著者
神谷 研二 増田 雄司 豊島 めぐみ 神谷 研二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

低線量放射線被ばくの健康影響を解明するためには高感度のバイオドシメトリーと発がん機構の解明に基づく発がんリスク評価が必要である。そのため,バイオドシメトリーを可能にする放射線高感受性マウスの開発とゲノム障害応答・修復蛋白質の機能解析とそれを利用した分子バイオドシメトリー法の開発を試みた。1.放射線に高感度なモニターマウスの開発と特性解析放射線に高感度なマウスを開発する為に,誤りがちな修復をする損傷乗り越えDNA合成遺伝子mRevlを過剰発現したトランスジェニックマウス(Revlマウス)を共同研究で作製した。このマウスは,発がん処理に対し発がん高感受性であることが明らかとなったので,このマウスの生物学的特性を解析した。さらに,REV1の過剰発現が細胞の特性に及ぼす影響を解析する目的で,テトラサンクリンでREV1の発現が誘導可能なヒト肉腫細胞を樹立した。この細胞の放射線感受性を検討した結果,この細胞は放射線照射後の生存率が対照群より上昇傾向にあることが明らかとなった。この様にREV1の過剰発現細胞は,放射線に抵抗性であることから,細胞が生き延びることで突然変異を蓄積しやすい特性を有することが示唆された。2.低線量放射線を測定する分子バイオドシメトリー法の開発に関する研究ゲノム損傷部位には、損傷応答に関連するタンパク質複合体が形成され、この複合体は免疫染色でドットとして可視化でき、その個数からゲノム損傷を定量できる。このような現象を利用した全く新しい分子バイオドシメトリー法を開発する一助としてゲノム損傷修復やDNA合成に関係するタンパク質の同定とその機能解析を進めた。そめ結果、幾つかのタンパク質因子の候補を同定した。それらのタンパク質因子について、分子バイオドシメトリー法に利用できるか否かの検討を行った。一方、ゲノム損傷に依存的なH2AXの修飾がクロマチンダイナミズムを増加させることを見出した。さらに、再構成系を用いて損傷乗り越えDNA合成機構の解析に成した。
著者
谷川 攻一 細井 義夫 寺澤 秀一 近藤 久禎 浅利 靖 宍戸 文男 田勢 長一郎 富永 隆子 立崎 英夫 岩崎 泰昌 廣橋 伸之 明石 真言 神谷 研二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.782-791, 2011-09-15 (Released:2011-11-15)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

東日本大震災は,これまでに経験したことのない規模の地震・津波による被害と福島第一原子力発電所の事故を特徴とした複合型災害である。3月11日に発生した地震と巨大津波により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受けた。3月12日には1号機が水素爆発を起こし,20km圏内からの避難勧告が出された。14日には3号機が爆発,15日の4号機爆発後には大量の放射性物質が放出されるという最悪の事態へと進展した。一方,この間,原子力災害対応の指揮本部となるべく福島県原子力災害対策センターも損壊を受け,指揮命令系統が十分に機能しない状態となった。20km圏内からほとんどの住民が避難する中で,医療機関や介護施設には推定でおよそ840名の患者が残されていた。これらの患者に対して3月14日に緊急避難が行われた。しかし,避難患者の受け入れ調整が困難であり,重症患者や施設の寝たきり高齢患者などが長時間(場合によっては24時間以上)にわたりバス車内や避難所に放置される事態が発生した。不幸にも,この避難によって20名以上の患者が基礎疾患の悪化,脱水そして低体温症などで死亡した。一連の水素爆発により合計15名の作業員が負傷した。その後,原子炉の冷却を図るべく復旧作業が続けられたが,作業中の高濃度放射線汚染による被ばくや外傷事例が発生した。しかし,20km圏内に存在する初期被ばく医療機関は機能停止しており,被ばく事故への医療対応は極めて困難であった。今回の福島原子力発電所事故では,幸い爆発や放射線被ばくによる死者は発生していないが,入院患者や施設入所中の患者の緊急避難には犠牲を伴った。今後は災害弱者向けの避難用シェルターの整備や受け入れ施設の事前指定,段階的避難などを検討すべきである。また,緊急被ばくへの医療対応ができるよう体制の拡充整備と被ばく医療を担う医療者の育成も急務である。
著者
神谷 研二 笹谷 めぐみ 飯塚 大輔 増田 雄二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

最新の突然変異誘発機構の研究成果を応用して、低線量放射線被ばくに対する分子レベルの生物線量計の開発を試みた。生物線量計として、突然変異を誘発する Rev1 トランスジェニックマウスとヒト家族性大腸腺腫症のモデルマウスを交配した F1 マウスを使用した。その結果、F1 マウスは、自然誘発がんのみならず、放射線誘発がんを高頻度に発症した。このマウスを使うことで放射線発がんリスクを評価できる可能性があると考える。