著者
加藤 内蔵進 松本 淳 岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1219-1234, 1995-12-25
参考文献数
34
被引用文献数
7

中国東部の大陸上のCb群(直径100m以上の積乱雲群)の出現状況、及びその日変化に関連した地表面温度や総観場の特徴について、1979年6〜8月のデータに基づく解析を行った。大陸上の梅雨前線帯の位置や特徴の季節遷移に準拠して、"Pre-Meiyu"(6月1〜17日、梅雨前線の華中への北上前)、"Meiyu"(6月20日〜7月22日、華中の梅雨最盛期)、"Mid-summer"(7月23日〜8月17日、華中の盛夏期)の3つの期間について調べた。主な結果は次の通りである。(1)"Meiyu"期の華中では昼夜を問わずCb群が多数出現したが、"Meiyu"期に梅雨前線帯北方に位置する華北・中国東北区(Area N1)や盛夏期の華中(Area C2)でも、12 UTC(北京標準時で20時)頃ピークとなる顕著な日変化を伴って、Cb群が多数出現した。(2)梅雨前線帯と寒帯前線帯にはさまれる"Meiyu"期の Area N1では、動きの遅い上層トラフに対応する大規模システムの雲域に組み込まれる形で、日変化するCb群が出現しやすかった。この時期にはまだ梅雨前線帯の北側にある本地域でも、梅雨前線帯が華南から華中へと北上した6月20日頃を境に、下層の比湿が増加した。この比湿の増大は湿潤対流に対する安定度の悪化をもたらし、上層トラフ接近、日中の地面加熱と組合わさって、日変化するCb群の頻出に好都合な気候学的条件を作ったものと考えられる。(3)盛夏期("Mid-summer")の華中(Area C2)では、亜熱帯高気圧に覆われ、かつマクロスケールでの領域平均の下層発散が夕方に強い傾向にも関わらず、Cb群出現頻度が夕方にピークをもつ日変化を示した。本地域で特に高い日中の地表面温度による加熱は、強い対流不安定を顕在化させるトリガーとしてのメソスケールでの上昇流を与える可能性があり、今後の検証が必要である。
著者
加藤 内蔵進 青梨 和正
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

中国から直接入手した広域の日降水量や鉛直高分解能高層気象データ等や、人工衛星のマイクロ波放射計データ(SSM/I)から評価した降水量分布の解析等により、次の興味深い結果が明らかになった。1.1991年には、梅雨前線の長江・淮河流域での停滞が多く、特に淮河大洪水のあった7月前半には、位置もあまり変えずに半月も停滞した。その期間の前線帯は、約200kmの南北幅を持つ「広域大雨帯」(日雨量50ミリ以上)として維持されていた点が注目される。この期間は、前線帯の南側からの多量の水蒸気流入に対し北側からの流出は他期間に比べても小さく、前線帯スケールでの効率的な水蒸気収束と降水の集中化が示唆される。このような前線帯規模での降水分布の集中性は、過去35年ぐらいの中でも特に顕著であった可能性がある。2.日本列島で異常冷夏・大雨だった1993年には猛暑・渇水年の94年に比べて、梅雨前線帯でのSSM/Iで評価した総降水量の大変大きな期間が8月も含めて頻繁に出現し、また、台風に伴う降水の寄与も少なくなかった。このような状況は、1993年の梅雨前線帯では地上付近の南北音頭頻度が平年より大変大きく、南偏した上層の寒冷トラフの南縁と重なっており、また、60N以北の寒帯前線帯とは明瞭に分離した傾圧帯として維持されていた点が関連していたものと考えられる。SSM/Iにより算定した水蒸気量や降水量の情報は、日本周辺のメソ降水システムの数値予報モデルの初期値として、インパクトが大きいことがわかった。(1988年7月中旬頃の例)。4.1994年の中部・東日本では、秋には台風・秋雨前線により渇水が緩和されたが、95年には逆に秋に深刻化した。アノマリーの季節経過過程は、年によってかなり異なる可能性があり、今後解決すべき重要な問題が提起された。
著者
加藤 内蔵進 松本 淳 武田 喬男
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1.梅雨前線帯付近の広域水収支過程の解析の一環として、人工衛星のマイクロ波放射計データ(SSM/Iの19.35GHzと85.5GHz)に基づき、Liu and Curry(1992)のアルゴリズムを用いて、海上も含めた前線帯付近の降水量分布を評価した。日本列島で冷夏・大雨だった1993年と猛暑・渇水に見舞われた1994年暖候期等を例に解析を行ない、次の点が明らかになった。(1)梅雨前線が日本付近で特に活発であった93年7月初めには、東シナ海〜日本列島で5日雨量140ミリを越える大雨域が南北約300kmと広域に広がり、その南北の少雨域との間のきわだったコントラストが明らかになった。気象庁のレーダーアメダス合成データのある日本近傍で比較すると、それと良く一致していた。(2)このような特徴を持つ降雨分布が、93年には8月も含めて出現しやすかったのに加え、台風に伴う降水量も多かったが、94年は梅雨前線帯の位置が93年に比べ北偏したのみでなく、そこでの降水量自体も少ない傾向にあったことが分かった。(3)93年は、平年に比べて梅雨前線帯付近での下層の頃圧性は大変強く、前線帯での降水の強化と集中に関しては、南からの多量の水蒸気輸送に加えて、なんらかの傾圧性の役割も大きかったものと考えられる。2.前線帯スケール水収支過程におけるメソα降水系の役割評価の前段階として、1996年6〜7月における種子島周辺域での別途経費による集中豪雨特別観測データも利用して、期間中の前線帯とメソα降水系の振舞いの概要を調べた。その結果、(1)梅雨期にしては希なぐらい発達した低気圧に伴う寒冷前線付近の現象、(2)九州南部で発生・発達した積乱雲群の集団から、メソα低気圧の種が形成され中部日本の前線帯の水循環にも大きな影響を与えた例、等、今後の相互比較解析のための特に興味深い事例を抽出できた。
著者
加藤 内蔵進 松本 淳 武田 喬男 塚本 修
出版者
岡山大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

人工衛星のマイクロ波放射計データ(SSM/Iの19.35GHzと85.5GHz)に基づき,海上も含めた梅雨前線帯付近の広域降水量分布とその変動を評価するとともに,GNS雲データによる雲量や深い対流雲域の出現頻度,及び全球解析データによる水蒸気収支との関係について冷夏・大雨/猛暑・渇水(1993/1994)年の夏を中心に解析を行ない,次の点が明らかになった。1.1993年には,8月に入っても日本付近で梅雨前線帯に対応する降水域が持続したが,前線帯の位置の違いだけでなく,そこでの総降水量自体が1994年に比べて大変多く,それは,例えば5日雨量100ミリを越える「大雨域」の面積の違いを大きく反映したものである事が明らかになった。2.1993年の夏の多量の降水は,すぐ南の(〜28N)亜熱帯高気圧域からの大きな北向き水蒸気輸送により維持されていたが,日本の南の亜熱帯高気圧域内で〜28Nに近づくにつれて北向きの水蒸気輸送が急激に増大しており,単にグローバルな東アジア域への水蒸気輸送とは別に,亜熱帯高気圧自体の水輸送構造の違いが両年の降水分布の違いに密接に関連している事が明らかになった。3.7〜8月頃の梅雨前線停滞時には,1993年についても,5日雨量で見た広域の「大雨」には深い対流雲群の頻出が大きな寄与をなしていたが,台風が日本海まで北上した時には,大規模場の層状雲域である〜38N以北においても,その南側の対流雲域と同等な「広域の大雨」が見られるなど,冷夏年における梅雨前線と台風の水の再分配過程の興味深い違いが明らかになった。また,いくつかの興味深い事例について,個々の降水系のマルチスケール構造とライフサイクルについても検討を行った。
著者
湯川 淳一 緒方 一夫 多田内 修 矢田 脩 上野 高敏 紙谷 聡志 加藤 内蔵進 鈴木 英治 鎌田 直人 秋元 信一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

現在、地球上では、人間が行う様々な営みによる複合的な要因によって、急激な温暖化やオゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染など深刻な問題が生じており、それらに伴う野生生物種の絶滅や森林面積の減少、砂漠化などが危倶されている。とくに温暖化については、人間が排出する二酸化炭素やメタンなどを含む温室効果ガスの濃度が急激に上昇しており、そのため地球上の平均気温は年々上昇し、今後もそれが長く続くことが予想されている。昆虫類に対する気候温暖化の影響を整理するために、本報告では、最初に、地球温暖化と日本の気侯変動に関する背景について概観し、エルニーニョ現象や華南付近の下層南風域の拡大過程などを勘案しながら、日本付近の暖冬や梅雨、降雪など、地球温暖化にも関連した日本の夏や冬の異常気象、とくに、季節進行の異常について言及した。昆虫に及ぼす温暖化の影響については、発育ゼロ点や1世代に必要な発育有効積算温量に基づく年間世代数の増加と、チョウなどに見られる北方への分布域の拡大という二つの観点から取り上げられることが多かったが、本研究では、上記の2つに加えて、昆虫と寄主植物とのシンクロナイゼイションという観点からも、温暖化の影響について論じることの必要性を強調した。さらに、地球温暖化は農業生態系の構成種、とくに、捕食寄生性昆虫の行動や生存率などにも様々な影響を及ぼすことが懸念されることについても考察を行った。そして、これらの影響が昆虫類の局地的な絶滅、ひいては生物多様性の低下をもたらすことについても言及した。