著者
渡辺 俊之 秋口 一郎 八木 秀雄 秋口 一郎 高山 吉弘
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.158-163, 2002 (Released:2011-07-05)
参考文献数
20

レンズ核は淡蒼球と被殻からなるが、この両者のみに限局した病変では、言語障害は軽度または一過性である。言語障害が遷延するのは、病変が、前頭葉の深部白質に進展して非流暢性の失語像を呈する場合、後方の側頭葉深部白質に及んで理解障害を伴う流暢性失語像となる場合、あるいは病変が双方の白質を含んで全失語をきたす場合である。一方、レンズ核の外方には、外包、前障、最外包および島皮質が位置する。これらの脳組織が言語機能においていかなる役割を担っているかについては、近代失語症学の黎明期から議論されてきたが、限局性の病変例がまれなこともあって、一致した見解は得られていない。なかでも、島およびその皮質下の損傷で伝導失語をきたすというDamasio and Damasio(1980)の主張は、失語症関連の文献において頻繁に引用され、影響力が大きいしかし、我々の経験した島損傷例では、伝導失語を含め遷延する言語障害は認めなかった。ただし、語想起の障害がみられたことから、島およびその皮質下の組織が遂行機能に関与することが示唆される。