著者
矢部 辰男
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.19-22, 2006-03-31

明治時代の小笠原に関する文献に見られる「水鼠」とはどのようなネズミを指すのか、文献をとおして考察した。その結果、これはドブネズミを指し、またこれが小笠原に移入されたのは江戸時代であると推測された。
著者
神戸 嘉一 武田 美加子 土屋 公幸 吉松 組子 鈴木 仁 鈴木 莊介 矢部 辰男 中田 勝士 前園 泰徳 阿部 愼太郎 石田 健 谷川 力 橋本 琢磨
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.289-299, 2013

クマネズミはthe <i>Rattus rattus</i> species complexとも称され,複数の種からなる種複合体である.日本には古くに移入した東アジア地域起源の<i>Rattus tanezumi</i>(2n=42)に加え,新規に移入したインド地域が起源の<i>R. rattus</i>(2n=38)の2系統が存在する.本研究ではこれらクマネズミ系統の日本列島における分布および移入の歴史を把握することを試みた.毛色関連遺伝子<i>Mc1r</i>(954 bp)をマーカーとし,奄美大島産を含む36個体の塩基配列データを新規に収集し,既存の配列データと合わせ,日本列島の17地点,さらに比較対象として用いたパキスタン産を含め,総計133個体のデータを基に系統学的解析を行った.その結果,小樽,小笠原諸島および東京の3地域で<i>R. rattus</i>型が認められ,これらの地点では<i>R. tanezumi</i>型とのヘテロ接合体も存在した.これらの結果から,既存系統への浸透交雑が一部の市街部,港湾部および離島で進行している実態が明示された.一方,琉球列島の自然林では,<i>R. rattus</i>型の<i>Mc1r</i>ハプロタイプは認められなかった.これは,新たな外来系統<i>R. rattus</i>の定着や浸透交雑を起こさない何らかの要因が存在する可能性を示唆する.琉球列島には独自の<i>Mc1r</i>配列の存在も認められ,他地域とは遺伝的に分化した集団として位置づけられる可能性も示唆された.<br>
著者
矢部 辰男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.251-255, 1997
参考文献数
17
被引用文献数
6 6

わが国のビル街では, 1970年代からクマネズミの横行が目立つようになったが, 札幌では1980年代に至ってその駆除に成功した。その原因を, 空中写真の解析によって考察した。解析対象は札幌, 仙台, 新宿, 横浜, 名古屋の商業・業務地域である。高さ10m以上のビルの占有面積割合を算定すると, いずれの都市でも1960年代半ばに5-10%であったものが, 1970年代には15%以上に急増した。1988-1990年における1ha当たりの平均道路面積は, 札幌で0.424±0.133haで, これは他のいずれの都市の値よりも有意に大きかった。また, その変動係数は31.4%で, 他のいずれの都市よりも小さかった。これは, 札幌では平均的に道路面積が広いのに対し, 他の都市では道路面積が狭い上に, 広い道路と狭い道路とが混在していることを示す。クマネズミの生息に適した大型ビルの急増がクマネズミの横行を促したが, 道路面積の分布形態はその後のクマネズミ駆除の成否を分ける一因になった可能性もある。広い道路で街区を区切られた札幌では, すみ場の分断化によって容易に駆除されたが, 狭い道路の混在する他の都市では分断化がなされず, 駆除の困難な状態が続いてきたものと推測される。
著者
神戸 嘉一 鈴木 莊介 矢部 辰男 中田 勝士 前園 泰徳 阿部 愼太郎 石田 健 谷川 力 橋本 琢磨 武田 美加子 土屋 公幸 吉松 組子 鈴木 仁
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.289-299, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
44

クマネズミはthe Rattus rattus species complexとも称され,複数の種からなる種複合体である.日本には古くに移入した東アジア地域起源のRattus tanezumi(2n=42)に加え,新規に移入したインド地域が起源のR. rattus(2n=38)の2系統が存在する.本研究ではこれらクマネズミ系統の日本列島における分布および移入の歴史を把握することを試みた.毛色関連遺伝子Mc1r(954 bp)をマーカーとし,奄美大島産を含む36個体の塩基配列データを新規に収集し,既存の配列データと合わせ,日本列島の17地点,さらに比較対象として用いたパキスタン産を含め,総計133個体のデータを基に系統学的解析を行った.その結果,小樽,小笠原諸島および東京の3地域でR. rattus型が認められ,これらの地点ではR. tanezumi型とのヘテロ接合体も存在した.これらの結果から,既存系統への浸透交雑が一部の市街部,港湾部および離島で進行している実態が明示された.一方,琉球列島の自然林では,R. rattus型のMc1rハプロタイプは認められなかった.これは,新たな外来系統R. rattusの定着や浸透交雑を起こさない何らかの要因が存在する可能性を示唆する.琉球列島には独自のMc1r配列の存在も認められ,他地域とは遺伝的に分化した集団として位置づけられる可能性も示唆された.
著者
矢部 辰男 大友 忠男 原島 利光 重岡 弘 山口 健次郎
出版者
日本ペストロジー学会
雑誌
ペストロジー (ISSN:18803415)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.53-55, 2017

<p>横浜市中区の市街地で,2015~2017年の3年間(いずれも2月)に,屋外に生息するドブネズミについて,人獣共通感染症である広東住血線虫の寄生状況を調べた.広東住血線虫の検出可能な2カ月齢以上のドブネズミにおける寄生率は,2015年から2017年までの順に,2/41(4.9%),5/27(18.5%),6/21(28.6%)となり,2017年の値は2015年よりも有意に大きかった.</p>
著者
矢部 辰男 TATSUO YABE 神奈川県衛生研究所 Kanagawa Prefectural Public Health Laboratories
雑誌
ペストロジー学会誌 (ISSN:09167382)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.35-41, 2000-05-31

家ネズミ類3種における以下のような特性の違いは,種特異的な食品被害をもたらす.1.ドブネズミは雑食性で,植物質のほかに獣肉・魚介類などの高タンパク質食品を好む.クマネズミ類は種実類(種子・穀類および果実類)やその二次製品を,ハツカネズミは種子・穀類やその二次製品を好み,高タンパク質食品をあまり選択しない.このような食性の違いは消化・代謝能力の違いに起因すると思われる.2.渇きに対する強さを比較すると,ドブネズミとクマネズミの間に大差はないが,ハツカネズミは渇きにきわめて強い.しかし,ドブネズミは,高タンパク質食品に含まれる窒素分の排出のために,多量の水分を要求する.その結果,ドブネズミが最も渇きに弱い.渇きをいやすために,ドブネズミやクマネズミが水気に富む植物質を積極的に食べることがある.ハツカネズミも授乳中には,多量に必要とする水を求めて水気に富んだ植物を食べることがある.3.ハツカネズミはしばしば小さな種子だけを選択的に食べることがあるが,これは体の小さいことを反映したものであろう.4.ドブネズミには貯食性があり,この習性は大量の食品を汚損・消失させる.
著者
矢部 辰男 林 晴男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.179-184, 1993-09-15 (Released:2016-08-23)
被引用文献数
1 1

神奈川県西部地域の, 県境より東へ約34km内に設けた19調査地点の草やぶ(主にススキを優占種とする放置された草原)で, 全捕獲小哺乳類の88%に当たる239個体のアカネズミ(Apodemus speciosus)が採集された。県境より25km内の13調査地点では, これらの哺乳類と土壌から815個体のタテツツガムシ(Leptotrombidim scutellare)が採集された。草やぶは, タテツツガムシとその主要宿主であるアカネズミの格好の生息環境と推定される。しかし, 1950年代の調査では, この地域でタテツツガムシがまったく見いだされていない。本病発生地域内に6(km)^2の区画4カ所を設け, 空中写真を用いて1964,1973,1980,1985年の草やぶ面積を推定した。4区画の総草やぶ面積は, 1964・1973に約0.6(km)^2であったが, その後に増えて1985年には1.5(km)^2に達した。農林水産省の統計によれば, 山北町と南足柄市で耕作放棄された農地面積は, 1975年に0.14(km)^2で, 1985年には0.64(km)^2に達した。耕作放棄面積の増加は草やぶ拡大の一因と思われる。ツツガムシ病患者は県西部の山北町と南足柄市を中心に, 1970年代前半より増えたと見られるが, その増加の一因は, 草やぶの拡大に伴うタテツツガムシの分布拡大にあると推定される。
著者
矢部 辰男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.285-294, 1997
被引用文献数
15 5

The species composition of the Norway rat, Rattus norvegicus, and the roof rat, R. rattus, in urban areas is influenced by human activities, especially by factors related to urbanization because of their commensalism. Generally in Japan, the changes in their composition seem to have three phases according to the progress of urbanization. The first phase is evidenced by the predominance of the Norway rat population, the second phase by the resurgence of the roof rat population in urban buildings, and the third phase by the predominance of the roof rat population in residential areas as well as in urban buildings. Wide road coverage modifies probably these typical changes through fragmentation of rat habitats as was suggested in Sapporo, where the roof rat populations in urban buildings have been successfully controlled since the 1980s.
著者
矢部 辰男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.259-268, 2004

家鼠は野鼠と異なる特有の採餌行動を示し, この行動がヒトへの加害機構と関わりを持つ. 家鼠は食物をヒトに依存する片利共生または寄食性の習性を持つ点で, 野鼠と本質的に異なる(矢部, 1995, 1996, 1998). 寄食性であるために, 建物内で食料や厨芥を食べるだけでなく, 物品に対しても健康に対してもヒトに様々な損害, 危害を与える. 条件によっては耕地や森林原野にも生息し, 農作物や野生の動植物も食べ, 野外と建物との間を移動する. 野外から建物に移動する際に病原体を建物内やその周辺に運び, さらに, 交通機関に紛れ込んでこれを各地へ運ぶ役割も果たす. このような建物内における食料やその他の物品への加害, 野外における農林上の加害, あるいは感染症の媒介などのような加害には, 家鼠の採餌行動と関わりの深い事例が多い(Yabe and Wada, 1983;矢部, 1997b, 1999, 2000;Yabe, 1998;Yabe et al., 2001). それは, 家鼠にとって, 食物の存否が建物内へのすみ着き, 野外における生活, そして建物への移動の主要な動機の一つだからである.
著者
矢部 辰男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衞生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 1983-06-15
著者
矢部 辰男 茂木 幹義 Selomo Makmur NOOR Noer Bahry
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.43-47, 2001
被引用文献数
1 2

インドネシアの西チモールと中央スラウェシにおける水田開発がクマネズミ個体群に与える影響を調べた。西チモール(1998・99年8月の乾期と2000年2月の雨期)ではクマネズミは家屋のみで捕獲され, 水田(いずれも田植期)に生息する形跡はなかった。8月の捕獲個体の約半数が収穫期(5&acd;6月, 雨期または雨期直後)生まれと推定された。中央スラウェシ(1998年8月の雨期)ではクマネズミは水田(成熟期・収穫期)に生息しており, ここで捕獲されたうちの約半数が7&acd;8月生まれと推定された。これらの結果から, クマネズミは雨期または雨期直後の収穫期に活発に繁殖し, 収穫後に家屋に移動することが示唆された。水田開発はクマネズミの繁殖を促し, また屋外と家屋との間の移動を促すと推測される。