著者
大津 光寛 軍司 さおり 苅部 洋行 石川 結子 若槻 聡子 羽村 章
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.560-567, 2019 (Released:2019-09-01)
参考文献数
8

緒言 : これまでの研究では摂食障害の歯科的合併症は過食嘔吐が最大の要因であるとされてきた. しかし今回チューイングのみでほぼ全歯が残根状態となった症例を経験した. 症例 : 26歳女性. 精神科診断名 : 心的外傷後ストレス障害, 強迫性障害, 神経性やせ症過食・排出型, 選択的セロトニン再取り込み阻害薬服薬中. 歯科既往 : チューイング開始直後から歯痛などが出現し近医受診, 入退院を繰り返すうちに近医での治療が困難と判断され当センター紹介受診. 当センター受診時にはほぼすべての歯が残根状態であり, 咬合は崩壊していたため, チューイング内容の改善やチューイング後の口腔衛生指導を中心に対応した. 考察 : 本症例は加糖飲料などのチューイングを繰り返すことで口腔内が酸性に保たれ, う蝕発生環境が長期保持されることが歯科的問題を発生させることを示唆している. また, 服用中のSSRIの副作用も疑われた. これらの症例に対しては症例に合わせた歯科対応が必要である. また重症化を防ぐためにも広範囲への啓発が重要である.
著者
大津 光寛 藤田 結子 苅部 洋行 軍司 さおり 若槻 聡子 羽村 章 一條 智康
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1127-1133, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

摂食障害症例は歯科的合併症を発症し, う蝕の多発などを認めることはまれではない. そこで摂食障害患者87例を対象として, う蝕経験と, 発症要因の一端を明らかにすることを目的とした調査研究を行った. 方法は対象のう蝕経験指数 (DMFT) を平成23年歯科疾患実態調査の結果と比較し分類した, 多数群と少数群間で口腔内状況や日常習慣などについての比較を行った. 結果は多数群が有意に多く, 多数群少数群間では罹患歴, ブラッシング回数, 歯垢の残存量では有意差が認められず, 過食, 自己誘発性嘔吐や, 酸蝕の進行程度, アメやガムなどの日常摂取の有無によって有意差が認められ, これらがう蝕経験を上昇させていた. 対象のう蝕発症は基本的な予防処置の不足によるものより, 摂食障害症状に大きく関連していた. これにより摂食障害症例に対しては通常の口腔衛生指導だけではなく, 摂食障害症状を視野に入れ, 他科との綿密な連携のもと対応する必要があるといえる.
著者
大嶋 依子 大津 光寛 若槻 聡子 岡田 智雄 苅部 洋行 藤田 結子 永島 未来 羽村 章
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.169-173, 2016 (Released:2016-10-31)
参考文献数
9

現在,日本の大うつ病性障害(うつ病)患者は100万人以上いると報告され,決してまれな障害ではない.うつ病の精神症状として無気力や興味の喪失があり,これらは口腔衛生状態の悪化に繋がる.そのため歯科医療従事者にも,うつ病の知識が必要とされている.今回,うつ病患者を長期にわたり,歯科衛生士が精神状態に配慮しながら歯科保健指導を行った結果,口腔衛生状態が著しく改善した症例を経験した.患者は56歳女性.近医にて上顎左側側切歯の抜髄処置を受け,その1週間後から上顎前歯部口蓋側歯肉と舌に疼痛を認めた.その後,この疼痛が改善しないことから当センターへ紹介受診となった.初診時に不安焦燥感が強く,うつ病の特徴的身体症状である食欲不振,体重減少と精神症状である気力低下を認めたため,精神科へ紹介したところ,うつ病と診断された.そこで,主訴である疼痛などの口腔内症状を改善するため,歯科衛生士が歯科治療と並行して口腔衛生指導を行った.実施の際には,患者のうつ症状に合わせ,無理をせずにできることから行うといった姿勢をとった.また,向精神薬の副作用による口渇に対して,唾液分泌を促進させると考えられる食事指導などを併せて行った結果,口腔内症状は安定し,うつ症状に波はあるものの良好な口腔内環境を維持している.