著者
福武 敏夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.182-188, 2013-06-30 (Released:2014-07-02)
参考文献数
24
被引用文献数
1

人格は背景に社会があって初めて問題になり, 人格障害は社会の中で扱われる。統合失調症や重度のうつ病が代表格であり, “idiopathic/developmental sociopathy”といえる。一方, 人格変化は, 何らかの脳損傷により生じ, 非言語的コミュニケーションを通して行動学的に判断される。人格変化も高度であれば, “acquired sociopathy”と捉えられる。本稿では, 左視床傍正中動脈(背内側核・正中核群)梗塞による意識障害から回復後に著明な人格・情動変化と前頭葉様症候を呈した48 歳男性例を紹介するが, 明らかな記憶障害を伴っていなかったことが大きな特徴であり, 脳における記憶回路(Papez)と情動回路(Yakovlev)の独立性を考える上で重要な症例と思われる。背内側核は, 前頭葉に想定されている3 つのサーキット(背外側部, 前頭眼窩野, 前部帯状回)のすべての要にあり, 統合失調症においても重要とされている。その病態分析のために, 同様症例の蓄積が望まれる。
著者
福武 敏夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001820, (Released:2023-03-29)
参考文献数
47

運動失調は小脳由来の小脳性だけでなく,大脳から末梢神経に至るいずれかの病変によることがある.小脳由来ではない非小脳性運動失調は感覚性運動失調や後索性運動失調と総称されてきた.しかし,前頭葉病変で小脳性と区別しにくい運動失調が現れるので,小脳性運動失調を含めて小脳型運動失調と呼び,後索由来の後索性運動失調も後索ではない頭頂葉病変などによることがあり,後索性運動失調を含めて後索型運動失調と呼ぶことが提唱された(平山,2010).この提唱に従って,脊髄癆や感覚性ニューロパチーなどを概観するが,Miller Fisher症候群の運動失調は自己免疫性運動失調の国際的コンセンサス(2016)にて臨床-生理学的に小脳型とされており,感覚性運動失調に後索性/型運動失調だけでなく,Ia群線維から小脳への感覚入力障害による小脳型運動失調がありうることを強調したい.
著者
福武 敏夫
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.191-200, 2021-09-25 (Released:2021-10-13)
参考文献数
23

ヒトは二足歩行により両手が自由になり,複雑な道具とジェスチャー,口頭言語を作り上げた.社会の発展と共に,書字がエジプト,中国,メソポタミアで独立に開始された.文字は経済と権威のために用いられ,情報の遠隔伝達を可能にした.日本に到った漢字は音と訓で読まれ,簡略形の平仮名と片仮名が造られた.現在までに漢字かな交じり文が標準的になり,複雑すぎるからと漢字廃止論が繰り返し叫ばれるも失敗した.それは,今の情報化社会では文字は打つものとなり,誰でも容易に文章を作成・拡散させうるからである.しかし,その容易さは「見かけだけの博識家」(プラトン)やフェイク政治家を生み出していることに注意が必要である.
著者
福武 敏夫
出版者
日本法哲学会
雑誌
法哲学年報 (ISSN:03872890)
巻号頁・発行日
vol.1993, pp.64-72, 1994-10-30 (Released:2008-11-17)
参考文献数
7
著者
福武 敏夫
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.903-906, 2015-10-25

はじめに かゆみは「掻かずにはおられない行動を引き起こす不快な感覚」とされ,日常臨床においてしばしば訴えられる症状であり,通常,皮膚疾患や代謝性・内分泌性などの内科疾患が原因となる2,6)(表1).神経疾患ではあまり前景に立つ症状ではなく,原因として見逃されやすい.しかし,前回取り上げた帯状疱疹では痛みが注目されるが,持続性のかゆみが訴えられることがある7).さらに,多発性硬化症や視神経脊髄炎では一時的反復性のかゆみが訴えられることがしばしばあるし,その他の脊髄炎や脊髄腫瘍による症例報告も散見される8). 一方,これとは別に,かゆみが脊椎脊髄疾患を悪化させる可能性がある.KiraとOchi5)はアトピーが関連した平山病について報告しており,筆者らは平山病患者が高率にアトピー性素因(と高IgE血症)を伴うことを見出した4)が,さらに,若年者においてアトピー性皮膚炎と軽度の頸椎症性変化とが関連していることも明らかにした3).これらの病態的関連は未解明であるが,アトピーに関連する病理過程が硬膜や脊椎の物理的特性を変化させるのではないかと思われるほかに,かゆみに対し頻回に引っ掻く動作をする際の首の前屈動作が影響しているのではないかとの仮説も立てている1).平山病における臨床情報の積み重ねからは,患者がギター愛好家で首を繰り返し前屈しているとか,サッカーのヘディングを頻回に行ったとか,頸部動作が誘因の1つと考えられる症例にしばしば遭遇する1). 本稿では,かゆみに対する首の動作が頸椎症性脊髄症を悪化させたのではないかと強く疑われる症例(症例1)と,アテトーゼ型の脳性麻痺に伴う頸椎症性脊髄症により左体幹のかゆみが出現し,かゆみに対する首の動作により脊髄症が悪化したと思われる症例(症例2)を紹介する.
著者
榊原 隆次 福武 敏夫 平山 恵造
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.161-166, 1992-08-01
被引用文献数
1

単純ヘルペス脳炎(HSE)自験30例を,臨床症候・画像検査により側頭葉型,側頭葉脳幹型,脳幹型に分けると,脳幹型(7例,23%)は他の2型に比し,発病早期には頭痛,発熱が少なく,GOT・GPT値の異常高値がみられず,初回腰椎穿刺時の髄液圧が平均85mmH_2Oと低く,病像完成期には意識障害が高度であったが,脳波上での周期性同期性放電がみられないなどの特色を示した。脳幹障害を示唆する症候として,corectopiaや対光反射消失などの瞳孔異常,眼頭反射の消失や緩徐・急速相のない自発眼振などの眼球運動異常,無呼吸や吃逆様呼吸などの呼吸異常を認めた。硬膜下水腫の合併が2例にみられたが非手術的に軽快し,死亡例・再発例がなく,自然軽快例もみられるなど予後良好であった。以上の脳幹型HSEの特徴はHSEの早期診断および治療にとって重要と考えられた。
著者
福武 敏夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.182-188, 2013

人格は背景に社会があって初めて問題になり, 人格障害は社会の中で扱われる。統合失調症や重度のうつ病が代表格であり, "idiopathic/developmental sociopathy"といえる。一方, 人格変化は, 何らかの脳損傷により生じ, 非言語的コミュニケーションを通して行動学的に判断される。人格変化も高度であれば, "acquired sociopathy"と捉えられる。本稿では, 左視床傍正中動脈(背内側核・正中核群)梗塞による意識障害から回復後に著明な人格・情動変化と前頭葉様症候を呈した48 歳男性例を紹介するが, 明らかな記憶障害を伴っていなかったことが大きな特徴であり, 脳における記憶回路(Papez)と情動回路(Yakovlev)の独立性を考える上で重要な症例と思われる。背内側核は, 前頭葉に想定されている3 つのサーキット(背外側部, 前頭眼窩野, 前部帯状回)のすべての要にあり, 統合失調症においても重要とされている。その病態分析のために, 同様症例の蓄積が望まれる。