著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.65-74, 2014-07-01 (Released:2017-08-28)

スイスは,日本と同様に,長年,林業部門の生産性の低さや補助金への依存に悩まされてきた。日本においては今なお解決に向けた方向性さえみえない状況にあるが,スイスでは1990年代から助成改革が進められ,2008年から新たな助成制度が導入されている。本稿では,日本における林業助成のあり方に関する議論を深めるために,スイスにおける林業助成のプロセスと成果を検討した。その結果,(1)スイスの林業助成改革は,財政部局からの要請に対して受け身で展開したのではなく,森林政策の枠組みや戦略の構築と一体的に進められたこと,(2)森林政策の戦略を検討する過程で,今後,連邦政府は市場で生き残れない主体を永続的に支援することはしないとする助成原則が打ち出されたこと,(3)林業助成は,目的志向型の助成に変わったこと,(4)目標の具体的な設定方法や過渡的支援の終了に関わっては,なお議論が残されていることなどが明らかとなった。
著者
石崎 涼子 鹿又 秀聡 笹田 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.214-222, 2022-08-01 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

全国の市町村を対象に実施したアンケート調査等の結果に基づき,森林行政の担当職員の規模と専門性の現状を明らかにし,これらが森林行政に与えうる影響について検討した。近年,市町村森林行政の業務量は職員増を遥かに上回る規模で増加したと考えられ,現在,ほとんどの市町村が人員不足を感じている。職員数が多い市町村には森林行政に関わる専門性をもつ職員がいる団体が多く,相対的に幅広い種類の業務が実施され森林に行く頻度も高いが,職員数が少ない団体以上に多くの団体が人員不足を実感している。一方,人員不足を感じていない市町村の多くは,森林関係の業務量自体が少ない団体である。更新基準となる広葉樹の識別や崩壊危険地の判別には専門的な職員がいる市町村であっても知識等の不足を感じているケースが多く,職員数が非常に少ない団体には崩壊危険地の判別等について業務を通じて意識する機会がないとする団体が一定数存在する。以上から,職員数や専門性といった人員体制は,森林行政として担う業務の範囲や,現地確認やリスク判定等をどこまで行うかといった業務のレベルに影響を与えている可能性が示唆された。
著者
平野 悠一郎 鹿又 秀聡 石崎 涼子 天野 智将
出版者
一般財団法人 林業経済研究所
雑誌
林業経済 (ISSN:03888614)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.2-18, 2016 (Released:2016-09-15)
参考文献数
49
被引用文献数
3

近年の日本における林業用苗木の生産をめぐっては、①苗木の「量」と「質」の安定確保(人工林の主伐・再造林への対応、花粉症対策苗木の生産要請等)、②再造林の「低コスト化」への寄与(コンテナ苗活用による一貫作業システムの導入、苗木の効率的な生産・流通体制の確立)、③蓄積された多様な生業・知識・技術(在来知)としての苗木生産の維持という3 つの期待が存在した。北信越地方を主対象とした実地調査からは、これらの期待が個々に実際の苗木生産供給の方向性を規定している一方で、それぞれを効果的に結びつける枠組みは整っておらず、苗木の需給調整の機能不全、コンテナ苗・優良苗の生産コスト高、苗木生産者の減少による在来知の喪失加速といった問題が表面化し、結果として苗木供給のリスクが増大している現状が明らかとなった。
著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.29-39, 2010-03-01
被引用文献数
3

本稿は,政策設計に焦点をあて,現在の森林・林業政策に機能不全をもたらす要因とその改革方向を検討することで,公共政策を通じた森林管理の課題について論じるものである。検討の結果,(1)現在の森林・林業政策が抱える機能不全を打開するには,戦略的な視点をもった政策設計が求められること,(2)私有林においては,基本的に民間の主体的な判断が重視される必要があること,(3)森林・林業に関わる知識や知見,技術などの情報的な基盤の整備や強化が民間の意思決定を支援するうえで重要となること,(4)競争力の強化を目指す施策は経営主体への側面的な支援を主とし,公益確保を目指した施策は実効性のある監視体制の構築が必要であるとともに,所有者等の自発的な参画を重視した政策手段の活用も有効と考えられることを指摘した。こうした視点で構築された制度・政策的な森林管理においては,現場に密着しながらも充分な専門的知見を有するフォレスターを核とした地域森林管理の果たす役割が大きいと考えられる。
著者
石崎 涼子
出版者
一般財団法人 林業経済研究所
雑誌
林業経済 (ISSN:03888614)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.1-16, 2019 (Released:2019-04-05)
参考文献数
46
被引用文献数
2

ドイツ南西部バーデン・ヴュルテンベルク州において公的な所有にある森林で策定が義務づけられる定期経営計画に着目して、施業管理の仕組みのなかでのドイツの森林官が有する知識や技術の活かされ方とその特徴を明らかにした。定期経営計画の策定・管理には、複数の森林官が関与する。策定や評価の基礎となるのは当該森林の現地調査結果であるが、ガイドライン等を通じて共有される標準化された知識や技術も参照される。また、森林署の森林官がもつ現場での試行錯誤を通じて培われた経験知と地方森林管理局の計画官が有する最新の知見等といった個々の森林官に蓄積された知識や技術が示され、互いに影響を与え合いながら施業方針等が決められる。それが森林官のキャリアを通じて技術を高めていく仕組みともなっている。こうした個々の森林官に蓄積される現場ベースの知識の重視とキャリアを通じた技術育成の仕組みに特徴がみられることが明らかとなった。
著者
石崎 涼子
出版者
一般財団法人 林業経済研究所
雑誌
林業経済 (ISSN:03888614)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.10-23, 2017 (Released:2017-08-01)
参考文献数
45

2015年7月、ドイツ連邦カルテル庁は、バーデン・ヴュルテンベルク州と私有林所有者、団体有林所有者による木材共同販売が同国の競争制限禁止法の違反行為であるとの決定を下した。この決定は、自由競争の促進を目的とする競争政策の観点から森林政策のあり方について問題提起を行ったものである。本稿では、この決定に至る議論の展開と連邦カルテル庁の見解を把握することにより、競争政策からみた森林政策の論点を明らかにし、考察を加えた。その結果、連邦カルテル庁の判断と見解は、森林を所有する政府が自己所有林以外の森林から生産される木材に関わる情報を得るような業務を行うことに対する懸念、政府による森林所有者支援策に対する民業圧迫の懸念、供給量の制御による価格への影響の懸念を含むものであることが明らかとなり、競争政策の観点から森林政策の必要性に関わる問いを投げかけるものであることが示唆された。
著者
堀 靖人 石崎 涼子 久保山 裕史 平野 均一郎
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.45-54, 2013-03
参考文献数
18
被引用文献数
1

ドイツの森林組合は日本の森林組合と同じように,小生産者の経済的不利益を協同によって克服することを目的とする。これに対してイザール・レッヒ森林組合は,中規模の森林所有者を組合員として新たに設立された新しいタイプの森林組合である。本稿は,当森林組合の聞き取り調査を元に,森林組合の活動内容と設立経緯を明らかにし,当森林組合のドイツ林業における意義を考察することを目的とする。当森林組合は1992年に設立された。組合員数は現在43名で,組合員の平均所有面積規模は650haで規模の大きな所有者からなる。当森林組合の最も重要な業務は,木材販売である。当森林組合の組合員数,木材販売量ともに拡大している。当森林組合は,中規模の森林所有者の森林組合であるという特徴の他,バイエルン州全域を対象とした広域の森林組合であるという特徴を持つ。当森林組合の意義として,(1)風害による木材価格の低迷,経営管理費用の増大による中規模森林経営の悪化への処方箋,(2)製材業の生産集中化に対する供給側としての対応,(3)中規模専用の森林組合として既存の森林組合との併存と機能分化があげられる。
著者
石崎 涼子 古井戸 宏通
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.25-32, 2001-12-15
被引用文献数
1

近年,地方自治体は,地域ニーズに応じた森林管理施策を展開しうる主体として注目されている。地方自治体による施策の性格と独自性を明らかにするためには,これを強く制約する財政基盤を検討する必要がある。そこで本報告では,1980年代後半以降の財政統計データを用いて,都道府県林業費の特徴と動向およびその地域性を分析した。1980年代後半以降,地方債や交付税措置などの活用により都道府県が公共投資の拡大の担い手となり,林業費の構造は変動した。そのなかで地方単独事業が拡大した点,その増大時期や事業別構成には地域性がみられる点は,都道府県の森林管理施策の独自性に関連して注目される。また,こうした構造変化の結果,財政危機がもたらされ,施策のあり方に見直しを迫っている点にも注意する必要がある。
著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.17-26, 2002-11-01
被引用文献数
2

現在,地方自治体には施策の策定主体としての責務が与えられ,「自治体」としての林政,住民自治を内実化させる施策形成のあり方が問われている。本稿では,近年独自性を強める自治体施策の政治・行財政過程の分析を通じて,自治体林政における施策形成の実態を明らかにした。事例として,大規模かつ積極的に独自の施策を展開してきた神奈川県において1980年代以降,議論を集めた公的管理施策とやまなみ林道整備施策をとりあげた。その結果,両施策の形成過程は,ともに林務施策が都市部,とくに自然保護の視点へと開かれていく過程であり,知事選後の総合計画策定を契機として住民からの一定の支持を受けながら,またその時期の財政状況を反映して,施策が分化・拡大した後,縮小・統合へと転じてきた点,多様な利害の調整にあたっては,利害関係者の代表者による協議・議論と自治体による調査研究とが密接不可分に関わってきた点,国との財政関係による制約の影響は比較的小さかった点,都市部と農村部の関係が質的にも施策形成過程を規定してきた点が明らかとなった。
著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.27-38, 2004-03-01
被引用文献数
3

本稿では,独自の施策を展開する先駆的自治体の代表例として注目されてきた神奈川県と,「改革派」とされる知事により積極的な県政改革が進められるなかで独自の構想に基づく施策を導入した三重県を事例として取りあげ,都道府県が独自に展開する森林整備施策と森林管理の現状を明らかにすることで,施策形成主体としての都道府県の特質を検討した。その結果,両県による施策は積極的な独自性を有しているが独自の枠組を築いたがゆえに抱えた問題も生じている点,施策形成にあたっては大規模な施策の費用を負担しうる対象が強く意識されており,その対象との関係が両県の施策形成を特徴づけている点,三重県においては地域や事業体の主体的な取組を重視した地域による森林管理の仕組みが模索されている点などが明らかになった。都道府県による施策は,一方で県民間の合意や国の支援を求めながら制度設計や施策決定を行い,他方では地域や事業体等との関係のうえに森林整備や管理のあり方を模索している。都道府県による施策形成は,様々な課題を抱えつつも,両者を繋ぐ仕組みを主体的に模索するものとして注目できる。