- 著者
-
石川 和信
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.1, pp.84-87, 2013 (Released:2013-08-06)
- 参考文献数
- 4
- 被引用文献数
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2
7
東日本大震災に引き続いた東電福島第一原発事故から1年を経た.現在も15万人を超える福島県民が県内外への広域避難を余儀なくされている.多くが仮設住宅・借り上げアパートに家族が分かれて転居せざるを得なかった結果,高齢者を支える健常な家族関係やコミュニティーの機能が大きく低下している.長期の度重なる避難の影響もあり,東日本大震災による震災関連死は既に1,300人超となり(2012.3現在),既に阪神大震災のそれを超えた.体力の低下した高齢者の誤嚥性肺炎,突然死を含む心血管疾患,自殺がその上位を占めている. 一方,低線量被曝による安全性への懸念から福島県内の幼児の外遊び時間は平均13分と極端に減少し,3世代同居の多い東北地方の高齢者が戸外で孫達と遊ぶ楽しみも奪われている.見えざる放射能を恐れる心理は高齢者にも認められ,健康のために継続してきた散歩や運動を敬遠する状況が生まれている.また,コメ・畑作りの多くを担い,農業を生業としてきた高齢者も農作物の安全基準への対応の困難さ・風評被害・豊穣感の喪失から耕作をついに放棄する方が増えている.酪農による堆肥の汚染,里山からの山菜・きのこの収穫禁止など,多くの地の恵みが汚染物とされ,中山間地のリサイクルも破壊されている.里山の利を活かしてきた高齢者ほど,地域の喪失感に耐えて居られるように映る. 原発避難の町村が復興のために実施しているアンケート調査では高齢者ほど望郷の思いが強く早期帰還の希望が強い.一方,商工業,医療機関,介護施設を担う若年層の帰還への懸念・不安は強く,複雑な要因が絡まっている.各世代のライフステージの差異が原発事故への対応に異なる態度を生じている.