著者
七海 絵里香 大澤 啓志 勝野 武彦
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.123-126, 2011-08-31

山上憶良が詠んだことにはじまる秋を代表する野草である秋の七草は,その姿の美しさや風情を楽しむことで,古くから様々な人々に親しまれてきた。今回,日本最古の歌集である万葉集の中で秋の七草が詠み込まれた歌から,万葉集が編纂された時代の秋の七草の主な生育立地を把握し,「野」「山・岡」「庭」「街・里」に分類した。その結果,七草全体では「野」が最も多く,植物種によって差があるものの,身近に野草を置こうとする歌人の意向から庭に植えたと考えられる植物種も多数見られた。特にナデシコは栽培されたものを詠んだ歌が多く,ハギは様々な立地に幅広く生育するものが詠まれていた。
著者
森川 政人 小林 達明 相澤 章仁
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.103-108, 2012-08-31
被引用文献数
1 2 1

学校プール内に生息している水生昆虫相の種,個体数について,東京都及び千葉県内の 4 地域計 32 校において,2007 年 5 月~2008 年 5 月までの使用期間外に各校月 1 回程度調査を実施した。調査の結果を TWINSPAN で解析したところ,東京都と千葉県が異なるグループに分類された。ヒメゲンゴロウ,コシマゲンゴロウ,ミズカマキリ,ショウジョウトンボは東京都の学校プールで確認することができなかった。種数に差が確認された要因として,種の供給源となる学校プール周辺の水田面積や周囲の樹木の有無などが考えられた。主にトンボ目の個体数の差に影響を与える要因としては,学校プール周囲の植生から供給される落葉である可能性が示唆された。
著者
下村 孝 山本 祐子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.109-114, 2008-08-31
参考文献数
12
被引用文献数
1 1 1

キンモクセイに2度の開花ピークが見られるとの伝聞にもとづき,その実態を科学的に解明するために,京都北区の住宅地域内に植栽されているキンモクセイを対象に形成花芽数と開花花芽数,開花小花数を経時的に計測した。その結果,キンモクセイは,2007年10月11日の開花ピークの後,10月23日に2度目の開花ピークを迎え,二度咲き現象が見られることが明らかになった。2度目のピークでは,開花小花数が1度目に比べると極端に少なく,全体の香りも弱いため,一部の人々にしか認知されていなかったともの理解された。当年生枝と前年生枝の花芽の種類と数,および開花小花数の測定から,キンモクセイでは,当年生枝と前年生枝の葉腋に形成される定芽以外に不定芽にも花芽が形成され,それらが開花することが分かった。さらに2度目の開花ピークには,当年生枝の花芽より前年生枝の花芽が,定芽より不定芽が大きく寄与することも明らかになった。前年生枝が当年生枝より不定芽を形成しやすく,キンモクセイ二度咲き現象には,前年生枝不定芽の関与が大きいと考えられる。
著者
中島 敦司 山本 将功 大南 真緒 仲里 長浩 廣岡 ありさ
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.26-31, 2011-08-31
参考文献数
10

本研究では,キンモクセイの2度咲き現象が近年の温暖化,高温化の影響である可能性を検討する目的で,花芽分化期の夏季から開花期の秋季にかけて野外の気温に対して3℃ 加温したグロースチャンバー内で育成する実験をおこなった。その結果,加温処理によって開花の開始は遅れ,開花期間は長期化した。また,花ごとの開花日数は,開花期の後期に開花した花で短縮化された。さらに,加温によって開花期に複数回のピークのある2~3度咲き現象が引き起こされた。この2~3度咲き現象には,1)集団内での個体ごとの開花時期のばらつきによる見た目の上での2~3度咲き,2)同一個体内での枝,花芽の着生部ごとの開花時期のばらつきによる見た目の上での2~3度咲き,3)同一箇所の花芽の着生部に複数の花芽が形成され,それらが段階的に開花する2~3度咲き,4)それらが複合された2~3度咲きの4パターンあることが分かった。
著者
大山 ゆりあ 相澤 章仁 小林 達明
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.97-102, 2012-08-31
被引用文献数
1

都市域の小・中規模緑地を含む「地区スケール」における鳥類群集の種組成の構造的特徴を明らかにすることを目的とし,千葉県松戸市を対象として鳥類調査を行った。各地区における β 多様性の高低および群集の入れ子構造の有無から調査地区は β 多様性が低く入れ子構造がある 1 地区,β 多様性が低く入れ子構造がない 3 地区,β 多様性が高く入れ子構造がある 2 地区,β 多様性が高く入れ子構造がない 2 地区に分類された。nMDS 法を用いた各調査地点の群集構造と環境要因の分析から,地区の鳥類種組成構造が地形や土地利用の多様性などの景観要素と関連していることが示唆された。
著者
額尓徳尼 堀田 紀文 鈴木 雅一
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.338-350, 2009-11-30
被引用文献数
1

内蒙古自治区全域における砂漠化と緑化事業がもたらした植生変化の実態を把握するために,NOAA/AVHRR の衛星リモートセンシングデータから求めたNDVI(正規化植生指数)を用いた検討を行った。まず,文献から植生変化の実態が明らかな地域において,NDVI の変化と植生変化について比較し,1982~1999 年までの約18 年間における植生の変動を調べた。植生変化が少ない地域でのNDVI の変動から,植生増減を判断するNDVI 変化の閾値を検討し,1982~1986 年と1995~1999 年の夏季NDVI の差を ΔNDVI とし,植生の増減を8km 分解能のピクセル毎に求めた。そして,ΔNDVI により植生が変化した地域を抽出して図化した。その結果,内蒙古自治区全体としては,NDVI が増加した地域の割合が減少した地域の割合を大きく上回り,植生増加の傾向が示された。赤峰市(特に敖漢旗)の植生増加が顕著であり,次いでシリンゴル盟,フフホト市,バヤンヌール市の一部にまとまったNDVI 増加が示され,内蒙古全域においてNDVI が増加した面積が約20 万km<SUP>2</SUP> 程度見られた。北半球の高緯度地域では温暖化によるNDVI の増加が報告されているが,行政区毎に求めたNDVI が増加した地域の面積と,統計資料に基づいて集計した造林面積と耕地化された面積の合計に良好な比例関係が見られ,内蒙古自治区における夏季のNDVI 増加は主に緑化と農耕地の拡大という人為的な要因による植生増加である。一方で,NDVI 減少が抽出された内蒙古自治区西部(アラシャ盟),東北ホルチン砂地周辺などでは,もともと植生が乏しい地域であり,これらの地域では砂漠化による植生減少が指摘された。
著者
今西 純一 奥川 裕子 金 鉉〓 飯田 義彦 森本 幸裕 山中 勝次 小島 玉雄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.9-14, 2011-08-31
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

サクラ類は全国に広く植栽され,地域の重要な景観資源となっている。サクラ類を適切に管理するために,活力度の評価が必要となるが,開花期の着花状況に基づく活力度評価の方法は定まっていない。そこで,本研究は,奈良県吉野山のヤマザクラを対象として,着花状況に関する 4 つの評価項目の検討を行った。その結果,樹頂部の頂枝における芽の数や,葉芽と花芽の比率は,栄養成長と関連を持ち,活力度の評価項目として適切であることが明らかとなった。一方,1 つの花芽から出る花数は,様々な生育段階を含む集団の活力度評価には適さなかった。個体全体の満開時の着花量は,活力度評価には適さないと考えられた。
著者
田代 慶彦 下園 寿秋 中村 克之
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.256-259, 2013-11-30
参考文献数
8
被引用文献数
6

シカが高密度に生息する地域に開設されている林道の切土法面において,シカ不嗜好性植物を使用した吹付緑化試験を行い,植物の被覆状況と土砂流出量について,牧草を主体とした従来の吹付工と比較した。吹付工は1 月に実施したが,シカ不嗜好性植物区では,食害はなく,冬季は夏緑性であるタケニグサの地上部の枯死による被覆率の低下がみられたものの,翌春には,新葉の展開により被覆率が回復した。一方,従来の吹付工では,深刻な食害を受け吹付当年の秋以降に急激に被覆率が低下した。土砂流出量については,翌年の春以降に試験区間で大きな差がみられ,不嗜好性植物区では土砂流出量が小さかった。以上のことから,シカが多い地域での,不嗜好性植物による吹付緑化工の有効性が確認できた。
著者
田崎 冬記 内田 泰三 梅本 和延 佐々木 優一 向山 貴幸 高山 末吉
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.245-248, 2008-08-31
参考文献数
7
被引用文献数
1

近年,各種開発等によって絶滅危惧種キタサンショウウオ(<I>Salamandrella keyserlingii</I> Dybowski)の生息地が減少している。釧路湿原では,湿原内の乾燥化・樹林化等が大きな問題となっており,キタサンショウウオの産卵池においても開放水面を保持できない箇所が増加傾向にある。本調査では,開放水面が小さくなった産卵池(改修池)を拡幅し,卵嚢数および水質のモニタリングを行った。その結果,産卵池の拡幅によって,卵嚢数は増加した。しかし,鉄膜や鉄フロックによって,卵嚢の吸水状況の低下,カビ卵の発生割合が高まることが示唆された。卵嚢の孵化には水溶性の鉄も大きく影響すると考えられ,今後はこれもモニタリング項目の一つとする必要があると考えた。
著者
石田 さちほ 勝野 武彦 黒田 貴綱
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.303-306, 2008-08-31
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

サカサマンネングサを用いた屋上緑化で,鉄鋼スラグ(成形スラグ,粒状鉄鋼スラグ)を用いてセダム欠損部分の補植を行い,補植最適時期の選定および粒状鉄鋼スラグの補植利用方法・効果を3ヶ年継続検証した。その結果,8月補植では発根率が約40 %と低い結果となったが,セダムのみで補植したものに比べ,粒状鉄鋼スラグ利用では3倍以上の発根率であった。5~7月補植では粒状鉄鋼スラグを設置し続けたことにより生存率も高く,粒状鉄鋼スラグ利用の可能性が示唆された。
著者
福井 亘 寺嶋 明那
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.199-202, 2011-08-31
参考文献数
9

工業地帯の緑化は,人が利用することも考慮し,自然と人の関係を相互に組み合わせる必要があるが,緑地の質や生物の生息を調査するに際し,工場という性格から調査の制約が大きい。本調査では,工場緑化と鳥類の生息状況についての調査の簡易化から,より良い環境創りに繋げることを目的とした。調査は,樹木と鳥類の視認,踏査による調査,さらに GIS,GPS を活用しながらの解析をした。その結果,緑の豊富な場所に多くの鳥類が飛来し,多様度も高い数値を示し,逆に,緑の乏しい場所ほど出現数は減少するという結果を出すことができた。このことから,簡易による手法でも,工場緑化の質を示すことが可能であることを示した。
著者
徳江 義宏 大澤 啓志 今村 史子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.203-206, 2011-08-31
参考文献数
44
被引用文献数
2

都市域におけるエコロジカルネットワーク計画の生息地の連結性を検討する上では,動物が再移入可能な生息地間の距離に関する知見は重要である。本研究は,計画論的視点から生態特性が類似したグループ毎に移動分散の距離を検討した。体サイズ,移動手段に着目して,哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,昆虫類,クモ類,陸生貝類の各分類群について,生態特性が類似したグループを把握することができた。このグループは,広域,都市域,地区の異なる空間スケールに応じたエコロジカルネットワーク計画の目標種の設定において,有効と考えられる。
著者
大杉 祥広 石井 弘明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-50, 2009-08-31
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

在来種ネズミモチと外来種トウネズミモチの生理・形態特性の違いを明らかにするため,兵庫県の西宮神社の社叢において両樹種の分布パターンおよび様々な光環境に生育する個体の光合成や形態を測定した。ネズミモチは林内にランダムに分布していたが,トウネズミモチは林縁に偏って分布していた。ネズミモチの最大光合成速度(A<SUB>max</SUB>)やクロロフィル・窒素量は光環境によって変化しなかった。一方,トウネズミモチのA<SUB>max</SUB>は,暗い環境ではネズミモチと同程度であったが,明るい環境ではネズミモチより高い値を示し,クロロフィル・窒素量も変化した。また,トウネズミモチは明るい環境における枝葉の展開が旺盛で,このような生理・形態特性が林縁におけるトウネズミモチの拡大に寄与すると考えられる。
著者
奥村 武信 佐々木 康次 松本 茂登 虞 毅 高 永 韓 太平 胡 小龍 李 錦栄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.247-250, 2009-08-31
参考文献数
1

乾燥砂地での緑化は,流動的砂丘の固定が前提となる。カーボン・ニュートラルな素材,ポリ乳酸糸を袋編みしたものに現地で砂を詰めて砂面に方格状に敷設することにより,砂丘砂面を固定し風来種子の定着を図ることを目途とした工法を,中国ウランプフ沙漠吉蘭泰塩湖地区の流動砂丘地域等で試験施工している。ここでは,麦草を使用した方格工と裸地duneを対照として,地表部の砂輸送量,風砂流(砂を含んだ風)の構造,風速低下比率,砂面の侵食堆積,植被回復状況を対比して,サンドソーセージ方格工と草方格工の防風,砂固定,植被回復への効果を比較した。また,サンドソーセージ方格工と他の方格工との歩掛の比較を述べる。
著者
小林 達明 山本 理恵
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.265-273, 2012-11-30
参考文献数
13
被引用文献数
1

3 月11 日の地震と津波は,福島第一原子力発電所の全電源消失という事態を招き,引き続いた一連の事故は,大量の放射性物質を大気中に放出させ,その降下域は深刻な汚染に悩まされることになった。このような事態についての危惧は,原子力委員会においても,またそのような公式の会議の外でも,これまで何度か指摘されており,決して科学的に想定外だったわけではないが,国も電力会社もまじめに現実的な対策をとった形跡はない。放射線生物学の研究は,厳重管理され閉じた「管理区域」における研究にほぼ限られてきた。自然環境下における放射性物質の動きについては,1950 年代から60 年代に行われた核実験による放出放射性物質のグローバルフォールアウトを利用した土壌浸食研究や同位体比を用いた生態系循環の研究が一部の研究者によって行われてきただけである。ましてや自然環境に広く拡散された高濃度放射性物質とそれに起因する放射線の対策に関する研究は,米ロの核実験場周辺の研究かチェルノブイリ原子力発電所事故に関わる研究にほぼ限られる。したがって,環境中に広く放出された放射性物質を適切処理して, 健全な自然環境を再生する専門家は,2011 年3 月時点わが国にはいなかった。この原稿をまとめている2012 年秋の時点では,住宅や道路等都市的な環境の除染,農地の除染については一定の知見が集積しつつあるが,森林・緑地の取り扱い方,それが人や農作物,さらには野生生物へ与える影響について取り組んでいるグループはまだ一部に限られる。このような研究には,放射性物質・放射線に関する知識は不可欠だが,それだけで十分とは言えない。例えば,放射線防護の三原則は,Contain: 放射線・放射性物質を限られた空間に閉じ込める,Confine: 放射線・放射性物質を効果的に利用し, 使用量は最小限にする,Control :放射線・放射性物質は制御できる状況で使用する,とされているが,自然環境下でこれらの原則は,すべて予め崩れている。体外放射線に対する防護の3 原則とされる時間・距離・遮蔽と, 体内放射線に対する防護の5 原則とされる希釈・分散・除去・閉じ込め・集中を,自然環境中でどのように選択し,組み合わせて,矛盾少なくいかに適切にリスク低減のプロセスを進めていくかが課題となる。これらの措置は自然環境そのものにも影響を及ぼす。たとえば,森林の落葉落枝層の除去は放射性物質の除去には有効だが,土壌浸食の増加を促すので,その対処が必要である。そのようなことが,居住,飲食,教育などの生活面,農林業などの産業面で,様々に影響しあう。放射性物質管理は,社会に対して大きな影響を及ぼすので, リスクコミュニケーションは特に重要となる。私たち緑化研究者・技術者は,環境の問題を把握し,それに対処して健全な自然環境を再生すべく,これまで研究を重ね,技術を積み上げてきた。その中で放射線・放射性物質に関する問題はほとんど扱われてこなかったが,自然環境の取扱いについてはプロであり,この問題についても果たすべきことは多々あると思われる。また,自然環境の再生を訴えてきた専門家集団の倫理としても,その汚染を黙って見過ごすことはできない。そのような問題意識から,2012 年大会にて, 有志とはかって「原子力災害被災地の生態再生(I) 里山ランドスケープの放射能と除染」を企画した。本特集は,その際の発表をもとに,学会誌向けにとりまとめたものである。本稿では,緑化と関連する放射線・放射性物質の問題の所在と研究の現状を見渡し,今後の展望について整理したい。
著者
荒瀬 輝夫 内田 泰三
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.119-122, 2009-08-31

郷土種による切土のり面緑化を目的として,陸生スゲ類5種(コジュズスゲ,タガネソウ,ヒゴクサ,ミヤマカンスゲ,アズマナルコ)を植栽して群落を造成し,被度の変化を調査した。試験地は信州大学農学部構内,プロットサイズは1 m×1 m,実験配置は3反復の乱塊法とした。また葉の外部形態(葉幅と葉長)を自生地および試験地で比較した。植栽から4年間で,アズマナルコは大株化し群落内が空洞化した。コジュズスゲとミヤマカンスゲはのり面中下部において密な群落を維持した。ヒゴクサは地下茎により拡大したのち衰退した。タガネソウは植栽時の被度を維持した。葉の形態は植栽後,葉幅はやや広く葉長は伸長する傾向にあったが,タガネソウのみ葉幅が狭くなった。
著者
鈴木 武志 坂 文彦 渡辺 郁夫 井汲 芳夫 藤嶽 暢英 大塚 紘雄
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.325-331, 2009-11-30
被引用文献数
1

石炭灰の発生量が増加傾向にある現在,その有効利用が一層求められている。石炭灰のうちクリンカアッシュ(以下CA と称す)は,フライアッシュと比較して粒径が粗く飛散のおそれもないため,土壌の代替としての大量利用が期待されるが,利用に際してはホウ素過剰障害の可能性が示唆されている。本研究では,CA を主材料とする緑化基盤で緑化樹木のポット試験を行い,CA の緑化基盤としての有効性を検討した。緑化基盤材料には,CA,真砂土,ピートモス(以下PM と称す)を用い,CA 試験区(CA とPM を混合)をCA 95 %区,CA 90 %区,CA 80 %区の3 区,対照として真砂土にPM を10% 混合したものを設定し,樹木は,アラカシ,ウバメガシ,シャリンバイ,トベラ,マテバシイの5 種を用いて,約7 ケ月間のポット試験を行った。<BR>作製した緑化基盤の化学性,物理性は対照区と比較して有意な差はほとんど無かった。また,国内の法律に照らし合わせると,これらの材料の重金属類濃度は安全であった。緑化樹木の生育に関しては,5 樹種とも,樹高(H),幹直径(D)から表されるD<SUP>2</SUP>H の試験期間中の生長率および試験終了時の新鮮重に,試験区間で有意な差はみられなかった。また,CA 試験区の樹木葉中ホウ素含量は,シャリンバイ以外の4 樹種で対照区に対して高い傾向を示したが,生育障害は確認されず,他の金属類に関しても異常な値は認められなかった。これらのことから,本研究に用いたCA を緑化基盤として大量利用することは十分可能であると考えられるが,実際の利用の段階では,CA ごとの性質の違いを検討していく必要がある。
著者
大貫 真樹子 久保 満佐子 飯塚 康雄 栗原 正夫
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.198-201, 2013-08-31
参考文献数
10

侵略性の高い外来の緑化植物として指摘されているイタチハギを選択的に伐採する駆除試験を行った。イタチハギが優占する栃木県真岡市の切土のり面において,5 月,6 月,8 月および5 月と8 月の4 種の異なる時期に伐採時期を設け,イタチハギのみの定期的な伐採を3 年間継続した結果,無処理区と比較してイタチハギの平均個体数,平均樹高,植被率が低下した。5 月と8 月の年2 回伐採を行った試験区では,いずれの値も開始当年から低く,在来の高木種の植被率が増加したことから,今後の継続した伐採によって高木種がイタチハギを被陰し,イタチハギを駆除できるものと考えられた。
著者
柏木 亨 細木 大輔 松江 正彦
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.9-14, 2008-08-31
参考文献数
9
被引用文献数
3 3 4

クロバナエンジュ(<I>Amoerpha fruticosa</I> L.)が優占する法面を他種が優占する植生に積極的に遷移させるためには,萌芽力が旺盛であるクロバナエンジュを効率的に除去する技術が必要である。そこで本研究では,クロバナエンジュを植生管理する実験区を設けて,クロバナエンジュの枯死数や萌芽量などについて測定して,処理の効果を検証した。実験区は,1) 春期に1回伐採した区,2) 春期と夏期の2回伐採した区,3) 春期に1回伐採後に薬剤処理した区,4) 夏期に1回伐採後に薬剤処理した区,5) 春期と夏期の2回伐採後に薬剤処理した区を設置した。その結果,4) と5) の処理を行った実験区では,クロバナエンジュの個体を約6割枯死させ,他の実験区よりも萌芽量を少なくできたことから,夏期に1回伐採して薬剤処理を行う方法が効率的であることが明らかとなった。
著者
執印 康裕 松英 恵吾 有賀 一広 田坂 聡明 堀田 紀文
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.27-32, 2010-08-31
被引用文献数
1

宇都宮大学船生演習林内の約310 haのヒノキ人工林を対象に林齢分布の経年変化が表層崩壊発生に与える影響について,分布型表層崩壊モデルに確率雨量を入力因子として与え検討した。同地は1998年8月末豪雨によって,20年生の林分を中心に表層崩壊が多発しているが,この豪雨の確率雨量評価を行った結果,継続時間72時間雨量で確率年約170年の降雨であることが確認された。次に2年確率72時間雨量を用いて1939年から2008年までの林齢構成の経年変化が表層崩壊発生に与える影響について,分布型表層崩壊モデルから出力される潜在表層崩壊発生面積を指標として検討した結果,指標値の範囲は約0.8 haから4.9 haの範囲にあり,降雨条件が同じ場合に1970年から1980年にかけて表層崩壊発生の可能性が高い状態にあると評価された。さらに1979年から2008年までの年最大72時間降水量をモデルに入力して検討した結果,1998年時点で表層崩壊発生の可能性が最も高いことが示された。