著者
川端 亮 秋庭 裕 稲場 圭信
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.89-110, 2010-06-05 (Released:2017-07-18)

海外で日本人の枠を超えて現地に適応した新宗教は少ないが、本稿が対象とする創価学会の海外組織SGIは、1970年代半ばにはアメリカ化したといわれ、現在アメリカで多くの現地人の会員を獲得している。本稿は、シカゴの会員のインタビューから、70年代半ば以降の彼らの信仰や体験を記述し、SGIのアメリカ化を再検討するものである。まず、SGI-USAの歴史を略述したのち、日本人パイオニアのインタビューを通して、シカゴのSGIの歴史とかつての信仰や体験を示す。ついで、ユダヤ系、アフリカ系アメリカ人のインタビューから、エスニック・マイノリティにとってのSGIの魅力を描く。以上のことから、日本よりもはるかに多様なエスニシティで構成されるアメリカ社会において、日本の創価学会の教えが、多民族社会においてこそ生じる新たな意味を持って受け取られていることを示し、それが従来の研究では記述されていないアメリカ化の一側面であると論じる。
著者
末松 和子 黒田 千晴 水松 巳奈 尾中 夏美 北出 慶子 高橋 美能 米澤 由香子 秋庭 裕子 島崎 薫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

欧米豪で進む高等教育の「内なる国際化」とりわけ留学生と国内学生の正課内外国際共修に着目し、国内の実態調査、海外施策・実践比較研究、日本をはじめとする非英語圏の高等教育現場に適した国際共修教授法の開発、また国際共修の効果検証を通して日本やアジアに特化した国際共修や「内なる国際化」の在り方を明らかにするという本研究の目的に沿って、日本における国際共修の実践実態の把握、「内なる国際化」が進む海外主要国の施策および実践比較研究を通して理論構築を行い、日本やアジア独自の国際共修を考察するための基礎研究を進めた。また、発展的・包括的な国際共修カリキュラムおよび教授法を開発し、国際共修の効果検証を正課外にも拡大することで海外留学の準備や代替としての国際共修を「内なる国際化」の枠組みで捉え、その有効性の明示と政策提言を行うための準備として、論文・学会発表で基礎研究の結果をタイムリーに発信した。具体的には、文献調査やペダゴジー研究を中心とした基礎研究の成果を国内外の学会で報告し、ワークショップでは、国際共修を実践する上での授業やシラバスのデザイン、教育実践者に求められるファシリテーション・コンピテンシー、課題及びその対処法、評価、について有益な議論を展開することが出来た。ワークショップの運営についても国際共修の研究者、教育実践者より建設的なフィードバックを得ることが出来、今後の研究の発展に資する知識基盤の形成につながった。また、国内における国際共修実態調査を実施するためのパイロット事例調査も実施した。日本の高等教育機関における国際共修の実践状況と課題を明らかにするために実態調査を計画しているがその準備にも着手し、来年度の発展研究に向けた下地作りを行うとともに、本年度実施したワークショップの発展版を国内外で実施するための申請作業を集中的に実施した。
著者
秋庭 裕 川端 亮 稲場 圭信
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

3力年の調査研究によって知り得たところと、今後の研究継続のための作業仮設は以下のとおりである。日本型新宗教の教団として、グローバリゼーションの先進地、アメリカ合衆国でもっとも広く受容されたSGI(創価学会インターナショナル)は、当初、「戦争花嫁」たちの国際結婚によって海を渡った。同時に、結婚によって、その教えは国籍・民族の壁を越えて広まる契機をつかんだ。次の段階は、ロサンゼルスを中心とする西海岸で、カウンター・カルチャーとの出会いをとおし、アイデンティティを模索する若者層に広まった。1970年代のSGIは、日系人とヒッピーの若者を主要な担い手として、「アメリカ化」をとげていった。「アメリカ化」は、経典類の英語への翻訳とそのいっそうの洗練、教団組織の役職への現地の人びとの積極的な登用、組織運営などへのアメリカ的な習慣の採用などからなるが、アメリカ化のプロセスは、直線的に進んだのではない。それは、試行錯誤的で、ときには混乱をともないながら、80〜90年代を通じて徐々に達成された。その結果、人びとが極度の緊張状況を強いるグローバリゼーション化の著しいアメリカ合衆国において、民族や階層を越えて、SGIに入会する人びとに増加につながった。救済論的には、キリスト教的世界観、罪の意識とは正反対の、現世肯定的な救済を強調する、日蓮仏法に立脚するSGIの思想と世界観が、アメリカ合衆国という上昇志向の強い競争社会において、適合性が高いことが重要であろう。