著者
小原 由紀彦 児玉 隆夫 小川 祐人 沼田 友一 中村 俊康 川北 敦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2261, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】橈骨遠位端骨折に対して、近年多くのロッキングプレートが開発され、橈骨遠位端骨折に対しては強固な固定が可能となった。結果、術後に外固定をせずに手関節可動域訓練を早期に施行し、良好な成績を得たとする報告が近年多くされている。しかし、本受傷では橈骨のみが損傷を受けるのではなく、手関節尺側部にも同程度の損傷が及んでいることがある。これらの症例に早期運動療法を施行することは、手関節尺側部損傷の治癒を遅らせ、最終的に悪影響が生じるのではないかと我々は危惧する。当院では橈骨遠位端骨折の手術時に、全例に遠位橈尺関節(以下、DRUJ)鏡で三角線維軟骨複合体(以下、TFCC)の尺骨小窩からの剥離の有無を確認している。手関節尺側部損傷を主にTFCC、尺骨茎状突起骨折として、その合併率、治療成績を比較した。今回、これらの結果からどのような症例に早期運動療法が適応になるか、検討した。【方法】橈骨遠位端骨折に対して手関節鏡、DRUJ関節鏡視と観血的整復固定術を行った133例135手を対象とした。平均61.0歳 AO分類はA2:36手 A3:21手 B1:1手 B2:1手B2:5手 C1:27手 C2:37手 C3:7手であった。尺骨茎状突起骨折型はTip:19例、中央:26例、基部(水平):24例、基部(斜):3例、尺骨小窩剥離損傷:7例であった。尺骨茎状突起骨折(Tip以外)、TFCC尺側小窩剥離損傷がともに無いものは術後の外固定はせずに早期運動療法(術翌日より手関節掌背屈、自動他動可動域訓練、術2週間後より前腕回内外、自動他動可動域訓練)を施行した(A群)。そのほかの症例では3週間の外固定ののち運動療法(術3週後より手関節掌背屈、自動他動可動域訓練、術5週後より前腕回内外、自動他動可動域訓練)を施行した(B群)。術後1年以上経過した症例で、可動域、痛み、握力、Mayo Wrist Scoreを比較検討した。【説明と同意】手術方法を説明する段階で、本治療が関節鏡での所見を基にして適切に選択され、治療成績を集計することで今後の治療指針にしていることを説明し、同意を得ている。【結果】DRUJ鏡視でTFCC尺骨小窩剥離を38手で認めた。TFCC剥離損傷は合併していた例はいずれも50歳以上であった。80歳代の合併率は60%であった。術後1年以上経過した症例はA群37例、B群52例であった。可動域は健側比でA群:90.6%、B群: 91.1。握力はA群:86.0%、B群:85.0%°。Mayo Wrist ScoreはA群:89.2点、B群:90.5点。手関節痛はA群:6例16.2%、B群:2例3.8%であった。【考察】各治療グループで可動域、握力に差はなかった。疼痛はA群で多く認められた。結果的には早期運動療法は術後1年での可動域、握力の増加要素とはならず、むしろ疼痛が多く残存していたことになる。今回、手関節尺側部損傷をTFCC尺骨小窩付着部に重点を置き、その有無でリハビリ開始期間、方法を変えて行なったが、真に早期運動療法の危険性を示すのであれば、損傷の有無にかかわらない無作為前向き研究を計画しなくてはならない。このような研究は実際の治療では計画できず、エビデンスレベルはどうしても低下してしまう。今回の結果では橈骨遠位端骨折の28%にTFCC剥離損傷が合併していた。この率はおそらく我々の予想を大きく超える結果と言えよう。DRUJ鏡はすべての橈骨遠位端骨折に行う必要はなく、橈骨遠位端骨折には手関節尺側部損傷が合併しているものと考え、3週間の術後外固定を行うほうが賢明と考える。早期運動療法を行なうのであれば、回内外時の手関節尺側部痛に注意を払い、認める例では運動療法を遅らせることを推奨する。年齢別での手関節尺側部損傷の差が生じており、既存の変性損傷が含まれていると考えられ、今後は若年者に限った検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】上記の如く、今回の結果から橈骨遠位端骨折後の早期運動療法にはPitfallが存在することを認識すべきである。