- 著者
-
稲田 道彦
- 出版者
- 香川大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1990
この2年の研究期間に香川県西部の三豊郡詫間町・仁尾町・三野町・豊中町・高瀬町の一部・観音寺市の一部を調査地域に定め、全墓地を訪ねると共に特に両墓制墓地の崩壊過程を調査研究した。この地域で一般的であった土葬が火葬の導入により墓地制度の変更がうながされた。このことが墓地を含む人にとの生活空間にどのような影響を及ぼしたのかというのが、研究者の問題意識であった。両墓制は従前の習俗を維持するのが困難になっった。特に埋葬地の埋め墓は多様な形態を示している。このような墓地制度の変化は葬儀などの儀式に変化を及ぼし、ひいては人々の宗教的な考え方にまで変容のきっかけを与えていることがわかった。さらに人々の生活スタイルの近代化や合理的思考などという現代人のライフスタイルもこれら地域の墓地空間の変化に大きく影響を与えていることが聞き取り調査で明らかになった。これらの地域の墓地の変化と比較するために、京都市や名張市など各地の両墓制墓地の変化の状況を調査した。また都市的な墓地文化を知るため、各地の都市の墓地の変容過程も調査した。調査地域の墓地の変容は火葬の導入がきっかけであったが、死者の埋葬地、遺骨、石塔というモノにこだわる現代人の態度が根底にあった。死者供養も墓石を建てることや実際の墓参りという行動によって自己満足を得ている。死者供養が人々の心の問題であるとして片づけることはできなくなっている。もしそうなら多様な死者供養が有り得るのであるが、現在地方固有の文化が都市的な葬制墓制文化に統一されつつある。墓地利用も入り会い形式ではなく、個人に区画し管理することを望むなど個人主義の傾向が強くなっている。1991年12月に人文地理学会事務局で開かれた特別例会で『両墓制墓地の変容ー香川県西部に事例を中心にー』という発表をおこなった。この表発は今回の科学研究費による研究の成果の一つである。