著者
岩崎 泰昌 奈女良 昭 宇根 一暢 太田 浩平 木田 佳子 廣橋 伸之 谷川 攻一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.797-803, 2014-10-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
12

室内など閉鎖空間での火災による傷病者は,熱傷の他に一酸化炭素中毒(CO)を合併することが多いが,同時に化学繊維などの燃焼で発生したシアン化水素の吸入によりシアン中毒を生じることがある。室内火災の現場から救出されCO中毒にシアン中毒を合併した1例を経験したので報告する。症例は18歳の男性。ビル内にある飲食店の一室で火災に巻き込まれて,消防により倒れているところを救助され,火災発生から約1時間後に当院救命救急センターへ搬送された。来院時,意識はGlasgow coma scale score 3,顔面にII度熱傷 7%,両手にIII度熱傷 5%を受傷しており,気道内に大量の煤を伴う気道熱傷を認めた。血中乳酸値は13.5mmol/Lで高度の乳酸アシドーシスを認め,carboxyhemoglobin(COHb)濃度は33.8%,来院から1時間後の血中シアン濃度は,4.3µg/mLであった。乳酸値は来院後12時間で正常化,100%酸素換気下でCOHb濃度は来院3時間後に5%以下,シアン濃度は来院4.5時間後に0.3µg/mLにそれぞれ低下したが,意識の回復は認めなかった。来院時の頭部CTでは,軽度の脳浮腫と皮髄境界の不鮮明化を呈し,第3病日には明らかな皮髄境界の消失と高度の脳浮腫が認められ,来院から6日後に低酸素脳症で死亡した。来院1時間後の血中シアン濃度は,致死レベルを越えていたことから,COHb濃度の上昇による酸素運搬障害に加えて,シアン中毒による脳細胞の細胞内窒息により,来院時からすでに高度の低酸素脳症が生じたものと考えられた。本症例では,シアン中毒の解毒薬であるヒドロキソコバラミンの投与はできなかったが,室内などの閉鎖空間での火災による傷病者に対しては,ヒドロキソコバラミンを早期に投与する必要性があると考えられた。
著者
谷川 攻一 細井 義夫 寺澤 秀一 近藤 久禎 浅利 靖 宍戸 文男 田勢 長一郎 富永 隆子 立崎 英夫 岩崎 泰昌 廣橋 伸之 明石 真言 神谷 研二
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.782-791, 2011
被引用文献数
2 4

東日本大震災は,これまでに経験したことのない規模の地震・津波による被害と福島第一原子力発電所の事故を特徴とした複合型災害である。3月11日に発生した地震と巨大津波により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受けた。3月12日には1号機が水素爆発を起こし,20km圏内からの避難勧告が出された。14日には3号機が爆発,15日の4号機爆発後には大量の放射性物質が放出されるという最悪の事態へと進展した。一方,この間,原子力災害対応の指揮本部となるべく福島県原子力災害対策センターも損壊を受け,指揮命令系統が十分に機能しない状態となった。20km圏内からほとんどの住民が避難する中で,医療機関や介護施設には推定でおよそ840名の患者が残されていた。これらの患者に対して3月14日に緊急避難が行われた。しかし,避難患者の受け入れ調整が困難であり,重症患者や施設の寝たきり高齢患者などが長時間(場合によっては24時間以上)にわたりバス車内や避難所に放置される事態が発生した。不幸にも,この避難によって20名以上の患者が基礎疾患の悪化,脱水そして低体温症などで死亡した。一連の水素爆発により合計15名の作業員が負傷した。その後,原子炉の冷却を図るべく復旧作業が続けられたが,作業中の高濃度放射線汚染による被ばくや外傷事例が発生した。しかし,20km圏内に存在する初期被ばく医療機関は機能停止しており,被ばく事故への医療対応は極めて困難であった。今回の福島原子力発電所事故では,幸い爆発や放射線被ばくによる死者は発生していないが,入院患者や施設入所中の患者の緊急避難には犠牲を伴った。今後は災害弱者向けの避難用シェルターの整備や受け入れ施設の事前指定,段階的避難などを検討すべきである。また,緊急被ばくへの医療対応ができるよう体制の拡充整備と被ばく医療を担う医療者の育成も急務である。
著者
谷川 攻一 細井 義夫 寺澤 秀一 近藤 久禎 浅利 靖 宍戸 文男 田勢 長一郎 富永 隆子 立崎 英夫 岩崎 泰昌 廣橋 伸之 明石 真言 神谷 研二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.782-791, 2011-09-15 (Released:2011-11-15)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

東日本大震災は,これまでに経験したことのない規模の地震・津波による被害と福島第一原子力発電所の事故を特徴とした複合型災害である。3月11日に発生した地震と巨大津波により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受けた。3月12日には1号機が水素爆発を起こし,20km圏内からの避難勧告が出された。14日には3号機が爆発,15日の4号機爆発後には大量の放射性物質が放出されるという最悪の事態へと進展した。一方,この間,原子力災害対応の指揮本部となるべく福島県原子力災害対策センターも損壊を受け,指揮命令系統が十分に機能しない状態となった。20km圏内からほとんどの住民が避難する中で,医療機関や介護施設には推定でおよそ840名の患者が残されていた。これらの患者に対して3月14日に緊急避難が行われた。しかし,避難患者の受け入れ調整が困難であり,重症患者や施設の寝たきり高齢患者などが長時間(場合によっては24時間以上)にわたりバス車内や避難所に放置される事態が発生した。不幸にも,この避難によって20名以上の患者が基礎疾患の悪化,脱水そして低体温症などで死亡した。一連の水素爆発により合計15名の作業員が負傷した。その後,原子炉の冷却を図るべく復旧作業が続けられたが,作業中の高濃度放射線汚染による被ばくや外傷事例が発生した。しかし,20km圏内に存在する初期被ばく医療機関は機能停止しており,被ばく事故への医療対応は極めて困難であった。今回の福島原子力発電所事故では,幸い爆発や放射線被ばくによる死者は発生していないが,入院患者や施設入所中の患者の緊急避難には犠牲を伴った。今後は災害弱者向けの避難用シェルターの整備や受け入れ施設の事前指定,段階的避難などを検討すべきである。また,緊急被ばくへの医療対応ができるよう体制の拡充整備と被ばく医療を担う医療者の育成も急務である。