著者
石崎 涼子 鹿又 秀聡 笹田 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.214-222, 2022-08-01 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

全国の市町村を対象に実施したアンケート調査等の結果に基づき,森林行政の担当職員の規模と専門性の現状を明らかにし,これらが森林行政に与えうる影響について検討した。近年,市町村森林行政の業務量は職員増を遥かに上回る規模で増加したと考えられ,現在,ほとんどの市町村が人員不足を感じている。職員数が多い市町村には森林行政に関わる専門性をもつ職員がいる団体が多く,相対的に幅広い種類の業務が実施され森林に行く頻度も高いが,職員数が少ない団体以上に多くの団体が人員不足を実感している。一方,人員不足を感じていない市町村の多くは,森林関係の業務量自体が少ない団体である。更新基準となる広葉樹の識別や崩壊危険地の判別には専門的な職員がいる市町村であっても知識等の不足を感じているケースが多く,職員数が非常に少ない団体には崩壊危険地の判別等について業務を通じて意識する機会がないとする団体が一定数存在する。以上から,職員数や専門性といった人員体制は,森林行政として担う業務の範囲や,現地確認やリスク判定等をどこまで行うかといった業務のレベルに影響を与えている可能性が示唆された。
著者
平野 悠一郎 鹿又 秀聡 石崎 涼子 天野 智将
出版者
一般財団法人 林業経済研究所
雑誌
林業経済 (ISSN:03888614)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.2-18, 2016 (Released:2016-09-15)
参考文献数
49
被引用文献数
3

近年の日本における林業用苗木の生産をめぐっては、①苗木の「量」と「質」の安定確保(人工林の主伐・再造林への対応、花粉症対策苗木の生産要請等)、②再造林の「低コスト化」への寄与(コンテナ苗活用による一貫作業システムの導入、苗木の効率的な生産・流通体制の確立)、③蓄積された多様な生業・知識・技術(在来知)としての苗木生産の維持という3 つの期待が存在した。北信越地方を主対象とした実地調査からは、これらの期待が個々に実際の苗木生産供給の方向性を規定している一方で、それぞれを効果的に結びつける枠組みは整っておらず、苗木の需給調整の機能不全、コンテナ苗・優良苗の生産コスト高、苗木生産者の減少による在来知の喪失加速といった問題が表面化し、結果として苗木供給のリスクが増大している現状が明らかとなった。
著者
広嶋 卓也 中島 徹 鹿又 秀聡 堀田 紀文
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.409-415, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
19

再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度において,間伐材や林地残材からなる未利用木材による木質バイオマス発電に対して,調達価格が高値に設定されたことを受け,未利用木材の利用量は年々増加している。そして未利用木材の中で,間伐由来の原材料割合は約4割を占めることから,間伐材生産量の増減が未利用木材に与える影響は無視できない。以上を踏まえ,本研究では,既往モデルを利用して,FIT制度の電源調達期間である20年間にわたる,都道府県別・間伐材生産量のシミュレーションを行った。シミュレーションでは,47都道府県を,間伐量に応じて3グループに分類しグループごとに,モデルの主要パラメータである,間伐面積,間伐材搬出率について,2012年(実績値)から2032年にかけての変化の傾向を3通り作成した。一つは,2012年以降の時系列変化の傾向を延長した「すう勢シナリオ」で他は,パラメータの変化の増減傾向に仮定をおいた「間伐減退シナリオ」および「間伐増進シナリオ」である。これら三つのシナリオに従い,都道府県別の間伐材生産量がどのように変化するか調べた。各都道府県に共通して見られた傾向として,間伐材生産量は,間伐増進シナリオ>すう勢>間伐減退の順に大きく,2012年から2032年にかけて間伐増進シナリオは増加,すう勢は減少,間伐減退は大きく減少する結果となった。都道府県別に見ると,北海道,静岡,大分,鹿児島の4道県は,間伐材生産量が大きく,かつ今後さらに生産量を増やす余地があるという点で,今後の未利用木材の需要増に応える上で,重要度が高いと考えられた。
著者
鹿島 潤 都築 伸行 鹿又 秀聡 興梠 克久
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

チェーンソー用防護服を使用している300超名の林業労働者に対してアンケート調査を行った。その結果、防護服の日常管理が必ずしも正しい方法行われていない現状が明らかになった。メーカーからの使用上の注意事項への認識が十分でなく、誤った使用、管理が行われているため防護性の低下している防護服を使っている作業者が多い可能性が示された。特に洗濯方法を誤っている場合や、破損を自分で修理している場合にその可能性が高い。防護服が破損する理由は様々であるが、チェーンソーで切った、汚れがひどくなった、破れたといった理由が多い。作業者の身体に合っていないサイズの防護服を使用しているために破損している場合も少なからずあると考えられる。防護服の更新期間は約2年と推測されたが、正しい使い方とメンテナンスができれば更新期間の延長が可能なばかりか、更新経費の抑制も可能と考えられる。
著者
奥田 裕規 久保山 裕史 鹿又 秀聡 安村 直樹 村松 真
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.144-150, 2004-05-16
被引用文献数
3

ボーダレスな資本と商品の移動は,地域の処置能力を超えてエントロピーを増大させ,身の回りの環境に重大な影響を及ぼす。この間題は,木材利用の分野に関していえば,地域で使う木材は地域で賄うという「住宅用木材の自給構造」を成立させることで解決できる。金山町では長伐期大径木生産を目指した林業経営により多様な金山杉製材品が安定的に供給され,町内の製材所,森林組合で生産された金山杉製材品を使い,金山大工の手で「金山型住宅」を建てる「住宅用木材の自給構造」が成立している。この成立要因として,金山町民の多くが「金山型住宅」の立ち並ぶ伝統的な景観を評価し,「金山型住宅」を建てたいと思っていること,金山町には住宅建築と金山杉製材品の地場利用を結びつける町民,金山大工,設計事務所,製材所,森林組合,森林所有者からなる「金山型住宅建築ネットワーク」が形成され,金山大工ができるだけ金山杉を使って「金山型住宅」を建てようとしていることをあげることができる。