著者
福田 正治
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.25-35, 2008 (Released:2008-12-17)
参考文献数
86
被引用文献数
2

This paper proposes an evolutionary hierarchical hypothesis that feelings in humans consist of four levels of emotion based on brain structure, brain functions, brain evolution and emotional evolution. Feelings in humans are composed of primitive emotion, basic emotion, social feeling and intellectual feeling, with respect to evolution. Primitive emotion is composed of pleasure and unpleasure, that are affected by body homeostasis in relation to environment. Basic emotion is composed of joy, anger, fear, disgust and acceptance or love, that are strongly dependent on survival of predator-prey situations, and gene competition for sexual selection. Social feeling might be induced by cooperation and competition in groups. Intellectual feeling is separated from social feeling in humans, and functions on a symbiotic and existence nature. This paper discusses each nature on four levels of human feeling based on hierarchical hypothesis of feelings.
著者
福田 正治
出版者
[富山大学杉谷キャンパス一般教育]
雑誌
研究紀要 : 富山大学杉谷キャンパス一般教育 (ISSN:1882045X)
巻号頁・発行日
no.38, pp.39-54, 2010-12-25

近年、癒しという言葉が世の中をにぎわしている。癒しグッズ、癒しの音楽、癒しの空間、癒しの旅、癒しの宿など数えきれない程、さまざまなところで癒しという言葉が使われている。そして多くの人びとがそれを求めてうごめいている。この癒しとは何なのか、これを感情との関係で考えてみたいと思ったのがこの論文である。癒しという言葉が、本格的に市場に現れてきたのは1990年代に入ってきてからである。おりしも日本では、経済的バブルがはじけ、長期の不景気に突入し、人びとの不安が高まってきた時期に相当する。将来への不安、リストラへの不安、就職できない不安とさまざまな不安が社会を取り巻いていった。そのような人びとの不安に便乗して、この癒しという言葉が人びとを引きつけ、それを追い求めるというブームが起ったと考えられる。それ以前では、ストレスに対してリラクゼーションという言葉が学問的にも商業的にも多く使われていた。また新精神世界というスピリチュアルな心の糧を求めるという若者の動きもあったが(2)、世代を超えた動きにはなっていなかった。そのような時代背景の中に、癒しという言葉が突然現れ、多くの人びとの心を捉えた。人びとはこの癒しという言葉の意味をどのように理解し使用しているかを考えたとき、そこに大きな曖昧さがあるように思える。この癒しという言葉が、近年、医療の中にも浸透し、心身医療や全人的医療、代替医療の中でよく使われるようになってきている。そもそも癒しという言葉の英語であるhealingは病気を治すという意味を含んでいるために、古代から医学の中で使われていた。しかしデカルトの心身二元論以来、身体の機械論的見方が医学の中を席巻し、今日の西洋医学といわれる巨大な自然科学的知識の空間が形成されている。その中でhealingは伝統医学の中に閉じ込められ、曖昧さを伴った科学的でない概念であると考えられてきた。しかし人間に対する近代科学の限界と危険性が指摘され、生態系の限界も見え隠れしてきている状況の中で、癒しとは何か、生理学的に、また心理学的に再考しようとしたのがこの論文である。
著者
福田 正治
出版者
[富山大学杉谷キャンパス一般教育]
雑誌
研究紀要 (ISSN:1882045X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.45-58, 2008-12

共感は感情の読心能力であり人間関係を円滑に築くための基本的能力である。感情は進化論的に階層構造を有しており、それに伴い共感は情動的共感と認知的共感に区分される。他者の感情認知には、自己の感情喚起に関与する神経系を兼用しており、情動的共感はこの神経系の働きによることが強い。一方、認知的共感はこれに加えて視点取得や心の理論の能力を伴い状況依存的である。これらの理論的背景を概説し、共感が大きく特性の異なる二つのプロセスから構成されていることを議論する。
著者
福田 正治
出版者
富山大学看護学会編集委員会
雑誌
富山大学看護学会誌 (ISSN:1882191X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-13, 2009-10

Empathy is a basicability to conform a relationship between patients and nurses in nursing.The empathy includes a process of feeling communication to coping to the pain of the patients. The feeling composed of a hierarchy structure of basic and cognitive components, so that the empathy may divide into two components of emotional and cognitive empathy.The emotional empathy is an automatic and unconscious process based on mirror neuron.The cognitive empathy is situation-and object-dependence in feeling communication. These suggest two different copings between acute and chronic care stage, related to emotional openness and emotional control. This paper discusses about feeling communication in emotional and cognitive empathy.
著者
福田 正治
出版者
富山大学
雑誌
研究紀要 : 富山大学杉谷キャンパス一般教育 (ISSN:03876373)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.21-34, 2007-12

基本情動の発生、および進化を考えたとき、系統進化の中にその証拠と見つけることは不可能に近く、形態と機能や行動制御の詳細を化石の証拠から見つけるのは難しい。その点から情動の進化は推定を含めた物語になる危険性を含んでいる。しかし情動の進化の紐を辿っていくと、生物の発生や動物の発生までに至り、動物が食性として肉食に至るまでの時間をさかのぼらなければならなかった。そして情動が運動と連動し、運動と別々に論じられないことを見てきた。情動とは何か、という問題を考えていったとき、動物の動物たる所以のところに突き当たってしまった。おそらく、動かない植物に情動が備わっていないことを考えると、動くものと最低限定義できる動物の特性として情動を脳の機能として設定せざるをえなかった。生物は自己保持の機能を根本的に持っていると考えなければ、地球上の生物は今日ここに存在しないであろう。この自己保持機能の中に、生きていくための捕食者―被食者の関係を持たざるを得ない。その関係の中で、情動という機能が生まれ、恐れが第一なのか、報酬に関係した喜びが初めてなのか不明であるが、そのような判断がすばやくできることが生き残る第一の選択であった。有性生殖もまた、複雑な機能を要求してきた。自己の遺伝子をいかに効果的に伝えていくかの機能の中に受容・愛情の原型が作られた。種が生き残る判断として、この受容・愛情の原型は役立ったに違いない。ここではヒトの感情の大部分は動物が群れや集団を作ってしか生きていけないことから発生していることを指摘した。社会的感情は集団の中で生きていくための選択であり、その集団を離れることが死を意味するために、この感情の能力は何千万年かけて幾世代超えて脳の中を書き換えていった。ところが新人類が出現したとき、食料問題か環境問題が緊急になり、自己のテリトリーだけでは満足せず、集団間の軍拡競争にその活路を見出した。時を同じくして、新人類はそれを実行できる大脳皮質の能力が拡大し特殊能力を身に付けた。そして今日地球上を席巻し、いまだに軍拡競争に明け暮れている。
著者
福田 正治
出版者
[富山大学杉谷キャンパス一般教育]
雑誌
研究紀要 (ISSN:1882045X)
巻号頁・発行日
no.40, pp.1-22, 2012-12

アメリカで心理学の父といわれているジェームズWilliam Jamesは、1884年、感情研究にとって記念すべき論文を書いた。それがここに掲げた「感情とは何かWhat is an emotion?」という論文である。ここで初めて、感情の末梢起源説として有名なジェームズ・ランゲ説James-Lange theoryが提唱された。情動は「怖いから逃げるのではなく、逃げるから怖い」という考え方で、その当時から情動の中枢説は考えられており、彼の末梢起源説は発表時から議論を巻き起こしていたことは容易に想像される。しかし彼の論文を詳細に眺めると、彼は身体変化を伴う情動についてだけ議論しているのであって、情動一般については議論していないことに注意を要する。そして身体変化を伴わない情動は「冷たくて中性的な状態」だけが残っていると指摘し情動における身体変化の重要性を指摘している。しかしこのジェームズの末梢起源説はキャノンCannonによって1920年代に完全に否定され、今日、感情の中枢起源説に取って代わっている。「感情とは何か」のテーマに答えるのは非常に困難で、その研究分野は、神経科学、心理学、哲学、社会学などの学際的な領域に渡っている。それらの研究を通して、感情の何がどこまで明らかになったのかと改めて考えてみると、130年前のジェームズの時代と比べれば情報は格段に多くなり、脳科学を中心とした神経メカニズムも明らかになってきているが、依然不明なところが多い。人びとから寄せられる質問の中で多いのは「なんとか嫌な感情をコントロールできないのか」という身に迫ったものが圧倒的に占めている。われわれは平和で安心でき、心穏やかな生活を送りたいと念じているが、人と人の間で生活する宿命として感情の軋轢は避けがたい。われわれは過去3000年の長きにわたって感情に関する考察を深め、その知恵を貯め込んできたが、未だにこのような負の感情の制御に関して有効な対策を見いだせていないでいる。最近の科学的知識の進展には目の見張るものがある。改めて感情の研究で、ジェームズが発した「感情とは何か」について過去130年間の進展を考慮しながら議論してみたい。