指針に従って,予め調査の趣旨を説明し了承した上で実施した。また,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記され,集められた調査票は研究者が入力し,入力後はシュレッダーで裁断した。【方法】対象は青森県,北海道及び高知県に所在する理学療法学専攻の大学及び4年制専修学校に在籍する学生のうち,回答した569名(1年生146名,2年生143名,3年生143名及び4年生137名)であった。調査(留め置き法)時期は2011年6~9月と2013年6月の2回であり,調査票は基本属性,職業志向尺度(若林1983,12項目),成人キャリア成熟尺度(坂柳1999,9項目),職業決定尺度(研究者が作成,4項目)ほかで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,各測定尺度の下位尺度別に集計を行い,学年別比較には多重比較検定(Tukey法)を実施した。なお,各々の下位尺度間でPearson相関係数を算出した。【結果と考察】職業志向尺度の下位尺度のうち,「労働条件」と「人間関係」では学年差を認めなかった。しかし,「職務挑戦」については1~3年生が12.5点台であったが,4年生で11.7±2.8点と下位3学年より有意な低値を示した。また,成人キャリア成熟尺度の「関心性」には学年差を認めなかったが,「自律性」と「計画性」で4年生が下位3学年より有意な低値を示した。なお,職業決定尺度では学年差を認めなかったが,4年生における成人キャリア成熟尺度の下位尺度との相関係数は「関心性」0.27,「自律性」0.22及び「計画性」0.45(p<0.05)であった。1~3年生では学年進行に伴い,自己のキャリアに対して積極的な関心を持ち,それに対する取り組み姿勢も自律的と考えられるので,職業観や職業意識を高める啓発活動の継続性が重要と考えられた。一方,成人キャリア成熟尺度の学年別比較では「自律性」と「計画性」について,4年生では下位学年より有意な低値を示し,職業志向尺度の「職務挑戦」でも同様の結果を認めたことから,彼らには職業生活設計に対する積極的な関心が見出されず,社会的・職業的自立するためのレディネスの確立が遅れていることが推察された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,4年生が下位学年より「職務挑戦」やキャリア形成で重要な位置を占める「自律性」と「計画性」で消極的な態度を示した事から,長期休暇や入職前に理学療法職場でインターンシップを体験させるなどの機会を与えることで,主体的に選択する職業観や就業意識を育成する必要性が示唆された。
著者
由留木 裕子 鈴木 俊明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1060-Ab1060, 2012

【はじめに、目的】 アロマテラピーは芳香療法とも呼ばれ、代替療法として取り入れられるようになってきた。アロマテラピーは、リラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマテラピーが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。本研究では鎮静作用や、抗けいれん作用があると言われているラベンダーの刺激が筋緊張の評価の指標といわれているF波を用いて、上肢脊髄神経機能の興奮性に与える影響を検討した。【方法】 対象は嗅覚に障害がなく、アロマの経験のない右利きの健常者10名(男性7名、女性3名)、平均年齢25.9±6.0歳とした。方法は以下のとおり行った。気温24.4±0.8℃と相対湿度64.3±7.1%RHの室内で、被験者を背臥位で酸素マスク(コネクターをはずしマスクのみの状態)を装着し安静をとらせた。その後、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼とした。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3滴、滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。香りの強度が70.7±7.7のビニール袋をマスクに装着し2分間自然呼吸をおこない、F波測定を吸入開始時、吸入1分後、ビニール袋をはずし吸入終了直後、吸入終了後5分、吸入終了後10分、吸入終了後15分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。統計学的検討は、kolmogorov-Smirnov検定を用いて正規性の検定を行った。その結果、正規性を認めなかったために、ノンパラメトリックの反復測定(対応のある)分散分析であるフリードマン検定で検討し、安静時試行と各条件下の比較をwilcoxonの符号付順位検定でおこなった。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】 出現頻度においては、安静時と比較して吸入開始時、吸入1分後ともに増加傾向を示した。安静時と比較して吸入10分後は有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1分後は安静時と比較して有意に増加した(p<0.05)。吸入終了直後からは安静時と比較して低下する傾向にあった。立ち上がり潜時は、ラベンダー吸入前後での変化を認めなかった。【考察】 本研究より、ラベンダー吸入中は出現頻度、振幅F/M比が促通され、吸入後は抑制された。出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性の指標といわれている。そのため、本研究結果から、吸入開始時、吸入1分後には脊髄神経機能の興奮性が増大し、吸入後には抑制されたと考えることができる。吸入開始時、吸入1分後の脊髄神経機能の興奮性増大に関しては以下のように考えている。小長井らによると、ラベンダーの香りの存在下では事象関連電位P300の振幅がコントロール群と比較して増加したとの報告されている。事象関連電位P300は認知文脈更新の過程を反映するとされており、振幅の増大は課題の遂行能力が高いことを示している。感覚が入力され、脳内で知覚、認知、判断され、行動を実行するという能力が高いということであると考える。行動を実行するには運動の準備状態が保たれていることが推測され、脊髄神経機能の興奮性が高まっていることが考えられた。この報告と本研究結果から、ラベンダーの吸入時には大脳レベルの興奮性の増加が促され、その結果、脊髄神経機能の興奮性が増大したと考えることができた。脊髄神経機能の興奮性が吸入後から抑制されたことについては、ラベンダーが体性感覚誘発電位(SEP)に及ぼす影響を検討した研究で、ラベンダー刺激中から刺激後に長潜時成分の振幅が持続的に低下したと報告されている。これは、ラベンダーの匂い刺激が嗅覚系を介して脳幹部、視床、大脳辺縁系および大脳にそれぞれ作用し、GABA系を介して大脳を抑制したものと考えられた。今回の被験者は、アロマ未経験者を対象にしたが、アロマ経験者での結果と異なることも想定できる。また、アロマの種類によっても、効果の違いがあることが考えられる。今後、研究を行うことで、運動療法に適したアロマを取り入れ、新しい形の理学療法を展開したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 アロマ未経験者を対象とした筋緊張に対するラベンダーを用いたアプローチは以下のように考えることができる。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に理学療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。