著者
小池 拓矢 杉本 興運 太田 慧 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.125-139, 2018 (Released:2018-04-13)

本研究は,東京大都市圏における若者のアニメに関連した観光・レジャーの実態と空間的な特徴を明らかにすることを目的とした。Web上で実施したアンケートからは,単にアニメに関連した観光・レジャーといっても,その活動の種類によって参加頻度が大きくことなることや,日常的に顔を合わせる友人だけでなく,オンライン上で知り合った友人とも一緒に観光・レジャーを行う層が一定数いることが明らかになった。さらに,アンケートの結果をもとに,来訪されやすいアニメショップや印象に残りやすいアニメの聖地の空間的特徴を概観した。秋葉原や池袋などのアニメショップが集積する場所として有名な場所だけでなく,新宿にもその集積がみられた。また,都心部にもアニメの聖地が数多くみられ,多くの若者が訪れていることが明らかとなった。
著者
杉本 興運
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.29-47, 2023 (Released:2023-10-01)
参考文献数
40

本研究は、ライブ・エンタテイメント(LE)の全国的動向を、イベントの開催地域や開演時間の点から追求した。具体的には、大量の音楽・ステージイベントの個票データを分析し、イベント開催件数の地域集中度、イベント開演時間の分布とその地域差を明らかにした。また、サブジャンルや会場規模によるイベント開演時間の違いについても分析した。LEイベントは、空間的には一部の地域に集中していた。そして、時間的には平日夜間や休日昼間へ集中する傾向がみられたが、サブジャンルに細分化するとそれぞれで特徴的な時間分布をみせた。これらの結果から、LEの地域的特性や夜間経済との関わりについて考察した。
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018 (Released:2018-04-13)
被引用文献数
3

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018 (Released:2018-04-13)
被引用文献数
4

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
杉本 興運
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.51-66, 2017 (Released:2018-04-12)
被引用文献数
2

本研究では,東京大都市圏における若者の日帰り観光・レジャーの時間的・空間的特性を,大規模人流データの分析結果から検討した。外出時間に着目した時間的特性の分析では,年齢が高くなるにつれて観光・レジャーの活動時間が昼間だけでなく夜間にも拡大すること,成人では学業,労働,家事を主体とした職業・学生種別がそれぞれもつ生活上の制約によっても観光・レジャーの活動時間に差異が生じること,性別比較では男性より女性の方が夜間での観光・レジャーをする人の割合が大きいことなどが明らかとなった。訪問先に着目した空間的特性の分析では,若者全体で浦安市が最も人気の訪問先ゾーンであること,それ以外のゾーンを類型化すると特定タイプの若者の訪問が目立つゾーンや様々な属性の若者が多く訪れるゾーンが抽出され,特に後者は若者の観光・レジャーにとって重要な地域であること,昼夜別かつ男女別で訪問先選択の傾向が異なることなどが明らかとなった。
著者
飯塚 遼 太田 慧 池田 真利子 小池 拓矢 磯野 巧 杉本 興運
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.140-148, 2018 (Released:2018-04-13)

近年の世界的なクラフトビールブームのなか,ビールの消費量が減少している日本においてもクラフトビールの人気が高まりをみせている。とくにクラフトビールをテーマとしたイベントは全国各地で開催されるようになり,単なるプロモーションだけではなく,地域活性化の手段としても注目され始めている。また,それらのイベントは,ビール離れが進行しているとされる若者をも集客しており,若者のイベントとしての様相もみせている。本研究は,イベントの集積がみられる東京都を対象として,クラフトビールイベントの展開と若者のクラフトビール消費行動の関係性についてフード・ツーリズムの観点から一考察を試みるものである。そこでは,クラフトビールイベントを通じた若者の消費行動による新たなクラフトビール文化が形成され,その文化を背景とするオルタナティブな都市型フード・ツーリズムの形態が存立していることが示唆された。
著者
池田 真利子 坂本 優紀 中川 紗智 太田 慧 杉本 興運 卯田 卓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-226, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
74

本稿は,隣接諸領域において長らく術語となってきた景観を夜との関係から考察することで,景観論に若干の考察を加えることを目的とする。景観の原語とされるラントシャフトは,自然科学分野にて紹介され,方法論的発展の必要と相まって視覚的・静態的・形態的に捉えられた。他方の人文学領域においては,景観・風景の使い分けがなされてきたが,1970年代の景観の有するモダニティに対する批判的検討以降も視覚的題材がその考察の主体であった。夜を光の不在で定義すると,人間が視覚で地表面を捉えることのできない夜の地域の姿が浮かび上がってくる。これは,視覚を頂点とするヒエラルキ−を再考することでもある。同時に夜に可視化される光と闇に,近代以降,人間は都市・自然らしさという意味を見出してもきた。それは,光で演出する行為であり,星空を見る行為でもある。現代はその双方が自然と都市に混在するのである。
著者
吉岡 誉将 杉本 興運 菊地 俊夫
出版者
首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-11, 2020-03-15

本研究は,J リーグサッカーファンによる応援クラブのアウェイ戦観戦に着目し,それによる地域活性化の可能性を検討することを目的とする。具体的には,アウェイクラブのファンにとってのアウェイ戦観戦における訪問先での需要を明らかにし,その上で,彼らの受け入れに積極的な先進地域の取り組みを参考にすることを通して,スポーツイベントを軸とした地域活性化の推進に資する知見の導出を試みる。そのための調査として,アウェイ戦観戦行動を把握するためのWeb アンケート調査と,アウェイクラブのファンを受容する地域(長野県松本市)の取り組みを明らかにするためのフィールド調査を行った。これらの調査結果から,サッカークラブの立地する地域が,アウェイクラブのファンをどのように誘致し,受け入れ態勢を整え,地域活性化につなげていけばいいのかについて議論し,また,具体的な施策を提案した。
著者
杉本 興運
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.246-260, 2017 (Released:2017-12-16)
参考文献数
18

本研究では,シンガポールが大きな観光発展を遂げ,外国人訪問客の多く訪れる国際観光拠点となった過程を,観光やMICEに関する政策や資源・施設開発の側面から明らかにする.シンガポールにおける現在までの観光産業の成功の背景には,地理的・言語的優位性を活かしながら,政府主導による観光立国への積極的な取組みを継続してきたことがある.独立当初には,観光振興は外貨獲得や雇用創出のための手段であったが,2010年以降のMICEの発展や統合型リゾートの成功にみられるように,現在では国家の国際競争力を高める手段としても重要な役割をもつようになった.特に,最近の中心地区における話題性の高い大規模な観光・MICE施設開発が,拠点機能の向上に大きく寄与している.
著者
西村 圭太 杉本 興運 菊地 俊夫
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS-理論と応用 (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.85-95, 2019-12-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

In recent years, Japan has developed long-distance cycle routes as part of tourism promotion policy. Cycling tourists often take these routes for inter-destination movement. However, it is difficult to gather data concerning such types of movement with existing investigation methods such as questionnaires. This study examines the effectiveness of volunteered geographic information (VGI) for analyzing inter-destination movement of cycle tourists and regional factors affecting the movement. Hokkaido was selected as a suitable targeted area. As the result, comparing the behavioral indicators derived from VGI and existing questionnaire survey, we could show that VGI were effective in capturing the actual condition of cycle tourist movement. In addition, analyzing the regional factors affecting cycle tourist movement based on Spatial Autoregression Model allowed us to detect important regional factors, including coastline, trail station and accommodation.
著者
杉本 興運
出版者
一般社団法人 地理情報システム学会
雑誌
GIS-理論と応用 (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.39-49, 2012-06-30 (Released:2019-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
4 3

This paper evaluates park trails by analyzing the spatial patterns of visitors' visual experiences, using digital cameras, GPS loggers, and GIS. We use a technique called “visitor-employed photography” to identify sceneries that visitors evaluated positively. We then add geo-tags to the digital-photo data. Thereafter, the spatial patterns of locations where the visitors took photos are analyzed on a GIS. The spaces and sceneries favored by many visitors are extracted by the kernel density estimation of locations where photos were taken. We find that the distribution patterns are influenced by the characteristics of walking-designed courses. Moreover, we classify the photographs into nine categories and, thereby, reveal, in detail, the spatial patterns of locations where photos were taken in each category.
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
杉本 興運
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

研究の背景と目的 本研究は、東京大都市圏における若者の種類別の観光・レジャーの実施状況を明らかにし、大都市における若者の観光・レジャー活動の特性や全体的傾向を把握することを目的とする。先行研究である杉本(2018)の研究では、パーソントリップ調査を基にして開発された大規模人流データを分析することで、東京大都市圏における若者の日帰り観光・レジャーの外出時間や訪問先にみられる特徴を明らかにすることに成功した。しかし、訪問先での活動目的が「観光・レジャー」一択の属性情報しかなく、より細かい種類で分類したときの観光・レジャー活動の実施状況についてはまだ分かっていない。<br><br>研究方法 大都市圏に居住する若者に対してWebアンケート調査を実施した。具体的には、東京大都市圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県)に居住している15歳以上34歳未満の人々を対象として、28種類の観光・レジャーそれぞれにおける1)直近1年間での活動の実施の有無、2)実施した場合の同行者、3)実施した場合の訪問先について質問した。なお、調査には株式会社コロプラのサービスを利用し、Webアンケートは2018年1月5日に配信・回収した。<br><br> 分析方法としては、各質問の単純集計結果から傾向を読み取るとともに、若者の基本属性を基にしたクロス集計の結果から属性による違いを明らかにする。<br>分析結果 回収したサンプル数は全部で1,115人となった。紙面の都合上、1)の分析結果のみを記す(図1)。種類別にみると、「ショッピング」(565人)の実施者数が最も多く、それに続いて「テーマパーク・遊園地」(370人)、「グルメ」(348人)、「動物園・水族館」(274人)、「コンサート・演劇」(259人)の順に実施者数が多い。したがって、これらが東京大都市圏における若者が観光・レジャーで行う一般的な活動であると言え、都市観光の要素が非常に強い。若者に特有の活動と考えられる「アニメ・マンガの場所やイベント」(146人)、「ナイトクラブ・ライブハウス」(61人)に関しては、実死者数は相対的に高いとは言えない。
著者
杉本 興運 小池 拓矢
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.1015-1031, 2015
被引用文献数
4

&emsp;This study examines tourist behavior in the Mt. Fuji area in terms of distance traveled by tourists, and clarifies differences in types of tourist and their movements based on distance traveled. Moreover, it describes the social impact of the area's recognition as a UNESCO World Heritage site on the behavior of tourists. Tourism in the Mt. Fuji area began as Fuji Tohai, which means &ldquo;climbing for worship&rdquo; in the Edo era, and was popularized by subsequent tourism development. At present, the Fuji area is a tourism region that provides opportunities for sightseeing, leisure, and recreational activities, such as exploring and staying in the Fuji Five Lakes region, to visitors who live in or near urban and metropolitan areas. By analyzing the results of a questionnaire survey given to domestic individual travelers who use private cars, we found that their behavior is characterized by differences related to travel distance, although most of them share the common purpose of experiencing natural landscapes during their travels. Neighborhood residents tend to visit for daily leisure activities, whereas visitors from distant places tend to make overnight trips and visit only major tourist attractions. This shows the nature of the concentric model, which means that travel distance influences the behavior of tourists, their perceptions, and frequency of trips, and vice versa. However, we simultaneously discovered a distortion in this model, which is caused by the locality of the Mt. Fuji area. Tourism in the Mt. Fuji area currently faces changes resulting from the significant social impact of the area's recognition as a World Heritage site: Tourism demand is increasing, especially among persons who live in more distant places, which means foreigners living abroad in this study, and local residents are working to develop tourist areas and touring routes, focusing on World Heritage. Tourist behavior, such as perception and movements, have gradually changed in parallel with social and environmental changes.
著者
洪 明真 太田 慧 杉本 興運 菊地 俊夫
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.11, pp.35-43, 2018-03-15

本研究は東京都台東区上野地域おける行楽行動の要素を歴史地理学的な観点から検討したものである。江戸期にわたって刊行された名所案内記の挿絵と錦絵を用い,これらの視覚史料に描かれた江戸期の上野地域の描写対象を分析した。江戸上野地域は,新しい都市となった江戸を象徴する建造物を建設するため,地形的・文化的条件が合致する場所であった。そして,為政者による江戸の都市施設と遊覧場所として計画された上野地域の「東叡山」とその周辺には,当時の人々の行楽行動が現われていた。江戸上野地域の視覚史料から描写対象としての「人的要素(女性)」と「物的要素(衣食住関連の商業活動)」に注目したところ,江戸上野地域の行楽行動の要因は「東叡山」と「桜」は江戸上野地域における行楽行動の重要な要素となっていた。
著者
杉本 興運 小池 拓矢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

空間現象を扱う地理学では、観光者の行動に関する理論的・実証的研究として、とりわけ移動や流動といった観光者の空間行動の諸側面を関心の中心でとしており、これまで観光者の行動パターンの探索や類型および規定要因の解明などを通して、理論構築や実証分析が積み重ねられてきた。特に観光者(発地)と観光対象(目的地)双方の空間関係に着目し、「距離」による影響を明示的に分析基軸やモデルに取り入れることが多い。その場合、マクロ視点では「居住地と目的地との距離(以後、旅行距離と呼ぶ)」が主な着眼点となり、これまで旅行距離によって観光者の性格や旅行形態が変化するという同心円性の存在が仮定・実証されている他、観光行動の周遊パターンの様々なモデルが開発されている。本研究は、2013年6月の世界遺産登録を受け、今や国際的な観光地としての認知度が高まった富士山麓地域を事例に、着地ベースで観光者の旅行距離と観光行動との関係を検討する。より具体的には、富士山麓地域での観光の核である富士北麓を中心とした観光者の旅行形態や空間行動の特徴を、旅行距離の違いから明らかにする。また、世界遺産登録という大きな社会的インパクトが、観光行動に与えた影響についても検討する。<br> 本研究では、富士山麓地域の観光において圧倒的多数の国内個人旅行者の行動データを取得するために、現地での質問紙調査を行った。この質問紙には観光者の旅行形態および活動(訪問順序など)についての項目が含まれる。さらに、昨今重要な話題である世界遺産登録に関する項目も追加した。調査場所は道の駅富士吉田で、調査日は2014年8月12、13、14日のお盆休み(観光者が年間を通して最も多く来訪する8月の休日)の期間である。調査の結果、194グループ分の有効回答を得られた(ただし活動データに関しては93グループ分)。今回は大きく旅行形態と空間行動の2種類に関する分析を行った。旅行形態に関しては、各項目を旅行距離帯別にクロス集計し、旅行距離によって項目内の各カテゴリー出現頻度がどのくらい異なるのかを分析した。本研究では旅行距離を居住地から河口湖までの距離として算出している。さらに、各カテゴリー間の関係を、距離を含めて数量化するために、多重対応分析によるパターン分類を行った。空間行動に関しては、各距離帯におけるトリップの空間分布、トリップ数に関する基本統計量の算出、観光対象分布の標準偏差楕円の算出、代表的な周遊ルート事例の抽出の、計4種類の分析を行い、その結果を総合した。世界遺産登録の観光行動への影響に関しては、調査データから得られた構成遺産を巡る周遊ルートの事例や既存の調査報告書の結果を組み合わせ、検証した。<br> 富士山麓地域での開発と観光の歴史をふまえ、本研究の結果について、以下に簡潔に述べる。富士山麓地域での観光は、江戸時代の富士登拝から始まり、その後の交通整備や観光開発の進展によって大衆化した。現在では、富士五湖を中心とした回遊・滞在型観光や観光施設でのレジャー活動など、主に首都圏の大都市居住者の多様なニーズに応える観光地域として機能している。現在の顧客層の中心であるマイカーを利用した国内個人旅行者は、自然景観の体験を富士山麓観光における共通の目的としながらも、旅行距離によって属性や旅行形態および空間行動が特徴づけられている。例えば、近隣居住者では日常的余暇活動を目的とした日帰り旅行が多く、遠方から来訪した観光者には定番の観光スポットを巡る宿泊型の旅行が卓越する。さらに、最近では世界遺産登録という社会的インパクトによって、より遠方の地域、つまり国外に住む外国人からの観光需要が一層高まると共に、構成遺産を中心とした観光圏の整備や周遊ルートの開発などが行われ、富士山麓地域における観光者の属性や行動がさらなる変化を遂げる兆しをみせている。