著者
内田 康弘 神崎 真実 土岐 玲奈 濱沖 敢太郎
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.5-26, 2019-11-30 (Released:2021-07-10)
参考文献数
14

本稿の目的は,1990年代以降,高等学校通信制課程が増えてきたメカニズムを,その設置認可プロセスに着目しながら明らかにすることである。そのため,各学校の設置趣意書や私学審議会資料の収集,都道府県へのアンケート調査を通じてそのメカニズムの解明を試み,以下の3点が明らかとなった。 第一に,通信制高校の設置を企図する各法人は,全日制高校に適合的でない生徒を受け入れる場としての通信制設置を設置趣意に掲げ,それは私学審議会において既設の高校と生徒層を競合しないと意義づけられ,その設置が認可されてきた。 第二に,私立学校の設置認可行政において,通信制高校は特殊な位置づけにあった。具体的には,通信制高校を入学定員の調整対象から外す自治体が少なくなく,全日制・定時制高校とは異なる定員決定のプロセスがあった。 第三に,2000年代以降の通信制高校増加に正の影響を及ぼした一つの制度的誘因として,通信教育規程改正による学校設置条件の弾力化があった。さらにその影響は,既設の学校法人および新規参入の法人等という,学校設置者の前身組織のタイプによって異なっていた。 ここから,通信制高校増加を説明する主要な変数として「中退者の受け入れ」が位置づくことを検証し,後期中等教育の内部および周縁に位置づく教育機関のうち「中退者の受け入れ」を想定したアクターが通信制高校の運営に着手していく,後期中等教育変容メカニズムの一断面を描出した。
著者
濱沖 敢太郎 内田 康弘 神崎 真実 土岐 玲奈
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の目的は、通信制高校のカリキュラムやその運用方法の特徴を明らかにすることである。具体的には、「教育課程表を用いた体系的なカリキュラムデータの構築と分析」及び「私立通信制におけるカリキュラム運用の実態検証」を実施する。この研究の特色は「通信制高校と同様、多様な生徒が学ぶ場づくりを進めてきた学校群との比較」そして「1990年代以降の拡充期に起きた通信制内部の変化」に着目する点であり、1990年代以降の高校教育に関するカリキュラム研究を批判的に継承し、その意義や可能性を再構築することにも寄与するものである。
著者
神崎 真実 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.241-258, 2018-09-30 (Released:2018-11-02)
参考文献数
34
被引用文献数
4

本研究は,ボランティアと協働することで不登校者を受け入れてきた全日制高校Bで事例研究を行い,一次的援助サービスとしての学級復帰の支援体制について検討することを目的とした。B高校のオープンスペースで,ボランティアとしての参与観察を37回行い,生徒-教師-コーディネーター-ボランティア間の交流を記録し,各支援者の役割を分析した。結果,ボランティアは生徒の学習面,教師や親との関係,友人関係に関わり,中でも生徒同士の友人関係を支える役割を担っていた。コーディネーターは,ボランティアを支援者として位置づけ生徒の状況や支援目標を伝える役割と,支援者として位置づけず自分らしく関わってほしいことを伝える役割を担っていた。教員は,生徒の状況を見立て,授業参加とオープンスペースの滞在をめぐる調整を行っていた。こうした役割分担により,生徒はボランティアとともに様々な居方でオープンスペースに滞在し,多くは学級へ復帰した。結果をふまえ,各支援者の役割と一次的援助サービスとしての学級復帰について考察を行った。従来とは異なる学級復帰支援として,学内における生徒の多様な「居方」を保障する実践を示唆した。