21 0 0 0 OA 「日本語」分野

著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.25-39, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
16

本稿では,学会誌『日本語教育』にこれまで発表された論文のうち,「日本語」分野(「日本語」のみ,または,「日本語+教育」のみ)に属する論文798本をいくつかの観点から分析した。その結果,最も多い分野は「文法」であり,「習得」がそれに続くこと,研究分野によっては過去に盛んに発表されたものの,近年論文の数が大きく減っているものがあることなどがわかった。さらに,この分析結果を踏まえ,投稿者,査読者の双方に向けて,今後の本誌の発展のために必要だと考えられるいくつかの点についての私見を述べた。
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.58-68, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

「でしょう(だろう)」には推量と確認の2つの用法がある。しかし,実際の発話データを分析した結果では確認が多数派である。特に,推量の「でしょう」の言い切りの用法は極めて少ない。「でしょう」で言い切ることができるのは発話者が「専門家」である場合(天気予報はその典型である)など一部の場合に限られる。にもかかわらず,日本語教科書では推量の「でしょう」(言い切り)は必ず導入されている。これは「体系」を重視する日本語学的発想によるものであり,「日本語学的文法から独立した」日本語教育文法という立場からは否定されるべきものである。本稿では発話データと日本語教科書の分析を通して,「でしょう」の実相を明らかにし,それに基づいて「でしょう(及び「だろう」)」の導入の順序について論じる。本稿は白川(2005)らが主張する日本語教育文法の内実を豊かにすることを目指すものである。
著者
庵 功雄 張 志剛
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.86-100, 2015-04-01

本稿では,近代語として「明六雑誌コーパス」(「明六」),現代語として「自作の「読売新聞2000年データベース」」(「読売」)を取り上げ,コーパスベースで比較した。まず,「明六」にのみ用例があるものを「読売」(および拡張して「現代語」)と比較し,現代語にも用例があるものと,現代語には用例がないものに分けた。次に,「明六」と「読売」の中間に位置するものとして「太陽コーパス」を取り上げ,三者の間での移行関係を考察した。特に,「自他」について詳しく考察した。その結果,「明六」で他動詞であるものは,その後自他についてかなり安定しているのに対し,「明六」で自動詞であるものは,その後自他が変化する割合が相対的に高いことなどがわかった。
著者
庵 功雄
出版者
日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
no.86, pp.p52-64, 1995-07

願望文の目的語の格標示には「水が飲みたい/水を飲みたい」のように2つの可能性がある(この現象を「ガ―ヲ交替」と呼ぶ)。しかし,実例における分布やその他の考察を行うと,実際にはガは極めて限られた語嚢・構文上の環境にしか現れないことが分かる。本稿ではこの構文における無標の格標示をヲと考え,有標であるガが現れることができない環境を記述した。その結果,この現象には「典型性」と「他動性」という2つの要因が関与していろことが分かった。この2つの概念を導入することで,単純形だけでなく,複合形におけるガとヲの分布も説明できるのである。There are two possibilities in the case-marking of desirative sentences; as in "Mizu ga nomitai." or "Mizu o nomotai." (I call this phenomenon "Ga-O conversion.") However, it is found out, from the data I gathered and some other considerations, that GA can appear only in the very restricted lexicogrammatical cirumstances.In this paper, I regard O as the unmarked form, GA as the marked one,and describe the contexts where GA cannot be used.As the result of the investigation, it is showed that two factors - "typicality" and "transitivity" - are involved in the possibility of the conversion.These two concepts can be used to explain the phenomenon for simplex as well as complex verb forms.
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.174-181, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
6

中国語話者は漢語の知識があるために習得が容易な場合もあるが,日中両言語の間の「ズレ」のために習得が阻害される場合もある。本稿では漢語サ変動詞のうち,非対格自動詞の場合について,アンケート調査を用いて中国語話者による習得状況を見た。その結果,学習者の回答に「される」が相対的に高い割合で見られるものと「される」がほとんど見られないものが存在することがわかった。これは英語のL2習得で主張されている「非対格性の罠」の例の一つと考えられる。さらに,日本語能力がより高い中国語話者に対しても同じ調査を行い,その後フォローアップインタビューを行った。その結果,事態の成立に「外的な力」が感じられるか否かが「される」の使用動機となっていることが示唆された。
著者
庵 功雄
出版者
日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.58-68, 2009

<p> 「でしょう(だろう)」には推量と確認の2つの用法がある。しかし,実際の発話データを分析した結果では確認が多数派である。特に,推量の「でしょう」の言い切りの用法は極めて少ない。「でしょう」で言い切ることができるのは発話者が「専門家」である場合(天気予報はその典型である)など一部の場合に限られる。にもかかわらず,日本語教科書では推量の「でしょう」(言い切り)は必ず導入されている。これは「体系」を重視する日本語学的発想によるものであり,「日本語学的文法から独立した」日本語教育文法という立場からは否定されるべきものである。本稿では発話データと日本語教科書の分析を通して,「でしょう」の実相を明らかにし,それに基づいて「でしょう(及び「だろう」)」の導入の順序について論じる。本稿は白川(2005)らが主張する日本語教育文法の内実を豊かにすることを目指すものである。</p>
著者
早川 杏子 本多 由美子 庵 功雄
出版者
一橋大学全学共通教育センター
雑誌
人文・自然研究 = Hitotsubashi review of arts and sciences (ISSN:18824625)
巻号頁・発行日
no.13, pp.116-131, 2019

外国をルーツとする非漢字圏出身のJSL 児童生徒がまずぶつかる困難は、複雑な字形を持つ漢字である。本稿では、漢字の字形(形態)の視認性を高めること、一字ごとに造形や構造が異なる字形学習にかかる記憶の負担を軽減することを目的に、教育漢字1,006 字を対象に小単位への構成要素分解を行った。重視したのは、①漢字を母語の文字としない日本語学習者にとって認識しやすいかどうか、②覚えるべき構成要素をできるだけ少なくすることの2 点である。その結果、「漢字部品」の上位30 と「非漢字部品」57 によって認識可能になる漢字は476 個で、1,006 字のうち47.3% の漢字をカバーできることがわかった。
著者
庵 功雄
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.91-96, 2020-08-01 (Released:2020-08-14)
参考文献数
3
著者
庵 功雄
出版者
日本のローマ字社
雑誌
Romazi no Nippon
巻号頁・発行日
no.663, pp.1-7, 2013-01-01
著者
三枝 令子 丸山 岳彦 松下 達彦 品川 なぎさ 稲田 朋晃 山元 一晃 石川 和信 小林 元 遠藤 織枝 庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.33-47, 2020-08-25 (Released:2022-08-26)
参考文献数
16

執筆者らは,日本で医学教育を受け,最終的に日本の医師国家試験合格を目指す外国人学習者に効果的な支援を行うことを目的として,医学用語の調査研究並びに教材作成を進めている。一口に医学用語といっても,その範囲は多岐にわたるため,医学用語の効率的な学習を目指すならば,まず医学用語の網羅的な収集と体系的な分類が必要になる。そこで本研究では,医学用語の体系的な語彙リストを作成する準備段階として,医学書のテキストから医学書コーパスを構築し,27種類の診療分野に分けて,そこに含まれる語を収集・分類した。その上で,高頻度の助詞,接辞,動詞や,領域特徴度の高い名詞について,医学テキスト固有の特徴という観点から分析を行った。その結果,接辞や動詞において医学分野特有の語がみられた。また,名詞に関しては診療分野ごとに頻出語が異なることから,診療分野別に語彙リストを構築することが重要であることがわかった。
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.77-91, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
15

本稿は上級レベルの留学生を対象とする近代文語文講読の授業の実践報告である。この授業では,福沢諭吉と中江兆民の文章を原文で読んでいる。対象者は上級レベルの留学生だが,受講者に文語文法の知識は要求しない。授業の目的は,近代日本の思想家の思想を原文で読めるようになることと,近代語と現代語の違いを知ることを通して日本語の理解を深めることである。前者については,福沢の文章では基本的人権 (福沢の「権利通義」) について,中江の文章では為政者 (政治家,官僚) に求められる資質について考え,それを現在の日本社会と比較している。後者については,対照言語学的視点から近代語と現代語を比較し,近代文語文は形態素レベルで1対1に対応させることで現代語に訳せることを確認し,それを通して受講者の現代語の知識を深めている。
著者
庵 功雄 宮部 真由美
出版者
一橋大学国際教育センター
雑誌
一橋大学国際教育センター紀要 (ISSN:21856745)
巻号頁・発行日
no.4, pp.97-108, 2013

本稿では、漢語サ変動詞の使役形である「漢語+させる」の頻度を中納言を用いて調べた。その結果、基本語彙と考えられる能力試験1級までの二字漢語の大部分において、「させる」は「強制」や「許可・許容」の用法ではなく、「他動詞を作る」ために使われていることがわかった。また、定延(2000)で指摘されている「使役余剰」が実際の言語使用においてもかなり安定的に見られる現象であることもわかった。本稿の結果は、最近の日本語教育文法の主張を定量的に裏付けるものであるとともに、シラバス策定における、大規模コーパスの有用性を示すものでもある。
著者
高梨 信乃 齊藤 美穂 朴 秀娟 太田 陽子 庵 功雄 Takanashi Shino Saito Miho Park Sooyun Ota Yoko Iori Isao
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.29, pp.159-185, 2017-02

上級日本語学習者は文章作成などの産出レベルにおいてさまざまな文法上の問題点を抱えている。本稿は、彼らが文法の誤りを自己訂正できるようなモニタリング力を養成するための教材を作成することを最終目標に置いた基礎研究である。上級学習者の産出物である修士論文の草稿を取り上げ、その中に見られる文法的な誤用を、文法カテゴリおよび誤用の種類に基づいて精査した。今回の調査で見られた誤用の90%以上が旧日本語能力試験3 級以下の文法項目であったことからも確認できるように、上級学習者の誤用の大半は初級の文法項目である。それらの誤用の一部は、初級から上級に至るプロセスの中で指導が行われていない、もしくは指導が不十分であることに起因すると考えられる。