著者
白木 公康 黒川 昌彦
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

単純ヘルペスウイルス(HSV)は、皮膚・粘膜などのでの急性感染に引き続き脊髄後根神経節や三叉神経節に潜伏感染する。しかし、潜伏感染機構とは対照的に、HSV感染による潜伏感染している感覚細胞機能に関しては知られていない。HSVは、初感染後に感覚神経節神経細胞に潜伏感染し、再活性化により病変を生じる。しかし、このような感覚神経細胞への急性・潜伏HSV感染に伴う感覚異常に関しては知られていない。そこで、この研究の第一歩として、HSV感染に伴う感染部位の痛覚閾値が上昇することを報告した(Neur osci Lett 190:101-104,1995)。そして、この痛覚閾値の上昇と感覚神経節の神経細胞のHSV感染との関係や痛覚閾値の薬剤に関する反応性を検討し、HSV感染に伴う後根神経節の感覚神経細胞の機能に関する評価を行った(Neur osci Res 31:235-240,1998)。そして、本研究ではマウスのHSV皮膚感染モデルを用いて,HSV感染に伴い,感染部位の神経支配領域で,allodyniaとhyper algesiaが認められることを証明した(Pain in press)。このような変化は,後根感覚神経節でHSVゲノムの検出と一致していることから,HSV感染に伴う感覚神経機能の修飾によるものと考えられた。この実験系の開発により,帯状庖疹後に認められる帯状庖疹後神経痛のモデルとして薬効の評価系となりうることが示された。HSVの神経細胞での潜伏感染時にゲノムから特異的に転写されるLatency Associated Transcripts(LAT)のプロモーターを利用して、その下流にβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)遺伝子を組込み(Neur osci Lett 245:69-72.1998)、このウイルスの末梢および中枢神経系への急性期と潜伏感染時に、組織破壊を認めずに、神経細胞特異的に、β-galを発現する事を示した。そして,このウイルスをラットの右腓腹筋に接種すると5-7日後に両側の脊髄前角神経細胞にβ-galの発現を認め始め,14日頃まで発現領域が拡大し,それ以降182日以上前角神経細胞中でβ-galの発現が持続し,潜伏感染の持続とともに、発現が増強することを確認した。そして,炎症や,神経細胞の破壊を認めず,導入遺伝子を長期にわたり発現できることを確認した。このことは,前角細胞の変性による筋萎縮性脊髄硬化症の疾患モデル及びその治療モデル動物の作成がこのウイルスベクターによって可能であることを示した(Gene Ther apy in press)。
著者
田渕 圭章
出版者
富山医科薬科大学
巻号頁・発行日
1995

富山医科薬科大学・博士(薬学)・乙第271号・田渕圭章・1995/2/15
著者
滝澤 久夫 木内 政寛 三澤 章吾 吉岡 尚文 森田 匡彦
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

調査した5つの地域の人口10万人当たりの年間死亡者数(他殺死亡率)は、秋田、茨城、千葉の3地域が0.7〜0.8であって、札幌の0.44、富山の0.58に比べて高かった。男女別に他殺死亡者を比較してみると、他殺死亡率が低い地域では特に男性の死亡が低いことが分かる。年齢別の死亡を見ると、何れの地域でも10歳以下と40歳前後にピークがあるが、秋田での嬰児殺による死亡は0.22で、他の地域に比べて極めて高い。家族内で発生した他殺死亡は、嬰児殺が多いために秋田が高くなっているが、これを除けば、地域間でそれ程大きな差異は見られない。他殺の背景で最も多いものは、秋田の嬰児殺を除けば、何れの地域でも喧嘩・口論である。喧嘩・口論を背景とする他殺死亡が多いのは茨城と千葉で、これらの地域で他殺死亡率が高い原因となっている。殺害の方法は鈍器または鋭器損傷、および窒息が一般的である。このうち窒息は嬰児殺が多いために秋田で高くなるが、嬰児殺を除けば地域間にそれほどの差異はない。しかし、鋭器と鈍器を加えた死亡は茨城と千葉で高く、それは喧嘩・口論が多いことと関連していると考えられる。人口10万人当たりの年間他殺加害者数を他殺死亡率と同様にして計算すると、その数値は他殺率を僅かに下回るものとなる。これを男女別に見ると、札幌の男性加害者の割合が著しく低く、札幌で他殺死亡が少ない原因になっていることが分かる。一方女性の加害者は秋田と札幌で多いが、その原因は秋田の場合は嬰児殺であるが、札幌では様々な殺害の背景がある。殺害の場所は茨城と千葉で自宅の割合が低くなり、また関係者が県内である割合が低くなる。更にこれらの地域では、外国人が関係する事件が見られる。
著者
陳 福君
出版者
富山医科薬科大学
巻号頁・発行日
1996

富山医科薬科大学・博士(薬学)・乙第312号・陳福君・1996/3/1
著者
服部 征雄
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

イリドイド配糖体のaucubinは腸内細菌とインキュベーションすると腸内細菌由来のβ-グルコシダーゼにより加水分解され、真正アグリコンであるaucubigeninの他、新規含窒素化合物であるaucubinine A,Bに変換されることを見いだした。腸内細菌のうちKlebsiella pneumonia,Bifidobacterium breve,Bifidobacterium pseudolongum,Peptostreptococcus intermedius and Bacteroides fragilisなどの菌種は特にこの含窒素化合物の生成が顕著であった。また、和漢薬の山梔子中に含まれる代表的イリドイド配糖体であるgeniposide,gardenosideも腸内細菌とインキュベーションすることによりそれぞれの真正アグリコンの他、genipinine,gardenineと命名した含窒素化合物を生成することが判明した。Genipinineの生成には、Peptostreptococcus anaerobius,Klebsiella pneumonia,Fusobacterium nucleatum,Bacteroides fragilis ssp.thetaotusなどの菌種が顕著な生成を示すことが判明した。これらの含窒素化合物の生成は、β-グルコシダーゼの作用により生成したアグリコンのヘミアセタール構造の開環、ジアルデヒド中間体とアンモニア、あるいはアンモニウムイオンとの反応により生成するシッフ塩基を経由するものと思われる。このように、イリドイド配糖体が腸内細菌の作用により、含窒素化合物に変換されることは、非常に興味あることであり、今後これらの新規化合物の薬効が明らかにされれば、和漢薬の薬効発現機構の解明に繋がるものと思われる。
著者
永福 智志
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

サルにおける神経生理学的研究から,上側頭溝前部領域には「顔」に選択的に反応を示す「顔」ニューロンが存在し,これら「顔」ニューロンは顔や視線の方向に選択性があり,一部は「声」などの聴覚刺激にも反応性があることが報告されている.しかし,「顔」や「声」に基づいたアイデンティティの認知(その「顔」や「声」の主が誰なのかの認知)における同領域の機能的役割に関する研究はほとんどない.われわれは,アィデンティティ認知における同領域の機能的役割をニューロンレベルで解明するため,「顔」に基づくアイデンティティ認知を要求する遅延見本会わせ課題(I-DMS課題)を用い,課題遂行中のサルの行動と同領域(および下側頭回前部領域)ニューロンの反応を記録・解析した.また,同領域における「顔」ニューロンの分布を組織標本および核磁気共鳴(MR)画像に基づき検索し,同領域内での「顔」ニューロンの反応性の相違を検討した.その結果,上側頭溝前部領域吻側部と尾側部には機能的な差異があることが明確になった.すなわち,(1)顔の方向に対する反応選択性が同領域吻側部と尾側部で異なり,吻側部「顔」ニューロンは斜め向きの「顔」に選択性を有するものが多いが,尾側部「顔」ニューロンは横顔に選択性を有するものが多いこと,(2)吻側部「顔」ニューロンは顔の方向に対して一峰性のチューニングを有するものが多いが,尾側部「顔」ニューロンは左右方向の「顔」に対して鏡像関係のニューロン応答を示し,二峰性のチューニングを有するものが多いこと,(3)吻側部「顔」ニューロンは,尾側部「顔」ニューロンより「顔」のもつ視線の方向による反応の修飾を受けやすいこと,などが示された.したがって,同領域吻側部「顔」ニューロンにはアイデンティティの認知に有利な斜め向きの「顔」が主に表現されており,視線の方向など,「顔」のもつ生物学的意味による反応の修飾を受けやすいこと,一方,尾側部「顔」ニューロンには横顔を含めあらゆる方向の「顔」が表現される一方,単なる「顔」の方向だけでなく,「顔」のパーツの包含関係なども反応性に影響を与えることが示唆された.解剖学的には,同領域吻側部は視覚記憶と密接な関係のある下側頭皮質前部(とくに前腹側部)と強い相互神経結合がある一方,尾側部は下側頭皮質後部,視覚前野(とくにV4野),頭頂間溝および海馬傍回後部(TF/TH野)など,種々の視知覚関連領域から線維投射を受けるなど,入出力様式に違いがあることが知られている.われわれの結果はこのような解剖学的知見と一致するものであり,上側頭溝前部領域吻側部と尾側部における「顔」情報処理に機能的階層が存在する可能性を示唆している.
著者
川上 純一
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

【目的】緊急安全性情報や厚労省からの通達によって、インフルエンザ脳炎・脳症の発症とその重症化への一部の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の関与が指摘されている。本症の特徴は、脳内でウイルスが検出されないこと、血清・脳脊髄液中において高濃度の炎症性サイトカインが検出されること、脳血管の損傷が認められることであり、脳血管透過性の上昇や血液脳関門(BBB)の破綻と密接な関わりがあると考えられる。本研究では、in vitroのBBBモデルのtight性に対する炎症性サイトカインやprostaglandin E_2 (PGE_2)の作用とそれに及ぼすNSAIDsの影響について検討した。【方法】ウシ脳毛細血管内皮細胞とラットアストロサイトをTranswell^<TM>に共培養させたBBBモデルを作成した。IL-6を単独またはTNFα・IL-1βと併用添加し、経時的にTranscellular endothelial electric resistance (TEER)値を測定した。PGE_2を添加し、経時的にTEER値を測定した。ジクロフェナクナトリウム(DCF)またはSC-560(COX-1選択的阻害剤)の存在・非存在下においてTNFαまたはPGE_2の添加がTEER値に与える影響を検討した。【結果・考察】TEER値はIL-6により濃度依存的に低下し、TNFα・IL-1βの併用によりさらに低下した。PGE_2の添加によりTEER値は低下し、DCFの存在下ではその低下は増強された。しかし、SC-560の存在下ではその増強は観測されなかった。以上より、炎症性サイトカインとPGE_2はBBB透過性を上昇させる作用を有していること、また既にPGE_2が産生している炎症状態おいて後からDCFが投与された場合にはPGE_2のBBB透過性の上昇作用が増強される可能性があることが示唆された。
著者
白井 良和
出版者
富山医科薬科大学
巻号頁・発行日
2001

博士論文
著者
難波 恒雄 唐 暁軍 小松 かつ子 門田 重利 胡 世林 TANG Xiao-jun 宮代 博継
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

大乗仏教(根本思想にインド医学が反映する)が伝播した地域で発達している伝統医学を,医療及び薬物の面から比較し,各地におけるインド医学(アーユルヴェーダ)の展開または対立関係を解明することを通して,北方系東洋医学の個々の特徴を明確にすること,及び調査の過程で現代医療に貢献できる薬物や養生法を見つけ出すことを目的にして現地及び文献調査を行った.具体的には、寺院(漢伝仏教系,蔵伝仏教系)で行われている医療(1a,b),仏教と融合した形で成立しているチベット医学(2)及びモンゴル医学(3)について,寺院,蔵(蒙)医院,製薬所,蔵(蒙)医学院などで聞き取り調査し,また経典中の医薬学部分または文献(4)を調査した.さらに,道家思想の基に発達した中国医学に仏教が影響を及ぼしたか(5)についても検討した.蒐集した薬物は原植物の同定研究及び血糖降下作用,抗HIV作用などの研究に供した(6).結果は次のとおりである.1a.河西走廊:敦煌石窟の医画,出土された医学の衛生予防面の内容(歯磨き,理髪,入浴,気功)に仏教の医学部分の影響が見られた(4〜9世紀の状況).現在の仏教の中心地の五台山,九華山,峨眉山,及び福建省など:漢伝仏教系寺院では善行としての医療活動がわずかに見られた.自己経験として中国医学を学んだ者,中草薬の知識のある者,気功や推拿術を修得した者(先祖代々;師から伝授;出家前に中医師;自身で名医の処方を集めた等)が医療にあたり,精神面を除くと草医師または中医師と変わらなかった.福建省では寺院に付属診療所を設けて中医師や西洋医師を雇っていた.1b.蔵伝仏教系寺院では医方明(医薬学)が重視され,かつては殆どの寺に医薬学院(マンパザサン)と医院があったが、現在残る所はわずかである。青海省の塔爾寺では40名の学僧が医薬学院で『四部医典』,『藍瑠璃』,『晶球本草』などを教科書にしてチベット医学を学び,また医院では40数名/目の患者を100種類の製剤を用いて治療していた.常用生薬は約500種類,その内主要品はインド薬物であった.2.チベット医学は理論面ではインド医学を踏襲するが、薬物の面では独自性があり,西蔵の蔵医院では丸剤が多用され(製剤数200〜350種類),原料生薬500〜700種類の内インド産は20%にすぎず70%が西蔵産,それらは高地性植物の地上部からなるものが多い.一方,青海省蔵医院では散剤が多く,薬浴によるリウマチ,皮膚病の治療に力が入れられていた.生薬は30%を中薬材公司から購入しており,中国化(漢化)が見られた.紅景天,兎耳草,冬虫夏草,蔵茵陳,独一味などが研究対象であった.3.モンゴル医学は外治療法(瀉血,灸,針刺,罨法,振動治療,接骨術)や食餌療法(馬乳酒の利用)に特徴があった,散剤が多用され,原料生薬はチベット生薬と同名であっても基源の異なるものがあった.4.チベット大蔵経丹珠爾の医方明部に収められた『アシュターンガ・フリダヤ・サンヒタ-(医学八分科精粋便覧)』はチベット,モンゴルへのインド医学の伝播に大きな役割を果たしていた.また,大正新脩大蔵経の律蔵の「根本説一切有部毘奈耶薬事」に収載された薬物は、今日でも主要なインド薬物であった.5.『金光明最勝玉経』や『摩訶僧祇律』に見られる「病に4種(風,熱,痰〓及び総集の病)があり,それぞれに101病がある」という概念は,陶弘景校訂の『補闕肘後百一方』,孫思〓著『千金要方』などに見られた.玉〓撰の『外台秘要』ではインドの眼科治療が紹介され,本書収載の処方の約1/3はインドの方剤であるなど,仏教医学は仏教隆盛期(6〜8世紀)には中国医学に影響を与えていた.当時伝来したインド薬物(訶子,鬱金,白豆葱,木香等)は現在でも重要な漢方処方の構成生薬になっている.6.チベット生薬86点,同製剤17点,モンゴル生薬約100点,同製剤50点,道地薬材(中薬,草薬)約200点,薬用資源植物約750点を蒐集し得た.その内チベット生薬sPru-nag,gYcr-ma,Bya-rgod sug-pa,sPang-sposなどの原植物を確証した.活性成分の研究ではSwertia mussotii Franch.の全草(蔵茵〓)のエタノールエキスの血糖降下作用を日本産のSwertia japonica Makinoなどと比較検討し,それらの活性成分がbellidifolinであることを明らかにした.またPhyllanthus emblica L.の果実から逆転写酵素阻害活性を有する化合物putranjivain A(50%阻害濃度3.9μmol/ml)を単離同定した.
著者
山本 千夏
出版者
富山医科薬科大学
巻号頁・発行日
1997-09-03

心疾患および脳疾患は日本人の死因別死亡率において2位および3位を占めるだけでなく,その死亡率の合計は第1位の悪性新生物を上回り,公衆衛生学上においても重要な問題となっている。この2つの死因の中では心筋梗塞および脳梗塞が大きな比率を占めている。これらは発症部位は異なるがどちらも血管内の血栓形成を伴う疾患で死亡率だけでなく,罷患率の面からも近年注目されている。動脈硬化症および高血圧症は互いに危険因子であり,心筋梗塞および脳梗塞の基礎疾患として重要である。動脈硬化病変は一般的には血管内膜における血管平滑筋細胞の増殖,血管内および血管組織内血液凝固血管内皮傷害などの所見を呈する血管病変である。すなわち,動脈硬化巣内には結合組織に被覆された血管平滑筋細胞,マクロファージ,Tリンパ球の浸潤および壊死像,脂肪蓄積や血栓が一般的に観察される(Moore, 1981 ; Wight, 1989; Srnall, 1988)。Rossらはこのような変化を内皮傷害に対する動脈壁の反応として考え,傷害反応仮説としてまとめている(Ross, 1993)。それによると,血管内皮細胞の機能障害が生じると内皮細胞のターンオーバーの充進や内皮下組織への単球の侵入が起こる。内膜に侵入した単球はマクロファージへと分化し,変性した脂質を取り込んで泡沫化し,血管平滑筋細胞に対する遊走・増殖因子である血小板由来増殖因子(PDGF)(Ross, 1990)などの増殖因子を放出し,平滑筋細胞の内膜への遊走と増殖を促進する。さらに,血管内皮細胞が剥離するような傷害が加わると血管壁の抗血栓性が失われ,血小板の活性化作用を有する内皮下組織が血液と直接接することによって血小板の粘着・凝集が起こり,このとき血小板からPDGFを初めとする平滑筋細胞遊走・増殖因子が大量に放出され,血管平滑筋細胞の内膜への遊走および増殖が加速されて血管内膜の肥厚斑が形成される。従って,動脈硬化病変の発症の理解には,その初期段階としての内皮細胞機能障害の解明が不可欠である。血管は内腔を一層に覆う血管内皮細胞,中膜を構成する血管平滑筋細胞および外膜の線維芽細胞から成り,それぞれが機能を発現している‘生きた組織'である。近年,血管内皮細胞が血液成分と内皮下組織との接触を妨げる障壁として存在しているだけでなく,様々な因子を産生・放出し,血管と血液の恒常性維持に寄与していることが明らかになってきた。血管内皮細胞は,一酸化窒素を本体とする内皮細胞由来弛緩因子(Palmer et al., 1987)および持続的血管収縮因子であるエンドセリン(Yanagisawa et al ., 1988) を産生・放出し,血管のトーヌスの調節に積極的に関与している。また,血管内腔は抗血栓性を維持しており,血液が非常に凝固し易いものであるにもかかわらず通常血管内では凝固しないが,ひとたび血管内皮細胞が傷害を受けたときは速やかに血液凝固によって止血され,血管は修復される。このとき,不必要な血栓は線溶系によって除去される。このような血液の凝固・線溶を通じた血管の恒常性の維持は血管内皮細胞によって巧妙に調節されている。血管内皮細胞による血液凝固の調節は,血小板凝集抑制作用を有するプロスタサイクリン(Moncada and Vane, 1979)およびヘパリン様活性を有するヘパラン硫酸(Shimada et al., 1985 : Marcum et al ., 1986) の産生・放出,ならびにトロンピンの凝固活性を抑制し, 抗凝固活性へ転換するトロンボモジュリン(Esmon and Owen, 1981 ;Maruyama et al., 1984)の保持によって行われるのに対し,線溶系の調節は組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA) (Levin and Loskutoff, 1982)およびその阻害因子であるプラスミノーゲンアクチベーターインヒピタ-1(PAI-1) (Mourik et al ., 1984 ; Gelehrter and Sznycer-Laszuk , 1986)の2つの因子のバランスによって調節されている。PAI-1は液相中に放出されるとそのほとんどがすぐに不活性型PAI-1 となり活性型PAI-1のみがt-PAと結合して不活性型複合体を形成する(Levin, 1986)。t-PAの他に,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(u-PA)も内皮細胞によって産生・放出されt-PAと同様の活性を示すが,u-PA がフイプリン親和性をほとんど示さないのに対し,t-PA はフイプリンと高い親和性を有し,しかもフイプリンと結合することで活性が増強される(Hoylaerts et al., 1982 ; Ranby, 1982)ことから,t- PAと活性型PAI-1のバランスが血管内の線溶調節に重要であるとされる。血管内皮細胞だけでなく血管平滑筋細胞および線維芽細胞もまたt-PAおよびPAI-1産生能を有しており(Herbert et al. , 1994; Wojta et al., 1993 ; Hola et al., 1983),血管内皮細胞層の傷害時あるいは血管の破綻時に内皮下組織が血液と接したときの線溶調節に関与していると考えられている。ところで重金属と血管病変との関連については,古くから多くの報告があるが一連の報告にはふたつの特徴があった。第一は,動脈硬化を含む血管病変を引き起こすとされる重金属として,カドミウムおよび鉛が特に多く報告されてきたことである。例えば,疫学的にカドミウムの汚染地区に動脈硬化発症率が高く(Houtman, 1993),血管病変と環境カドミウム曝露には関係が見出され,(Carroll, 1966 ; Engvan and Perk, 1985) 鉛についても高血圧症との関係が(Menditto et al., 1994)が報告されている。また,動物実験において,カドミウムおよび鉛は動脈硬化および高血圧を誘発する(Revis et al ., 1981 ; Schroeder and Vinton, 1962 ; Perry et al ., 1983 ; Perry et al ., 1988 ; Chai and Webb, 1988 ; Lal et a1 ., 1991)という。しかしながら第二の特徴は,このように血管病変を引き起こすとされるカドミウムおよび鉛の細胞レベルでの毒性発現機序はまったく不明であったことである。血管内皮細胞の機能障害が血管病変の発症・進展に重要であること,また動脈硬化病変を含む血管病変は一般に凝固促進性あるいは線溶活性の低下の結果と考えられる血栓形成性を伴うことから,内皮細胞が介在する線溶調節に対するカドミウムおよび鉛の毒性発現を明らかにする必要がある。本研究の目的は,カドミウムおよび鉛に曝露した血管内皮細胞からの線溶蛋白の産生・放出の変化およびその結果生じる液相の線溶活性の変化を細胞培養系を用いて検討することによって,内皮細胞が調節する線溶系に対するこれら重金属の毒性発現を明らかにし,これらの重金属による血管病変の誘発機構の理解に寄与することである。さらに,血管内皮細胞の傷害時に線溶調節を行うとされる血管平滑筋細胞および線維芽細胞についても同様の検討を行い,血液線溶調節を行う血管構成細胞に対するカドミウムおよび鉛の毒性発現様式とこれらの重金属に対する各細胞種の応答様式を明らかにすることである。
著者
西条 寿夫 田渕 英一 田村 了以
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では,海馬体における能動的な場所応答[特定の場所(場所フィールド)におけるニューロン活動の上昇]の形成機構を明らかにするため,課題要求性の異なる2つの場所学習課題(RRPSTおよびPLT1課題)を遂行しているラットの海馬体ニューロン活動を記録し,場所と報酬,および歩行移動に関する物理的諸因子(歩行移動のスピード,方向,回転角度)に対する海馬体ニューロンの連合応答性を詳細に解析した。RRPST課題では,ラットは,円形オープンフィールド内をランダムに移動することにより不特定の場所で,PLT1課題では,フィールド内に2つの報酬領域を設定し,その間を往復することにより,それぞれ2つの報酬領域で脳内自己刺激報酬を獲得できる。すなわち,RRPST課題と比較して,2つの報酬領域を結ぶ一定の軌跡上を移動するPLT1課題では,歩行移動の物理的諸因子に関する情報がより重要になる。海馬体から37個の場所ニューロンを記録し,PLT課題ではRRPTS課題と比較して,すべての物理的因子に対するニューロンの選択性が増加していることが判明した。以上の結果は,課題要求性により,入力情報の特定のパラメータに対する海馬体ニューロンの応答選択性が増加し,より重要な情報に応答性が能動的にシフトしていることを示唆している。さらに,31個の海馬体ニューロンに対して,2つの報酬領域のうちの1つの場所を無報酬にするPLT2課題をテストした結果,6個のニューロンで,報酬の変更により場所フィールドが移動することが判明した。以上の結果は,海馬体では,1)場所フィールド内における能動的な入力情報の選択,および2)場所フィールド自体の可塑的な変化(Remapping)により,海馬体に入力される広範な感覚情報が処理されていることを示唆している。
著者
三川 潮
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

生体の機能維持に重要である細胞間、細胞内の信号伝達系に作用する天然物のスクリーニング・活性物質の単離同定、活性化合物類縁体の合成と構造活性の解明を試みている。5-S-GAD_L(5-S-glutathionyl-β-alanyl-L-dopa)は大腸菌を感染させた昆虫から分離された抗菌性ペプチドとして単離されたが、その後vSrcの自己リン酸化に対し阻害作用が認められ、また破骨細胞の骨吸収に対する阻害作用を持っている。5-S-GADの合成はdopa誘導体とSHを持つペプチドから、チロシナーゼの作用により生ずるorthoquinoneを経由して簡単に合成出来ることから、様々な構造の展開が可能である。現在までにβ-alanyl-L-dopa部分をb-alanyl-D-dopa,β-alanyl-L-methyldopaに変換し、またβ-alanyldopamine,dopamineに変換した化合物を合成した。glutathione部分はcysteine,glycyl-cysteine,glutamyl-cysteineに変換した5-S-GADを合成しそれぞれの活性を検討した。この実験で問題になるのは、vSrc(NIH3T3cell transformatnt)とバキュロバイラスで発現させたhumancSrcでの実験結果の解釈が複雑なことで、とくにvSrcでの自己リン酸化と人工基質に対するリン酸化に対する阻害に有意の差が見られることである。シグナル伝達に関するcSrcの役割を考えると人工基質に対する影響を見た結果の方がシグナル伝達に対する作用を見ているのに近いと考えられる。現在はチロシンキナーゼ阻害作用に加えて、interleukin-2および-6産生細胞に対する阻害、促進作用、Herpes Simplex Virusに対する阻害作用を持つ化合物の検索を行っている。生薬エキス、微生物代謝産物を2,000以上スクリーニングした。HSVの細胞感染阻害作用が認めれたものは10種以上あり、現在までいずれも既知化合物であるがvalinomycineとconcanamycinが活性物質として同定された。IL-2産生抑制作用を示したのは毒性が強いホミカアルカロイド類あり、またIL-6の産生を阻害する活性は微生物の培養産物に検出され、現在分離を検討中である。
著者
西 荒介 吉原 照彦 南川 隆雄 橋本 隆 茅野 充男 大山 莞爾
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は2つのグル-プの協力によって進められた。第1のグル-プは植物のシンク機能に関係する遺伝子の構造と発現調節を調べ、第2のグル-プは同機能の発現に影響する生理活性物質の解明を目的としている。第1グル-プの大山は光合成細菌の形質転換系を用い、ゼニゴケ葉緑体の未知遺伝子と相同性を示す遺伝子のクロ-ニングを行った。たん白や酵素遺伝子の発現調節機構を検討するため、南川はマメの種子の数種のたん白や酵素について、新名は西洋ワサビのペルオキシダ-ゼについて、それぞれの遺伝子の構造を解析すると共に、そのプロモ-タ-領域をレポ-タ-遺伝子につないで異種植物に導入し発現の様子を調べた。小林はシロイヌナズナの組織やカルスを用い、光合成遺伝子の転写活性とDNAのメチル化の関係を調べた。。庄野は細菌型インド-ル酢酸合成経路の少くとも後半の部分は植物にも存在することを確め、その生理機能の検討を進めている。第2のグル-プで吉原はキクイモからツベロン酸外数種の塊茎形成物質を単離、またタマネギの鱗茎形成物質を追求している。一方、山根は鱗茎形成抑制物質と考えられるジベレリンの作用を検討するため、その分布と変動を調べた。橋本はヒヨシアミン水酸化酵素の抗体を用い、細胞免疫化学的に同酵素の分布を調べ、根の内鞘での特異的発現を認めた。茅野はダイズ貯臓たん白の遺伝子を得て、それを異種植物に導入し、栄養による発現調節がダイズと同様におこることを確めた。西はニンジンのファイトアレキシンの生合成経路を明らかにし、またエリシタ-の刺激伝達に関係するとみられる各種の要因を調べた。上野もエンバクのファイトアレキシンに関し、その化学合成に成功すると共に組織内分布を調べ、抵抗性との関係を検討している。坂神はエンドウで種子のみに存在するオ-キシン、4ーCLーIAAの量的変化を種子の成熟段階を追って測定し、その集積機能における役割を調べた。
著者
平賀 紘一 山本 雅之
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.グリシン開裂系構成酵素をコードする遺伝子の発現が協調的に調節されているかどうかを知る目的で研究した。このためには、本酵素系は4種の構成酵素から成るので、少なくともこの中の2種の蛋白をコードするcDNAをまずクローン化しなければならない。そこで、我々はまず、本酵素系が触媒する反応の最初の段階に必要なグリシン脱炭酸酵素とH蛋白のそれぞれをコードするcDNAをクローン化した。Hー蛋白cDNAは840塩基長であり翻訳開始メチオニンから164アミノ酸より成るHー蛋白前駆体をコードしており、これに続いて約300塩基の非翻訳領域をコードしていた。一方、グリシン脱炭酸酵素cDNAは3514塩基長であった。翻訳開始メチオニンコドンはcDNA中に含まれていなかったが、遺伝子をクローン化して解析すると、cDNAの5'末端から24塩基上流にそのメチオニンコドンが発見された。グリシン脱炭酸酵素前駆体は1004アミノ酸から成る分子量約12万の大きなサブユニットであった。3.この2種のcDNAをプローブとして、35:11:1の割合で本系活性を示す肝腎、脳での両遺伝子の転写、両mRNAの存在量を調べた。その結果、これらの臓器ではグリシン脱炭酸酵素遺伝子とHー蛋白遺伝子は1:2の比率で転写されるが、転写量は比酵素活性の違いを反映していた。また、両mRNA量はどの臓器でも等モルずつ存在していたが、それらの絶対量はやはり、比酵素活性の比率と等しい割合で各臓器に分布していた。これらの結果は、グリシン開裂系構成酵素遺伝子の発現は協調的に起こるよう調節されていることを示す。4.しかし、心筋、脾など本系活性を示さない臓器では、グリシン脱炭酸酵素遺伝子だけが発現しておらず、本系構成酵素遺伝子は臓器により、ある時は協調的に、或は非協調的に発現される。
著者
加藤 一郎 平賀 紘一 西条 寿夫 近藤 健男 武田 正利
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は中枢神経系を含む全身で非ケトーシス型高グリシン血症・脳症の原因蛋白質であるH蛋白質を欠損するマウスを作製し、高グリシン血症・脳症の成因や病態を明らかにすることにある。平成16年度の研究は以下の通りに順調に進行した。1.マウスのグリシン開裂酵素系H蛋白質遺伝子のエキソン1周囲に2か所のloxP部位を導入したキメラマウスを5匹得た。うち2匹が変異遺伝子のgerm-line transmissionを示した。2.上記マウスとCre Recombinase遺伝子導入マウスを交配して、loxP間のエキソン1を含むゲノムDNA領域を欠損したH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウスを得た。3.抗H蛋白質ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析では、ヘテロ欠損体でH蛋白質が50%に減少していることが確認された。4.次にホモ欠損マウスを得るためにH蛋白質遺伝子ヘテロ欠損マウス同士を交配し、その子孫のgenotypeをPCR法およびサザンプロット法で解析した。ホモ欠損マウスは全く得られなかった。ヘテロ欠損体では出生直後に体内出血・体幹異常を示す異常個体が散見された。5.さらに胎生14日目までさかのぼって胎児を遺伝子解析すると、野生型26:ヘテロ欠損33:ホモ欠損0であった。ヘテロ欠損体はメンデル則で予想される数より少ない傾向が見られた。本研究の結果、H蛋白質遺伝子ホモ欠損マウスは全く発生できないか、極めて早期に胎生致死となっていることが示唆され、本蛋白質がマウスの正常発生に必須であることが、はじめて明らかになった。今後H蛋白質が50%に減少しているヘテロ欠損マウスを用いて、H蛋白質がさまざまな臓器ストレスに対する耐性獲得に果たす役割の検討が可能になった。さらに薬剤誘導可能な、あるいは臓器特異的なCre Recombinase遺伝子発現マウスとの組み合わせにより、条件特異的なH蛋白質欠損マウスを作製し肝臓や脳、心臓などの主要臓器におけるH蛋白質の生体内機能を深く探求することができる。
著者
稲場 進
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究を遂行するにあたり用いたベロトキシン受容体に対する抗体は、CD77に対するモノクローナル抗体であり、これは静岡県立大学生化学鈴木先生より供与された。1.ヒト腎組織におけるglobotriosylceramide(Gb3)の局在に関する検討対象は溶血性尿毒症性症候群3例、IgA腎症14例、紫斑病性腎炎14例、頻回再発ネフローゼ症候群5例とした。溶血性尿毒症性症候群では3例とも糸球体内並びに尿細管上皮細胞に強く染色された。IgA腎症では学校検尿などの無症候性に発見された症例は陰性であり、感冒時の肉眼的血尿発見例やネフローゼ症候群合併例では尿細管上皮細胞や糸球体内に陽性であった。紫斑病性腎炎は全例尿細管上皮細胞並びに糸球体内に陽性であった。頻回再発ネフローゼ症候群では感染合併例で陽性であった。染色部位は尿細管上皮細胞ではほとんどが細胞質であったが、一部核内に強く染色されていた。一方糸球体内では毛細管係蹄壁もしくはメサンギウム領域に染色された。2.培養尿細管上皮細胞におけるGb3の発現の検討ヒト尿細管上皮細胞Cell Line(HK2)を培養し各種サイトカインにて刺激し、Gb3の発現をフローサイトメーターにて観察した。刺激には、IL-1α,IL-6,IL-8,TNF-α,LPSの5種類のサイトカインを用いた。コントロールと比較すると、刺激48時間後にはいずれのサイトカインの刺激でもGb3の発現の増強がみられた。特にTNF-αの刺激で著しく増強した。以上の結果はヒト腎組織においてGb3は、血管内皮細胞のみならず尿細管上皮細胞においても発現しており、その多くは感染を契機として分泌される各種サイトカインが関与していることが強く示唆された。