著者
田勢 長一郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.264-271, 2005 (Released:2005-05-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

麻酔科医にとり挿管困難症例は避けては通れない重大な問題である. 挿管困難症に対しては種々の方法が考案されているが, このなかで気管支ファイバースコープ (BF) をガイドにして気管挿管を行う方法は, 使用法に慣れれば合併症が少なく, 短時間ででき, 最も成功率が高い. 経口あるいは経鼻挿管が可能なすべての挿管困難症例に適応があると思われる. BFによる気管挿管は安全かつ確実な方法であるため, 麻酔を専門とするすべての医師にとり必須の技術であり, 熟練していなければならない.
著者
谷川 攻一 細井 義夫 寺澤 秀一 近藤 久禎 浅利 靖 宍戸 文男 田勢 長一郎 富永 隆子 立崎 英夫 岩崎 泰昌 廣橋 伸之 明石 真言 神谷 研二
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.782-791, 2011
被引用文献数
2 4

東日本大震災は,これまでに経験したことのない規模の地震・津波による被害と福島第一原子力発電所の事故を特徴とした複合型災害である。3月11日に発生した地震と巨大津波により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受けた。3月12日には1号機が水素爆発を起こし,20km圏内からの避難勧告が出された。14日には3号機が爆発,15日の4号機爆発後には大量の放射性物質が放出されるという最悪の事態へと進展した。一方,この間,原子力災害対応の指揮本部となるべく福島県原子力災害対策センターも損壊を受け,指揮命令系統が十分に機能しない状態となった。20km圏内からほとんどの住民が避難する中で,医療機関や介護施設には推定でおよそ840名の患者が残されていた。これらの患者に対して3月14日に緊急避難が行われた。しかし,避難患者の受け入れ調整が困難であり,重症患者や施設の寝たきり高齢患者などが長時間(場合によっては24時間以上)にわたりバス車内や避難所に放置される事態が発生した。不幸にも,この避難によって20名以上の患者が基礎疾患の悪化,脱水そして低体温症などで死亡した。一連の水素爆発により合計15名の作業員が負傷した。その後,原子炉の冷却を図るべく復旧作業が続けられたが,作業中の高濃度放射線汚染による被ばくや外傷事例が発生した。しかし,20km圏内に存在する初期被ばく医療機関は機能停止しており,被ばく事故への医療対応は極めて困難であった。今回の福島原子力発電所事故では,幸い爆発や放射線被ばくによる死者は発生していないが,入院患者や施設入所中の患者の緊急避難には犠牲を伴った。今後は災害弱者向けの避難用シェルターの整備や受け入れ施設の事前指定,段階的避難などを検討すべきである。また,緊急被ばくへの医療対応ができるよう体制の拡充整備と被ばく医療を担う医療者の育成も急務である。
著者
行岡 秀和 田勢 長一郎 黒田 泰弘 谷川 攻一 村川 德昭 中川 隆
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.85-89, 2016-08-01 (Released:2016-08-23)
参考文献数
8

心肺蘇生(CPR)の合併症の部位や頻度に関する検討はほとんど行われていない。日本蘇生学会医師会員923名に対して,CPR実施数(指導数を含む),合併症の部位・頻度,防止策などについてアンケート調査を実施した(回答率46%)。回答者は,40歳以上が84%,男性が84%で,ほとんどが麻酔科,救急科の専門医であった。CPR実施数は,20回以下26%,21~100回33%,101回以上41%で,85%が合併症を経験しており,肋骨骨折,気胸・血胸,胸骨骨折,皮下気腫・縦隔気腫,胃内容逆流,誤嚥性肺炎,肺損傷,肝損傷の順であった。合併症防止の注意点としては,胸骨圧迫の部位,強さ,気管挿管の手技が多かった。心停止において迅速なCPRが予後を改善することは明白だが,今回の調査で,合併症は熟練した医師でも発生することがわかった。合併症を最小にするCPR法や予後に及ぼす影響を検討する必要がある。
著者
松本 昭憲 篠原 一彰 中川 雅之 佐久間 宏規 熊田 芳文 田勢 長一郎 小林 国男
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.9, pp.455-458, 2001-09-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
9

Iodoformgauze topical applications are often used to wound infections. We report a postoperative epidural abscess with delirium due to iodoformgauze topical application in an open wound. We had inserted an epidural catheter in 79-year-old man with an epidural abscess. After proper drainage, iodoformgauze was used to cover for the abscess. He suffered consciousness disturbance for 12 days postoperatively. Suspecting iodoform toxicity, we checked protein binding iodine (PBI) and total serum iodine. PBI was 14.5μg/dl and total serum iodine 152μg/dl. We stopped iodoformgauze use, and the man's consciousness cleared, indicating the importance of watching for side effects such as consciousness disturbance when using iodoformgauze.
著者
近藤 久禎 島田 二郎 森野 一真 田勢 長一郎 富永 隆子 立崎 英夫 明石 真言 谷川 攻一 岩崎 泰昌 市原 正行 小早川 義貴 小井土 雄一
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.502-509, 2011-12
被引用文献数
1

背景:2011年3月11日に発生した東日本大震災による地震と津波は東京電力福島第一原子力発電所を襲い,甚大な被害を引き起こし,多量の放射性物質を環境中に放出した.この事故対応において,多くのDMAT隊員が派遣された.今回,その活動について意義を検証し,今後のDMAT活動,緊急被ばく医療における課題を提示することを目的とした.方法:高線量被ばく・汚染(緊急作業従事者)への緊急被ばく医療対応,住民対応,入院患者の移送対応などDMAT活動実績をまとめ,課題を抽出した.結果:DMATの入院患者移送対応は,福島第一原子力発電所から20〜30km圏内の病院を対象に3月18日〜22日に行われた.入院患者454名を搬送したが,搬送中の死亡は防げた.DMATは緊急被ばく医療体制でも重要な役割を果たした.DMATは原子力発電所からJビレッジを経由し二次被ばく医療機関,三次被ばく医療機関に分散搬送する流れをサポートする体制を確立した.その為の,研修会の実施といわき市内へのDMATの待機のための派遣を行った.いわき市内へのDMAT派遣は,いわき市立総合磐城共立病院を拠点として,4月22日から9月7日まで22次隊,のべ127名が派遣された.DMATによる住民一時立入り対応においては,中継基地における医療対応を行った.具体的には,会場のコーディネーション,Hotエリアの医療対応を行うとともに,救護班としても活動した.活動期日は5月3日から9月2日のうち60日に及び,スクリーニング・健康管理の対象者は14700人以上で,さらに傷病者131名に対応した.これらの活動を通じて,重篤な傷病の発生,スクリーニングレベルを上回る汚染は,DMATが活動したところにおいては,ともになかった.考察:本邦の緊急被ばく医療体制は,原子力施設立地道府県の地方自治体毎に構築されており,いくつかの問題が指摘されていた.問題の一つは放射線緊急事態への対応の教育,研修はこれらの地域のみで行われていたことである.さらに,他の災害との連携,整合性に問題があることはたびたび指摘されていた.DMATが医療搬送を行うことにより,454名の患者を安全に搬送したことと,住民一時立入りでのDMATの活動の意義は深かった.今回の事故対応の経験から,被ばく医療も災害医療の一つであり,災害医療体制との整合性は必須であることが示唆された.今後は,やはり災害医療体制の中で,緊急被ばく医療もしっかりと位置付けられることが必要である.そのような観点からの緊急被ばく医療体制のあり方について研究していくことが今後は必要である.
著者
谷川 攻一 細井 義夫 寺澤 秀一 近藤 久禎 浅利 靖 宍戸 文男 田勢 長一郎 富永 隆子 立崎 英夫 岩崎 泰昌 廣橋 伸之 明石 真言 神谷 研二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.782-791, 2011-09-15 (Released:2011-11-15)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

東日本大震災は,これまでに経験したことのない規模の地震・津波による被害と福島第一原子力発電所の事故を特徴とした複合型災害である。3月11日に発生した地震と巨大津波により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受けた。3月12日には1号機が水素爆発を起こし,20km圏内からの避難勧告が出された。14日には3号機が爆発,15日の4号機爆発後には大量の放射性物質が放出されるという最悪の事態へと進展した。一方,この間,原子力災害対応の指揮本部となるべく福島県原子力災害対策センターも損壊を受け,指揮命令系統が十分に機能しない状態となった。20km圏内からほとんどの住民が避難する中で,医療機関や介護施設には推定でおよそ840名の患者が残されていた。これらの患者に対して3月14日に緊急避難が行われた。しかし,避難患者の受け入れ調整が困難であり,重症患者や施設の寝たきり高齢患者などが長時間(場合によっては24時間以上)にわたりバス車内や避難所に放置される事態が発生した。不幸にも,この避難によって20名以上の患者が基礎疾患の悪化,脱水そして低体温症などで死亡した。一連の水素爆発により合計15名の作業員が負傷した。その後,原子炉の冷却を図るべく復旧作業が続けられたが,作業中の高濃度放射線汚染による被ばくや外傷事例が発生した。しかし,20km圏内に存在する初期被ばく医療機関は機能停止しており,被ばく事故への医療対応は極めて困難であった。今回の福島原子力発電所事故では,幸い爆発や放射線被ばくによる死者は発生していないが,入院患者や施設入所中の患者の緊急避難には犠牲を伴った。今後は災害弱者向けの避難用シェルターの整備や受け入れ施設の事前指定,段階的避難などを検討すべきである。また,緊急被ばくへの医療対応ができるよう体制の拡充整備と被ばく医療を担う医療者の育成も急務である。