著者
矢後 勝也 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.181-184, 2002
参考文献数
11

2001年4月23日,福岡市西油山にて採集されたウラギンシジミCuretis acuta Moore,1877の越冬個体1♀を用いて採卵実験を行ったところ,蔵卵数と生存日数に関する著しい結果が得られた.この個体はやや汚損していたが,翅型は明らかに秋型の特徴を表わしており,前年秋に羽化した越冬個体と判断された.筆者らは本個体を用いて,原則として1日おきに採卵実験を行った.実験にはナイロン製のネットでできたケージを使用し,食草としてフジの新芽を入れ,午後の一定時間に高さ約1mの屋外で採卵した.また採卵時以外の時間帯はインキュベーター(20±1℃;14L-10D)による室内保管を行った.その結果,本個体は捕獲後87日間生存し,その間の産卵総数は343卵を記録した.本個体の産卵能力のピークは4月下旬から5月上旬で,その後,日々の経過につれて産卵数の減少が見られたが,7月中旬に死亡するまで本個体は確実に有精卵を産んでいた.本種の越冬♀は神奈川県や九州では3月下旬から産卵を始めるといわれており,それゆえ本個体も採集以前の時点で,すでにかなりの卵を産んでいたと想像される.本種の♀は条件が整えば,おそらく約400卵あるいはそれ以上の産卵能力を持つものと考えられる.本個体は明らかに越冬個体であるので,その羽化は前年の9月から10月に行われたとすると,本個体は10から11ヶ月間生きていたと考えられる.筆者らが知る限り,多化性かつ成虫越冬するチョウでこのような長期生存するものは,国内ではクロコノマチョウMelanitis phedima(Cramer,1780)(法西,1996,2001;白水,2000;石島・中島,2001;森田,2001)を除いて他にいない.
著者
山内 健生 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.243-246, 1999-09-30
被引用文献数
1

Gandaca harina simukensis Yamauchi et Yata,ssp.nov.インドネシアのメンタワイ諸島バツ群島のシムク島からGandaca harinaの一新亜種,simukensis ssp.nov.を記載した.本亜種は,雄の翅が淡いレモン色であること,雌の翅表が淡いクリーム色,裏が黄色みを帯びた淡いクリーム色であること,雌雄前翅表面の黒帯の巾が極めて狭く一様であることなどから,原名亜種と容易に区別できる.特に,本亜種の雌に見られる前翅表面の非常に狭い黒帯は他のいずれの亜種にも見られない.本亜種の雌雄交尾器の形態は,Gandaca harinaの種内変異の幅に含まれた.
著者
大島 康宏 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.297-302, 2005

Eliot (1969)によって認められたミスジチョウ亜族の属Pantoporiaに含まれるオーストラリア区固有のPantoporia venilia (Linnaeus, 1758)を, 特に雌雄交尾器の形態によって再検討した.その結果, P. veniliaは, Igarashi & Fukuda (1997)によって報告された特異な幼虫の形態と寄主植物に加えて, 成虫の形態に今まで知られていない注目すべき特徴を持つことが見出された.これらの形態ならびに生態的特徴はPantoporiaに近縁と言われているLasippaやこれらの属を含むNeptinaの他の諸属である, Neptis, Phaedyma, Aldaniaと比較してもきわめて特異なものであり, 本種をNeptinaにおける独立の属として扱う十分の資格があると考えられた.Scudderは, 1875年に本種をすでに属Acca Hubner, 1819のタイプ種として指定しているので, 本種を模式種とするAcca Hubner, 1819を復活し, 本種に対してAcca venilia (Linnaeus, 1758)の学名を使用することを提案する.
著者
加藤 義臣 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.171-183, 2005-06-20
被引用文献数
2

Brown and yellow types in the forewing fringe color in the so-called "Eurema hecabe (L.)" show sympatric distribution on Okinawajima Island in the Ryukyu Islands and occurrence of their characters is closely linked with seasonal wing morph expression and host plant use (Kato, 2000a, b). Further, these sympatric types are sexually isolated at the level of behavior (Kobayashi et al., 2001). In the present study, distribution pattern of these two types was investigated in southwestern Japan (16 sites) and Taiwan (3 sites) and their taxonomic status was reevaluated. In Amami-Oshima, Kuroshima, Kumejima, Taketomijima, Iriomotejima and Yonagunijima Islands, only the brown type was found while in Kagoshima-shi, and Okinoerabujima, Yoronjima and Tokashikijima Islands, only the yellow type was seen. Sympatric distribution of the two types was found in Tokunoshima, Okinawajima, Miyakojima, Ishigakijima and Haterumajima Islands, and Taiwan. The fringe color type was linked with seasonal wing morph expression and host plant use in all populations, as shown in previous papers (Kato, 2000a, b). These results strongly suggest that the two types have differentiated at the species level. The examination of the lectotype of Papilio hecabe Linnaeus, 1758 revealed that it was the brown type. Based on these, we here propose that the yellow type butterflies belong to a different species, Eurema sp.
著者
緒方 一夫 多田内 修 粕谷 英一 矢田 脩
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、アリ類を生物多様性のバイオインディケーターとして用いることを上位の目的に、(1)調査方法の比較検討、(2)分類学的基盤、(3)分析評価方法などの諸問題を研究課題とした。(1)については様々な調査方法について比較し、採集種数、サンプリング特性、地域アリ群集特性の検出力等について検討した。その結果、単位時間調査法が限られた時間の中で比較的多くの種を収集できることが明らかとなった。ただし採集者の経験の違いによる調査結果の質に問題があり、その弱点は適切なインストラクションである程度補完できることが実証された。(2)については、日本産アリ類276種について、分布調査の取りまとめ等に活用できるようにエクセル形式でのダウンロード版チェックリストを公開した。このリストおよび世界のアリの学名についてとりまとめたものを携帯版の印刷物として準備した。この他、いくつかの分類群について整理しその成果を公表している。(3)については森林生態系や農業生態系のアリ群集を対象に、種数、種類組成、頻度、類似度などについて検討し、多変量解析による多様性の研究を実施した。その結果、連続林では森林の成長にかかわらずアリ群集の組成は変化が小さいこと、孤立林ではその成因や攪乱の程度によりアリ群集の組成は大きく異なることが示されてた。農業生態系では土壌の理化学的性質と種数について調査したが、有為な関係は示され得なかった。サトウキビ畑のような永年性作物圃場では、緯度傾斜と植え付け後徐々に種数が増加するパターンが見られた。また、アリ類の多様性と他の生物群との多様性の関連について、とくに知見が蓄積されているチョウ類との関連を検討した。その結果、局所的にアリの種数とチョウの種数が一致するような地域もあるけれども、この現象は必ずしも普遍的ではないことが示唆された。これらより、アリ群集のバイオインディケーターとしての価値は生態系指標にあること、すなわち攪乱や孤立性の程度を表す生物群としての利用可能性が示唆された。
著者
加藤 義臣 矢田 脩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.171-183, 2005
参考文献数
31
被引用文献数
2

Brown and yellow types in the forewing fringe color in the so-called "Eurema hecabe (L.)" show sympatric distribution on Okinawajima Island in the Ryukyu Islands and occurrence of their characters is closely linked with seasonal wing morph expression and host plant use (Kato, 2000a, b). Further, these sympatric types are sexually isolated at the level of behavior (Kobayashi et al., 2001). In the present study, distribution pattern of these two types was investigated in southwestern Japan (16 sites) and Taiwan (3 sites) and their taxonomic status was reevaluated. In Amami-Oshima, Kuroshima, Kumejima, Taketomijima, Iriomotejima and Yonagunijima Islands, only the brown type was found while in Kagoshima-shi, and Okinoerabujima, Yoronjima and Tokashikijima Islands, only the yellow type was seen. Sympatric distribution of the two types was found in Tokunoshima, Okinawajima, Miyakojima, Ishigakijima and Haterumajima Islands, and Taiwan. The fringe color type was linked with seasonal wing morph expression and host plant use in all populations, as shown in previous papers (Kato, 2000a, b). These results strongly suggest that the two types have differentiated at the species level. The examination of the lectotype of Papilio hecabe Linnaeus, 1758 revealed that it was the brown type. Based on these, we here propose that the yellow type butterflies belong to a different species, Eurema sp.
著者
湯川 淳一 緒方 一夫 多田内 修 矢田 脩 上野 高敏 紙谷 聡志 加藤 内蔵進 鈴木 英治 鎌田 直人 秋元 信一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

現在、地球上では、人間が行う様々な営みによる複合的な要因によって、急激な温暖化やオゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染など深刻な問題が生じており、それらに伴う野生生物種の絶滅や森林面積の減少、砂漠化などが危倶されている。とくに温暖化については、人間が排出する二酸化炭素やメタンなどを含む温室効果ガスの濃度が急激に上昇しており、そのため地球上の平均気温は年々上昇し、今後もそれが長く続くことが予想されている。昆虫類に対する気候温暖化の影響を整理するために、本報告では、最初に、地球温暖化と日本の気侯変動に関する背景について概観し、エルニーニョ現象や華南付近の下層南風域の拡大過程などを勘案しながら、日本付近の暖冬や梅雨、降雪など、地球温暖化にも関連した日本の夏や冬の異常気象、とくに、季節進行の異常について言及した。昆虫に及ぼす温暖化の影響については、発育ゼロ点や1世代に必要な発育有効積算温量に基づく年間世代数の増加と、チョウなどに見られる北方への分布域の拡大という二つの観点から取り上げられることが多かったが、本研究では、上記の2つに加えて、昆虫と寄主植物とのシンクロナイゼイションという観点からも、温暖化の影響について論じることの必要性を強調した。さらに、地球温暖化は農業生態系の構成種、とくに、捕食寄生性昆虫の行動や生存率などにも様々な影響を及ぼすことが懸念されることについても考察を行った。そして、これらの影響が昆虫類の局地的な絶滅、ひいては生物多様性の低下をもたらすことについても言及した。