著者
山口 悟 西村 浩一 納口 恭明 佐藤 篤司 和泉 薫 村上 茂樹 山野井 克己 竹内 由香里 Michael LEHNING
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.51-57, 2004-01-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
6
被引用文献数
4

2003年1月5日に長野県南安曇郡安曇村の上高地乗鞍スーパー林道で起こった複数の雪崩は,死者こそ出なかったが車20台以上を巻き込む大災害となった.雪崩の種類は面発生乾雪表層雪崩であった.今回の雪崩の特徴は,従来雪崩があまり発生しないと考えられている森林内から発生したことである.現地における断面観測より,今回の雪崩は表層から約30cm下層に形成された“こしもざらめ層”が弱層となり発生した事がわかった.積雪変質モデル並びに現場近くの気象データを用いた数値実験でも,同様の“こしもざらめ層”の形成を再現することができた.弱層になった“こしもざらめ層”は,1月1日の晩から1月2日の朝に積もった雪が,3日早朝の低温,弱風という気象条件下で変質して形成されたと推定される.今回の研究結果により,雪崩予測における積雪変質モデルの適応の可能性が明らかになった.また,考えられている森林の雪崩抑制効果に関してより詳細に検討する必要性があることも示された.
著者
ONUMA Yukihiko(大沼友貴彦) TAKEUCHI Nozomu(竹内望) TAKEUCHI Yukari(竹内由香里)
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
Bulletin of Glaciological Research (ISSN:13453807)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.21-31, 2016 (Released:2016-09-08)
参考文献数
30
被引用文献数
11

Snow algae are cold-tolerant photosynthetic microbes growing on snow and ice. In order to investigate the factors affecting snow algal growth, the temporal changes in algal abundance on surface snow were studied over four winters in an experimental station in Niigata Prefecture, Japan, where seasonal snow is usually present from late December to early April. Snow algae appeared on the snow surface in February, and the initial algae were likely to be deposited on the snow by winds. The timing of the algal appearance varied among years, from early-February in 2011 to late-February in 2015, and is likely to be determined by a period of no snowfall and air temperatures above the melting point. Algal abundance generally increased until the disappearance of snow. The maximum algal concentration was found in 2011, which corresponds to the year when the period from algal appearance to the disappearance of snow was the longest (80days) among the four winters. The results suggest that snow algae keep growing unless snowfall occurs and air temperature drops to freezing point, and that the algal abundance is likely to be correlated with the duration of algal growth. The algal growth curve in 2011 could be reproduced by a Malthusian model with a growth rate of 0.22 d−1.
著者
勝島 隆史 安達 聖 南光 一樹 竹内 由香里
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.101-114, 2023-03-15 (Released:2023-04-09)
参考文献数
26

強風を伴った湿雪の樹木への着雪により,樹木に作用する荷重が増加することで,幹折れや根返りなどの樹木の破壊が生じる.このような樹木の破壊を予測するためには,着雪と風により樹木に生じる荷重を考慮した構造解析が用いられる.しかし,樹木に生じる風荷重の測定例は少なく,風荷重の推定に必要な樹木の抗力係数への着雪の影響は不明である.本研究では,国内の主要な林業種であるスギにおける,抗力係数に及ぼす着雪の影響を明らかにするために,風洞実験を実施した.風洞装置内に実物のスギの枝葉を材料に用いたスギの枝葉のモデルを設置し,送風しながら湿雪を供給することにより人為的に着雪を生じさせた.そして,風速や着雪量などの実験条件に対する,スギ枝葉の抗力係数の変化を測定した.その結果,枝葉への着雪は,(1)着雪の発達により風向に対する垂直面への投影面積である垂直投影面積を増加させる効果,(2)流体抵抗を減じる効果,(3)風の作用により枝葉が湾曲することで生じる垂直投影面積の減少を阻害する効果をもたらすことが示唆された.これらの効果により,着雪前の無風時の受風面積を用いて求めたスギ枝葉の抗力係数は,着雪量により変化した.
著者
上石 勲 山口 悟 佐藤 篤司 兒玉 裕二 尾関 俊浩 阿部 幹雄 樋口 和生 安間 莊 竹内 由香里 町田 敬 諸橋 良 後藤 聡 輿水 達司 内山 高 川田 邦夫 飯田 肇 和泉 薫 花岡 正明 岩崎 和彦 中野 剛士 福田 光男 池田 慎二 会田 健太郎 勝島 隆史
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.507-512, 2007-07-15
参考文献数
1

2007年2月~4月にかけて4件の大きな雪崩事故が発生した.2007年2月14日には八甲田山系前岳で表層雪崩によってツアースキーヤーの2名が死亡,8名が負傷した.3月18日には,北海道積丹岳で,スノーモービルで走行中の人など16人が雪崩に巻き込まれ,4人が死亡,1人が重傷を負った.また,3月25日には,富士山富士宮口五合目付近でスラッシュ雪崩が発生し,建物と道路施設に被害を与えた.さらに4月18日には富山県立山雷鳥沢で山スキーヤーとスノーボーダーが表層雪崩に巻き込まれ,1名死亡,2名が負傷する事故が発生した.これらの雪崩事故調査から山岳地域では暖冬でも雪崩の危険性は低くないことが確認された.
著者
山口 悟 西村 浩一 納口 恭明 佐藤 篤司 和泉 薫 村上 茂樹 山野井 克己 竹内 由香里 LEHNING Micheal
出版者
日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.51-57, 2004-01-15
被引用文献数
6 4

2003年1月5日に長野県南安曇郡安曇村の上高地乗鞍スーパー林道で起こった複数の雪崩は,死者こそ出なかったが車20台以上を巻き込む大災害となった.雪崩の種類は面発生乾雪表層雪崩であった.今回の雪崩の特徴は,従来雪崩があまり発生しないと考えられている森林内から発生したことである.現地における断面観測より,今回の雪崩は表層から約30cm下層に形成された"こしもざらめ層"が弱層となり発生した事がわかった.積雪変質モデル並びに現場近くの気象データを用いた数値実験でも,同様の"こしもざらめ層"の形成を再現することができた.弱層になった"こしもざらめ層"は,1月1日の晩から1月2日の朝に積もった雪が,3日早朝の低温,弱風という気象条件下で変質して形成されたと推定される.今回の研究結果により,雪崩予測における積雪変質モデルの適応の可能性が明らかになった.また,考えられている森林の雪崩抑制効果に関してより詳細に検討する必要性があることも示された.
著者
竹内 由香里
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

新潟県妙高山域に位置する幕の沢は,冬期の最大積雪深が4m以上になる多雪地である上,傾斜が沢の上流ほど急になり,源頭部では35〜40度と表層雪崩が発生しやすい地形になっているため,流下距離が2000〜3000mに達する大規模な雪崩がしばしば発生している.そこで本研究では,大規模な雪崩の発生条件を明らかにする目的で,幕の沢に雪崩発生検知システム,地震計およびビデオカメラを設置して雪崩のモニタリング観測を継続してきた.併せて雪崩堆積域近くの平坦地において気温,降水量,積雪深を1時間間隔で測定し,積雪断面観測も適宜実施してきた.これらのデータは,気象庁や他機関の気象観測点が少なくデータが乏しい多雪地域の山地で得られたものであるので,とりまとめて「森林総合研究所研究報告」に公表した.さらに,今冬期に幕の沢で発生した大規模な乾雪表層雪崩を検知することに成功した.この雪崩は2008年2月17日13時48分頃に発生したことが地震計の記録とビデオカメラの映像により確かめられた.そこで気象データにより積雪安定度の変化を推定し,滑り面となった積雪層の形成過程を解析するとともに,雪崩堆積量,到達距離についての現地調査を行なった.一般に,表層雪崩の発生危険度の目安となる斜面積雪安定度を算出する際には,せん断強度を平坦地の積雪密度から推定することが多いので,斜面と水平面の密度の関係を明らかにすることが必要である.そこで低温実験室内の人工降雪や露場における自然降雪について斜面傾斜による初期密度の比較を行なった.その結果,傾斜と初期密度の関係には降雪時の気象条件が大きく関わることが示唆された.さらにデータを増やして検討する必要がある.
著者
竹内 由香里 兒玉 裕二 石川 信敬 小林 大二
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
no.51, pp.p63-76, 1992
被引用文献数
1

積雪の有無は地表面熱収支特性を大きく変え,大気の温度変化にも影響をおよぼしていると予想される。そこで積雪が地表面や大気の温度変化におよぼす影響を明らかにするために,消雪日をはさんで約4週間の地上気象観測を行なった。融雪期と消雪後の接地境界層の熱的特性を比較した結果,積雪は,高いアルべトのため融雪期の正味放射量を消雪後の半分にしていること,融雪期には日中でも表面温度が 0℃に保たれ,地表面が吸収した熱量の80%が融雪に使われることが示された。消雪後には正味放射で得た熱量の60%を蒸発の潜熱で失っていることも明らかになった。この蒸発には土壌の表面付近に残った融雪水がおもに寄与していると推察できる。また,消雪後の気温は表面熱収支に依存して決まることが示唆されたが,融雪期の気温と表面熱収支の関係は不明瞭である。